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スタン・ゲッツ&チャーリー・バード『Jazz Samba』:南米から持ち帰ったサウンドとボサノヴァ・ブームの火付け役

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1961年春、アメリカ政府はモダン・ジャズの普及に大きな役割を果たすことになった。政府主催の南米向け親善ツアーにギタリストのチャーリー・バードを起用したのだ。文化を輸出することがポジティブな政治の道具になる、米国務省はそう考えていた。しかしこのときは、むしろチャーリー・バードが帰国後にアメリカに輸入したもののほうがのちのち大きな意味を持つことになった。


帰国後のチャーリー・バードはワシントンDCのショーボート・ラウンジでスタン・ゲッツに会う。そして彼は、スタン・ゲッツの家を訪れ、ブラジルで買い込んだジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビンのボサノヴァ・レコードを聴かせた。その次のステップは、ラテン風のジャズ・レコードを出すようにヴァーヴ・レーベルに掛け合うこと。当時ヴァーヴは、ノーマン・グランツの後継者クリード・テイラーが運営していた。業績を挙げようと必死だったクリード・テイラーは、チャーリー・バードのアイディアに可能性を感じた。こうして1961年10月、スタン・ゲッツとチャーリー・バードは初のジャズ・サンバのレコーディングを行ったが、その音源はレコード化が見送られてしまう。

しかし1962年のヴァレンタイン・デイの前日、チャーリー・バードとスタン・ゲッツは再びレコーディングに臨んだ。共演者はチャーリー・バードの弟のジーン・バード(ギター、ベース)、ケーター・ベッツ(ベース)、バディ・ディペンシュミット(ドラムズ)、ビル・ライヒェンバッハ(パーカッション)という顔ぶれ。録音場所として使われたのはワシントンDCにあったオール・ソウルズ・ユニテリアン教会で、ここの優れた音響がレコーディングでは活用されることになった。ケーター・ベッツとバディ・ディペンシュミットはチャーリー・バードと共に南米を訪れていたので、ラテン・サウンド(特にブラジルのリズム)に通じていた。それからまもなくクリード・テイラーはこう語っている。「あれはチャーリー・バードのアイデアだった。関係者全員、あれがあんな大人気になるとは予想もしていなかった」。

ここで録音された音源は、1962年4月に『Jazz Samba』という題名で発表された。これは9月中旬にBillboard誌のポップ・アルバム・チャートにランク・インし、1963年3月9日に首位に到達した。首位に立ったのは1週だけだったが、チャート入りの期間は計70週にも及んだ。こうして『Jazz Samba』はまさに画期的なレコードとなり、このレコードのおかげで、ボサノヴァは、一躍、世界一クールな音楽と見做されるようになったのである。1962年11月にはアルバム収録曲のひとつ「Desafinado」もシングル・チャートで15位に達し、これもまた『Jazz Samba』の売り上げを後押しした。こうしてこのアルバムとシングルは、ボサノヴァ・ブームの火付け役となった。さらにヴァーヴ・レーベルにとっても、きわめて実入りのいいヒット・レコードになっていた。

Desafinado

 

興味深いことに、以前からラテン・ジャズの第一人者だったディジー・ガレスピーも1961年のモンタレー・ジャズ・フェスティヴァルで「Desafinado」を演奏している。これはおそらく、当時バックでピアノを弾いていたブラジル出身のラロ・シフリンの勧めによるものだった。また、1961年の夏にディジー・ガレスピー本人がブラジルをツアーしたことも影響したのだろう。こうしてブラジルのリズムは世界中に広まり、多くの聴き手を魅了して止まなかった。

『Jazz Samba』がチャートに入る前の段階で、クリード・テイラーとスタン・ゲッツは、ゲイリー・マクファーランドのオーケストラと組んでアルバム『Big Band Bossa Nova』を制作。一方カル・ジェイダーはシングル「Weeping Bossa Nova (Choro E Batuque)」をレコーディングしている。同じ1962年にはエラ・フィッツジェラルドも「Stardust Bossa Nova」をリリースし、大晦日にはアルバム『Luiz Bonfa Plays And Sings Bossa Nova』のレコーディングが行われた(これにはブラジル人ピアニストのオスカー・カストロ・ネヴィスが参加している)。このうち『Big Band Bossa Nova』はBillboard誌のチャートで最高13位にまで到達した。もはやボサノヴァは一大ブームになっていた。

1963年2月27日、スタン・ゲッツは『Jazz Samba Encore』を録音する。しかし今度は前作『Jazz Samba』とはまったく違った顔ぶれのミュージシャンがバックを務めており、ピアノはアントニオ・カルロス・ジョビンが演奏し、ギターはルイス・ボンファが担当していた。このアルバムの売り上げは、大ヒットした『Jazz Samba』には遠く及ばなかった。ブームとはえてしてそういうものだが、一方でこの『Jazz Samba Encore』のほうがはるかに満足度の高い内容だと感じる聴き手もまた少なくない。

Written By Richard Havers


スタン・ゲッツ / チャーリー・バード『Jazz Samba』

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