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マルーン5『Hands All Over』解説:発売当初の不振から“Moves Like Jagger”で大成功した3rdアルバム

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普遍的な皮肉として、プロジェクトを成功させるために実施したことは、時として報われないことがある。マルーン5がベテランのロック・プロデューサーであるロバート・“マット”・ラングとコラボしたことで、3枚目のアルバム『Hands All Over』は瞬く間に大ヒットを記録するはずだったが、実際はそうならなかった。しかし時間はかかったが、このアルバムはバンドの今日までの最も有名な作品の一つとなり、それ以降の未来への新鮮で強力なステップとなった。

2009年に『It Won’t Be Soon Before Long』の過酷日程が組まれたツアーが終わりを告げ、バンドはアルバムの制作に取り掛かることになった。アダム・レヴィーンは、次の作品がマルーン5の最後の作品になるかもしれないと思って準備していたのかもしれない。というのも、それより2年前、彼は米ローリングストーン誌に、彼がソロプロジェクトを行う前に発売するバンドのアルバムが最後になるかもしれないと語っていたのだ。

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新たなレコーディングスタイル

新作アルバムのプロデューサーとして迎えたロバート・“マット”・ラングは、デフ・レパードからブリトニー・スピアーズまで、誰とでも一緒に仕事をしてきた人物であり、彼の元妻であったシャナイア・トウェインを記録破りのキャリアへと導いたことで最も有名な人物である。

彼のプロデュースに興味を持ったマルーン5は、2ヶ月間スイスにあるラングの拠点に移動したが、ベテラン・プロデューサーにお任せしてレコードを作るという考えはすぐに払拭された。アダム・レヴィーンの楽曲は解体されて再構築され、ラングは彼の有名なフックとハイファイでインパクトのあるサウンドを追求した。バンドのソングライターたちがスタジオでお互いの楽曲を比較しながら、フレンドリーでありながらもプレッシャーを感じさせる雰囲気の中で作業は進められた。時にはチャレンジングだと感じることもあったかもしれないが、それらは全てレコードのためになったといえるだろう。

2010年9月15日に発表されたアルバム『Hands All Over』は、マルーン5のこれまでで最もキャッチーなポップ・コレクションとなった。バンドのデビュー作から見られた強烈なファンクとロックのハイブリッドなトーンは進化し、新たなエネルギーに満ちたポップな輝きを放ち、プロデューサーのラングが作り上げてきた80年代と90年代の全盛期の作品を引用しながらも、シャープでコンテンポラリーな印象を与えていた。

アルバムの最初のシングル「Misery」は、アダム、ギタリストのジェシー・カーマイケル、そして長年のコラボレーターでありのちに正式メンバーとなるサム・ファーラーとのコラボ曲だ。『Hands All Over』のリリースに先駆けた先行トラックとして2010年6月にラジオでヒットしたこの曲は、批評家からの評価を受け、マルーン5の挑発的でありながらも毒舌なストーリーラインをフィーチャーしたビデオと共に、チャートを上昇させ始めた。

Maroon 5 – Misery (Official Music Video)

シングルの不発とアルバムセールスの不振

しかしその後、アメリカでは全米シングルチャートのトップ10にはいることがないまま最高位14位に失速、イギリスでのピークは30位と、この曲の明らかな売れ線を狙った方向性とチャートアクションとは相反するように思われた。翌年のグラミー賞で最優秀ポップ・パフォーマンス賞にノミネートされたことで、この曲は相応の評価を受けることになったが、『Hands All Over』は予想されていたよりも不安定なスタートを切ってしまったのだ。

一方でアルバムのレビューは、前作『It Won’t Be Soon Before Long』のころよりも相対的に好評を得ていた。まるで批評家たちがマルーン5の強力なソングライティング・パワーにようやく体が馴染んできたかのようだった。

軽快なファンク・シャッフルの「Give A Little More」が次のシングルに選ばれ、シンプルなパフォーマンス・ビデオは、よりシンプルで基本に戻ったアプローチを示唆しているかのように見えた。アルバム『Hands All Over』が店頭に並んだ時、アルバムは全米チャートで2位を記録し、前作で全米1位を記録した前作の成功を継承できていたかのように見えた(しかし前作の初週セールスが42.9万枚で1位だったのに比べて、売り上げ枚数は14.2万枚、トップ10からは2週で陥落することになった)。

Maroon 5 – Give A Little More (Official Music Video)

『Hands All Over』は間違いなくバンドのこれまでのアルバムの中で最も強力なアルバムであり、印象的な楽曲の数々が収録されている。例えば「How」はバンドがこれまでに残したバラードの中でも最高のものの一つで、AOR界の巨人TOTOのような説得力のあるメロディーが浸透している。

