「ヘヴィ・メタル」がこれほどまでに熱心なファンを生んでいる理由

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Photo: Vladimir Volovodov / EyeEm / Getty Images

あご髭をたっぷりと蓄えたアイスランド人が食べるハカール (サメ肉を発酵させた珍味) と同じで、ヘヴィ・メタルは人に勧められて好きになるような類のものではない。直感的に好きになるか、青臭い騒音にしか聴こえないか、二つに一つなのだ。

そんな中でメタル・ファンたちは、“生涯メタル一筋”を宣言したり、「Birth, School, Metallica, Death /  生まれ、学校にいき、メタリカを聴いて、死ぬ」と書いたTシャツを着たりする。一方で、“生涯ブルー・アイド・ソウル一筋”と書いたステッカーが貼られている車や、「Give Me British Modern Jazz Or Give Me Death / ブリティッシュ・モダン・ジャズがなければ死を選ぶ」と書かれたニット・キャップは見たことがない。きっと、メタル・ファンだけがそんな風に熱心なのには何か理由があるはずだ。

映画『スター・ウォーズ』に登場するデス・スターが、悪の力によって生じたトラクター・ビームでミレニアム・ファルコン号を引き寄せたように、メタルは人びとを引き付けて離さないのである。

だがその理由とは何だろう?メタルの何がそれほど重要なのだろう? 本記事ではその魅力を探っていこう。

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深く聴き込むべき音楽

筆者である私はこれまでメタル・バンドに関する著書を20冊執筆してきたし(『ランディ・ローズ』『クリフ・バートン TO LIVE IS TO DiE』など)、同じ題材について書いた雑誌の記事も数百に上る。それでも、世間のメタルへの理解の薄さには至極納得がいく。というのも、私は17歳までメタルのことを、根本的には“負け犬たちの空想が詰まった悲しい音楽”だと思っていたからだ。

だがそんな矢先、私はメタリカの『Master Of Puppets』、スレイヤー『Reign In Blood』、メガデスの『Peace Sells… But Who’s Buying?』、アンスラックスの『Among The Living』といった名盤を聴いた。それらのアルバムや、エクソダス、セパルトゥラ、ダーク・エンジェル、デスなど80年代中〜後期を代表するスラッシュ・メタル・バンドの作品は、メタルというものに対する私の愚かな誤解をあっという間に解いたのだった。

それらのアルバムは、ドラゴンを倒したりドラッグに溺れたりといった内容のものではなかったし、ミュージシャンたちもピチピチの衣装を着てはいなかった(いや、正確には“滅多に”着てはいなかった)。実際のメタルは凶暴で、強い好奇心を持って作られた音楽だったのだ。それぞれの楽曲は深刻な問題を提起しており、リスナーには深く聴き込むことが求められる。例えば、スレイヤーの作品は一度聴くとしばらく頭から離れないものばかりだ。そのサウンドや歌詞はリスナーの脳裏にこびりつく。そして、ほかの軽薄な音楽が耳に入るたびに、本当の音楽とは何かを思い出させてくれるのだ。

メタルが負け犬の音楽だと思っていた私の罰当たりな考えは、いまとなっては思い出すだけで恥ずかしい。一つには、あまりに思いやりのない考え方だからである (若さゆえの過ちと言い訳するしかない) 。実際には、メタルは人びとに心から必要とされている。そのわけを説明しよう。

 

体験の共有

80年代後半まで、メタル・コミュニティはほとんどが男性で構成されていた。それは一つには、若い男性は同じ体験を共有することで絆を深める傾向にあるからだ。そして、その体験が強烈であればあるほど、絆も強くなる。そもそも私たちはみな、自分より大きな集団への帰属意識を持ちたがるものだ。

ごく一部の人しか実際の戦争を経験しなくて済むようになった現在、メタルのライヴにおける破壊的なパフォーマンスとサウンドこそが、集団同士の戦闘にもっとも似た体験なのである。しかも、コンサートで命を落とすことは滅多にない…。あるとしても、時々首の“バングオーバー” (訳注:ヘッドバンギングをし過ぎて翌日に首の痛みを引きずること。ヘッドバンギングと、二日酔いを意味する”hangover”を掛けた造語) に悩まされる程度だ。

また、にわかには信じられないかもしれないが、20世紀の父子関係の破綻もヘヴィ・メタルの人気と大きく関係している。つまりメタルの本質には、年上の男性からの注目や承認を得たいという若い男性の欲求があるのだ。かつての父親世代・祖父世代の男性たちは、戦争のせいで繊細な感覚を失ってしまっていた。そして、そのせいで息子たちに父親としての愛情を注げなかったことが、ヘヴィ・ミュージックの誕生に直結したのだった。父親に見向きもされない当時の息子たちは、男同士の結びつきを求めてメタル・バンドに目を向けざるを得なかったのである。

