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  • モービー、ジャズ界の巨匠グレゴリー・ポーターをフィーチャーした第3弾先行シングルを配信開始

    モービー、ジャズ界の巨匠グレゴリー・ポーターをフィーチャーした第3弾先行シングルを配信開始

    2021年5月28日に発売されるモービーのニュー・アルバム『リプライズ』から、第3弾先行シングル「ナチュラル・ブルース」の配信が本日4月30日から開始。同日20時からは、モービーの公式YouTubeチャンネルでミュージック・ビデオがプレミア公開される事も決定した。

    「ナチュラル・ブルース」は、モービーの名を一躍世界に広めることになった1999年の大ヒット作『プレイ』に収録されていた楽曲。今回は、グラミー賞を受賞しているアメリカ出身のジャズ・シンガー、グレゴリー・ポーターとアフリカン・アメリカンのシンガー、アミシスト・キアをフィーチャー。

    オリジナルに忠実でありながら、二人のソウルフルなヴォーカル、そしてブダペスト・アート管弦楽団との組み合わせによって、驚くほど現代的で、新たなエネルギーを感じさせるヴァージョンに生まれ変わっている。

    また本日公開を予定しているミュージック・ビデオには、ロブ・ブラルヴァー監督と共同で制作され近日公開となるドキュメンタリー映画『Moby Doc』からの映像を使用。砂漠の山腹や宇宙空間といったシチュエーションとモービーで構成された映像に加え、作品全編にわたってヴォーカルを披露するグレゴリー・ポーターとアミシスト・キアの姿が散りばめられている。

    グレゴリー・ポーターのパフォーマンスは、モービーの自宅で万全なコロナ対策のもと撮影されたもので、二人が直接会うのはパンデミック禍では初めてのことだったという。

    モービーは「僕が作ってきた曲はものすごく絶望的なものもあれば、祝賀的な曲もある。そして多くの場合、僕の音楽が生きるのはその中間のほろ苦さの中なのだと思う。グレゴリー・ポーターとアミシスト・キアのパフォーマンスがもたらすのは、光と闇の両方のトーンを含んだ新たな切望感。その深慮な解釈によって、この二人にしかできない深いニュアンスが引き出されているよ」と語っている。

    グレゴリー・ポーターは「“ナチュラル・ブルース”を初めて聴いた時、すぐに曲とのつながりを感じられた。とてもモダンに聴こえるのに、1000年前のような雰囲気がある。この曲の根底に流れるさまざまな影響が、今回の新ヴァージョンで再び前面に押し出され、今ではない別の時代の魂や精神や声をより一層伝えてくれる。この再構築され、新たに生まれ変わった名曲に私の声を提供できるのは、とても嬉しいことだ」

    また、アミシスト・キアは「この“ナチュラル・ブルース”の素晴らしいリミックスで歌えたことを光栄に思います。子供の頃にこの曲を聞いたことは覚えているわ。大学でオールドタイム・ミュージックを学ぶまでは気づいてなかったの。ここでサンプリングされていたのがローマックス・コレクションのヴェラ・ホールの声だったなんて。もう何年も“ナチュラル・ブルース”をかけてきた。

    フィールド・レコーディングがいかに重要か、どう音楽的に私たちを色々な場所に連れて行ってくれるか。それを人に話す時、この曲を例に挙げていたわ。こんな形で円が一周したなんて、私が望んでいた以上の出来事よ。私の声がグレゴリー・ポーターの声と一緒に聴けるなんて、それだけでもすごいこと。彼のような素晴らしいヴォーカリストと曲を共有できたことを心の奥から嬉しく思っています」とコメントを寄せている。

    アルバム『リプライズ』は、レイヴの名曲やアンセムなど、モービーが歩んできた30年以上の音楽人生を彩ってきた代表曲を、ブダペスト・アート管弦楽団との共演で、オーケストラとアコースティック楽器のためのアレンジで新たに生まれ変わった14曲が収録されている。

    モービーはミュージシャン、シンガーソングライター、プロデューサー、DJ、写真家、活動家としての顔を持つ著名人。マルチ・プラチナのセールスを記録、グラミー賞ノミネートにも輝いた。その名を世界に知らしめた大ヒットアルバム『Play』をはじめとして、全世界での総売上は2000万枚以上。

    ビルボード・ダンス・クラブ・ソングス・チャートでのTOP10入りを8度果たしている。忠実なヴィーガンであり、動物愛護、人道的支援の提唱者。自らが撮影した写真集を始め、これまでに4冊の本を執筆している。

    ■「ナチュラル・ブルース」ミュージック・ビデオ
    2021年4月30日(金)20:00~ YouTubeプレミア公開

    Moby – 'Natural Blues' (Reprise Version) ft. Gregory Porter & Amythyst Kiah (Official Music Video)

    ■リリース情報

    モービー『Reprise』
    2021年5月28日発売
    CDiTunes / Apple Music / Spotify/ Amazon Music




  • デビュー10周年で新作に挑むギタリスト ミロシュ、最新インタビューを公開

    デビュー10周年で新作に挑むギタリスト ミロシュ、最新インタビューを公開

    ―前回、ミロシュさんと直接お話をしたのは、スタジオジブリ作品『思い出のマーニー』のサントラ録音のために来日なさった時ですね。

    ええ。『思い出のマーニー』は素晴らしい体験でした。そもそもサントラというものに参加したことがなかったので、生まれて初めての経験だったのですが、とても良い思い出になりました。

    ―それからしばらくして、腕の故障による演奏休止を余儀なくされましたが、復帰後にリリースされた『サウンド・オブ・サイレンス』は、その時の体験が反映されているのですね。

    肉体的な故障であれ、精神的な問題であれ、仕事のストレスであれ、不調は誰にでも起こりうると思いますが、私の場合は休養期間中に音楽をより深く学べたという点で、貴重な体験だったと捉えています。以前、ビートルズのカバー・アルバム『ブラックバード』を録音した時は、ロックとクラシックの交差という感じでプロジェクトを捉えていました。

    Milos Karadaglic – Blackbird (Beatles cover)

    でも『サウンド・オブ・サイレンス』の時は、レディオヘッドであろうがダイドであろうが、ジャンルに関係なく音楽は音楽だと考えるようになったんです。『サウンド・オブ・サイレンス』は必ずしもクラシックと言えないかもしれませんが、録音を通じて自分というものをより深く認識し、次のプロジェクトに着手することが出来ました。

    ―そのプロジェクトが、ジョビー・タルボットとハワード・ショアの新作協奏曲を収めた今回のアルバム『The Moon & The Forest』ですね。

    ええ。まずこのアルバムは、既存の協奏曲を演奏するという意味での“協奏曲集”ではありません。クラシック・ギターの可能性とそのレガシーを次代に伝えるためには何が必要なのか、そのためにレパートリーを新たに生み出す必要があるのではないか、という問題意識から生まれたアルバムなんです。

    ―「INK DARK MOON」を作曲したタルボットは『銀河ヒッチハイク・ガイド』、それから「THE FOREST」を作曲したショアは言うまでもなく『ロード・オブ・ザ・リング』と、ふたりとも映画音楽で知られる作曲家ですね。

    今回の新作協奏曲の作曲では、さまざまなジャンルの作曲で活躍するふたりの力量が遺憾なく発揮されていると思います。ギター協奏曲の作曲は、クラシック・ギターの繊細なサウンドをオーケストラの豊かな響きと融合させなくてはいけないので、非常に難易度が高いのです。

    ところが「INK DARK MOON」も「THE FOREST」も、ギタリストがオケの中でとても心地よくソロが弾ける作品なんですよ。作曲家がオーケストレーションに通じ、しかもストーリーを豊かに伝えていく技量を持っていなければ不可能だと思います。

    ―タルボットに委嘱したきっかけは?

    英国ロイヤル・バレエのために彼が作曲したバレエ『不思議の国のアリス』の上演を見て、彼の音楽に感銘を受けました。イマジネーション豊かで、リズムも生き生きとしている。ギター協奏曲にピッタリだと感じて、彼に委嘱することにしたんです。

    ―「INK DARK MOON」という曲名は、小野小町と和泉式部の和歌をジェーン・ハーシュフィールドが英訳した恋愛詩集『INK DARK MOON』から採られているんですって?

    その通り。非常に喚情的で美しい曲名ですよね。タルボットはこの作品を標題音楽としては作曲していないと言っていましたが、私がこの作品を弾いていると、さまざまな情景や色彩、想念が浮かんできます。特に“自然”という要素が強く感じられますね。そういう意味で、和歌集のタイトルを曲名に用いたのは正解だったと思います。日本は自然が豊かな国ですからね。

    Talbot: Ink Dark Moon – II. Largo flessibile – Adagio contemplativo (Visualiser)

    ―「INK DARK MOON」で驚いたのは、実演でもギター・パートをマイクで増幅することで、オケの大音量と拮抗できるような作りになっていることです。ほとんどシンフォニア・コンチェルタンテ(協奏交響曲)という感じです。

    マイクの使用は、私の方からタルボットに提案しました。要するに、ギターのためにオケを抑えるようなことは、今回の新作ではやめようと。私自身のギターの音量は大きいので、例えば2000席の大阪ザ・シンフォニーホールで演奏しても、何の問題もありません。

    しかし、そこにオケが加わると、ギターの音に含まれる周波数のある部分がかき消されてしまうんです。そこでテクノロジーの力を借りれば、ソロもオケも妥協することなく、存分に力を発揮できると考えました。

    ―ショアに委嘱したきっかけは?

    指揮者のアレクサンダー・シェリーと《アランフェス協奏曲》をミュンヘンで演奏した後、将来のプランについていろいろ話し合ったんです。その中で「協奏曲のレパートリーを増やしていきたいね」という話が出たんですが、シェリーが「今度、カナダ・ナショナル・アーツ・センター管のポストを引き受けることになったけど、(カナダ出身の)ハワード・ショアなら面識がある」と。

    私自身、ショアの映画音楽の大ファンでしたので、協奏曲の委嘱を打診して引き受けていただきました。「The Forest」は、シンプルな和声がオーケストラの豊かなテクスチュアと組み合わさった、とてもユニークな作品です。同時に、委嘱を通じてショアと私が築き上げた個人的な友情が、音楽の中にも反映されていると思います。

    ―「The Forest」では、オケが演奏する鳥のさえずりにギターが唱和するような、美しい自然描写に感銘を受けました。

    曲の主人公が森を散策し、自然と対話していくような感じですね。「The Forest」の森は、単なる森林というより、我々自身の“記憶の森”ではないかというのが、私の解釈です。

    Shore: The Forest – II. (Visualiser)

    ―第2楽章の中間部で、《アランフェス協奏曲》の引用が出てくる箇所は驚きました。

    私もです(笑)。オタワでの世界初演のリハーサルで、みんなびっくりしたんです。「あれっ、曲が違うんじゃないか?」って(笑)。もちろん、引用はショア自身のアイディアなのですが、ロドリーゴへのオマージュとして素晴らしいと感じました。《アランフェス》がなければ、ギター協奏曲の歴史は現在と全く違ったものになっていたでしょうからね。ショアの謙虚な態度が感じられます。

    ―タルボットもショアも、作曲にあたって(ミロシュの故郷)モンテネグロの音楽からインスピレーションを受けたと語っていますね。

    委嘱に際しては、アーティストとしての私の音楽性も曲の中に反映させていただきたかったので、ふたりにモンテネグロの音楽素材を数多く送り、参考にしていただきました。タルボットの場合は、バルカン半島のダンスからリズム動機を用い、それが第3楽章の推進力みなぎる音楽の原動力になっています。

