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【現地ライヴレポ】KISSによる“最後”のコンサート:お約束の連続という美学と想定以上の感動

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KISS - Photo: Kevin Mazur/Getty Images for Live Nation

現地時間2023年12月2日、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンにて行われたアメリカを代表するロックバンド、KISSによる“最後”のコンサート。

日本でも有料配信で見ることができたこのコンサートだが、実際に現地まで飛んでコンサートを体験してきた音楽評論家の増田勇一さんによるライブ・レポートを掲載します。

また、この公演にて販売されたTシャツ(Lサイズ)1枚を増田さんからのお土産としてプレゼント。詳細はこちらのURLをチェック。

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マディソン・スクエア・ガーデンでの最後の夜

12月2日、『End Of The Road』というタイトルを掲げながら2019年1月から長期間にわたりワールドワイドに展開されてきたKISSのフェアウェル・ツアーが、このバンドにとって発祥の地にあたるニューヨークにて閉幕へと至った。

会場は由緒正しきマディソン・スクエア・ガーデン(以下MSGと略す)。約2万人を収容するこの由緒正しいアリーナのステージにKISSが初めて立ったのは1977年2月18日、すなわち初来日公演が実現する前月のことだった。それ以来、このバンドの歴史の節目をたびたび見守ってきた所縁深い場所で、彼らはその前夜にも演奏し、堂々の二夜連続公演をもってひとつの長い歴史に区切りをつけたのだった。

11月下旬に組まれていたオタワ、トロント、ノックスヴィルでの計3公演がポール・スタンレーのインフルエンザ罹患により直前になって中止されるという異例の事態を経ていただけに、この記念すべき二夜公演についても開催が危ぶまれるところがあったが、幸いにも彼自身の体調も回復に至り、両公演とも無事に予定通り実施され、超満員のオーディエンスを歓喜させた。

 

お祭り騒ぎのニューヨーク

筆者はこの二夜を目撃するために、3泊5日の弾丸ツアー的日程で現地に飛んだ。既報通り、実際の公演を前に『KSS NYC Takeover』というキーワードのもと、KISSヴァージョンのメトロカードが限定発売されたり、車体が彼らの姿に彩られたタクシーが街中を走行したり、同都市の象徴のひとつであるエンパイアステートビルが特別な形でライトアップされたりといった、文字通り街全体を乗っ取るかのような趣向の催しが繰り広げられており、なかでも目玉のひとつといえるポップアップストアは、筆者が1日の午後に訪れた時点で入店までに2時間半待ちという状況。KISSにちなんだピザを限定販売し、特製のボックスと共に提供してくれるというピザ店もすさまじい混雑ぶりだった。

そうした事実からも想像できるように、この時期のニューヨークには歴史的瞬間を見逃すまいとするファンが全米のみならず世界各地から集結しており、KISSのTシャツで武装した人たちの姿が街のいたるところに溢れていた。

ちなみに筆者は公演当日にはジャパン・ツアーのTシャツを着用していたのだが、街でKISSファンとすれ違うたびに微笑みかけられたり、親指を立てられたり、「日本から来たのか?」と声を掛けられたり、しまいには「俺のTシャツと交換してくれないか?」とまで言われたりもした。

物販の行列に並んでいてもそれは同じことで、こちらから尋ねたわけでもないのに「今日は俺にとって47回目のKISSのショウなんだ。君は何回目?」などと質問されたり、「ポップアップストアに行くならば最終日の朝イチが狙い目」「確かに。今日はもう品切れのアイテムが多かったが、明日は補充されるという話だった」といったやり取りが聞こえてきたりする。同じバンドを愛する者同士の、同胞意識のようなものがファンの間にごく普通にあるのだ。

KISS Celebrates Their Final Shows Ever with Empire State Building Music-to-Lights Show

 

