ステージからスクリーンへ:フィルム・コンポーザーへ転身したミュージシャン達

January 14, 2018


ステージからスクリーンへ:フィルム・コンポーザーへ転身したミュージシャン達

1981年以前、ギリシャ人コンポーザー・ヴァンゲリスの名前に聞き覚えがあるという人々の殆どは、彼がたった一週間だけ、イエスでリック・ウエイクマンの抜けた穴を埋めたことがあるというニッチな豆知識を誇るプログレッシヴ・ロック・オタクで、輸入盤のセール・コーナーから彼のアルバムを釣り上げたことがあったことがある人くらいのものだろう。ところがその後彼は、笑ってしまうほどにキャッチーな曲を1曲書きあげ、それが映画『炎のランナー』のメインテーマとなったことをきっかけに、 その数を増やしつつあるミュージシャンから映画音楽作曲家へと転身を遂げた面々に名を連ねたのだった。かくして輸入盤のキーボード・アルバムどころか、イエスのアルバムにさえ食指を伸ばすことすらなかった何百万という人々が、少なくとも1枚のヴァンゲリスのレコードをそのコレクションに加えたのである。

ヴァンゲリスはロック/ポップの世界から、映画のサントラ界への思いがけないクロスオーヴァーのほんの一例である。我々が今回ここで取り上げるのは、映画1本に1曲2曲ばかり印象深い曲を書いたアーティストの話ではなく、(済まないね、ポール・サイモンと「Mrs. Robinson」)、腕まくりしてフル・レングスのスコアを書き上げた人々である。60年代、こうした仕事を引き受けるポップ・アーティストはごく僅かで、実際にやってもその仕事が大きな注目を浴びることは殆どなかった。先陣を切ったポール・マッカートニーは1966年に英国のコメディ映画『The Family Way』のスコアを手掛け、その2年後、ジョージ・ハリスンもそれに倣うように、『Wonderwall』にスコアを提供している。

流れを一気に変えたのはアイザック・ヘイズで、彼が1971年のファンキーな私立探偵映画のスコアを手掛けたことが、その後に続々と出てくるミュージシャンからフィルム・コンポーザーになった人々のために道を拓くことに繋がった。ここまでの話で『シャフト』 を連想しているあなたは大正解だ。アイザック・ヘイズの大部分インストからなるサウンドトラック(無論、タイトル曲は語りのヴォーカル入りだが)は堂々たるコンポーザーぶりの矜持で、プログレッシヴ・ソウルにヘンリー・マンシーニのようなドラマティックさを吹き込み、さも偶然のようにヤンチャなフレーズ“a bad mother”をAMラジオの電波に送り込んだ。 2枚組LPのサントラ盤は飛ぶように売れ、ブラックスプロイテーション映画の黄金期が築かれたのである。ただし、この差別的な呼称(訳注:blaxploitationとは直訳すると「黒人の商業利用」)が示す通り、これは強い黒人ヒーローやヒロインが冒険し活躍する映画を十把一絡げにしたもので、アイザック・ヘイズに対しても、素晴らしい音楽に対しても正当な評価とは言い難い。

カーティス・メイフィールドも『スーパーフライ』でインストゥルメンタルの可能性を大きく広げた立役者だが、このスコアに関して最も人々の記憶に残るナンバーは、名曲 「Freddie’s Dead」と 「I’m Your Pusher」だろう。マーヴィン・ゲイの全曲インストによる『野獣戦争』のサントラは文字通りアイディアが炸裂している作品だ。無理もないことだろう、何しろこれは『What’s Going On』 の後、最初に出したアルバムだったのだから。ウォーの『ヤングブラッド(原題:Youngblood)』とジェームス・ブラウン の『ブラック・シーザー(原題:Black Caesar)』と『Slauther’s Big Rip-Off』、そしてアイザック・ヘイズが後年出した2作、『Truck Turner』と『Tough Guys』も、あまり記憶には残っていないものの、同じくらいヒップなサントラ作品だった。

