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映画『シェイプ・オブ・ウォーター』ギレルモ・デル・トロ監督来日記者会見全文

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2017年の第74回ベネチア国際映画祭では最優秀作品賞となる金獅子賞を受賞、2018年1月に行われた第75回ゴールデン・グローブ賞では作曲賞、監督賞の2冠に輝き、先日発表された第90回アカデミー賞のノミネーションでは最多となる13部門にノミネートされ、授賞式では作品賞を含む最多4部門をしたギレルモ・デル・トロ監督による最新作『シェイプ・オブ・ウォーター』。アレクサンドル・デスプラがサウンドトラックを担当し、その音楽もアカデミー賞作曲賞を受賞し、非常に高い評価を得ています。

アカデミー賞授賞式の3日前、2018年3月1日に日本公開となるこの映画のプロモーションのために、デル・トロ監督が来日し、2018年1月30日都内にて記者会見を行いました。その全文をお伝えします。


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──では監督から最初にみなさんにご挨拶をお願いします。

デル・トロ 皆様、今日はお越し頂きましてありがとうございます。日本に私の好きな作品を持って来られたことをとっても嬉しく思います。日本という国は、自分の”ファット”ハートに近しい場所です。この作品は美しいおとぎ話で、今の困難な時代にこそ相応しいものになっています。この映画では、感情と愛について描きました。こういう作品が希少となっているので、この映画で感じて頂きたいと思っています。

──(司会者の)私の方からいつくか質問させて頂きたいと思いますが、まずはこの映画でファンタジックなロマンスを描こうと思ったきっかけ、そして時代背景が1960年代となっているのですが、この時代背景を選んだ理由も是非お聞かせください。

デル・トロ 我々と違うアザー(Other)、他者や異種のものを恐れているという今の時代に、このストーリーは必要だと私は感じたんです。現代は「他者を信用するな!恐れろ!」ということが言われていると思います。映画を現代という設定にすると、(愛や感情が薄いとされる現代では、それテーマにした映画に対して)なかなか人は耳を傾けてくれません。なので今の時代は愛や感情が感じられない困難な時代なので、それをおとぎ話として語ればいいのではないかと思いました。今だと携帯電話とかメディアとかいろんなものがでてきますが、やはりそれだと語れない部分があるとも思いました。だからこそ、「昔あるところ、1962年にとある声のない女性がいました。そしてこういう獣がいました」というような語り口だと人は(今の時代に必要とされていない愛と感情の映画あっても)聞く耳をもってくれると思ったんです。

アメリカを再び偉大にしよう(Make America Great Again)という言葉がありますが、舞台として選んだ1962年というのはまさに、その言葉が示している時代のことなんです。世界大戦が終わって、非常に裕福になっていて、そして将来について希望を持っていた。宇宙開発の競争があったり、ケネディがホワイトハウスにいて、人々は車や家、キッチンやテレビを買って、まるで広告やテレビの中の世界でした。しかし現実的には1962年というのは、今とまったく同じような人種差別や性差別があり、そして冷戦の時代でした。1962年というのは現代と全く同じ、そういう時代だとして描いています。

そして、今は映画業界が衰退していますけど、1962年もテレビがどんどん出てきたので、映画が少し衰退した時代でした。映画業界がよくない、そういう時代に私は愛をこめて、映画に対する愛を描いたんです。

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──本作には素晴らしいキャストが揃っています。アカデミー賞でも主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞とノミネートされているんですが、それぞれのキャストを選んだ理由はなんだったのですか?

デル・トロ まず、サリー・ホーキンスについては、あてがきで書いていました。とにかく主人公の女性には、まるで化粧品のコマーシャルから飛び出してきたような、若くて綺麗なムービー・スターをキャスティングしたくなかったんです。

映画では30代後半の女性を描きたかったんです。彼女は靴を磨いて、仕事場に行って、毎日を過ごしている。バスで隣に座ってるかもしれないような、そういう平凡な女性なんですけど、でも輝きをもっている、マジカルな部分も持っているんです。彼女のことは『サブマリン』という映画で初めて見たんです。リチャード・アイオアディ監督のイギリスの映画で、彼女はわき役だったんですけど、見ていると彼女から目を離せなくなりました。セリフはとても少ない役だったんですけど、人の言葉を聴いて見る部分が素晴らしいと思ったんです。いい役者っていうのはセリフを上手く言える人と思いがちですが、それは間違った概念だと思います。優秀な俳優と言うのは、”よく聞きよく見る”人だと思うんです。彼女に初めて会った時に、「この人は口がきけない役なんだ、でもあなたは一回独白があるし、1曲歌と踊りのナンバーがありますよ。そして半漁人に恋をします」と伝えました。すると彼女は「グレイト!」と言ったんです。彼女こそ完璧だと思いました。

マイケル・シャノンに関してはとっても怖いと思わせますが、実はとっても人間的なんです。私のキャスティングはまずは眼で決まります。オクタヴィア・スペンサーの眼も、マイケル・シャノンの眼も、サリー・ホーキンスの眼も、みんな違う音楽を奏でているんです。オクタヴィアは、彼女はすごい人間らしさとユーモアと、リアリティを出してくれました。

