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【追悼ロブ・ライナー】『スパイナル・タップ』と映画に影響を与えた実在のミュージシャンたち

Published on

12月 24, 2025

Photo: Pete Cronin/Redferns

2025年12月14日、『スタンド・バイ・ミー』『恋人たちの予感』で知られる名映画監督ロブ・ライナーが78歳で亡くなった。そんな彼の監督デビュー映画は架空のバンドをドキュメンタリーという設定で撮影された『スパイナル・タップ』だった。低予算ながらそのアイデアで世界中のロック・ファンを虜にして、現在でもカルト映画として愛され続けている。

そして監督の最後の作品となってしまったのはこの続編である『スパイナル・タップII: ジ・エンド・コンティニューズ』だった。この名匠の追悼として『スパイナル・タップ』の解説記事を公開。

This Is Spinal Tap – 41st Anniversary | Official Trailer

フェイク・ロック・ドキュメンタリー

映画監督のマーティー・ディバーギーは、英国のベテラン・ロック・バンドが不当な評価を受けた傑作アルバム『Smell The Glove』を引っ提げて行うツアーに密着することを決める。彼はそのとき、自分がこれからグループの退廃ぶりや放蕩ぶり、メンバー間の対立、そしてパントマイムまでをカメラに収めることになるとは想像もしなかったはずだ。

結果として彼が完成させたドキュメンタリー『スパイナル・タップ』（原題：This Is Spinal Tap）は、ツアー活動に苦闘するロック・バンドの姿や演奏、さらには匂いまでを私たちに伝える1作になった。

だがそこに登場するバンドメンバー、ナイジェル・タフネル（ギター）、デイヴィッド・セントハビンス（ヴォーカル／ギター）、デレク・スモールズ（ベース）は同時に、往年のロック・ミュージシャンたちの系譜を受け継いでいた。ディバーギーのフィルムに記録されていたのは、舞台セットに問題が生じたり、望まない会場での演奏を強いられたりといった場面の数々だった。そしてそうした状況は、スパイナル・タップの同世代や先達のグループが実際に直面した苦境に奇妙なほど酷似していたのである。

これは単なる偶然か？それは誰にも分からないが、このあたりでディバーギーの言葉を借りることとしよう。

「前置きはこのくらいにして、早速始めよう！」
（Enough of our yakkin’, whaddya say? Let’s boogie!）

ビート・バンドだったスパイナル・タップ

映画『スパイナル・タップ』では演奏中に舌を突き出したり、ピチピチのスパンデックス・パンツを履いて派手なパフォーマンスをしたりするハード・ロック・バンドとしてのグループの姿が映し出される。だが、彼らは結成時からそのようなグループだったわけではない。

ディバーギーは劇中で、スパイナル・タップがザ・ビートルズのようなビート・バンドだった初期のころのことにも触れている。そこで挿入されるのは、1965年に彼らがイギリスのテレビ番組「Pop, Look & Listen」に出演し、強欲な男の視点で歌われるヒット曲「Gimme Some Money」をパフォーマンスしたときの映像だ。

当時の彼らはテムズメンと名乗っており、ドラマーは“ザ・ピーパー”ことジョー・“スタンピー”・ピープスだった。そしてセントハビンスは、ピープスが庭いじり中の奇妙な事故で亡くなったことを感傷的に明かすのである。「よくある話さ」――いまも頭の整理がついていない様子のタフネルはそう付け加える。「警察が言うには、こういうことは未解決のままにしておいた方がいいらしい」。

Spinal Tap – Gimme Some Money – Full HD Music Video

時は流れて1967年、スパイナル・タップと改名した彼らはスーツを脱ぎ、髪を伸ばしてフラワー・パワーを体現するバンドになっていた。そしてサイケ・ポップ調のシングル「(Listen To The) Flower People」を大ヒットさせた彼らは“ほぼ世界中”をツアーで回り、リスナーが新世代のグループに注目するきっかけを作った。スパイナル・タップの面々がヒッピーたちの主張を真に理解していたかは疑問だが、それもご愛嬌だ。