80年代以降、映画界への転身組の中でも大出世を遂げた代表格2人、ダニー・エルフマンとランディー・ニューマンはどちらもソングライターとしてひとかどの名声を打ち立てながら、それを更に遥かに上回る成功を収めた。彼らは、どちらも大いなる驚きをもって受け止められた。ダニー・エルフマンが率いていたオインゴ・ボインゴは、全米では知る人ぞ知るカルト的存在のバンドだった。だが彼らの奇抜でひねくれた個性はL.A.で局地的人気を誇り、それが映画監督ティム・バートンの耳に入ったのである。ダニー・エルフマンの型破りなセンスは、彼が数々のファンタジー映画で手掛けたスコアに見事に昇華されている。ティム・バートンが手掛けた2本の『バットマン』の映画を含む数多の作品を皮切りに、『スパイダー・マン』映画シリーズ3作、そして近作は『フィフティ・シェイズ・ダーカー』まで、いずれの作品でも彼のスタイルはハッキリそれと分かるものだ。彼が『シンプソンズ』のために書き下ろしたテーマ曲は、オインゴ・ボインゴがプレイしたとしても何の違和感もなかっただろう。

ランディ・ニューマンのオーケストレーション技術の高さは、彼のソロ・デビュー・アルバムを覚えているファンにとっては大した驚きもないだろう。だが、この長年一匹狼的に活動を続けてきた男が、これだけメインストリームに受け容れられる存在になるというのは、仰天ものではなかっただろうか。彼が本格的に取り組んだ最初のサントラ作品は1981年の『ラグタイム』だったが、当時の彼はまだ「あの‘Short People’の」という肩書で語られる存在だった。この映画に漂うディキシー調の雰囲気は、彼のアルバム『Good Old Boys』や、後年のニューオーリンズをテーマにした『Land Of Dreams』を連想させるものだ。サウンドトラック・コンポーザーとしてのニューマンは、トレードマークのブラック・ユーモアの味付けをあえて控えめに、 誇り高き伝統主義者の部分をより前面に押し出し、去ってしまった古き良き時代を想起させる音楽作りに徹している。彼の手掛けた映画音楽でも最もよく知られた『モンスターズ・インク』の 「If I Didn’t Have You(邦題:君がいないと)」や『トイ・ストーリー3』の 「We Belong Together(邦題;僕らはひとつ)」は、どちらも甘ったるい感傷抜きで温かなセンチメンタリズムを醸し出すという、殆ど不可能なタスクを見事にやり遂げた名曲だ。

エルトン・ジョンは映画のサントラとはいささか複雑な関係性にあると言えるだろう。『ライオン・キング』は彼のキャリアにおける最大のヒットを記録し、全米チャートNo.1と1,000万枚超のアルバム・セールスをもたらした。だが彼はそれを、フィルム・コンポーザーへの転身というセカンド・キャリアをスタートするチャンスとは考えなかった。サントラ盤からの「Circle Of Life」と「Can You Feel The Love Tonight?」という2つのメガヒット曲は、ほぼ全編が70年代の代表曲に占められた彼のライヴのセットリストには入る気配すらないのだ。とは言え、ファンの皆さんも恐らくお持ちでないだろう、彼が過去に手掛けた2枚のサントラをご紹介しておきたい。映画『ハリウッド・ミューズ』のサントラは多くの人々が彼にずっと望んでいる通りの、ピアノ中心のインストゥルメンタル・アルバムだ。そして『エル・ドラド黄金の都』は70年代のエルトン・ジョンの他の作品と同様、いかにもオールド・スクールな、当時の彼のスタイルそのままのアルバムである。