そしてダグ・ジョーンズは、世界でも稀有な素晴らしい俳優です。日本では文楽という古典芸術がありますが、文楽を操る人で、まぁまぁ上手い人は人形を操り動かします。しかし最高の文楽の人形遣いというのは、完全に人形になってしまう。ダグもそういうタイプの俳優です。あのスーツを着たら、完全にあのキャラクターになってしまうんです。どんなに頑張って良いカメラワークや、舞台セットやエフェクトがあったとしても、もしダグが本当にあのクリーチャーだと思えなければ、美しい河の神であると信じられなければ、この映画は成立しませんでした。そしてサリーが本当に彼を愛していると思えなければ。この二つがなければ、本作は成立しなかったと思います。

──衣装、そして美術も非常に素晴らしいですが、今回その点に置いてはどの点にこだわって作ったんでしょうか?

デル・トロ 映画を語る時に人はカメラワークやセットやいろんな部分について語りますが、それは全部同じものなんです。いくら照明がとっても美しくても、セットや衣装が酷かったらそれは全部が台無しになります。逆にセットや衣装がどんなに美しくても照明が悪ければ、それも台無しです。

今作をアーチェリーの的に例えるとすると、的の中心、核たる部分はクリーチャーでした。全部が一つの同じもので、核にクリーチャーがあってそこにセットがきたり衣装がきたり、カメラワークなど全てがくるんです。なのでこの映画にはアーティスト達が手作りで作ったようなもの素晴らしいものが必要でした。衣装もセットも本当に美しく作られたものでないと、クリーチャーがそこに存在していることにならないんです。それは単に見た目が美しいということではありません、その美しさというのはおとぎ話がリアルに存在していると感じるために必要なものなんです。例えば、このクリーチャーを現実的なセットに置いたら場違いに感じるはずです。ですから芸術的に、美しいクリーチャーが存在できる世界観の全てを作っていかなければいけませんでした。それが監督としての私の仕事でした。

──ところでこの映画には水が出てくるシーンがとても多いですが、撮影では苦労されたんではないでしょうか?

デル・トロ 映画の冒頭とクロージングの部分は一切、一滴も水を使わずに撮影しました。これは古い演劇手法で「Dry For Wet」という手法を使ったんです。

まず部屋全体を煙で充満させます。そして俳優もセットも全て操り人形のようにワイヤーで吊り、カメラはスローモーションで撮影して、送風機で風を送って水の中にいるような表現にし、ビデオプロジェクターを使って水の効果を透写しているんです。リハーサルでは水の中での動きをします、例えば当たったら跳ね返るという水中での動きを練習するんです。

でも、映画の真ん中に出てくるお風呂場でのシーンは実際の水の中で撮影しています。(水のシーンに関して)二つの手法を使っているんですが、それぞれに大変なこともありました。

──この映画にはどのような思いをこめているんですか?

デル・トロ この映画を作る時に大切にしたのは、ラブソングのように、イメージと音のシンフォニーを作り上げることでした。車を運転しているときに凄く良いラブソングがかかって、ボリュームを上げて自分も歌い出すんですが、その時の気分を感じる映画を作りたかったんです。でもハリウッドの黄金時代のようなクラシカルで、でもちょっとクレイジーな映画ということも感じてほしいです。

──(記者からの質問)13部門のアカデミー賞ノミネートについてどう感じていますか? また今作にはブルーが印象的に使われています。ブルーは哀しみの色として使われることが多いですが、そこの部分にどういう意味が込められているのでしょうか?

デル・トロ 最初は「パンズ・ラビリンス」で、今回で二回目のアカデミー賞のノミネーションになるんですが、とっても嬉しいです。25年間の映画人生で、二回もノミネートされるなんて。しかも二作品とも完全に自分を表現した作品なので。こういったタイプの物語の詩的な力を私は信じています。ファンタジーの中で存在できない美しさがあり、それはとってもユニークなものです。

この映画の色彩についてはとても精密に計算しました。特に彼女のアパートの色の青色です。(部屋が青なので)彼女は常に水の中にいるようなんです。また、彼女のアパートの壁紙は魚の鱗調で、北斎が描いた大きな鯉から影響を受けています。

彼女の家が青なので、他のキャラクターの家、科学者や、悪役もオクタヴィアも、それぞれの家はそれぞれが暖色、オレンジとかアンバーとか金色にしました。でも赤を使ったのは愛と映画にだけです。主人公が恋をして交わったあとには彼女は赤を着始めます。そして全身赤になります。そして、緑は未来を表しています。乗っている車やゼリーの色、パイの色、キャンディーも。研究所も未来を示すグリーンにしました。

──(記者)映画への愛という言葉がでましたが、あなたの映画にはアリス・フェイの「You’ll Never Know」という曲が何度か出てきましたが、この曲に込めた想いがあれば教えてください。

