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ベック『Mutations』解説:ナイジェル・ゴッドリッチを迎え2週間で録音した多幸感溢れる作品

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2025年5月28日(水)に大阪・Zepp Namba、5月29日 (木)に東京・NHKホールでの単独来日公演が、そして6月1日にASIAN KUNG-FU GENERATION主催のロックフェスティバル『NANO-MUGEN FES.2025』への出演が決定したBECK。

2018年SUMMER SONICでのヘッドライナー出演以来となるバンド編成での来日を記念して、彼の過去のアルバムの解説記事を連載として順次公開。

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前作『Odelay』の大成功

『Odelay』が数々の賞に輝くなど大成功を収めたのち、ベックは世界各国でコンサートを開催。そうして1997年から1998年にかけてはローリング・ストーン誌の表紙を飾ったり、グラストンベリー・フェスティヴァルのピラミッド・ステージに立ったりといった貴重な経験をした。そしてその後、彼は再び音楽スタイルを転換。その変化は次なるアルバム『Mutations』を聴けば明らかだった。

1996年の作品『Odelay』は批評家にも一般大衆にも熱狂をもって迎えられた。イギリスではブリット・アワードとNMEアワードに選ばれ、アメリカでは1997年9月に行われたMTVビデオ・ミュージック・アワードで5部門に輝いたのだ。このほかにも、彼は注目度の高いイベントに数多く出演。1997年のフジロック・フェスティヴァルやH.O.R.D.E.フェスティヴァルにも名を連ね、後者ではニール・ヤング&クレイジー・ホース、モーフィン、プライマスらとともにアメリカ全土を横断した。

その上、ベックはテレビや映画の世界でも存在感を強めていった。同年には「Saturday Night Live」にメイン・ゲストとして出演したほか、ジェイ・レノが司会を務める「Tonight Show」ではウィリー・ネルソンと共演。

さらには映画業界にも進出し、彼の新曲「Feather In Your Cap」はDGCレコードがサウンドトラックを手がけた映画『SubUrbia(原題)』に使用された。エリック・ボゴシアンの同名戯曲を本人の脚本で映画化した同作にはほかにも、ソニック・ユースやフレーミング・リップスらの楽曲が使用されている。

そのあと、ベックの楽曲である「Deadweight」は映画『普通じゃない』のサントラに収録。同曲は1998年のMTVムービー・アワードで最優秀映画音楽賞にノミネートされた。

Beck – Deadweight (Official Music Video)

 

新たなコラボレーター:ナイジェル・ゴッドリッチ

『Odelay』が米国内でダブル・プラチナ認定に向けて売れ行きを伸ばす中、ベックは次なる作品の制作に着手。その際、彼はプロデュース面での新たなコラボレーターを迎えた。このときベックが手を組んだのは英国人プロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチだった。

イングランドはオックスフォード出身のトレンドセッターであるレディオヘッドとの関係で知られる彼は、そのメンバーたちの才能を見事に纏め上げて注目を浴びていた。ベックとゴッドリッチはスタジオでの試行錯誤に時間をかけず、『Mutations』を2週間で録音し終えたのだった。

ベックとゴッドリッチは腕利きのミュージシャンたちを迎え、ハリウッドのスタジオであるオーシャン・ウェイでアルバムを制作。同地は、そこで制作されたレコードが累計10億枚以上の売上を記録したことを誇らしげに謳う名所だ。

レコーディングは1998年3月19日にスタートし、4月3日に終了。完成したのは自信に満ち溢れ、簡潔で、かつ先進性も併せ持った期待通りのアルバムだった。だがそれは『Odelay』の単なる再現では決してなかった。ベックの作品群の中でも奥深く、多幸感溢れるメロディーが満載の1作だったのである。

アルバムが完成しそのリリースを待つあいだ、ベックは新たな挑戦にも取り組んだ。彼の祖父とのパフォーマンス・アート作品『Beck And Al Hansen: Playing With Matches』がカリフォルニア州のサンタモニカ美術館で公開されたこともその一つである。また5月24日にはウィガンのハイ・ホールにて、ベックにとって同年唯一のイギリスでの公演が行われた。英国ロック界の新時代を牽引するザ・ヴァーヴの凱旋公演となったこのイベントは、ベックのほかにジョン・マーティンも出演する豪華なスリーマン・ライヴだった。

そして北米各地を回るベックの夏のツアーは6月1日にスタート。公演によってはショーン・レノンやエリオット・スミスといったゲストも出演した。なお、このツアーの大規模なニュージャージー公演では、幸運なことに筆者もベックのライヴを目の当たりにすることができた。ベン・フォールズ・ファイヴも出演した同公演でベックは、百戦錬磨のデイヴ・マシューズ・バンドの前座として見事なステージを披露した。