確かにこれはあくまで仮説であって ―― 少なくとも学術的には ―― 正しく検証されているわけではない。だが反論しようというなら、メタルのライヴに行ってモッシュ・ピットに入ってみるといい。そこではファンたちが、まるで家族同士のように一つの体験を共有しているはずだ。そうでなければ、“誰かが倒れて踏みつけられそうになっていたら手を差し伸べる”などというエチケットが昨今のメタル・ファンの間に広がるはずはないのだ。

懐の深い音楽

だが、男性の根源的な欲求だけがメタルのすべてでは決してない。実際、男性だらけだったメタル・コミュニティにも1990年ごろから変化がみられた (それは下に挙げるアーティストたちのおかげだ) 。世代を問わず女性ファンが増えたことは、誰にとっても喜ばしいことだった。それによりメタルはいっそう懐の深い音楽ジャンルになり、楽曲に歌われる感情の幅も広がった。つまり、より人間味のある音楽になっていったのである。

ロブ・ゾンビの音楽からはアイアン・メイデンになかったようなグルーヴやスウィングが感じられ、ラムシュタインの楽曲にはデフ・レパードにはない官能的・政治的な危うさがある。間違いなく時代は変化しているが、それでも一番大切な部分は少しも変わっていない。喜ばしいことに、現在のメタルはかつてないほど多様で、それと同時にファンの心を掴んで離さない音楽になっているのだ。

時代の移り変わりに関していえば、熱心なファンでない人たちは、絶え間ないメタル界の変化に戸惑うことが多い。雑誌記者たちが細かいサブジャンルで分類したがるのも、そのことに拍車を掛けているのだろう。

例えば、テレビ司会者のジョナサン・ロスが自身の番組で、マリリン・マンソンに対し「あなたはデス・メタル・シンガーなのか?」とふざけ半分に訊いたことがあった。これが可笑しいと思えるのは、カンニバル・コープス、ディーサイド、モービッド・エンジェルといったデス・メタル界のパイオニアたちを知っている人だけだろう。ちなみにロスのこの馬鹿げた質問に対するマンソンの返しは見事だった。彼は「俺たちはただのロック・バンドさ」と答えたのだ。それこそが正しい ―― そして唯一の ―― 答えなのである。

だが、ロス (あるいは下調べをしたスタッフ) のように混乱してしまう気持ちもわかる。“デス・メタル”は“death/死”という言葉が入っているくらいなので、おどろおどろしくも魅惑的な音楽のことだと早合点したのだろう。そんな誤解はR&Bやグライムやファンクでは起き得ない。

だが、昔ながらのメタルに悪魔的な要素を加えたブラック・メタルや、非常にヘヴィなスロー・テンポのサウンドを特徴とするドゥーム・メタルには同じことが起こるだろう。そうしたジャンル名に使用されているのは不気味な言葉ばかりだ。だから、ある程度の勇気や心理的欲求がなければ、各ジャンルの意味を深掘りし、恐ろしさと美しさを併せ持つそれらの音楽を理解することは難しいのだ。

 

美しい音楽

だが誤解しないでほしい。メタルは美しい音楽なのだ。ヘッドフォンを着けて、オーペス、トゥール、マストドン、ダークスローンといったグループが音で表現する心象風景を探索してみてほしい。凶暴性と安らぎは共存し得るし、実際、ここで名前が出ているメタル・バンドはすべて、作品の中でそれを実現させている。あとは、あなたがそこに足を踏み入れる強さを持てばいいだけなのだ。

こうした説明は、なぜメタルがそれほど重要なのかを理解する手助けになるはずだ。メタルは単なるエンターテインメントではない。鮮烈で、時としてケバケバしいイメージを伴うこともあるメタルだが、そのファンたちが嘲笑に動じることはない。例えば、60歳代でもブラック・サバスのTシャツを着てライヴに行くような人は男女問わず多数存在するのだ。

また、メタルの力はどんなドラッグよりも偉大なものだ。実際、嗜好品を採らずストレート・エッジの生活様式を実践する人たちの中にもメタルのファンは多い。それは、メタルが脳内の“幸せホルモン”を分泌させてくれるからだろう。

メタルは勇敢で、愉快で、率直な音楽だ。そして最高のメタルは、この世で最高の音楽なのである。

Written By Joel McIver



最新アルバム
メタリカ『72 Seasons』

2023年4月14日発売
CDiTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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