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BECK『The Information』解説:聴覚と視覚の両面でファンを魅了した力作

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2025年5月28日(水)に大阪・Zepp Namba、5月29日 (木)に東京・NHKホールでの単独来日公演が、そして6月1日にASIAN KUNG-FU GENERATION主催のロックフェスティバル『NANO-MUGEN FES.2025』への出演が決定したBECK。

2018年SUMMER SONICでのヘッドライナー出演以来となるバンド編成での来日を記念して、彼の過去のアルバムの解説記事を連載として順次公開。

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「1、2、やるべきことは分かっているだろう / One, two, you know what to do」

ベックが2006年に発表したアルバム『The Information』の1曲目はそんな一言から始まる。実際、彼はやるべきことがよく分かっていた。だからこそ同作は彼のファンに支持され、リリースから間もなく全米トップ10入りを果たしたのだ。この連載では、ベックのアルバムを発表順に一つずつ紹介している。

Elevator Music

ベックの輝かしいキャリアにおいては珍しいことではないが、この新作の制作当時、彼の頭の中には新しいアイデアが次々と浮かんでいた。というのも、このアルバムは前作『Guero』(2005年の後半にはリミックス・アルバムの『Guerolito』もリリースされた)のたった18ヶ月後に発表されているのだ。

また、『The Information』は彼がナイジェル・ゴッドリッチと再度手を組んだ1作でもあった。英国人プロデューサーであるゴッドリッチは、それまでにベックの作品にたびたび関わっていたのである。

同作は「Think I’m In Love」や「Strange Apparition」をはじめ、発想力豊かな21世紀流のポップ・ロック・チューンが満載の1作。そのどれもが演奏とプロデュースによって、メリハリの効いたサウンドに仕上げられている。しかもベックは、流行を先駆けた彼らしいセンスが光る視覚芸術とともに同作を世に出すことで、またも業界中を驚かせたのである。

Beck – Think I'm In Love

 

フィジカルアルバムにこだわったベック

ベックはアルバムのすべての収録曲に低予算のビデオを制作。また、現在でこそ当たり前になっているが、インターネットを通じてファンとの距離を縮めるという考え方を先駆けたのも当時の彼だった。ベックはアルバムがリリースされるはるか前に、ウェブサイトや(当時の主流だった)MySpaceのページなどを通して一部の楽曲のビデオや音源をリークしたのである。

さらに、同作はジャケットとブックレットが無地になっており、代わりにベック自らが厳選した視覚芸術家たちのデザインによるステッカーの数々が付属していた。リスナーはジャケットを思うままにカスタマイズすることで、作品とより深く関わることができたのである。これはファンにとって、彼の創作プロセスの一部になった感覚が得られる見事な手法だった。ベック本人はアルバムのリリース当時、ローリング・ストーン誌にこう説明している。

「3作前のアルバムからこういうことをやろうとしていたんだ。従来通りのやり方は、以前のようには通用しない。だから新しいことを試そうという風潮になってきているんだ。僕たちは、楽曲と画像とビデオがすべて一体となって存在し得る時代に突入しようとしている。実際のところ、もはや音声だけの問題じゃない。もっと別のものに変わってきているんだ」

SessionsX UNCOVERED: About Beck's "The Information' Custom Album Cover

同作は確かに、音声だけの作品ではなかった。2枚目のディスクには、全曲分のビデオ・クリップが収録されていたのだ。全英チャートを取りまとめるオフィシャル・チャート・カンパニーにはこれが受け入れられなかった。同組織はこのビデオ・ディスクがアルバムに不当な優位性を与えるとして、『The Information』を全英チャートから除外したのである。ベックはこう反論している。

「確かに一般的なパッケージとは違うけど、そのせいでペナルティを受ける必要はないはずだ。CDのどんなアートワークだって、それを買って聴いてみようと思う動機にはなる。だから結局のところ、その点ではどれも一緒なんだ。ファンからの反響はすごく大きい。それが何より重要なことさ」

 

 

ナイジェルとのプランニング

『The Information』を構成することとなる楽曲にベックが取り組み始めたのは2003年のこと。当時は『Guero』がリリースされるはるか前で、ゴッドリッチとの前回のコラボ作でありシンプルなサウンドとなった『Sea Change』が発表された直後だった。

2000年代中盤、ゴッドリッチはプロデューサーとしてベックの『The Information』と、ポール・マッカートニーのために手がけた『Chaos And Creation In The Backyard』の制作を同時並行で進めていたのである。

実際のところ、Backyard(裏庭)というのは『The Information』の制作にも当てはまる単語だった。ゴッドリッチはローリング・ストーン誌の特集記事でこう回想している。