 

風変わりな楽器を取り入れたアルバム

1998年11月3日にリリースされた『Mutations』は、ベックの父であるデヴィッド・キャンベルによるアレンジや、タンブーラ、シタール、打楽器のクイーカなど風変わりな楽器を取り入れたアルバムだった。この作品にはまた、キーボード奏者のロジャー・マニング、ベーシストのジャスティン・メルダル=ジョンセン、ドラマーのジョーイ・ワロンカーなど、現在でもベックの作品に関わり続けている優れたミュージシャンたちが参加している。

アルバムは発売から間もなく全米チャートでの最高位となる13位に到達。1ヶ月も経たずにゴールド・ディスクにも認定された。確かに同作は『Odelay』ほどのセールス成績を収められなかったかもしれないが、ベックが世界屈指の創造性をもつアーティストとして確固たる地位を築いたことはこの作品から明らかだった。翌年2月、『Mutations』はファットボーイ・スリム、トーリ・エイモス、モービー、ナイン・インチ・ネイルズらの作品を抑え、グラミー賞の最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞に輝いたのだ。

大成功を収めた前作ではサンプリングを多用したヒップホップ風の装飾が特徴的だったが、そうした要素はこのアルバムで影を潜めた。だが批評家たちは、前作のスタイルを踏襲するという安易な選択を拒んだベックの決断を一様に賞賛した。ロサンゼルス・タイムズ紙は年末の総括記事でこう評している。

「『Odelay』の作風とは打って変わって、サイケデリックなフォーク・ロックやカントリー調のワルツが満載のアルバムだ。ベックはまたも、創造性溢れる新たな一面を我々に披露してくれたのである」

他方、NME紙は読者にこう助言した。

「椅子に腰掛けて耳を傾けるのがいい。ベックはこの『Mutations』で回転するターンテーブルをアシッド・ロックの光の輪に替え、都会のコンクリート・ジャングルから長く曲がりくねった田舎道へと移ったのだ。その上、彼は周囲の強い期待からいっそう距離を置き、フワフワした彼のモミアゲのあいだに存在する複雑な小世界へとさらに深く入り込んでいった」

「“Nobody’s Fault But My Own”は(グレン・キャンベル)の“Wichita Lineman”を神経質にしたような1曲だし、“Sing It Again”は、ウサギの皮を剥ぐようなペダル・スティールの甲高い音を加えた(ザ・ビートルズの)“Norwegian Wood”といった趣だ。そして一聴すると陽気なホンキー・トンク調の“O Maria”では、ベックが酒場のショーガールに扮し、白髪交じりのカウボーイたちの顎を悪戯っぽく撫でるのである」

Sing It Again

 

ベック史上もっとも愛らしいレコード

ローリング・ストーン誌のネイサン・ブラケットは、ダークな歌詞世界(「O Maria」では“夜は役立たずだけど、それは私たちも同じ [the night is useless and so are we]”と歌われる)と魅力的なメロディーの対比がこのアルバムの特徴になっていると分析した。ネイサンはこう綴っている。

「28歳のベック・ハンセンが放った新作は……死、腐敗、衰弱といったテーマに満ちている。だがその取り上げ方は一風変わっている。本作は彼のこれまでの作品の中で、もっとも愛らしいレコードでもあるのだ」

「春に2週間でレコーディングされたという『Mutations』でベックは、自身のメロディアスな側面を否定することをやめた。ファンキーな音のコラージュが展開される1996年作『Odelay』とも、無骨なアンチ・フォーク・サウンドの1994年作『One Foot In The Grave』とも異なる本作は、心安らぐ楽曲が満載のアルバムなのだ」

最後に、エンターテインメント・ウィークリー誌に掲載されたデヴィッド・ブラウンの批評を引用してこの記事を締め括ろう。

「『Mutations』は、肩の荷を下ろしたい、ペースを緩めたい、“奇妙な衣装を着た白人のラップ・マニア”のイメージから解き放たれたい、というベックの想いを叶えたアルバムだ。そうした彼の願いは”立派だ”という言葉では不十分なほど素晴らしいものなのである」

O Maria

Written By Paul Sexton


ベック『Mutations』
1998年11月3日発売
iTunes Stores /Apple Music / Spotify /Amazon Music / YouTube Music


ベック 7年ぶりバンド編成での来日公演 in 2025

5月28日(大阪 Zepp Namba)
5月29日(東京 NHKホール)
6月1日(神奈川 Kアリーナ横浜 *NANO-MUGEN FES.2025)
公演公式サイト



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