    一方、ショアの場合は、モンテネグロからインスパイアされたメロディを曲の随所に用いていますね。このように、ふたりの協奏曲は対照的であると同時に、共通点も数多く存在します。ちょうど“陰と陽”のような感じですね。それがこのアルバムの中で見事に組み合わさり、ひとつの世界、ひとつの自然を作り上げているんです。そういうつもりでこのアルバムを録音したわけではないのですが、予想外の結果にとても満足しています。

    ©Esther Haase

    ―タルボットとショアのほかに、アルバムにはエイナウディの「Full Moon」とシューマンの「トロイメライ」のギター・アレンジも収録されていますね。

    この2曲も協奏曲と同様、クラシック・ギターの素晴らしさを未来に伝えるため、新たなレパートリーを生み出していく必要があると感じて収録しました。シューマンの「トロイメライ」に関しては、ご存知のようにタレガのギター編曲版がすでに存在します。

    ギター独奏曲としては素晴らしいんですけど、原曲のシューマンのピアノ版と比較した時、原曲が持つ音楽性の高みにまで到達していないと感じました。《トロイメライ》は一見するとシンプルな曲ですが、ピアノが10本の指を用いて旋律を途切れなく演奏できるのに対し、ギターは左手の4本の指だけで演奏しなくていけない。

    そういう意味で、技術的に非常に難易度が高い曲なんです。そこで、シューマンのオリジナルの素晴らしさをそのまま保ちつつ、ギター曲としても充分に満足がいく編曲を、私が英国音楽院で師事したマイケル・ルーウィンにお願いしました。

    ―パンデミックが収束したら、また日本で演奏していただきたいです。

    「INK DARK MOON」をBBCプロムスで世界初演した時は、実は日本製のスピーカーシステムを使ったんですよ。以前、日本でツアーをした時、富士通テン(現・デンソーテン)の「ECLIPSE」を使う機会があって感銘を受けました。

    そこで、ロンドンの代理店にお願いし、世界初演で「ECLIPSE」を使ったんです。ですので、日本に再び戻ったら、同じシステムを用いて「INK DARK MOON」を演奏できれば、と望んでいます。日本の技術力のおかげで、スピーカーを通している不自然さは全く感じられません。すごくナチュラルに聴こえてきます。そんなに難しいセッティングではありません。ぜひ日本で演奏したいです。

    ―日本に因んだ曲名の協奏曲を、日本の技術力を借りて演奏するわけですね。

    その通り(笑)。

    Interviewed & Written By 前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)


    ■リリース情報

    2021年4月30日発売
    『The Moon & The Forest』
    ミロシュ

    CD /iTunes / Apple Music / Spotify /Amazon Music




     

  • アルゲリッチのピアノの完璧で調和のとれた美、心を高揚させる情感の豊かさ、強靭なエネルギーとは

    アルゲリッチのピアノの完璧で調和のとれた美、心を高揚させる情感の豊かさ、強靭なエネルギーとは

    今年80歳を迎える世界的ピアニスト、マルタ・アルゲリッチ。アルゼンチン、ブエノスアイレス生まれで、長きにわたり、人気、実力ともに世界のトップ・ピアニストとして活躍を続けている彼女の魅力とは?音楽ジャーナリストの伊熊よし子さんによる寄稿。


    アルゲリッチのピアノは完璧で調和のとれた美、心を高揚させる情感の豊かさ、強靭なエネルギーの奥に限りない官能美が潜む

    女性のピアニストにはさまざまなタイプがある。自己の感情をはげしくストレートに鍵盤にぶつけるタイプ、地に足を着けたどっしりとした母性的な演奏をするタイプ、清らかで愛らしいピアノを奏でるタイプ、あくまでも作品に忠実に、作曲家の意図するところに従おうとするタイプなど…。

    マルタ・アルゲリッチはこうしたタイプとはひと味異なった個性的なピアニストである。情熱的で直截的、加えて飾らず気負わず自然体。言動はサバサバしているように見えるが、実はとてもこまやかな神経の持ち主で、常に周囲の人に気を配り、不思議な女っぽさを感じさせる。

    © Ilse Buhs / DG

    音楽も自由奔放で天衣無縫、熱いマグマのような激情が一気にほとばしるもので、共演者に挑みかかるような凄みを見せる。室内楽の共演者が口々に「自分の最大限のよさを引き出され、音楽する最高の喜びが味わえる」と評する所以だ。それは彼女のピアノが内包する完璧で調和のとれた美、心を高揚させる情感の豊かさ、強靭なエネルギーの奥に限りない官能美が潜むからではないだろうか。

    Martha Argerich and Daniel Barenboim – Piano Duos (Trailer)

    アルゲリッチは「恋多き女性」という名誉ある称号を獲得しているように、結婚も何度か、恋人も多数。いつも男性の熱い視線を浴びている。そういう女性は情熱が枯渇することはなく、美しさにさらに磨きがかかっていく。同性から見ると、うらやましい限りである。

    アルゲリッチの三女、ステファニーの監督による映画「アルゲリッチ 私こそ音楽!」(2012年、フランス/スイス)には、アルゲリッチがあらゆる問題を抱えながら演奏に向かう様子が描かれ、輝かしいキャリアや演奏風景も挟み込まれていた。映画の主軸は、悩み多きひとりの女性の姿である。

    「母は映画を見て、自分の外観、話し方などに違和感を覚えたみたい。複雑な表情をしていたわ。父は逆にこの映画を誇りに思うといってくれた。姉のアニーは感動して泣いたといい、姉のリダは自分が家族の一員であると認知されたように思うと喜んでいた」

    映画公開の来日時にインタビューでこう語っていたステファニーは、母親の素顔を映し出した。アルゲリッチはエネルギッシュで情熱的な演奏をする人だが、性格は多分にシャイで本番前には常に緊張し、完璧なる演奏をしなければと恐怖感すら抱く。

    © Ilse Buhs / DG

    その精神の葛藤も描かれ、偉大な音楽家の心の奥に潜む深い苦悩が浮かび上がる。これまでアルゲリッチは取材やインタビューにはほとんど応じない姿勢をとり、音楽以外の顔はほとんど知られていなかった。それゆえ、実の娘ならではのこうした素顔への肉薄は貴重である。

    彼女は演奏だけで自己を表現する。映画は自身の感情を持て余すアルゲリッチの姿が映し出され、日々さまざまなことに悩み、家族の間で心が揺れ動いていく。「真の天才」と呼ばれるアルゲリッチの素顔は傷つきやすく、常に本音を語る。生き方も音楽も率直。そのストレートな生きざまが映像から伝わり、観る人に各々の人生を考えさせる。

    Martha Argerich Plays Prokofiev Piano Concerto No.3 | Singapore International Piano Festival 2018

    アルゲリッチのピアノを聴くとき、完璧なるテクニックと深い表現力と音楽性に魅せられるが、それらは実に自然で努力の痕跡がまったく感じられないことに驚く。本能で弾いている、自分の気持ちの赴くままに弾いているというナチュラルなピアニズムが、聴き手の心にえもいわれぬ幸福感をもたらし、本物だけがもつ圧倒的な存在感が光を放っている。

    それゆえいつもアルゲリッチの演奏を聴くと、本物の絵画や壁画や彫刻を目の前にしたときと同様の感動が心の奥に湧いてくるのを感じる。実際に本物を見たときに、動けなくなるほどの深い感動を味わう。それと同様の思いがアルゲリッチのピアノには存在する。

    真の芸術に接すると、人はそれに感動する自分の気持ちに気づき、自己の発見に心を揺さぶられる。ああ、自分はこんなにも感性が豊かだったのだと、改めて気づく。アルゲリッチのピアノはそうした気持ちを喚起する。

    アルゲリッチのピアノは長年聴き続けているが、成熟とか安定とか落ち着きということばとは縁遠い。常に進化し、前向きで、高みを目指してひたすら飛翔していく。リズムは鋭角で勢いに満ち、打鍵は深く濃厚、速いパッセージは限りなく速く、ジャングルを駆け巡る雌豹のような怖さと威厳をもつ。そしてえもいわれぬ妖艶な味わいが全編を覆う。

    アルゲリッチは完全な夜型で、親しい音楽仲間と夜を徹して飲み明かしたり、語り合ったりすることを好む。そうした場では、得意の料理の腕を披露することもしばしば。親友のミッシャ・マイスキーやネルソン・フレイレによれば、「ものすごくおいしい」とのこと。

    そんなアルゲリッチの演奏は、聴き手を瞬時に異次元の世界へと運んでしまう稀有なピアニズム。日常を離脱し、天上の世界で音楽に酔いしれる、まさに至福のときを与えてくれる音楽である。その完璧なる美の世界を生み出すために彼女は日々苦悩し、本番前にはナーバスになり、舞台から逃避したくなるほどの緊張感を味わう。そのすべてがステージでさらけ出されるわけである。

    Daniel Barenboim & Martha Argerich – Live from Buenos Aires (Trailer)

    本番でのアルゲリッチは、情熱的で力強く、圧倒的な存在感をピアノで示す。だが、映画でステファニーが描き出した彼女は、ひとりの人間としての弱さや迷いや不安を抱えている。そんなアルゲリッチの繊細さ、情感の豊かさ、緊迫感などが音楽を形成していることに改めて気づき、聴き方が変わる。

    近年、彼女は若手音楽家を支援したり発掘することに喜びを見出し、国際コンクールの審査員なども積極的に引き受けている。毎年開催される「別府アルゲリッチ音楽祭」でも日本の若手演奏家と共演し、その可能性を引き出すことにひと役買っている。

    思い出すのは、2011年の音楽祭でのこと。最終日にあたる5月19日の「チェンバーオーケストラ・コンサート」では、ユーリー・バシュメット指揮モスクワ・ソロイスツ合奏団選抜メンバー&桐朋学園オーケストラとの共演によるアルゲリッチのショパンのピアノ協奏曲第1番(弦楽合奏版)が演奏されたが、疾風怒濤のようなことばではいい尽くせないほどの勢いと、特有のひらめきと、すばらしく創意に富んだピアノに心が高揚し、ショパンの新たな魅力に開眼する思いを抱いた。

    会場は感極まり、終演後にはアルゲリッチの6月5日の70歳の誕生日を祝う早めの祝福の歌が響いた。この夜、アルゲリッチを囲んで懇親会が催されたが、彼女はそこで珍しくスピーチを行った。

    「とても深く愛に満ちた美しいひとときを過ごすことができました。心からの感謝にたえません。私自身、みなさまとともにこの別府をミーティングポイントとする大きな輪のなかのひとりでいられることをこの上なく幸せに感じています。そして日本の地震の犠牲となられた方々のため、私にできることはなんでもいたします。私は日本の状況をとても憂い、とても気にかけています。ニュースをずっと見ていますが、日本のみなさまの計り知れない痛みと、それに耐える勇気を感じ、深い愛と尊敬の念を抱かずにはいられません」

    そのことばには率直で温かな気持ちが込められ、居合わせた全員が深い感動を得た。ここに登場したベスト盤は、そんなアルゲリッチの豊かな人間性があますところなく凝縮。ソロもコンチェルトも唯一無二の貴重な演奏で、ひととき異次元の世界へと飛翔し、えもいわれぬ至福の時を味わうことができる。

    Written By 伊熊よし子

    ■公演情報

    別府アルゲリッチ音楽祭

    5月14日(金) アルゲリッチとマイスキー 至高のデュオ(東京オペラシティ コンサートホール)

    5月16日(日) アルゲリッチとマイスキー 至高のデュオ(別府市ビーコンプラザ フィルハーモニアホール)

    5月21日(金)ピノキオコンサート〜未来と出会うために(大分市平和市民公園能楽堂)

