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ベック『Sea Change』解説:新世紀を迎えて発表した、味わい深さと自信に満ちたアルバム

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2025年5月28日(水)に大阪・Zepp Namba、5月29日 (木)に東京・NHKホールでの単独来日公演が、そして6月1日にASIAN KUNG-FU GENERATION主催のロックフェスティバル『NANO-MUGEN FES.2025』への出演が決定したBECK。

2018年SUMMER SONICでのヘッドライナー出演以来となるバンド編成での来日を記念して、彼の過去のアルバムの解説記事を連載として順次公開。

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ベック史上もっとも味わい深い作品

2002年に発表したこのアルバムでベックが21世紀に堂々と足を踏み入れたとき、批評家たちは作曲面でも演奏面でも彼史上もっとも味わい深い作品だと絶賛した。音楽シーンを牽引するカリフォルニア出身のベックは当時32歳で、レコード・デビューを果たしてからは10年近くのキャリアを重ねていた。そんな時期に彼が世に放ったのが『Sea Change』だったのである。

表現の幅を広げることにも意欲的だったベックは、1999年に『Midnite Vultures』を発表したあと、意外にもスクリーンでの演技に挑戦。友人のスティーヴ・ハンフトが監督したインディペンデント映画『サウスランダー』(2001年)に出演した。なお、この映画にはミュージシャン仲間のベス・オートンやエリオット・スミスも出演している。

のちにレコード・コレクター誌の電話取材でこのプロジェクトについて語ったベックは、19歳のころに出会い「Loser」や「Where It’s At」のビデオの監督を任せたハンフトについてこう話していた。

「(彼は)僕を登場人物にした。僕に自分自身を演じさせようとしたんだ。ただし彼の記憶の中にある、出会った当時の僕をね」

Hank Williams III’s scenes in Southlander: Diary of a Desperate Musician (2001)

 

かつての作品にも共通する“暗さ”と評価

そして『Sea Change』は翌年の2002年にリリース。すると、同作のダークな雰囲気が1998年作『Mutations』のそれに似ていると広く指摘がなされた。だがこれは単なる偶然ではない。これらのアルバムはいずれも、英国人プロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチを迎えて制作されていたのだ。ベックは、レディオヘッドの作品での彼の働きに感銘を受けていたという。ビルボード誌は次のように賞賛を送っている。

「ベックの演奏がこれほど味わい深く自信に満ちていることも珍しい。彼は深みがあり耳に残るバリトン・ヴォイスで、失恋後の絶望感を描いたような印象の楽曲群を歌い上げている」

実際、同作に収められた12の新曲は明らかに物憂げなムードを帯びていた。当時、ベックは9年間付き合ったスタイリストのリー・リモンと別れ、気持ちを整理したばかりだったのである。そのためローリング・ストーン誌のように、ボブ・ディランと当時の妻であるサラの関係が悪化していたころに制作されたディランによる1975年のアルバム『Blood On The Tracks(血の轍)』と『Sea Change』を比較するという踏み込んだ論評を展開するメディアもあった。

また、ニューヨーク・タイムズ紙はこのように分析した。

「あらゆるスタイルを自在に取り入れ、皮肉交じりの歌詞を無表情に歌うパフォーマンスを完成させたあと、ベックが次に作り上げたのは、傷心や悲しみ、孤独や死に関するスロー・ナンバーが全編を占めるアルバムだった」

ベックが歌詞の中でこれまでにないほど自らの内面をさらけ出していることは明らかで、逆に彼の代名詞でもあった知的な皮肉っぽさは影を潜めている。そしてアコースティック・サウンドの1曲目「The Golden Age」以降、簡潔で分かりやすいからこそ心に響く楽曲の構成も、そうした歌詞によくマッチしているのだ。また、曲によっては流麗なストリングスも彼の歌を上品に彩っている。

Beck – The Golden Age (Official Music Video)

そうした内容に呼応して、このアルバムには「Lonesome Tears」「Lost Cause」「Already Dead」、そして内省的な「Guess I’m Doing Fine」などの曲名が並ぶ。騒々しく活気に満ちた「Where It’s At」や「Sexx Laws」のような楽曲とは大違いである。

Guess I'm Doing Fine

実際、ガーディアン紙は同作を“絶望のフォーク/Forlorn folk”と呼んだ。しかし、同紙のインタビューで記者のポール・レスターからアルバムの感情的な背景について問われたベックは、例によって腹の内を見せようとはしなかった。彼はこう応えている。

「私生活に関してはあまり話さないんだ。僕の音楽を聴けば、インタビューの回答なんかより1,000倍もよく僕のことが分かるよ。こんな形で自分をさらけ出せば、自分の人生を安売りすることになってしまう」