ジョー・ジャクソンもまた、フィルム・コンポーザーとして第二のキャリアを踏み出し損なったミュージシャンである。これは実に残念なことだ。何故なら彼が手がけた作品はいずれも名盤なのである。理論上で言えば、1983年の『マイクス・マーダー』は確かに救い難い失敗作だった。何しろデブラ・ウィンガー主演のスリラー映画は封切り前に再編集が施され、彼が提供した音楽は殆ど全てが消し去られてしまったのである。だがこのサウンドトラック・アルバム(現在は1982年のスタジオ・アルバム『Night And Day』のデラックス・リイシュー盤に収録されている)は、当時彼がイレあげていたラテン・ジャズのグルーヴが好きなら必聴必携の名作だ。また見過ごされがちだが、負け犬の自動車発明家が体制に戦いを挑むという映画(ジョー・ジャクソンは人一倍このテーマに共感したに違いない)『タッカー』のサントラも、創意工夫とメロディが詰まっていて、彼が後に没入するクラシックにインスパイアされた作品のより聴きやすいヴァージョンと言えるものだ。

サウンドトラックは時に思いがけないカップリングを生み出す。エリック・クラプトンとメル・ギブソンなどという組み合わせを誰が考えついただろう? 実に奇妙なものだが、エリック・クラプトンが初めて本格的に映画音楽を手掛けたのは『リーサル・ウェポン』で、続くシリーズ2作はどちらもサックス奏者のデヴィッド・サンボーンと今は亡きキーボーディスト、マイケル・ケイメン(元ニューヨーク・ロック・アンサンブルのリーダーで、当時のエリック・クラプトンの重要なコラボレーター)と組んだものだった。実のところ、これらの作品は取り立ててギター偏重でもなければエリック・クラプトンらしさの出たものでもなかったが、エリック・クラプトン本人がスコアを手掛けた『ラッシュ』はその点明らかに別物だ。ここにはアンダーグラウンドの麻薬中毒者たちを描いたダーク・スリラーにぴったりの、情け容赦のないギター・サウンドがふんだんにフィーチャーされている(ちなみに印象的なラスボスを演じていたのはいみじくもグレッグ・オールマンだった)。また、彼のヒット曲 「Tears In Heaven」が最初に収録されたのはこの作品である。

近年は最先端のエレクトロニック・アクトが次々にサントラの世界に進出して来ている。トレント・レズナーがそこに加わるのは時間の問題だっただろう。オリヴァー・ストーン監督作『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のサントラのプロデュースを手掛けて以来、トレント・レズナーは身の毛もよだつような雰囲気を出したい時にはまず駆け込むべき御用達コンポーザーとなっている。デヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』などはまさにいい例だ。 ティム・バートンと言えばダニー・エルフマン、と同様にトレント・レズナーも監督のデヴィッド・フィンチャーとは実り多い関係性を築いており、1995年の『セブン 』での陰鬱なスコアをはじめ、2010年の『ソーシャル・ネットワーク』、2011年の『ドラゴン・タトゥーの女』、2014年の『ゴーン・ガール』と次々にヒットを飛ばしている。またつい先頃、トレント・レズナーは長年のパートナー、アッティカス・ロスと共に、ケン・バーンズとリン・ノヴィックが製作したPBSのドキュメンタリー・シリーズ、『The Vietnam War』に血も凍るようなスコアを提供し、更に2010年代中に公開予定のジョン・カーペンター作品『Halloween』のテーマ曲をテコ入れ中と伝えられた。

サイバー映画の傑作『トロン』により洗練されたモダン・ヴァージョンへのアップデートを施したいと考えた際、ディズニーはダフト・パンクに声をかけた。彼らの手掛けた『トロン:レガシー』は 未来的な衝撃に満ち、類型的なディズニー・アルバムよりも、そして典型的なダフト・パンクのアルバムよりもヘヴィなサウンドに仕上がっている。ひとつ確かなことは、ポップ・ミュージックのサウンドが変化し続ける限り、映画のサウンドもまたそれと共に進化していくということだ。

Written By Brett Milano


ミュージシャンからフィルム・コンポーザーへと転身を遂げたアーティストたちによるサントラの名作について、もっと知りたい方は、プレイリスト「史上最高のサウンドトラック」フォロー。

 

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