    5月22日(土) 室内楽コンサート〜80歳を祝して(大分市iichiko総合文化センター・iichikoグランシアタ)

    ▼詳細はこちら

    https://www.argerich-mf.jp/


    ■リリース情報

    マルタ・アルゲリッチ 『ベスト』
    2021年4月28日発売
    CD / iTunesApple Music / Spotify




     

  • 話題の映画『ノマドランド』楽曲を手掛けたルドヴィコ・エイナウディ 最新アルバムが6月リリース決定

    話題の映画『ノマドランド』楽曲を手掛けたルドヴィコ・エイナウディ 最新アルバムが6月リリース決定

    イタリア人気作曲家でピアニストのルドヴィコ・エイナウディが、2021年6月4日にアルバム『Cinema』をデッカ・レコードよりデジタル・リリースする事が決定し、プリオーダーが開始された。

    今作『Cinema』は、エイナウディの30年のキャリアの中で手がけてきた映画・テレビ作品に使用された美しい音楽をコンパイルしたシネマ・ベスト。【第93回アカデミー賞】作品賞に輝いた映画『ノマドランド』のオリジナル・サウンドトラックからの楽曲や、『インシディアス』、『センス8』、『THIS IS ENGLAND』などを含む、ビッグ・スクリーンからテレビで話題となった計28曲が収録されている。

    また、【第93回アカデミー賞】主演男優賞を受賞したアンソニー・ホプキンス主演の映画『ファーザー』からの未発表曲「My Journey」も、先行シングルとして配信が開始された。

    自身の音楽が映画やテレビで使われることについて、エイナウディは「私の音楽は映画的だと言われる…私の音楽が映像と組み合わされるのを見るのは興味深いことで、私の音楽を違った視点で読み直すようなものだ」と語っている。

    本日4月26日(日本時間)に、米ロサンゼルスのドルビー・シアターとユニオン駅の2つの会場で開催された第93回アカデミー賞授賞式で、映画『ノマドランド』は作品賞に加え、フランシス・マクドーマンドが3度目の主演女優賞、中国出身の女性監督クロエ・ジャオが監督賞を受賞。三冠に輝いた今最も話題の映画のひとつだ。

    エイナウディは、15枚のスタジオアルバムと80本以上の映画・テレビ番組の挿入曲を手掛け、世界のクラシック・チャートで何度もトップに立ち、史上最大回数のストリーミングを誇る今世紀で最も活躍する現代作曲家の一人。

    『Cinema』のオフィシャル・トレーラー映像も公開されているので、是非チェックいただきたい。

    Ludovico Einaudi – Cinema – Official Trailer

    ■リリース情報

    2021年6月4日発売
    ルドヴィコ・エイナウディ『Cinema』
    iTunes / Apple Music / Spotify /Amazon Music

    2021年3月19日発売
    『ノマドランド』オリジナル・サウンドトラック
    iTunes / Apple Music / Spotify /Amazon Music

    2021年4月23日発売
    『ファーザー』オリジナル・サウンドトラック
    iTunes / Apple Music / Spotify



     

  • アンドリュー・ロイド・ウェバー、コロナ禍の音楽家や劇場に希望を見出す新作のリリースが急遽決定

    アンドリュー・ロイド・ウェバー、コロナ禍の音楽家や劇場に希望を見出す新作のリリースが急遽決定

    『キャッツ』や『オペラ座の怪人』、『エビータ』など数々の名作で音楽を手掛けたミュージカル界の巨匠、アンドリュー・ロイド・ウェバー。

    2019年の映画『キャッツ』ではテイラー・スウィフトとエンドソング「ビューティフル・ゴースト」を共作するなど、あらゆる世代からリスペクトを集める今も精力的に活動をしているレジェンドが、6月18日に新作『Symphonic Suites』をリリースすることが急遽発表された。

    本作は81人という大規模編成のオーケストラにより、『オペラ座の怪人』、『エビータ』、『サンセット大通り』というウェバーの代表作を新たにシンフォニック・アレンジし、録音したもの。レコーディングは1663年に設立された英国最古の王立劇場であるシアター・ロイヤル・ドルリー・レーンで行われたが、2019年から行われていた改修工事を終えようとしているこの劇場でのパフォーマンスは、今回のレコーディングが初となった。

    新作について、ウェバーは「私たちの生活からライヴ・ミュージックの歓びが消えて1年以上が経ちました。しかし81人編成のオーケストラを連れて、ロンドン最大のステージである新しいシアター・ロイヤル・ドルリー・レーンで今回レコーディングすることが出来たのは、今後に向けての大きな一歩となったのではないかと思うのです。

    今回のアルバムが、ミュージシャンや劇場の日常を取り戻すため、世界中のライヴ・ミュージックやエンターテインメントが戻ってくるために意味を持つものであることを願っています。今回のレコーディングで、ミュージシャンが本来いるべき劇場に戻って演奏するのを見ることが出来たのは本当に感動的でした」と語っている。

    今回の指揮は、これまでにウェバーの作品を手掛けたこともあるサイモン・リーが担当。コロナ禍で1年以上離れ離れになっていた名うてのミュージシャンたちを見事にまとめあげている。また、レコーディングは英国政府のガイドラインに従って消毒やソーシャルディスタンスを徹底し行われた。

    81人という大編成が劇場に集い作品を創り上げることが出来たという事実は大きな意味を持ち、音楽家や劇場にとってまさに希望の光と言えるアルバムとなりそうだ。ミュージカル『オペラ座の怪人』が35周年を迎える記念すべき年に届けられるウェバーからのスペシャルなアルバム。詳細の発表を楽しみに待とう。


    ■リリース情報

    アンドリュー・ロイド・ウェバー
    『Symphonic Suites』
    2021年6月18日発売




  • 村治佳織 作曲の映画『いのちの停車場』エンディングテーマに小椋佳 作詞の応援歌を西田敏行が熱唱

    村治佳織 作曲の映画『いのちの停車場』エンディングテーマに小椋佳 作詞の応援歌を西田敏行が熱唱

    5月21日公開の映画『いのちの停車場』(主演:吉永小百合)のためにギタリスト・村治佳織が作曲したエンディングテーマに、小椋佳が詞をつけた楽曲、応援歌「いのちの停車場」を西田敏行が歌うことが発表された。

    映画の製作総指揮である東映グループ元会長・岡田裕介が、「人生」と言うテーマを表現したエンディングテーマの作曲を村治に直接オファー。映画のエンディングとして流れる楽曲は、いのちのあり方を観客に問いかけるこの作品の余韻を味わえるよう「歌詞のない女声のヴォーカリーズ」として作曲された。

    しかし、岡田が完成した楽曲を聞いた際に、その旋律の美しさに感動。この楽曲に歌詞をつけ、映画のテーマでもある「掛け替えのないひとつひとつの命を鼓舞する」応援歌として届けられないかと発案し、旧知の友の小椋佳に作詞をオファーしたことから本応援歌が誕生した。

    そんな“いのち”というかけがえのない、大切なテーマの楽曲の歌い手として、岡田は西田敏行に歌唱を依頼。劇中でもまほろば診療所の院長として、吉永小百合演じる医師・咲和子に寄り添い、ともに最後のいのちの輝きへの向き合い方を導く仙川を演じた西田。

    仙川としてももちろんのこと、今まで演じてきた役を通して様々な人生を送ってきた西田だからこそ表現できる、力強くも優しく包み込んでくれるような楽曲となった。


    レコーディングは3月末に実施され、作曲を担当した村治も立ち会った。その歌声を聞き感動した村治は、「今ここでセッションをしたい」と熱望するほど。

    「レコーディングで初めてお会いした際に“役者の歌ですから”とおっしゃっていたのが印象的でした。演じることを極めておられる西田さんの、曲を表現する力に圧倒されました。音に乗せて、言葉ひとつひとつに命を吹き込むとはどういうことかを目の当たりにしました」とコメント。西田以外にこの楽曲に最初に新たな命を吹き込む人はいない、と太鼓判を押しました。

    そんな西田は、楽曲に対し「小椋さんの詩は、まさにこの映画で言いたいことをそのまま込められているような本当に素晴らしい散文詩で、村治さんの音の紡ぎ方もとても素晴らしくデモテープで感動しました」と言い、

    さらに「皆さんにパワーをお届けできる素敵な楽曲になったと思います。この映画のテーマ「いのち」「人生」の中にある、希望を感じていただけたらと思います」と自信をのぞかせた。さらに映画「いのちの停車場」の主演を務める吉永からは、「優しくて、温かくて、その上力強い西田さんの歌声に圧倒されました。“厳しい状況に負けないで。”と私たちみんなを応援してくれる曲です」とコメントした。

    映画『いのちの停車場』は5月21日全国公開。この応援歌「いのちの停車場」も収録したオリジナル・サウンドトラックは5月19日に発売される。

    「いのちの停車場」応援歌

    応援歌「いのちの停車場」
    作詞 小椋佳/作曲 村治佳織

    生まれてきたこと それは一つの奇跡
    命を授かり 慈しみ受け
    健やかに育てられて
    殊更 際立つ事もないけれど
    あれこれ こつこつとした暮らしの営みの中の
    喜びや 悲しみの それぞれを愛しみ
    生きて いること感じ
    停車場は命のまほろば ひととき 安らぎの場

    生きてきた道を はるばると振り返り
    これからの道を 遠く地平まで
    目を細めて見晴るかす
    停車場 いつでも一生懸命
    であれと 素朴な志旗影高く掲げ
    名も知れず 細やかな 営みを重ねる
    そこに 真実の価値
    命の輝きを感じる 名も無い 命一つの重さを
    敢えて 諭す停車場
    人生の長い旅すがら 一息
    停車場は命を 見直す場所

    <西田敏行 コメント全文>

    岡田裕介会長が「小椋佳さんに詩をお願いして、村治さんに曲をつけてもらって、歌は西田に歌わせてくれよ」と生前におっしゃっていました。どこか裕介さんの遺言のような気持ちがしながらも、精一杯やらせていただきました。

    小椋さんの詩は、まさにこの映画で言いたいことをそのまま込められているような本当に素晴らしい散文詩で、村治さんの音の紡ぎ方もとても素晴らしく、感動しました。最初に受けた感動をそのまま持ち、レコーディングに挑みましたが、歌い終わるとみなさん感動した面持ちで入ってこられて、素敵です!とおっしゃっていただいたので、自信を持ちました。

    皆さんにパワーをお届けできる素敵な楽曲になったと思います。この映画のテーマ「いのち」「人生」の中にある、希望を感じていただけたらと思います。

    <村治佳織 コメント全文>

    西田さんが歌唱してくださると聞いて、天国の岡田会長からの最高のプレゼントだと思いました。エンディングテーマでのAyakoさんの素晴らしい歌唱についで、言霊が加わったこの曲に新たな命を吹き込んでいただく最初の方として、西田さん意外には考えられません。

    レコーディングで初めてお会いした際に“役者の歌ですから”とおっしゃっていたのが印象的でした。演じることを極めておられる西田さんの、曲を表現する力に圧倒されました。音に乗せて、言葉ひとつひとつに命を吹き込むとはどういうことかを目の当たりにしました。

    <吉永小百合 コメント全文>

    優しくて、温かくて、その上力強い西田さんの歌声に圧倒されました。“厳しい状況に負けないで。”と私たちみんなを応援してくれる曲です。

    ■映画情報

    映画「いのちの停車場」
    出演:吉永小百合
    松坂桃李 広瀬すず
    南野陽子 柳葉敏郎 小池栄子 みなみらんぼう 泉谷しげる
    石田ゆり子 田中 泯 西田敏行