このアルバムを世に広める魅力的なリード・トラックとして、プロモ用シングルに選ばれたのは「Lost Cause」だった。その後「Guess I’m Doing Fine」もシングル・カットされ、同曲にはスパイク・ジョーンズが監督したビデオも作られた。

Beck – Guess Im Doing Fine (Reupload)

『Sea Change』は“大転換”を意味するタイトルが示唆する通り、あらゆる面で彼の以前の作品とは違っていた。だがベックのファンの多くは、彼とともにさらなる成長を遂げたいと願っていたのだ。

アルバム『Sea Change』は全米チャートで8位まで上昇。彼の人気が根強いスカンディナビア地域ではトップ10に、イギリスやオーストラリアなどではトップ20に入った。また、のちにローリング・ストーン誌が選んだ2000年代の名作アルバムのランキングでは、難なく20位圏内にランク・インしている。

 

陽気な雰囲気のツアー

ベックは2002年の初頭にいくつかの公演をこなし、春にはコーチェラ・フェスティヴァルに登場。そののち、アルバムのリリースと8月の米国ツアーの準備を進めた。そしてアナーバーのミシガン・シアターのステージに立った際、彼に陰気で内省的な様子は一切なかったとMTVはこうレポートしている。

「ベックがアコースティック・セットで披露した2時間のパフォーマンスは、終始陽気な空気感に包まれていた。彼は茶目っ気のあるコメントで会場を沸かせ、派手なレジャー・スーツに身を包んだ自らのイメージとは違った一面を見せた。このコンサートは自由奔放な雰囲気で、ファンたちはベックに演奏してほしい曲の名前をそれぞれに叫んでいた」

「スポーティなジーンズに、白いボタン・ダウンのシャツ、コンバースのスニーカー、髪は乱れ放題で、頬は赤く染まっている――そんな出立ちで現れたベックは、ステージに立つやいなやジョークを飛ばしていた。その様子はまるで、纏まりのない音楽のクラスのようだった」

さらにこの公演には、ジャック・ホワイトがゲスト出演。彼はベックとともに、「Cold Brains」と両者に影響を与えたロバート・ジョンソンの「Last Fair Deal Gone Down」を演奏した。

観客たちと笑い合いながら冗談を交わし、「Sissyneck」を演奏し始めようとして大笑いすることもあったベックは、ビート主体のヒップホップ・サウンドをほとんど披露しなかった。

「ヒップホップ系の曲をライヴでどうやればいいか模索しているんだ。LL・クール・Jが”Unplugged”に出たときのパフォーマンスを15時間ぶっ続けで見て研究したよ。まだ答えは出ていないけど、そのうち何かひらめくはずさ」

 

2日で1曲の制作ペース

ベックがレコード・コレクター誌に語ったところによれば、『Sea Change』のレコーディングは同じくゴッドリッチと制作した『Mutations』のそれと近いものだったという。

「2日で1曲のペースで曲が完成していった。『Mutations』はレコーディングからミキシングまで2週間で終わった。こっちは確か3週間半かかったけど、それは今回僕らがもう少し野心的だったせいだ。オーケストラ・アレンジも取り入れたし、色んなミュージシャンに入れ替わり立ち替わり参加してもらったからね」

レコーディング地に選ばれたのはロサンゼルスのオーシャン・ウェイ・スタジオだった。

「“再集結”という感じだった。4年のあいだ、ずっとコミュニケーションを取り合って時機を窺っていたんだ。そこへ9.11が起きて、人びとがあまり働かなくなった。もともとは確か、1年半前にこのレコードを作ろうとしていた。でもみんなが揃うのに少し時間がかかったんだ」

だが、制作を忍耐強く待った甲斐は十分にあった。このアルバムは、繰り返し聴くごとに味わいを増す魅力を備えているのだ。そしてリリース後、ベックは秋に再び北米ツアーを敢行。

このツアーにはニューヨークのビーコン・シアターでの2 公演や、ロサンゼルスのユニバーサル・アンフィシアターでの公演も含まれていた。同アルバムは2005年にアメリカでゴールド・ディスクに認定。この“sea change / 大転換”は大成功に終わったのである。

Written By Paul Sexton


ベック『Sea Change』
2002年9月24日発売
iTunes Stores /Apple Music / Spotify /Amazon Music / YouTube Music


ベック 7年ぶりバンド編成での来日公演 in 2025

5月28日(大阪 Zepp Namba)
5月29日(東京 NHKホール)
6月1日(神奈川 Kアリーナ横浜 *NANO-MUGEN FES.2025)
公演公式サイト



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