伝統の継承

そして、肝心のライヴについて。両日ともオープニングを務めたのはAMBER WILD。現時点で公式に発表されている音源がわずか2曲のみという若き4人組だが、フロントマンを務めているのがポール・スタンレーの息子であるエヴァンだと言えば、誰もがその大胆な抜擢にも頷くことだろう。

実際、ギターを弾きながらヴォーカルをとる彼の歌声やステージングには父親からの影響を感じさせる部分も多く、実のところその音楽性自体に斬新さはないものの、ブルージーなクラシック・ロックを好む音楽ファンは今から注目しておくべきだろう。当然ながらエヴァンにとってMSGのステージに立つというのは人生初の体験になったわけだが、ステージ上の彼は「あまりにもクレイジーだ。信じられない」と心情を語ると共に、父親をはじめとするKISSの面々、すべてのクルーと観衆に対して感謝の言葉を述べていた。

この二夜公演の翌日にあたる12月3日に自己初となるニューヨークでのヘッドライン公演(会場はバワリー・エレクトリック)を控えていた彼らは、いわばKISSが最後のロードの最終局面を迎えるのと同時に、いよいよ本格的な歩みを始めることになったのだった。まるで何かを受け継ぐようにして。

そうした伝統継承のドラマは、ステージ上に限った話ではない。近年のKISSのライヴに若年層の姿が目立つようになったのは、親子連れの来場者が増えていることとも無関係ではない。筆者の隣の席には10代前半と思しき男女ふたりを連れた父親がいて、ライヴの転換時に「差し支えなかったら、客席を背景にして僕らの写真を撮ってくれないか?」と声を掛けてきた。もちろん喜んで引き受けたが、子供たちにとってはこの日がライヴ初体験だそうで、父親は「子供たちがライヴに行ってみたいと言い出したらまずKISSを観に連れてこようと思っていたし、それが俺の夢でもあった。ギリギリでその願いが叶ったんだ」と語っていて、息子のほうは母親にテレビ電話で「母さん、もうすぐ始まるよ」と興奮気味に報告していた。

さすがに公演チケットも安価ではないだけに、来場者の多くは明らかに彼らの音楽と少なくとも四半世紀以上の付き合いがあるはずの世代であり、還暦以上のファンが占める割合も高い。ただ、どんな時代にもKISSの公演会場には、彼らの音楽と知り合って間もない世代や、初めて彼らのショウを体験する人たちがいた。そして、そこでこの唯一無二のバンドのパフォーマンスを存分に楽しみ、夢中になった人たちが、身のまわりや下の世代へと熱を伝えていった。

KISSが70年代の第一次黄金期を原体験してきた世代にだけ限定的に支持されてきたわけではなく、常に幅広い層から声援を集めてきたことのシンプルな理由がそこにあると思う。それはごく自然なことであると同時に、とても稀有なことでもある。どんな時代においてもKISS未体験の人たちに「機会があればいつか一度は観てみたい」と感じさせ、実際に初体験を経た人たちの心を鷲摑みにし、「この体験を一度だけで終わらせたくない」と思わせてしまう力があるということなのだから。

 

お約束の連続という美学と想定以上の感動

そして、彼らの長いロード生活の最後を飾った2日間のライヴからも、やはりそうした魅力の強さを感じずにはいられなかった。敢えて言うならば、最終公演だからといってことさらめずらしい要素が盛り込まれていたわけではなく、いわばお約束の連続ではあった。

開演が近いことを知らせるのがLED ZEPPELINの「Rock And Roll」であることも、場内暗転後に聞こえてくる「世界でいちばんホットなバンド!」というアナウンスも同じだし、1曲目に炸裂したのは両公演ともオープニングの定番である「Detroit Rock City」だった。ただ、そうした鉄板の展開は今になって始まったものではない。