    監督:成島 出 脚本:平松恵美子
    原作:南 杏子『いのちの停車場』(幻冬舎)
    後援:日本在宅ケアアライアンス 推薦:日本在宅医療連合学会 全国在宅療養支援医協会
    ©2021「いのちの停車場」製作委員会

    映画オフィシャルサイト/ Twitter / Instagram


    ■リリース情報

    2021年5月19日発売
    映画『いのちの停車場』オリジナル・サウンドトラック
    CD

    収録曲:

    1 救急医療 / 2 「いのちの停車場」メインタイトル / 3 「まほろば診療所」 / 4 一人目の患者さん / 5 驚きの連続 / 6 直面する在宅医療 / 7 麻世の思いつき / 8 寄り添った日々 / 9 年商300億のIT社長 / 10 昔の関係 / 11 最先端医療 / 12 昔と変わらぬ停車場 / 13 抱擁 / 14 生きていた証 / 15 正月の事故 / 16 見えない治療 / 17 パオに包まれて / 18 つたえたかった思い、プラレール / 19 ありがとう / 20 父との約束 / 21 麻世の事 / 22 繋がる気持ち / 23 海の神様へ / 24 憧れの海 / 25 逃れたい痛み / 26 生きていた事実 / 27 助けたい心と現実 / 28 覚悟の報告 / 29 永遠の解放へ / 30 「いのちの停車場」エンディングテーマ / 31 station (サウンドトラックバージョン) 唄:みなみらんぼう / 32 いのちの停車場  唄:西田敏行

    作曲:安川午朗(1-29)、村治佳織(30&32)、みなみらんぼう(31)

    作詞:みなみらんぼう(31)、小椋佳(32)

    発売・販売元:ユニバーサル ミュージック




     

  • クラシック愛好家に選ばれた究極のカタログシリーズ『クラシック百貨店』発売決定

    クラシック愛好家に選ばれた究極のカタログシリーズ『クラシック百貨店』発売決定

    『クラシック百貨店』と題したクラシック音楽の名盤シリーズ100タイトルがユニバーサル ミュージックより発売されることが発表された。6月23日より「器楽曲」「協奏曲」「管弦楽曲」「室内楽/歌劇&声楽」「交響曲」とジャンルに分けて、20タイトルずつ合計100タイトルが発売される。

    この『クラシック百貨店』のポイントは、クラシック音楽愛好家から選ばれた100タイトルであること。

    ユニバーサル ミュージックでは、クラシック音楽関係者を含む約2万5000人(在京オーケストラスタッフ、CD販売店スタッフ、ユニバーサル ミュージッククラシックニュースレター会員、他)を対象にアンケートを実施。「あなたにとってのクラシックの名曲」を集計し、人気ランキングを基に100タイトルが選盤された。

    世界最古のクラシック・レーベル「ドイツ・グラモフォン」、そして、指揮者の小澤征爾やピアニストの内田光子などの巨匠が所属する「デッカ」(旧フィリップス音源含む)の両レーベルから、人気、クオリティともに最高でエバーグリーンな名盤が選ばれている。

    いずれも最良のマスターを使用し、そのポテンシャルをひき出す高音質SHM-CD&グリーン・カラー・レーベルコート仕様が採用される予定で、クラシック・ファンにとって見逃せないポイントとなりそうだ。

    また、CDのブックレットにはクラシックに造詣の深い人気小説家によるエッセイ「私とクラシック」が掲載される。「器楽曲」は平野啓一郎、「協奏曲」は石田衣良、「管弦楽曲」は柳美里、「室内楽/歌劇&声楽」は中山七里、「交響曲」は赤川次郎が担当。それぞれの小説家のクラシックとの出会い、楽しみ方などが紹介される予定で、こちらのエッセイも見どころだ。

    『クラシック百貨店』の特設ページも本日より公開。アンケートで選ばれた人気の100曲、100タイトルの詳細を見ることができる。

    なお、5月1日(土)には東京芸術劇場で毎年恒例となったタクト・フェスティバル(TACT FESTIVAL)のプレイベントとして、グローバルリングシアター(池袋西口公園野外劇場)にて、ピアニストの金子三勇士、チェリストの佐藤晴真の演奏を交えた『クラシック百貨店』キックオフイベントが開催される予定だ。

    ■ブックレット掲載「私とクラシック」参加小説家プロフィール(発売順)

    ©瀧本幹也

    【器楽曲編】平野啓一郎(ひらの けいいちろう)

    小説家。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。著書に、小説『葬送』、『決壊』、『ドーン』、『空白を満たしなさい』、『マチネの終わりに』、『ある男』等、エッセイ・対談集に『私とは何か 「個人」から「分人」へ』、『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』、『考える葦』、『「カッコいい」とは何か』等がある。2021年5月26日、最新小説『本心』単行本刊行予定。

    写真提供:文藝春秋

    【協奏曲編】石田衣良(いしだ いら)

    作家、1960年東京生まれ。98年『池袋ウエストゲートパーク』にてデビュー。2003年『4TEEN』で直木賞、06年『眠れぬ真珠』で島清恋愛文学賞、13年『北斗』で中央公論文芸賞を受賞。その他、『娼年』『美丘』『アキハバラ@DEEP』等、映像化作品多数。Eテレにて『ららら♪クラシック』の初代MCを務める。YouTube、ニコニコ動画で『大人の放課後ラジオ』を配信中。

    撮影:宍戸清孝

    【管弦楽曲編】柳美里(ゆう みり)

    1968年、茨城県土浦市生まれ。高校中退後、東由多加率いるミュージカル劇団「東京キッドブラザース」に入団。俳優を経て、1987年、演劇ユニット「青春五月党」を結成。1993年『魚の祭』で岸田國士戯曲賞を最年少受賞。1997年『家族シネマ』で芥川賞を受賞。2018年、福島県南相馬市小高区の自宅を改装しブックカフェ「フルハウス」をオープン。2020年、『JR上野駅公園口』で全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞。近著に『南相馬メドレー』など。

    【室内楽、歌劇&声楽曲編】中山七里(なかやま しちり)

    1961年、岐阜県生まれ。第8回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作『さよならドビュッシー』にて2010年デビュー。2011年発売の『連続殺人鬼カエル男』も同時に最終選考に残った。岬洋介シリーズをはじめ、御子柴礼司シリーズ(講談社)、刑事犬養隼人シリーズ(KADOKAWA)など著書多数。

    【交響曲編】赤川次郎(あかがわ じろう)

    1948年、福岡県生まれ。1976年、「幽霊列車」で第15回オール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。作品が映画・ドラマ化されるなど、続々とベストセラーを刊行。「三毛猫ホームズ」シリーズ、「鼠」シリーズ、「三姉妹探偵団」シリーズ、『セーラー服と機関銃』『ふたり』『怪談人恋坂』『幽霊の径』『記念写真』など著書多数。クラシック音楽に造詣が深く、演劇、文楽、映画、オペラなどの鑑賞が楽しみ。2006年、第9回日本ミステリー文学大賞、2016年、『東京零年』で第50回吉川英治文学賞を受賞。

    ■イベント情報

    ・「クラシック百貨店」キックオフイベント
    日時:5/1(土)16:00~
    場所:グローバルリング シアター(池袋西口公園野外劇場)

    ・TACT FESTIVAL タクト・フェスティバル 2021


    ■リリース情報

    『クラシック百貨店』

    発売日:
    6/23(水)発売 第1回 器楽曲編 20タイトル
    7/7(水)発売 第2回 協奏曲編 20タイトル
    7/21(水)発売 第3回 管弦楽曲編 20タイトル
    8/4(水)発売 第4回 室内楽、歌劇&声楽曲編 20タイトル
    8/18(水)発売 第5回 交響曲編 20タイトル



     

  • モービー、ブダペスト・アート管弦楽団と共演した再録アルバム『Reprise』から先行曲を公開

    モービー、ブダペスト・アート管弦楽団と共演した再録アルバム『Reprise』から先行曲を公開

    2021年5月28日に発売されるモービーの最新アルバム『Reprise』から、2曲目の先行曲「The Lonely Night」が4月16日に公開となった。この新作アルバムはモービーの過去の楽曲を、ブダペスト・アート管弦楽団との共演とともに新たなアレンジで収録した14曲が収録され、クラシック・レーベルのドイツ・グラモフォンから発売される。

    先行公開となった「The Lonely Night」は元々はモービーが2013年に発表したアルバム『Innocents』に収録されていたもので、グランジバンドのスクリーミング・トゥリーズのマーク・ラネガンが作詞を手掛け、モービーとのコラボで発表したもの。今回の新アレンジでは、ロック、カントリー&ウエスタンの歌手クリス・クリストファーソンが追加で参加。加えてモービーが新たに書き下ろしたオーケストレーションによるブダペスト・アート管弦楽団の演奏が加わっている。

    Moby – 'The Lonely Night' [ft. Kris Kristofferson & Mark Lanegan] (Official Audio)

    アルバム『Reprise』には、モービーのブレイクのきっかけとなったダンス・トラック「Go」、レオナルド・ディカプリオ主演の映画『ビーチ』で話題となった「Porcelain」なども収録される。

    また、過去にStones Throw Recordsのドキュメンタリーなどを手掛け、モービーの作品を扱っているRob Gordon Bralverが監督/編集を担当するドキュメンタリー映画『MOBY DOC』が2021年5月28日より全米の映画館とデジタル・プラットフォームで公開されることも発表となっている。。

    『MOBY DOC』はモービー本人がナレーターを務めるシュールリアリスティックな自伝ドキュメンタリーで、アンダーグラウンドなパンク・バンドからチャート首位常連のソロ・アーティスト、そしてドラッグ中毒との闘いからヴィーガンの活動家へと、波乱に満ちた私生活とアーティスト半生を振り返る。デヴィッド・リンチやデヴィッド・ボウイとのインタビューを含め、様々なコンサートやインタビュー、アーカイヴ映像を駆使したこれまでにないユニークな映像作品となっている。

    Moby Doc Trailer #1 (2021) | Movieclips Indie

    Written by uDiscover Team


    モービー『Reprise』
    2021年5月28日発売
    CDiTunes / Apple Music / Spotify




  • 《白鳥の湖》:チャイコフスキーのロマンティックなバレエの傑作ガイド

    《白鳥の湖》:チャイコフスキーのロマンティックなバレエの傑作ガイド

    《白鳥の湖》は、ロシア・バレエの黄金時代を築いたチャイコフスキーの3つのバレエ(他の2つは《眠れる森の美女》と《くるみ割り人形》)のうち、最初に作られた作品で、クラシック・バレエの中でも最も人気のある作品の一つだ。

    1875年から1876年にかけて作曲された全4幕のロマンティック・バレエで、1877年3月4日にモスクワのボリショイ劇場でユリウス・ライジンガーの振付けで初演された。しかし、現在最もよく目にするのは、チャイコフスキーの死から2年後の1895年1月27日にサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で初演されたマリウス・プティパとその弟子、レフ・イワノフの振付による改訂版である。

    チャイコフスキーの《白鳥の湖》は、おすすめの録音、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によるバレエ組曲をお聴きいただきたい。

    白鳥の湖:チャイコフスキーのロマンティックなバレエの傑作ガイド

    ロマンティック・バレエの最高峰である《白鳥の湖》は、これほど有名な作品でありながら、その成り立ちは意外にも曖昧だ。チャイコフスキーは毎年夏に、同じ3つの場所や友人を訪ねる習慣があった。彼が交響曲第2番と第3番、そして《白鳥の湖》を書いたのはこれらの場所であった。