ディバーギーはこの映画のために、サイケ時代のタップの代表的な映像である米テレビ番組”Jamboree”でのパフォーマンスを発掘。ドラマーのピーター・ジェームズ・ボンドが映っている点で、これはメンバーの胸を締め付ける映像だった。というのも彼は、ルーシー島ブルース・ジャズ音楽祭（あるいはジャズ・ブルース音楽祭）のステージ上で爆死したのだ。メンバーたちの目撃証言によれば、爆発があったあと彼のドラム・スツールには緑色のシミだけが残っていたという。

Spinal Tap – Listen to the Flower People 1967 Music Video HD

だが、紆余曲折を経てデニムやレザーに身を包むハード・ロック・バンドに変貌した英国のバンドはスパイナル・タップ以外にも存在する。

例えば、激しいブギー・サウンドが武器のステイタス・クォーは、全英7位をマークした1968年のヒット曲「Pictures Of Matchstick Men」でモッズ・ビート・バンドとして注目を集め、そのあと「Ice In The Sun」でサイケの世界にも足を踏み入れていた。

幸いにも彼らはスパイナル・タップと同じく、のちに路線を転換。1972年の『Piledriver』以降、3つの同じコードを多用するヘヴィ・ブルース・ロック専門のグループに生まれ変わったのである。

Status Quo – Pictures Of Matchstick Men (1968/HD)

「Rock And Roll Creation」での繭の演出

批評家たちはスパイナル・タップが宗教性を取り入れたアルバム『The Gospel According To Spinal Tap』の魅力を理解できなかったようだが（「なぜ神は休息せずスパイナル・タップを創造されたのだろうか？」と評されている）、同作には彼らの代表曲となる「Rock And Roll Creation」が収録されている。世界の始まりと、その崇高さに対する人間の価値の無さについて考察する壮大な楽曲だ。

だが残念ながら、ディバーギーが映画『スパイナル・タップ』の劇中に使用したパフォーマンスでは、同曲の奥深さが霞んでしまっている節がある。それは演奏中、ベースのスモールズが繭を模した舞台装置から出られなくなったからだ。スタッフがハンマーやガスバーナーを使って彼を脱出させようと試みるがそれもうまくいかず、ただセントハビンスとタフネルを苛立たせる結果となってしまう。

最後にスモールズの入った繭はようやく開くのだが、すでに手遅れだった。その瞬間に演奏は終わり、彼は繭の中に戻らなくてはならなくなったのだ。不運にも彼は繭が閉まるのに間に合わず、片腕を開閉部に挟まれてしまう。するとスモールズは開き直って、もう片方の拳を観客に向けて突き上げたのだった。

Spinal Tap – Rock 'n' Roll Creation (live 1984) HD

舞台装置の中に閉じ込められたミュージシャンは、スモールズ以外にも多数存在する。例えば、プログレ界の大物であるイエスが『Tales From Topographic Oceans（海洋地形学の物語）』を引っ提げて行ったツアー（1973年11月〜1974年前半）の北米レグでも同様の事案が発生。

当時の舞台セットではドラマーのアラン・ホワイトがド派手な繊維ガラス製のドラム台に囲まれていたのだが、ある公演でその装置が開閉せず、ホワイトが閉じ込められてしまったのだ。さらにそれから数十年後、U2が1997年に行った”ポップマート・ツアー”のオスロ（ノルウェー）公演でも、メンバーたちが巨大なレモンの内部から出られなくなる事態に。このときも、どこかでデレク・スモールズがほくそ笑んでいたに違いない。

「Stonehenge」での舞台のサイズ

公演のキャンセル、保安検査場でのキュウリの没収、誰も集まらないレコード店でのサイン会――ツアーが進むにつれ、タップを取り巻く状況は厳しさを増していく。だが、グループにはとっておきの切り札があった。それは異教徒たちを題材にした壮大なプログレッシヴ・ロック・ナンバー「Stonehenge」だ。

“先史時代 / before the dawn of history”から存在する謎の遺跡の建造においてドルイド僧たちが果たした役割を考察する1曲である「Stonehenge」を、ツアーで再び取り上げるにあたり、タフネルはマネージャーのイアン・フェイスに舞台セットの下絵を手渡した。それはストーンヘンジの有名な巨石を模したシンプルな構造物で、そこには寸法も記されていた。