デル・トロ 今作では映画に対する愛を表現したかったのですが、それは偉大な巨匠の名作だけではないんです。例えば映画館で映画と観るというのは「市民ケーン」を見たり、「雨に唄えば」や他の重要な映画を観るだけではなく、私にとってその映画とはメキシコで「日曜シネマ」と言われるものです。

私は今までの人生の中で何度も何度も落ち込んだ時に、一般的には重要視されていないコメディやメロドラマ、ミュージカルが救ってくれました。私は、そういうタイプの映画に対しての愛を持っています。なぜならそういう映画が唯一意図しているのことは観客とつながることをだからです。なのでそういう映画にはエモーショナルさがあるんです。

そして、あの歌(You’ll Never Know)は泣ける歌なんです。映画の中で、彼女はどれだけ彼を愛しているのかを伝えたくて泣きます。でも彼女は話せないので言葉がでない。メキシコ人としては、愛を伝える最もよい方法は、歌うことです。メキシコではセレナーデというものがあり、バルコニーに向けて歌いますが、彼女は彼女の頭の中で、彼のことをどれだけ愛しているのかを歌い伝えることが出来るんです。

映画の中でも言葉は嘘をつくことができることを示しています。言葉を使える人たちはみんな嘘で混乱してしまいますが、言葉を発せない二人はつながることができるんです。唯一言葉で嘘がつけないのは、歌う時なんだと思うんです。

──(司会者)実は本日素敵なゲストをお迎えしているんです。それでは準備ができましたのでお呼びしたいと思います。監督の作品『パシフィック・リム』に出演された女優の菊地凛子さんです。是非監督と皆さんにご挨拶をお願いします。

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菊地 今日は、こんなおめでたいところに呼んでくださってありがとうございます。実は私、3、4年ぐらい監督にずっとお会いしたくて今日こうして、素晴らしい作品の会見でこうして監督にお会いできて、大変光栄です。

──菊地さんも「シェイプ・オブ・ウォーター」をご覧になったということですが、感想をお聞かせください。

菊地 本当に美しかったです。ちょうど昨日見て、まだ感動冷めやらないんですけど、本当に究極のラブ・ストーリーだと思います。真実というか、本当に深い愛とはなんだろうか、そういったことを見せてもらったというか。出ている役者さんみんなが目にたたきつけるようなお芝居をされていて、凄い力強くて美しかったです。何度も見たいですし、監督の愛情が細部に見られる作品だと思います。是非みんなにみてもらいたいと思っています。

──菊地さんは2013年に公開された「パシフィック・リム」に登場されているわけですが、現場での監督がどんな方なのか是非お伺いさせてください。

菊地 私、「バベル」という作品(がアカデミー賞にノミネートされてその授賞式の会場で)でアレハンドロ監督に紹介して頂いてお会いしたんです。ちょうどデル・トロ監督も作品がノミネートされていて。「私、監督の作品に出たいんです」ってお話しして、その後本当にそれが叶って。(監督は)見てのとおり愛情深い方で、現場でも(スタッフが)700人とか、もっといるんですが、彼が全てにおいて造詣が深い方なので、全てのクルーに説得力をもって指示を出したり演出したりするんですが、みんなその指示に従うっていうのは監督の愛情に答えていると思うんです。

「シェイプ・オブ・ウォーター」を見て思い出したのは、私、水のタンクプールに重いスーツを来て入る撮影があったんです。スタント監督が「飛び込みシーンは危険だから、凜子はやりません」っていう指示だったんで、飛び込む練習は一切やらなかったんですが、タンクの水が海の波のようになっているところに監督から一番最初に「じゃあ、飛んでくれ」って言われて、「あれ、私、飛び込みって話じゃなかったどけ、どうしよう」と思ったんですけど、監督にできないなんて絶対に言えないんで、「やります」って言ってやったんですけど、水に泳ぐシーン一発OK頂いて、やる気にさせてもらえるっていうところが監督の素晴らしいところだと思います。

デル・トロ でも私も飛び込みましたよ(笑)

菊地 そうでしたね(笑)

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──是非また期待があれば一緒にお仕事していただきたいです。

菊地 もう絶対したいです!それをまた夢みてます。

──それでは最後に、菊地さんから監督にエールを送っていただければと思います。

菊地 私がエールなんであれなんですけど、これから帰ったらアカデミー賞が待ってますよね。本当に忙しいのに、来日してくださって本当に嬉しかったです。

デル・トロ 菊池凜子さんがいたから、「パシフィック・リム」という映画を作ったんです。私にとっては彼女が主人公でした。

──監督には最後に日本のファンに、メッセージをお願いします。

デル・トロ 実はこのジャケット、日本でおせんべいとかオモチとかしゃぶしゃぶとかを食べていたら閉まらなくなっちゃったんです。メキシコの兄弟を助けるつもりで公開したら映画館に是非来てください。どうもありがとう。


映画『シェイプ・オブ・ウォーター』

2018年3月1日(木)TOHOシネマズシャンテ 他ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
(C)2017 Twentieth Century Fox

公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/


映画《シェイプ・オブ・ウォーター》オリジナル・サウンドトラック

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国内盤CD:2018年2月28日発売 デジタル・輸入発売中

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