    家族によれば、1871年の夏にはチャイコフスキーが姪や甥のために書いた《白鳥の湖》というバレエが私的に上演されたという。チャイコフスキーの妹アレクサンドラ・ダヴィドヴァのカメンカ(ウクライナ)の屋敷で行われた。ある情報提供者は、後のバレエでおなじみの「白鳥の主題」がこの時期に初めて登場したと主張している。他方では、1867年の夏に作曲されたという主張もある。

    また、バレエのリブレット(台本)を誰が作ったのかも不明だ。ロシアの文化は昔から童話を多用しているが、《白鳥の湖》の出典としてよく挙げられる2、3の童話は、舞台で踊られる物語とは似ても似つかないものだ。

    ライジンガーが台本を作ったという説と、モスクワ帝国劇場の館長であるウラジーミル・ベギチェフがダンサーのワシリー・ゲルツェルと共同で作ったという説がある。印刷されたリブレットには、引用された文献が書かれていない。

    チャイコフスキーはバレエ音楽“専門”の作曲家の作品を学んだ

    しかし、1875年5月に800ルーブルの報酬で楽譜を依頼したのはベギチェフであったことがわかっている。また、チャイコフスキーは仕事を始める前に、チェーザレ・プーニ(1802-70)やルートヴィヒ・ミンクス(1826-1917)といったバレエ音楽専門の作曲家の音楽を勉強していたこともわかっている。

    これらの作曲家は、軽快なリズムで旋律的だが、芸術性のあまり高くない作品を多く書いていた。チャイコフスキーが最も尊敬していた2人のバレエ音楽の作曲家は、フランス人だった。アドルフ・アダンとレオ・ドリーブである。アダンが1844年に作曲した《ジゼル》は、現在でも最も有名なレパートリーのひとつであり、チャイコフスキーのお気に入りのバレエだ。

    アダンは、《白鳥の湖》や《眠れる森の美女》でチャイコフスキーが採用したライトモティーフ(ある音楽のテーマを特定の人物や感情と結びつける手法)を用いている。ドリーブについては、後にチャイコフスキーが弟子の作曲家セルゲイ・タネーエフに宛てた手紙の中で、「ドリーブのバレエ《シルヴィア》を聴いた……何と魅力的で、何と優雅で、何と豊かなメロディ、リズム、ハーモニーだろう。なんと恥ずかしい。もしこの音楽を知っていたら、私は《白鳥の湖》を書かなかっただろう」と書いている。

    1875年7月18日から8月中旬にかけて、チャイコフスキーは交響曲第3番を完成させ、《白鳥の湖》の2幕を書き上げた。そして1876年4月に遂に完成させた。10年以上後に作曲された《眠れる森の美女》とは異なり、チャイコフスキーとバレエマスター(バレエ団の上演責任者。

    新作の振付けやレッスンなどを行う芸術監督的役割を指す)のライジンガーとの間では、音楽の詳細についてのやりとりはあまり行われなかった。不思議なことに、チャイコフスキーは当時モスクワに住んでいたにもかかわらず、1876年の大半のリハーサル期間中、関わった記録がないのである。また、《白鳥の湖》の楽譜は、バレエマスターが自由に繰り返したり、削除したりできるようになっている。リハーサル資料や演奏譜は残っていない。

    主な役柄

    主な役柄は以下の通り。
    オデット(別名:白鳥の女王、白鳥)、ロットバルトによって白鳥に変えられた
    ジークフリート王子、オデットと恋に落ちるハンサムな王子
    フォン・ロットバルト男爵、オデットに魔法をかける悪の魔術師
    オディール(黒鳥)、ロットバルトの娘
    ベンノ(フォン・ゾンマーシュテルン)、王子の友人
    王妃(別名:クイーン・マザー)、ジークフリート王子の母
    ヴォルフガング(王子の家庭教師)

    演出によってストーリーのヴァージョンや解釈は異なるが、本質的な要素は変わらない。

    第1幕 宮殿の前の広大な公園

    ジークフリート王子が誕生日を迎え、祝福されている。そこにはワインが流れ、ヴォルフガングが戯れており、皆が踊っている。祭りが王妃によって中断され、息子の気ままな生活を心配して翌日の夜までに結婚相手を選ばなければならないと告げる。

    王妃は去り、祝宴は再開されるが、ジークフリートは当然のことながら、恋愛をすることなく結婚しなくてはならないと落ち込む。夜になるとベンノはジークフリートの気分を盛り上げようと、頭上に白鳥の群れが飛んでいるのを見て、白鳥狩りに行こうと提案する。

    第2幕 廃墟となった礼拝堂の近くの森の中の湖畔の空き地

    友人たちと別れたジークフリートは、白鳥が頭上を飛ぶ頃に空き地に到着する。ジークフリートは石弓で狙いを定めるが、白鳥の一羽が美しい乙女に姿を変えたので凍りついてしまう。彼女はオデットといい、自分たちは悪魔ロットバルトにかけられた呪いの犠牲者であると説明する。

    この呪いを解くことができるのは、これまで一度も愛したことがなく、オデットを永遠に愛すると誓った者だけである。白鳥の乙女たちが平原に現れると、ジークフリートはクロスボウを壊して、オデットへの永遠の愛を宣言する。しかし、夜が明け、呪文は彼女と仲間たちを白鳥に戻してしまう。

    第3幕 宮殿の華麗な舞踏会

    宮殿にゲストたちが到着し、6人の王女がジークフリートに花嫁候補として紹介される。彼は誰も選ばないが、そこへロットバルトが、オデットに似せた娘オディールを連れてやってくる。オデットも現れ、ジークフリートにこの策略を警告しようとするが、ジークフリートはオデットに気づかず、オディールと結婚すると宣言してしまう。

    ロットバルトはオディールの手をジークフリートに取らせ、オデットの魔法の幻影を見せる。自分の過ちに気づいたジークフリートは、悲しみのあまり湖に逃げ込む。

    第4幕 湖のほとり

    白鳥の乙女たちに慰められたオデットは取り乱している。そこへジークフリートが現れ、彼女に許しを請う。オデットは許すが、彼の裏切りによって魔法が解けなくなってしまった。そこに嵐が起こる。オデットは白鳥として永遠に生きるのではなく、死を選択する。

    ジークフリートは彼女と一緒に死ぬことを選び、彼の腕の中に落ちた二人は海の底に消えていく(作品によっては、神格化されて天に昇ることもある)。これでロットバルトの白鳥の乙女たちへの呪いは解け、邪悪な力を失ったロットバルトは死ぬ。嵐が去り、月が出て、静かな湖に白鳥の群れが現れる。

    チャイコフスキーの《白鳥の湖》の壮大な楽譜は革命的だった

    チャイコフスキーの《白鳥の湖》の壮大なスコアは、今では当たり前のように使われているが、当時としては画期的なものであった。大規模なオーケストラのために作曲され、33のパートがある(例えば、ワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」で使われるオーケストラよりも使用される楽器が5つ多いのだ)。

    それまでのバレエ専門の作曲家のように、舞台上の人物や出来事だけを描くのではなく、また物語に関係のない踊りを並べた音楽ではなくなった。また、チャイコフスキーは、フル・オーケストラ・スコア以外にも、数え切れないほどの魔法のようなオーケストレーションを行っており、さまざまな調性を巧みに使用することで、物語のさまざまな要素をまとまりのある全体像に結びつけている(例えば白鳥にはロ短調、ロットバルトにはヘ短調を使用)。

    《白鳥の湖》の初演は大失敗だった

    しかしこのような状況の中、1877年3月4日(金)にモスクワのボリショイ劇場で行われた《白鳥の湖》の初演は大失敗に終わった。指揮者は複雑な楽譜をうまく表現できず、舞台装置や振付けは二流で、さらに、主役のオデットを演じる予定だった優秀なバレリーナ、アンナ・ソベシチャンスカヤが、モスクワの高官からの結婚を承諾した後、プレゼントされた宝石をすべて持ち出して売り、仲間のダンサーと駆け落ちしたと告発され、解任されてしまったのである。

    作曲家の弟、モデスト・チャイコフスキーは、「作品の貧しさ、優れたダンサーの不在、バレエマスターの想像力の弱さ、そして最後にオーケストラ……これらすべてが相まって、(チャイコフスキーは)失敗の責任を他人に負わせることができたのだ」と記している。

    しかしながら-これはあまり語られていないのだが-、《白鳥の湖》のプロダクションは6年間レパートリーとして生き残り、ボリショイの他の多くのバレエのレパートリーよりも多い41回の公演が行われた。

    しかし、これはチャイコフスキーの死後、イタリアの作曲家・指揮者であり、長年サンクトペテルブルク帝国バレエ団の音楽監督を務めたリッカルド・ドリーゴ(1846-1930)による改訂版による成功によるところが大きい。

    リブレットには様々な変更が加えられ(上記参照)、4幕構成は3幕構成になった(第2幕は第1幕第2場に変更された)。新しい《白鳥の湖》は、1895年1月27日(金)にサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で初演され、温かく迎えられた。

    最後に1点。バレエ全体の中で最も有名な部分の一つは、チャイコフスキーの後付けの部分で、オリジナルの演出では含まれておらず、改訂版で踊られているものだ。そして第3幕では、ジークフリートとオディールが踊るパ・ド・ドゥがあり、オディールによる有名な「32回のグラン・フェッテ(回転しながら脚を曲げたり伸ばしたりする動作)」で終わる。

    この曲と、第1幕の優美な「ワルツ」、第2幕の楽しい「白鳥の踊り」は、この偉大な作品の最もよく知られた音楽的なハイライトである。

    Written By uDiscover Team




  • 現代ピアノ界の巨匠、アンドラーシュ・シフがブラームスの協奏曲2曲を弾き振りで新録音

    現代ピアノ界の巨匠、アンドラーシュ・シフがブラームスの協奏曲2曲を弾き振りで新録音

    ピアノ界の巨匠、アンドラーシュ・シフの新作がリリースされることが本日発表された。

    新作はブラームスの協奏曲2曲で、 ECM New Seriesへの新録音となる。近年、弾き振りの活動に力を入れているシフは、今作で、ユニークな古楽音楽家集団、エイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団を弾き振りして録音。自らが指揮をつとめることで、理想のブラームス作品像の実現を目指した。

    また、ピアノはブラームスが協奏曲第1番を作曲した1850年代のブリュートナーを使用。このピアノに関するノートも今作のライナー・ノーツに掲載される予定だ。

    今作に関し、アンドラーシュ・シフは「近年、私たちは重量級のブラームスの演奏に慣れてしまってきた。ピアノはいっそう強大に、パワフルになり、オーケストラは大規模に、個々の楽器も強く、たくましくなっている。

    演奏会場は巨大化した。ブラームスの音楽は、重たくも、鈍くも、分厚くも、騒々しくもない。そのまったく反対 ― 清明で、繊細で、特徴的で、ダイナミクスの陰影に満ちている。」とコメントしている。

    アンドラーシュ・シフの新作『ブラームス:ピアノ協奏曲第1番&第2番』は6月4日に全世界同時リリースされる予定。本日よりアルバムの予約もスタートしている。


    ■アルバム情報


    『アンドラーシュ・シフ~ブラームス:ピアノ協奏曲第1番&第2番』
    2021年6月4日発売
    CD

    収録曲:

    1)ブラームス:ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 作品15
    2)ブラームス:ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品83
    アンドラーシュ・シフ(ピアノ&指揮)
    エイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団
    録音:2019年12月19-21日 ロンドン、アビー・ロード・スタジオ





     

     

