ザ・ルーツ『Do You Want More?!!!??!』解説:ヒップホップ・ジャズの名盤を振り返る

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米フィラデルフィアで1989年に結成し、1993年にデビュー・アルバム『Organix』を発売したザ・ルーツ(The Roots)は、1995年にはヒップホップ界で最もクリエイティブなグループの一人としての評判を得ていた。ツアーを重ねて他の追随を許さないライブを展開し、世界中でファンを獲得していったのだ。

自主制作のデビュー・アルバム『Organix』は、バンドの紛れもない可能性を示すものだったが、1995年1月17日にリリースされたセカンド・アルバムにしてメジャー・デビュー・アルバムとなった『Do You Want More?!!!??!』にて、生楽器を使ったジャジーなアンダーグラウンド・ヒップホップの旗手としての地位を確立した。

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他のアーティストとは違っていた

90年代半ばといえば、ニューヨークのブーン・バップや西海岸のGファンクが主流だった時代だ。そんな中、ザ・ルーツは他のヒップホップ・アーティストとは違っていた。彼らの特徴とは、当時はほとんどいなかった生楽器の演奏にこだわったことだ。アミール “クエストラブ “トンプソンの完璧なタイミングと正確なドラム、レナード・ハバードのヘヴィなベースワーク、そして当時はまだ無名だったスコット・ストーチのキーボードの妙技など、ザ・ルーツのサウンドはまさに唯一無二のものだった。

『Do You Want More?!!!??!』はザ・ルーツのライブショーや即興ジャムセッションの生々しいエネルギーを捉えたアルバムともいえる。ア・トライブ・コールド・クエスト、ギャング・スター、ディゲブル・プラネッツなど、それまでのヒップホップ・アクトがジャズから影響を受け、夢中になっていたのに対し、ザ・ルーツはそのサウンドを進化させ続け、ヒップホップ集団から本格的なバンドへと進化していった。

アルバム『Do You Want More?!!!??!』の制作は、主にThe Grand Negazとドラマー兼バンドリーダーのクエストラブが担当したが、収録曲の中でも「Proceed」は最高傑作の一つだ。この曲はザ・ルーツの代表曲であり、ブラック・ソートの巧みなリリックがジャジーでレイドバックしたグルーヴに乗っている。また、「Silent Treatment」は、傷つきやすい精神とブラック・ソートのほとばしるようなコーラスで、90年代の最高のラップ・バラードとして語り継がれる1曲だ。

 

ジャジーな表現とネオソウルの始まり

後期のアルバムでは、ザ・ルーツはより集中したサウンドを展開するが、この『Do You Want More?!!!??!』では、ファンキーな「Lazy Afternoon」や、ブラック・ソートとマリクBが戯れにヴァースを交わした「Mellow My Man」などのトラックで聴けるジャジーな表現で、ネオソウルの始まりを表現している。

ザ・ルーツは、様々な音楽の伝統に精通した一流のミュージシャンとリリシストの集団で、その中においてクエストラブは音楽監督とバンドリーダーとしてグループを率いている。そして、ブラック・ソートは、マイクを握ることにかけては他の追随を許さず、パートナーのマリクBと頻繁にコラボレートしているダイス・ロウを従える。

ブラック・ソートは鋭利で頭の回転が速く、多義的な韻を踏むことができ、彼が影響を受けたクール・G・ラップとビッグ・ダディ・ケインのスタイルを自分のリリックに融合させることに成功したとも言えるだろう。

徹夜のジャムセッションのような作品

後のアルバムでは、ザ・ルーツはより深いテーマを探求し、キャリアを決定づける曲をいくつも書いている。しかしセカンド・アルバム『Do You Want More?!!!??!』では、我々リスナーを一晩中ジャムセッションに招待してくれる。そこで聴くことができるのは若き天才としての彼らの演奏だ。

この実験的なレコードをリリースしたバンドが、後に人気テレビ番組の『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』のハウスバンドとしてテレビの人気者になるとは、誰が予想できただろうか。ブラック・ソートとクエストラブは、メインストリームで最もよく知られているヒップホップの代表的な2人となると同時に今も文化を前進させ続けている。

リリースから数十年が経過した『Do You Want More?!!!??!』は、非常によく熟成された1枚だ。これは、当時流行していたヒップホップに反発し、自分たちの芸術性に集中したグループのビジョンを証明したものでもある。このアルバムはヒップホップ・ジャズの名盤というだけでなく、野心的な実験感覚を持ったライヴ・バンドが、まだ足元が固まっていなかったこのジャンルに何をもたらすことができるかを示すものとして、際立っているのだ。

Written By Rashad Grove



ザ・ルーツ『Do You Want More?!!!??!』
1995年1月17日発売
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『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
2021年8月27日 日本劇場公開
公式サイト

原題:SUMMER OF SOUL (OR, WHEN THE REVOLUTION COULD NOT BE TELEVISED
監督:アミール・“クエストラブ”・トンプソン
出演:スティーヴィー・ワンダー、B.B.キング、ザ・フィフス・ディメンション、ステイプル・シンガーズ、マヘリア・ジャクソン、ハービー・マン、デヴィッド・ラフィン、グラディス・ナイト・アンド・ザ・ピップス、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン、モンゴ・サンタマリア、ソニー・シャーロック、アビー・リンカーン、マックス・ローチ、ヒュー・マセケラ、ニーナ・シモンほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン © 2021 20th Century Studios. All rights reserved.
北米公開:2021年7月2日(劇場/Hulu同時公開)


 

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