「I Can’t Lie」はビリー・ジョエルの天才的な歌謡曲集のようでもあり、「Don’t Know Nothing」はニューウェーブの影響を受けてフックのある重厚なコーラスでドラマチックな重厚感を醸し出している。また、カントリーのスーパースター、レディー・アンテベラム(現在はLady Aに改名)とのデュエット曲「Out Of Goodbyes」も見事な仕上がりとなっている。

他にも、アルバムからの3枚目のシングルに選ばれた「Never Gonna Leave This Bed」は、アダルト・コンテンポラリー・ラジオから強い支持を得て何度もオンエアされ、一方でよりロックなタイトル曲「Hands All Over」は一部の国では4枚目のシングルに選ばれている。しかし、今もなおバンドの代表曲となった圧倒的楽曲を忘れてはいけないだろう。

Maroon 5 – Never Gonna Leave This Bed (Official Music Video)

「Moves Like Jagger」での大成功とアルバム再浮上

その最高傑作とは「Moves Like Jagger」だ。スーパープロデューサーのシェルバックことヨハン・シュスターとベンジャミン・レヴィンがアダムとともにこの曲の制作に取り組んだ。アメリカのリアリティ番組『ザ・ヴォイス』の審査員仲間であったクリスティーナ・アギレラとアダムがこの曲で共演し、この大胆な行動は魔法を呼び起こす以上のインスピレーションを与えてくれたと言っても過言ではない。アダム・レヴィーンとクリスティーナ・アギレラのケミストリーはすでに番組上で明らかになっており、強力な曲に物語性をも加えることになった。

アギレラ自身の音楽キャリアは1999年に「Genie In A Bottle」でブレイクして以来安定的ではなく、2010年6月に発売したアルバム『Bionic』でも不振が続いていたこともあり、「Moves Like Jagger」でのコラボレーションは両者にとってチャートの信頼性をも高めるためのタイムリーな機会となったのだ。

「Moves Like Jagger」は大ヒットを記録し、ほとんどのアーティストがキャリアの中で一度しか味わえないような大成功となった。2011年6月21日にリリースされたこの曲は、全米シングルチャートで8位を記録し、ラジオでのオンエアが後押しをして9月には1位を獲得した。オーストラリアのチャートでは驚異的となる10週連続首位を獲得し、イギリスでも7週連続2位を記録し、その年の年間2位のベストヒットとなった。

ジョナス・アカーランドが監督したミュージック・ビデオは「Move Live Jagger」の大成功を後押した。セクシーで遊び心のある曲調に包まれたこのビデオは、ロックの神様であるミック・ジャガーへのオマージュであり、尊敬の念と同時に生意気さも兼ね備えている。ちなみにミック・ジャガー本人はABCテレビに出演した際に「とても光栄だよ」とコメントしている。

Maroon 5 – Moves Like Jagger ft. Christina Aguilera (Official Music Video)

オリジナルの発売から約10か月後、「Move Live Jagger」を追加収録された『Hands All Over』のデラックス盤にはクイーンの「Crazy Little Thing Called Love」のカヴァーや、様々なマーケットにてボーナストラックが用意された結果、『Hands All Over』のセールスは一気に上昇し、最終的にはアメリカやイギリスを含むほとんどの主要マーケットにてプラチナ・ディスクを獲得した。また、伝説的なロック・イン・リオ・フェスティバルへの出演など、話題性をサポートするような日程を重ねたワールドワイド・ツアーも成功を収めた。

当時19歳だった写真家ロージー・ハーディのセルフ・ポートレイトをジャケット写真に使用した『Hands All Over』は、バンドがそれまでにリリースしてきたどの曲よりも強力な楽曲を収録し、チャートでの信頼性を回復させた「Move Live Jagger」を加えたデラックス盤の再リリースの計画によってより強化されたコレクションとなった。

テレビ番組への出演というキャリアを積む一方で、アダムはマルーン5の知名度を安定的に維持する方法を知っていることを示し、必要な場合にはどうやって物事を研ぎ澄ますかということを冷静に理解していた。『Hands All Over』が発売された当初は、それまでのバンドの流れから外れていることを世間が証明するようなセールス結果となったが、最終的には曲の質の高さがその評判を抜き去り、信頼できるパフォーマーとしてのバンドの評判が高まっていった。このアルバムがバンドの最後のアルバムになるかもしれないというアダムの予感は、的外れなものとなったのだ。

Maroon 5 – Moves Like Jagger (VEVO Carnival Cruise)

Written by Mark Elliott



マルーン5『Hands All Over』
2010年9月15日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify


マルーン5「Nobody’s Love」
2020年7月24日発売
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music




 

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