  • BAFTA受賞者 ユリア・マーが手掛けたマックス・リヒター『VOICES2』からの「Prelude 2」MVが公開

    BAFTA受賞者 ユリア・マーが手掛けたマックス・リヒター『VOICES2』からの「Prelude 2」MVが公開

    マックス・リヒターが、世界人権宣言からインスピレーションを受け、構想10年以上をかけて制作された『ヴォイシズ』の続編『VOICES2』が発売となり、そのアルバムからの
    楽曲「Prelude2」のミュージック・ビデオが公開された。

    映像を手掛けたのは、BAFTA(英国アカデミー賞)受賞アーティストで映像作家のユリア・マー。公開された「Prelude 2」のミュージック・ビデオには、激動の時代への芸術的な反応、そして難民の窮状が強調されている。国連によれば、過去7年間で2万人以上の移民・難民が地中海を渡ろうとして溺死。女性や子どもを含む多くの人々が、迫害や貧困から逃れようとして命を落としたという。

    ユリア・マーのイメージが持つ本来の美しさは、戦争の残虐性と世界の混乱と対比的に描かれる。また、この作品は、人が重圧を感じた際の溺れるような感覚のメタファーでもある。
    どこか暗い雰囲気の中にも、まだ描かれていない未来への可能性や、活動的な若い世代の登場など、前向きさが常に存在している。

    Max Richter – Prelude 2 (Official Video)

    ユリア・マーは、「私は幼い頃、溺れかけたのですが、ぎりぎりで母に助けられました。そのときの感覚は今でも鮮明に覚えています。ぼんやりとした夢のような感覚で、スローモーションのような数秒が過ぎていきました。

    パニック状態に陥ってはいませんでしたが、ものすごい重圧感、抵抗できない出来事が展開していく感じでした。このビデオでは、その時の記憶を再現することを試みました。その時に私が感じた力と、私たちに命を与える羊水と対比させたのです」と説明する。

    『ヴォイシズ』や「Prelude 2」に貫かれている、人道主義という力強いテーマは、ユリア自身の生い立ちに起因する。彼女が生まれたハンガリーは、その当時共産主義下で、ほとんどの女性が働かなければならず、幼少期の頃は祖母に育てられた。

    祖母は5カ国語の同時通訳者だった。第二次世界大戦中、難民としてチリに逃れた祖母は、アジェンデ、ネルーダ、チェ・ゲバラと一緒に働き、親交を深めた。彼女はブダペストでユリアを育て、その深い人道主義と温もりが『ヴォイシズ』のインスピレーションの源となった。

    ユリアが7歳のとき、彼女は母親と共にブダペストを脱出し、イギリスにたどり着いた。母は大学卒業を目指し、30代半ばの頃大学で学んだ。難民や移民で住む場所を必要としているシングルマザーを募集するタイムアウト誌に掲載された広告に応募し、住む場所を見つけた。

    ユリア・マーは「私は、共産主義国だったハンガリーで生まれました。私の生まれた通りの記憶は未だに鮮明です。建物には56年の革命の弾痕が残っていたり、第二次世界大戦で廃墟と化した建物があったりしました。その当時、国民一人一人の居住空間の面積が決められていたので、どのアパートにも複数の世代、時には異なる家族が住んでいました。私は、3部屋あるところで曾祖父、祖母、叔母たち、父、母とで暮らしていました。

    祖母はナチスの迫害から逃れて、安全を求めて20年間チリで暮らしました。私は限られたこのアパートの空間の中で、逃亡、迫害、地域社会、そして希望の話を聞きながら育ちました。祖母は生涯を通じて人道主義者でした。難民を支援し、平和に向けた国際的な運動の一翼を担っていました。

    結局、私自身の複雑な物語の中で、母と私が20世紀の大規模移民を再現することになり、私は孤独感を抱き、混乱し、必死に安全を求めてイギリスにたどり着きました。それ以降、祖母とはほとんど会うことができませんでしたが、祖母のその精神が私から離れたことはなく、これこそがVOICESの構想と執筆に反映されたのです」と語っている。

    昨年8月にリリースされた『ヴォイシズ』 は世界人権宣言というプリズムを通じて、人間が向き合っている様々な疑問に関して、考える場所を提供したいという想いが込められたアルバムで、1949年に録音されたエレノア・ルーズベルトの肉声で始まり、マックスならではの美しいメロディと女優キキ・レインのナレーションで構成されていた。

    今作『Voices2』は、そのコンセプトを更に音楽的に深化・発展させ、インストゥルメンタルによる10曲の新しいトラックが収録されている。


    ■リリース情報

    マックス・リヒター『VOICES 2』
    2021年4月9日発売
    CD / iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify





     

  • 大ベストセラー『怖い絵』シリーズの著者が贈るコンピレーション『怖いクラシック』が本日リリース

    大ベストセラー『怖い絵』シリーズの著者が贈るコンピレーション『怖いクラシック』が本日リリース

    大ベストセラーである『怖い絵』シリーズの著者であり、2017年に上野の森美術館と兵庫県立美術館で開催され68万人を動員した『怖い絵展』の監修を務めたドイツ文学者、西洋文化史家の中野京子が監修・解説を手がけるクラシック・コンピレーション・アルバム『怖いクラシック』が本日リリースされた。

    これまで多くの美術解説書を発刊し、芸術作品を歴史的背景や人間関係から読み解き、人間的な「怖さ」を軸にした面白さを提唱した第一人者として知られている中野。今作では絵画という枠を飛び越えクラシック音楽の裏に隠された「怖さ」を紐解き、制作・作曲背景に怖い逸話が潜んでいるクラシックの名曲を自ら選曲した。

    CDに封入されたブックレット内には、中野が書き下ろした楽曲の解説が掲載されており、また、より立体的に音楽を楽しむため楽曲それぞれに対して、関連のある絵画が1枚ずつセレクトされた。クラシック音楽と絵画が掛け合わされ、歴史的な繋がりや共通点を多面的に楽しむことができる仕掛けが施された。

    中野は選曲について「今までクラシック音楽に興味がなかった人にも楽しんでいただけるように、一度は聴いたことがあるような有名な曲を選びました」と語っている。また、本作を通してクラシック音楽に興味を抱いた人が、それぞれの作品について掘り下げられるよう特設ページが開設された。

    特設ページ内には、パスワードを知る人のみがアクセスできる「秘密の美術館」が設置され、クラシック専門家による解説を読むことができる。なお、パスワードはCDブックレットに記載されている他、デジタル・キャンペーンなどで入手することが可能。

    本作における見どころ・聴きどころは多数あるが、1曲目に収録されたラヴェルによる「亡き王女のためのパヴァーヌ」では、ラヴェルが、宮廷画家ベラスケスが書いたスペイン王女マルガリータの愛らしい少女時代の絵画にインスパイアされてこの楽曲を作曲したことに触れつつ、「彼は知っていたのだろうか、マルガリータが血族結婚くり返しの果て虚弱に生まれ、叔父のもとへ嫁がされ、お産の床で若くして亡くなったことを。

    甘く切ないこの曲は、王女ばかりでなくラヴェル晩年のエピソードとも重ねずにおれない。認知症気味となった老ラヴェルは街で偶然この曲を耳にし、「なんて美しいメロディだ。誰が作ったのだろう」とつぶやいたという。(ブックレットから抜粋)」と畳みかける。通常の解説では終わらない中野節が炸裂した解説はどれも、読み応え満載だ。

    また、本作は角川文庫より好評発売中の「大人のための『怖いクラシック』オペラ篇」とのコラボレーション作品となっている。書籍では「椿姫」「ホフマン物語」「カルメン」「蝶々夫人」など、コンピレーションでも取り上げたオペラ作品の楽しみ方や、原作の裏に秘められ物語や制作秘話などが綴られて、音楽ファンや『怖い絵』の絵画ファンにも楽しめる作品となっている。

    『怖いクラシック』、「大人のための『怖いクラシック』オペラ篇」共に、クラシックのファンでなくとも楽しむことができる作品に仕上がっており、知的好奇心をくすぐる怖い音楽をぜひ堪能してほしい。

    『怖いクラシック』特設サイト


    ■中野京子 プロフィール

    北海道生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了。ドイツ文学者、西洋文化史家、翻訳家。オペラ、美術などに造詣が深く、新聞や雑誌に連載を持つ。歴史的背景から絵画を読み解く面白さを提唱し、著書「怖い絵」シリーズは大ベスト・セラーに。

    また、2017年開催の「怖い絵」展を監修。全国で68万人を動員して「社会現象」となる。

    「名画で読み解く 王家 12の物語」、「危険な世界史」、「残酷な王と悲しみの王妃」、「名画の謎」、「運命の絵」など多数のシリーズ作を出版し、その独特な角度から捉える芸術解説に多くのファンを持つ。

    公式ブログ「花つむひとの部屋」


    ■リリース情報

    2021年3月24日発売
    中野京子監修『怖いクラシック』

    CD / iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify

    収録曲:
    01. ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
    ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団  指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
    02. モーツァルト:歌劇《魔笛》 K.620 ~第2幕「地獄の復讐がこの胸にたぎる」(夜の女王のアリア)
    クリスティーナ・ドイテコム(ソプラノ) 他、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団  指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
    03. シューベルト:弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調 D810《死と乙女》 ~第2楽章
    ハーゲン弦楽四重奏団
    04. R.シュトラウス:歌劇《サロメ》作品54 ~「サロメの踊り」
    シュターツカペレ・ドレスデン 指揮:小澤征爾
    05. ワーグナー:歌劇《ローエングリン》 ~第3幕「愛の祝福が見守る喜びの部屋へ」(婚礼の合唱)
    ウィーン国立歌劇場合唱団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 指揮::サー・ゲオルグ・ショルティ
    06.  チャイコフスキー:バレエ《白鳥の湖》 作品20~第9曲「情景・終曲」
    モントリオール交響楽団 指揮:シャルル・デュトワ
    07. ヘンデル:《メサイア》 HWV56 ~第44曲「ハレルヤ」
    イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団 指揮:ジョン・エリオット・ガーディナー
    08. ビゼー:歌劇《カルメン》~第2幕「皆さんに乾杯をお返し致します」(闘牛士の歌)
    タティアナ・トロヤノス(メッゾ・ソプラノ)、ジョゼ・ヴァン・ダム(バリトン)他、ジョン・オールディス合唱団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団  指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
    09. メンデルスゾーン:劇付随音楽《真夏の夜の夢》作品21~ 妖精の合唱「舌先さけたまだら蛇」
    ジュディス・ブレーゲン(ソプラノ)、フローレンス・クイヴァー(アルト)、シカゴ交響合唱団、シカゴ交響楽団  指揮:ジェイムズ・レヴァイン
    10. ヴェルディ:歌劇《椿姫》~第1幕「花から花へ」
    アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)、マーラー・チェンバー・オーケストラ 指揮:クラウディオ・アバド
    11. プッチーニ:歌劇《ジャンニ・スキッキ》~「私のお父さん」
    ミレッラ・フレーニ(ソプラノ)、フェニーチェ歌劇場管弦楽団 指揮:ロベルト・アバド
    12. オッフェンバック:歌劇《ホフマン物語》~第4幕「ホフマンの舟歌」
    ジョーン・サザーランド(ソプラノ)、ユゲット・トゥランジョー(メゾソプラノ)、スイス・ロマンド管弦楽団 指揮:リチャード・ボニング
    13. プッチーニ:歌劇《蝶々夫人》~第2幕「ある晴れた日に」
    レナータ・テバルディ(ソプラノ) サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団 指揮:トゥリオ・セラフィン

    絵画はオルセー美術館所蔵のブグロー「ダンテとウェルギリウス」や、ウィーン美術史美術館所蔵のヴィンターハルター「エリザベート皇后」など、一流画家による至宝の作品を掲載。