「(ロサンゼルスにある)彼の家の庭に小さなスタジオを造ったんだ。半分の時間はプールで過ごし、もう半分は制作の方針について話したり、新しいことを試したりして過ごした。このアルバムは、彼と僕で何となく一緒に過ごしながら作り上げていった部分が大きい。二人で作った音源を聴いたり、彼が曲を書いたり、僕がいつまでも機械をいじくり回したりしながらね」

アルバムの先行トラックとなったのは、9月の前半に米国内のラジオで流れ始めた「Nausea」だった。そのころベックはヨーロッパで一連の公演を行っていたが、その数ヶ月前の初夏の米国ツアーでは新曲の「Nausea」がすでにセットリストに組み込まれていた。

Beck – Nausea

また、ハンク・ウィリアムズの楽曲のカヴァーである「Lonesome Whistle」も同時期にライヴで披露されるようになった1曲だ。他方で、カリフォルニア州デイヴィスのフリーボーン・ホールで行われたツアーの初日公演では、英ポップ・バンドのコーギスが1980年に放った有名ヒット曲「Everybody’s Got To Learn Sometime(永遠の想い)」のカヴァーも演奏された。

欧州での一連の公演でベックは、アムステルダムのパラディソやイギリスのVフェスティヴァルのほか、シェパーズ・ブッシュ・エンパイアやココといったロンドンのクラブにも出演。ClickmusicはVフェスティヴァルのライヴ・レポートにて「ベックによる魔法のような操り人形のパフォーマンス」を絶賛。その上で「彼はリリース前の新作『The Information』に収められる“Cellphone’s Dead”や、ジャジーにアレンジされた“Sexx Laws”などを披露してくれた」と報じた。

アメリカに帰国したベックはダウンロード・フェスティヴァルで演奏。それを皮切りに北米ツアーを行い、”Jimmy Kimmel Live”や”Saturday Night Live”にも出演した。スピン誌はダウンロード・フェスティヴァルのレビューで満足げにそう綴った。

「新たな楽曲は良かった――本当に良かった。ベックのツアー・バンドは“電子楽器のサーカス”と呼べるようなショーを見せた。彼らは楽器をキャンディのように交換したり、ステージ上を踊り回ったりしていたのだ」「彼らはラジカセを肩にかけ、アナログ盤をスクラッチし、マラカスを振っていた。だが、そんな聴覚と視覚のカオスの中でも、ベック率いるバンドは彼ら史上最高にタイトなサウンドを奏で続けていた」

 

最高にタイトなサウンド

『The Information』は2006年10月の前半にリリース。「Nausea」がモダン・ロック・トラックス・チャートを上昇していたこともあってアルバムは初週で10万枚近くを売り上げ、米ビルボード200チャートで初登場7位をマーク。同作はのちにゴールド・ディスクにも認定された。

批評家の多くは、ベックとゴッドリッチのコンビが目新しいサウンドと質感の音楽をまたも作り出したことに感心していた。例えばロサンゼルス・タイムズはこう指摘している。

「彼らが手を組むのはこれで3度目になる。だがライトでくつろいだ『Mutations』からも、私的な『Sea Change』からも、次がこんなアルバムになることは予測できなかった」

Beck – Cellphone's Dead (Official Music Video)

 

“ベック史上屈指の傑作”

「15曲目の“Horrible Fanfare”が始まるころには、呆然と作品に身を任せるしかなくなっていることだろう」と英ガーディアン紙は計61分の同作について評した。またPopmattersも「曲順も完璧で、終始リスナーを引きつける」と絶賛している。

エンターテインメント・ウィークリー誌はベックとプロデューサーのゴッドリッチについてこう記した。「彼らはドローン音やダブ風のリバーブを多用した楽曲の中に、ピーという音やピッという音、サンプリング音源、スクラッチ、人の声、電話の音、カリンバの音などを詰め込んだ。力作と呼ぶに相応しいサウンドだ」。

また、ローリング・ストーン誌のデヴィッド・フリックに至っては「ベック史上屈指の傑作」と断言している。批評家たちはベックの持つ多彩なスタイルがどれも魅力的であることを一様に賞賛し、次なるサプライズに期待を膨らませていたのだった。

Written By Paul Sexton



ベック『The Information』

2006年10月3日発売
iTunes Stores /Apple Music / Spotify /Amazon Music / YouTube Music


ベック 7年ぶりバンド編成での来日公演 in 2025

5月28日(大阪 Zepp Namba)
5月29日(東京 NHKホール)
6月1日(神奈川 Kアリーナ横浜 *NANO-MUGEN FES.2025)
公演公式サイト



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