模型製作を依頼した芸術家と面会したフェイスは、その高さが18インチ（約46センチ）しかないことに驚く。しかし彼がその仕上がりに疑問を呈すと（「これが実物だっていうのか？これが舞台背景だって？ストーンヘンジを見に行ったこともないのか？」）、芸術家はタフネルによる原画を取り出し、単位がフィートではなくインチになっていたことを示すのだ。

結局、フェイスはバンドにこれを知らせないという思い切った決断をした。そして「Stonehenge」の肝心なパートでこの模型が天井から吊り下げられて登場すると、パフォーマンスは大惨事に。終演後にこの件を問い詰められたフェイスは職を辞して去ってしまうのだった。

This is Spinal Tap – Stonehenge scene

一方、これはまったくの偶然なのだが、イアン・ギランが短期間ながらブラック・サバスに在籍していた1983年、ヘヴィ・メタルの始祖である彼らは真逆の問題を抱えていた。つまり、ストーンヘンジが大きすぎたのだ。ベーシストのギーザー・バトラーはこう回想している。

「俺たちのマネージャーはシャロン・オズボーンの父親のドン・アーデンだった。彼はあるとき、ステージにストーンヘンジを設置するアイデアを考えついた。それで寸法を紙に書いて、ツアー・マネージャーに手渡したんだ。でもそのとき、彼は”フィート”と書くつもりで”メートル”と書いてしまっていた。だから製作者は15フィート（約4.6メートル）ではなく、15メートルと認識したんだ。結局、45フィートもあってどのステージにも置けないものが出来上がってしまった。仕方なく保管所に仕舞っておくことにしたよ。大金をはたいて作ったのに、地球上のどの建物にも入らなかったんだ」

また、これもタップのエピソードに似た話だが、ギランが1993年にモジョ誌に語ったところによれば、ストーンヘンジのセットは実のところバトラーのアイデアだったのだという。真相は謎のままだ。

「Sex Farm」での演奏

「Stonehenge」の一件でグループ内の緊張が高まったのち、シアトルのリンドバーグ空軍基地で行われた軍人向けの”息抜き”公演でその軋轢は限界点に達した。新たにマネージャーに就任したジャニーン・ペティボーン（セントハビンスの恋人）は、同地のシヴィック・アリーナでの公演がキャンセルとなったのを受け、急遽このライヴを仕込んでいたのだ。

劇中でメンバーたちは、お喋りで（本人が認めている通り）少し髪の伸びたフックストラッテン中尉の出迎えを受ける。そして彼はメンバーたちにこう伝えるのだった。

「あなた方のレコードの大ファンです。……あなた方の個別のファンということではなく、ロックンロールというジャンル全体に関してですが」

さらにフックストラッテンは、こうも要望するのだった。

「私が踊れるようなスローな曲もいくつかやってもらえますかね？」

だがスパイナル・タップの面々が演奏したのは「Sex Farm」というハード・ロック・ナンバーだった。スモールズ曰く、性を洗練された視点で描いた楽曲だ。例えばこんな歌詞が含まれている。

Workin’ on a sex farm / Trying to raise some hard love
Getting out my pitchfork/Poking your hay
性の農場で働き／ハードな愛を育むのさ
俺の熊手を取り出して／お前の干し草に突っ込む

観客たちはその演奏に戸惑うが、さらにタフネルのギターのワイヤレス・システムが現地の無線を拾い始めたことで事態は悪化。それに腹を立てたタフネルはギターを床に叩きつけると、ペティボーンに意味ありげな視線を向けてステージを降りてしまう。だが幸い、そののち「Sex Farm」が日本で予想外のヒットを記録すると、タフネルもバンドに復帰してツアーを大成功させるのだった。

Sex Farm

驚くべきことに、スパイナル・タップの前にも同じような状況に陥ったグループが存在した。英国のプログレッシヴ・ロック・バンド、ユーライア・ヒープもかつて基地での演奏を経験していたのだ。同グループでキーボードを弾いていたジョン・シンクレアは50gigsinadayのインタビューでそう話している。

「あのころ、ヒープは70年代前半のような人気を取り戻そうとしていた。俺たちは生活のため、話があればどんなライヴでも引き受けていた」

シンクレアは『スパイナル・タップ』についてこう語る。

「制服を着た米国空軍兵とイヴニング・ドレスを着たその妻たちの前で演奏する辛さがうまく表現されていた。そして俺たちは見事に玉砕したんだ！」

Written By Jamie Atkins

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