    ■コラボレーション書籍
    「大人のための『怖いクラシック』オペラ篇」
    著者:中野京子
    体裁:角川文庫
    発行:株式会社KADOKAWA



     

  • ダニエル・バレンボイム、ピアニスト単独では16年ぶりの日本ツアー実現

    ダニエル・バレンボイム、ピアニスト単独では16年ぶりの日本ツアー実現

    ダニエル・バレンボイムが2021年6月、シュターツカペレ・ベルリンを指揮したブルックナー交響曲全曲シリーズ以来5年ぶりに来日することが急きょ決まった。ピアニスト単独では16年ぶりの日本ツアー。ベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ」だけ2種類のプログラムで臨む。

    4月12日には主催者の一つ、日本経済新聞社の本社(東京・大手町)とベルリンのバレンボイム宅をZOOMで結んだ記者会見が開かれ、マエストロはコロナ禍のさなかに来日できる喜びを率直に語った。


    会見はバレンボイムの簡単なスピーチで始まった。

    「日本にはいくつもの思い出があります。最初に訪れたのは1966年と、大昔のことです。1980年代にはベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ》全曲演奏会(第1~32番)も行いました。私が日本を好む最大の理由は、音楽に対する聴衆の強い関心です。単なるイベントに足を運ぶのではなく、何か人生に重要なものを体験しようと思って集まり、一心な気持ちで聴いてくださいます。

    今回はベートーヴェンのソナタだけ、2種類のプログラムを用意しました。ひとつは最初の4つのソナタ、もうひとつは最後の3つのソナタです。とりわけ今回は新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の問題が収束せず、全ての人々の健康への配慮と経済問題の板挟みといえる状況の中、文化と精神の側面の重要性が問われています。日本ツアーを実現できて、本当に良かったです」

    撮影_中嶌英雄

    続いて質疑応答。会見場に集まったジャーナリスト&評論家、オンライン参加を合わせ、6人の質問に答えた。

    ―32曲あるソナタのうち、なぜ最初の4曲と最後の3曲に絞り、〝中抜け〟にされたのですか?

    「非常に期間を絞った日程で3都市を回るので、この組み合わせにしました。もし東京だけでも8回できるのであれば、ソナタ全曲演奏会にしたと思います」

    ―日本に特別なピアノ(バレンボイム=マーネ・スタインウェイ)を持ち込まれるそうですが、音の特徴を教えてください。

    「同じタイプを2台、所有しています。新しいといっても、もう5〜6年は弾いてきました。従来のスタインウェイとの大きな違いは弦(ピアノ線)の張り方です。高音域は3本の弦を平行に、(通常は他の弦と交差する配置をとる)中間部のハ音から下の低音域でも太い弦を段違いで平行に張っています。これで音が透明度を増し、より豊かな響きを得られます」

    ―昨年、DG(ドイツ・グラモフォン)レーベルで制作された5度目のソナタ全曲録音の会場、ベルリンのピエール・ブーレーズ・ザールと、今回の演奏会場であるサントリーホールとでは規模も音響も異なります。何か特別な調整をなさるのですか?

    「サイズの違いは大した問題ではありません。ブーレーズ・ザールでの全曲演奏会と平行し、はるかに巨大なフィルハーモニー・ド・パリでも同様の曲目を弾きましたが、ホールの特性に合わせるのもピアニストの力量のうちです。サントリーホールでは何度もピアノを奏で、指揮もしてきました。ブーレーズ・ザールともども、とりわけ音響の良いホールなので、何の心配もしていません」

    ―最後3つのソナタについて興味深い発言をされていましたが、より詳しく話してください。

    「前に何を言ったのか、もう忘れてしまいました(笑)。私たちは内面と外面、両方の世界で音楽と結びついています。3曲は(番号としての)最後だけにとどまらず、文字通りのファイナル、一つの役割を終えて到達した満足感とともに奏でる作品です。日本の聴衆の皆さんも、そのような感覚に浸り、じっくりと耳を傾けていただければと思います」

    Beethoven: Piano Sonata No. 30 in E Major, Op. 109: I. Vivace ma non troppo Adagio espressivo…

    ―J.S.バッハに続き、ベートーヴェンも変奏曲やフーガに実績を残しました。両者の違いは?

    「バッハとベートーヴェンは、二つの全く異なる世界です。もちろん、バッハという先行モデルがなければ、ベートーヴェンもあそこまでの変奏曲やフーガは書けなかったでしょう。《ハンマークラヴィーア》(ピアノ・ソナタ第29番)のフーガは巨大な次元を切り開き、バッハにはなかった劇場的なドラマを繰り広げます。良い質問をありがとう!」

    ―COVID-19の世界拡大(パンデミック)を境に、何が変わりましたか?

    「演奏の準備をし、音楽づくりに没頭する基本には、何の変わりもありません。変わったのは、計画を立てられなくなったことです。コロナ禍前は2ー3年先の予定を入れることができましたが、今は全く見通しが立ちません。6月の短い日本ツアーも〝ラストミニッツ〟(最後数分の駆け込み)でようやく、決まりました」

    最後にマエストロから締めの一言があった。

    「日本へ行くことを、本当に楽しみにしています。COVID−19の弊害のひとつは、人々の簡単な往来を妨げ、旅行の自由を奪ってしまったことです。私には、我慢がなりません! だからこそ、日本への旅を心待ちにしているのです」

    Written By 池田卓夫 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎


    ■ダニエル・バレンボイム ピアノ・リサイタル 公演概要

    【ツアースケジュール】

    ●東京公演「ベートーヴェン ピアノ・ソナタの系譜」
    2021年
    6月3日(木)19:00開演 サントリーホール プログラムA
    6月4日(金)19:00開演 サントリーホール プログラムB

    ●大阪公演「後期三大ソナタ」
    6月7日(月)18:30開演 フェスティバルホール プログラムB

    ●名古屋公演「後期三大ソナタ」
    6月9日(水)18:45開演 愛知県芸術劇場コンサートホール プログラムB

    【プログラム】

    A~最初のソナタ~
    ベートーヴェン
    ピアノ・ソナタ第1番 作品2-1
    ピアノ・ソナタ第2番 作品2-2
    ピアノ・ソナタ第3番 作品2-3
    ピアノ・ソナタ第4番 作品7

    B~後期三大ピアノ・ソナタ~
    ベートーヴェン
    ピアノ・ソナタ第30番 作品109
    ピアノ・ソナタ第31番 作品110
    ピアノ・ソナタ第32番 作品111

    【東京公演概要】

    6月3日(木)4日(金)19時開演(18時開場) サントリーホール
    主催:テンポプリモ/サンライズプロモーション東京/日本経済新聞社
    チケット:4月18 日(日)10時発売
    S席22,000円 A席18,000円 B席14,000円 P席10,000円
    (全席指定・税込)
    お問合せ:テンポプリモ 03-3524-1221


    ■リリース情報

    ダニエル・バレンボイム『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集』
    2020年12月16日発売
    CD / iTunes /Amazon Music / Apple Music / Spotify




     

     

  • 3歳までに音楽を『モンテッソーリ教育×ハーバード式子どもの才能の伸ばし方』伊藤美佳インタビュー

    3歳までに音楽を『モンテッソーリ教育×ハーバード式子どもの才能の伸ばし方』伊藤美佳インタビュー

    大反響を得ている子育て本「モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方」(かんき出版)とのコラボレーションによる、クラシックのコンピレーションアルバム『モンテッソーリ教育Xハーバード式 子どもの才能を伸ばすクラシック』がリリースされた。

    リズム編とメロディ編という編成の2枚組にはクラシックの名曲が計30曲も収録されている。モンテッソーリ教育とはどういうものなのか、そのなかでクラシックとはどんな存在なのか。著者の伊藤美佳さんにお話を聞いた。


    ―まず20世紀初頭のイタリアで考案されたモンテッソーリ教育と、伊藤さんとの出会いを教えていただけますか。

    「我が家には3人子どもがいるのですが、長男は普通の幼稚園に通いました。長女も最初は普通の幼稚園に入園しましたが、管理の厳しいところだったので、友人から転園させたいとの相談を受けたことで、彼女といろいろな幼稚園を見学に行くなかで出会ったのがモンテッソーリの幼稚園でした。

    他とは様子が明らかに違い、子ども達がすごくイキイキとしていて、しかもパッと見た感じでは先生の姿がないので、子ども達しかいないように見えました。でも、ちゃんと子ども達を見守っているので、何かあると、どこからかスーッと現れる感じでした。

    さらに見ていると、アルコールランプを使って、塩水から塩を作る実験をしていたり、本物のアイロンでアイロン掛けをしている子がいたり。なかなか危ないという理由で、子ども達にさせないことも経験させているんです。

    また、見学をしている時にテーブルの花瓶を倒してしまった子がいて、私達に説明をしてくれている先生のところに来て、「お水をこぼしちゃった」と言ってきたんですね。その先生は、叱ることなく、一緒に雑巾を取りに行き、拭き方から雑巾の洗い方、絞り方まで教えてあげていて、私達に「次から自分ひとりで出来るように教えてあげることが大事なんです。失敗は決して悪いことじゃないので」って。そのやりとりに私は、今まで何をしていたんだろうってショックを受けて、すぐに長女を転園させました」

    ―実際に転園して何か変化は起きましたか。

    「幼稚園のお迎えのバスに乗る前から、毎日ワクワクしていて、今日は縄跳びをするんだとか言って。実際に幼稚園に着いてから、縄跳びをずっとやっているみたいで、1週間後にはビュンビュン飛べるようになっているんですよ。それは本人が満足するまで、やり遂げるまで、先生が止めずにずっとやらせてくれるからなんですよね。

    縄跳びを習得すると、長女は次に鉄棒に取り組んでいました。見守って最後までやらせてくださることで、子どもの能力は、伸びるんだってわかりました。これが嫌々だったら、それほど本人がヤル気になっていなかったかと思います。本人がやりたいと思った時に発揮される爆発的な力は、本当にすごいものだと思いました」

    ―全員が同じことをすることなく、自由にやりたいことができるということですか?

    「“自由選択活動”というのですが、自分の意志で選択して、活動することを尊重しているんです。普通の幼稚園だと、先生からこれをやりましょう、と言われるまで園児は待っているわけですよね。何も考えることなく、ただ待つことになります。でも、モンテッソーリでは自分でやりたいことを朝から考えて、ワクワクしながら幼稚園に行くことができるんです」

    ―伊藤さんもその後、もっとモンテッソーリ教育を学ばれたそうですが…。

    「はじめは、次女が卒園した時に幼稚園から働きませんか、と声を掛けられたことがきっかけでした。すでに次女が入園したと同時に私もモンテッソーリ教育の学校に学びに行っていたのですが、実習に行った幼稚園で本当に驚く経験がありました。ひとりだけ10時半頃にお弁当を食べ始める子がいたんですね。でも、先生は誰も注意をしない。勝手にお弁当を食べるのはおかしいことなんだ、と自分で気付くことが大事だから、という考え方なんです。

    普通だったら、先生が他の先生の目を気にして、慌てて注意したり、たとえば、お母さんも自分の子どもが公園でおもちゃの取り合いをしたら、他のお母さんのことが気になって止めに入ったりしますよね。でも、大人の管理のもとで育ってしまうと、叱られるからいい子にしていようという発想になってしまうんです。全て指示されることを待ってしまう子どもになりがちだと思います」

    ―そういう教育のなかで、音楽が果たす役割というのはどういうものですか?