1977年2月18日、彼らが初めてこの場に立った時にも、ショウは「Detroit Rock City」で幕を開けている。さらに言えばセットリスト全体も2日間共通のものだったし、それは2022年11月30日に“大千秋楽”として東京ドームにて行なわれた一夜限りのアンコール来日公演の際とも完全に一致する構成だった。ただ、あの東京公演の際には『End Of The Road』ツアーにおいて初めて「Makin’ Love」が演奏メニューに組み込まれていたが、依然として同楽曲がポジションを堅持していた事実にも注目したい。変化に乏しいようでありながら、実は彼らのツアーにおいてマイナーチェンジはつきものだし、そうした試行の積み重ねによって“鉄板のショウ”がいっそう磨き込まれてきたのだ。

筆者は初来日時から来日公演には毎回足を運び(もちろん日本での全公演という意味ではない)、1986年以降は海外でもたびたびKISSのライヴを目撃してきた。これまでに彼らのライヴを何度観てきたかについてはあいにく即答できないが、今回、彼らと所縁の深いニューヨークの殿堂で体験した彼らのライヴは、これまでに観てきたKISSのライヴのなかでもベスト・オブ・ベストと躊躇なく言えるものだった。

もちろん何度となく聴いてきた曲、目にしてきた場面の連続ではあった。が、1977年以来ずっと親しんできたKISSのライヴが、少なくともこれまでと同じような形ではもう観られないのだという現実には、筆者自身が想定していた以上に重いものがあった。最終夜の公演の模様をPPVで観ていた人たちにも、同じような感触があったのではないだろうか。

実際、自分でも意味がよくわからないのだが、ちっとも感動的ではない場面で何故か涙が勝手に流れてきたりした。たとえばポールとジーンがステージ上でじゃれ合っているシーンを目の当たりにした際には、「ああ、あの人たちがこんなふうに振る舞うのを見るのもこれが最後なのか」と感じて涙腺を刺激された。

隣の席にいた家族の男児が各曲のイントロにいちいち反応しているさまにも、なんだか妙に感動させられた。ポールが、1972年にこの会場を初めて訪れてエルヴィス・プレスリーを観た時の話、自身にとって初のMSG公演が初めて行なわれた際に彼の両親やジーンの母親も観に来ていたというエピソードを盛り込みながら披露したMCも、2日間を通じてほとんど同じだったが、彼自身が味わっているはずの感慨深さが伝わってくるようだった。

さて、具体的なショウの流れや詳細についてはまた機会を改めて書きたいと思うが(敢えて時間を置き、2月発売のBURRN!誌3月号でたっぷりと特集記事が組まれる予定だ)、すでに一部で報道されているように、第二夜の最後には、KISSが新時代に突入するとの情報も公開された。アンコールの最後の最後、紙吹雪まみれになりながらの「Rock And Roll All Nite」が終わり、ふたたび場内が暗くなると、デジタルアバターの演奏による「God Gave Rock ’N’ Roll To YouⅡ」のビデオ・クリップが流れたのだ。どうやらこの先は、最新テクノロジーによる生身ではないKISSが、この地獄の軍団の歴史を引き継いでいくことになるようだ。

もちろん彼らが次代に向けて考えているプランはそれだけではないはずだし、そうしたさまざまな計画については、今後、少しずつ明かされていくことになるのだろう。ただ、そうした情報が明るみに出た時に、「ほら、やっぱり。終焉をちらつかせておきながら本当に終わりはしなかっただろ?」という皮肉交じりの目線で振る舞うのではなく、筆者としては、このバンドの半世紀に及ぶ歴史をリアルタイムで追い駆け続けることが出来た幸運さを噛み締めながら、適度な期待感を抱きながら“新しいエラ”の幕開けを楽しみにしていたいと思っているし、リアルな体験を味わってきた世代だからこそ、次世代に伝えていくべきことを良い形で残していきたいものだと考えている。

こうしたスタンスもきっと、出会いからこれまで続いてきたKISSファンとしての経験によって培われてきたものなのだろう。つまり僕は今回、育ての親にとっての人生の重要局面を目撃したのも同然だったのかもしれない。

KISS – A NEW ERA BEGINS

Written By 増田勇一



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