    「まず私の著書『モンテッソーリ教育Xハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』のハーバード式が提唱することに“9つの知能”というのがあります。いろんな分野にアプローチをして、子ども時代に土台を作るのが大切という考え方です。その9つのうちのひとつに音楽があります。受験に関係ない科目なので、日本ではどうしてもなおざりになりがちですが、音楽はとても大切な知能のひとつです」

    ―その知能というのは?

    「これは私の考え方ではありますが、子ども達は、物語の世界というか、空想とか、想像とか、現実社会とは異なる世界で生きているもので、その想像力というのは大人では計り知れない、とても豊かなものです。そんな感性豊かな時期に音楽に触れることがとても大切で、感じる心がどんどん育っていくんです。

    脳の神経回路は、年齢とともに淘汰されていくと考えられています。なので、この時期に音楽に触れていないと、成長してから急に聴きだしてもあまり興味が持てなかったりするので、音楽を聴いてリフレッシュしたり、元気をもらったりということが難しくなってしまいます」

    ―この時期というのは3歳頃ですか?

    「実は3歳までが大事です。よく3歳からの英才教育と言いますが、実際は、3歳までが重要で、子ども自身が音楽を求めていると思っていただくといいと思います。無意識のなかで心地好くなる音楽を聴きながら眠りたいとか求めているので、それを与えてあげる環境を作っていくことが重要です」

    ―伊藤さんの家では音楽を流れているような環境でしたか。

    「まず私の話からすると、父がモーツァルトを好きだったので、父が家にいる時は、いつもモーツァルトが流れていました。そのことに反発した時期もありましたが、子どもの頃に始めたピアノは、大学入学までは続けていました。

    子育てをしている時は、年の近い子どもが3人もいたので、小さい頃は10分おきくらいにケンカが起きるような日常でした。それを聞くのが嫌で、私は止めるのではなく、自分のためにピアノを弾くことにしていたんですね。時にはピアノを弾きながら、歌ったりして。そうすると、子ども達がケンカをやめて、ピアノの周りに集まってきては一緒に歌ったり、踊ったりし始めるんです。私が楽しんでいると、子ども達も自然と楽しくなるみたいで、ピアノにはずいぶん助けられました。

    他にもお風呂上りに裸のままで楽器を持って、私のピアノに合わせてリトミックのように歩いたり、止まったり、そんな遊びを毎日やっていましたね。私の気分転換というのもありましたが、子どもを叱ってばかりいるのは嫌なので、よかったと思います」

    Mozart: Eine kleine Nachtmusik – Concertgebouw Kamerorkest – Live Concert – HD

    ―でも、クラシックに対して敷居が高いと感じているお母さんはいるかと思いますが。

    「今回のCDも子どもが遊びながら聴けるような編成になっています。1枚はリズムが楽しい15曲、もう1枚はメロディを楽しめる15曲を選んでいます。たとえば、「くるみ割り人形」の「花のワルツ」などをかけると、きっと子ども達はそれぞれの情景を浮かべて、楽しむと思うんですね。私もこの曲を聴くと、いろいろな映像が浮かんできます。そういう聴き方で全然いいと思います」

    Tchaikovsky: Waltz of the Flowers / Järvi · Berliner Philharmoniker

    Interviewed & Written By 服部のり子(音楽ライター)


     

    ■伊藤美佳 プロフィール
    (株)D・G・P代表取締役。0歳からの乳幼児親子教室「(社)輝きベビーアカデミー」代表理事。
    幼稚園教諭1級免許。日本モンテッソーリ協会教員免許。保育士国家資格。小学校英語教員免許。NPO法人ハートフルコミュニケーションハートフル認定コーチ。サンタフェNLP/発達心理学協会・ICNLPプラクティショナー。日本メンタルヘルス協会認定基礎心理カウンセラー。自身の子どもがモンテッソーリ教育の幼稚園で素晴らしい成長を遂げたことに感銘を受け、モンテッソーリ教師の資格を取得。
    伊藤美佳公式サイト「輝きベビーアカデミー


    ■リリース情報

    2021年4月7日発売
    『モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能を伸ばすクラシック』
    CD / iTunes / Amazon Music / Apple Music / Spotify

    収録予定曲:
    Disc 1: リズムを楽しもう!
    01. アイネ・クライネ・ナハトムジーク~第1楽章 (モーツァルト) / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
    02. 歌劇《フィガロの結婚》序曲 (モーツァルト) / ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団、指揮:カール・ベーム
    03. 熊蜂の飛行 (リムスキー=コルサコフ) / スイス・ロマンド管弦楽団、指揮:エルネスト・アンセルメ
    04. 弦楽セレナード~第1楽章 (チャイコフスキー) / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
    05. ピアノ五重奏曲《ます》~第4楽章 (シューベルト) / アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
    06. 剣の舞 (ハチャトゥリアン) / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、指揮:アラム・ハチャトゥリアン
    07. 歌劇《セビリアの理髪師》序曲 (ロッシーニ) / ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団、指揮:リッカルド・シャイ―
    08. ユーモレスク (ドヴォルザーク) / クリスチャン・フェラス(ヴァイオリン)、ジャン=クロード・アンブロシーニ(ピアノ)
    09. ピアノ・ソナタ第11番~第3楽章 (モーツァルト) / アンドラーシュ・シフ(ピアノ)
    10. 無伴奏チェロ組曲第1番~前奏曲 (J.S.バッハ) / ピエール・フルニエ(チェロ)
    11. バレエ《くるみ割り人形》~序曲 (チャイコフスキー) / モントリオール交響楽団、指揮:シャルル・デュトワ
    12. 協奏曲集《四季》第1番〈春〉~第1楽章 (ヴィヴァルディ) / イ・ムジチ合奏団、ピーナ・カルミレッリ(ヴァイオリン)
    13. 《アルルの女》第2組曲~ファランドール (ビゼー) / ロンドン交響楽団、指揮:クラウディオ・アバド
    14. ローマの松~アッピア街道の松 (レスピーギ) / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
    15. バレエ《くるみ割り人形》~花のワルツ (チャイコフスキー) / モントリオール交響楽団、指揮:シャルル・デュトワ

    Disc 2: メロディを楽しもう!
    01. 《ペール・ギュント》第1組曲~朝 (グリーグ) / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
    02. 別れの曲 (ショパン) / ヴラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
    03. 亡き王女のためのパヴァーヌ (ラヴェル) / フィルハーモニア管弦楽団、指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
    04. 聖母の御子 (リョベート) / エドゥアルド・フェルナンデス (ギター)
    05. 歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》~間奏曲 (マスカーニ) / ミラノ・スカラ座管弦楽団、指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
    06. 組曲《動物の謝肉祭》~白鳥 (サン=サーンス) / マルタ・アルゲリッチ、ネルソン・フレイレ(ピアノ)、ミッシャ・マイスキー (チェロ)
    07. パッヘルベルのカノン (パッヘルベル) / イ・ムジチ合奏団
    08. 子供の情景~トロイメライ (シューマン) / ヴラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
    09. 愛の挨拶 (エルガー) / チョン・キョンファ(ヴァイオリン)、フィリップ・モル(ピアノ)
    10. ピアノ協奏曲第21番~第2楽章 (モーツァルト) / フィルハーモニア管弦楽団、ヴラディーミル・アシュケナージ(ピアノ&指揮)
    11. 月の光 (ドビュッシー) / ジャン=イヴ・ティボーデ(ピアノ)
    12. 歌劇《カルメン》~第3幕への間奏曲 (ビゼー) / ロンドン交響楽団、指揮:クラウディオ・アバド
    13. ピアノ・ソナタ第11番~第1楽章 (モーツァルト) / アンドラーシュ・シフ(ピアノ)
    14. アイネ・クライネ・ナハトムジーク~第2楽章 (モーツァルト) / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
    15. 春への憧れ (モーツァルト) / ペーター・シュライアー(テノール)、アンドラーシュ・シフ(ピアノ)



     

  • ピアニスト児玉桃、最新インタビューを公開

    ピアニスト児玉桃、最新インタビューを公開

    1991年のミュンヘン国際コンクール・ピアノ部門において最年少最高位を受賞し、その後はパリを拠点に精力的な活動を続けているピアニスト児玉桃。3月12日にニュー・アルバム『細川俊夫: 月夜の蓮 -モーツァルトへのオマージュ-/モーツァルト: ピアノ協奏曲第23番』をリリースした彼女にライター、東端哲也さんがインタビュー。新作について聞いた。


    1969年にミュンヘンでプロデューサーのマンフレート・アイヒャーによって設立されたECM(※Edition of Contemporary Music の略)は、ジャズ・シーンで常に良質なアルバムを創作してきた人気レーベル。

    アイヒャーはクラシック音楽にも卓越した造詣を持つ人物であり、1984年に立ち上げたECM NEW SERIES は、彼の美学によって既存のレーベルとは異なるポリシーのもとにクラシックの価値観を組み替え、バロック以前から現代音楽まで斬新なコンセプトで様々なレコーディングを行い、音楽ファンを魅了し続けている。

    そんなECM NEW SERIES で活躍する演奏家のひとりがピアニストの児玉桃。1991 年のミュンヘン国際コンクール・ピアノ部門において最年少で最高位を受賞し、その後はパリを拠点に精力的な活動を続けている彼女はその才能をアイヒャーに認められ、2013年にラヴェルとメシアンを武満徹の作品で繋いだアルバムで同シリーズから鮮烈なデビューを果たす。

    2017年の2作目では、ドビュッシー晩年の名作「12の練習曲」と 21 世紀に書かれた細川俊夫のエチュード6曲を対話させるように収録し、その本質的な関係性が浮かび上がる企みの異色作を創り上げ、こちらもまた高評価を得た。

    その児玉桃が今年3月にECM NEW SERIESから待望の第3弾をリリース。今回は2006年12月に水戸芸術館のコンサートホールATMで行われて好評を博した、小澤征爾・指揮&水戸室内管弦楽団との公演のライヴ録音。モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番と、同曲へのオマージュとして同年作曲され、この公演が日本初演となった細川俊夫「月夜の蓮(ピアノとオーケストラのための)」を収録した大注目盤だ。

    Seiji Ozawa, Toshio Hosokawa, Momo Kodama ©Michiharu Okubo / ECM Records

    「当初は小澤さんが水戸芸術館でされていたモーツァルトのシリーズ公演のために録音された音源で、ECMとの関係はありませんでした。自分としてはかなり気に入っていたのですが、いろいろな事情で未発表のまま長い間眠ったままになっていました。あるとき整理をしていたらそのマスターテープが出てきて、久しぶりに聴いてみたらやはり素晴らしかった!

    これはもう何とかして世に出さねばと本気で思って、あらためて水戸にもご相談して了解を得ることができ、、アイヒャーさんにテープを送ってみたのです。すると彼も“ぜひリリースしたい”と仰って。それが2年くらい前のことです。本当は昨年の6月くらいに発売を予定していたのですがコロナ禍もあって、少し延びてしまいました」

    「月夜の蓮」は2006年のモーツァルト生誕250年を記念して、北ドイツ放送(NDR)の委嘱で細川が書いた作品。世界初演は準・メルクル指揮&ハンブルク北ドイツ放送交響楽団によってハンブルクのライスハレで行われた。

    「メルクルさんとの初演も興奮しましたが、小澤さんとの時は気持ちに少し余裕ができていたこともあって、最高の状態で弾くことができました。密度の濃いリハーサルを通して、マエストロが細部にまで気を配り、細川さんとも打ち合わせを重ねながら一音ずつ丁寧に音を作りあげていくのを目の当たりにして心が高鳴りましたし、水戸室内管弦楽団の熱い演奏もホールの響きも完璧でした。

    普通は後から、ここはああすればよかったのにと、反省することが多いですが、、この録音にはそれがありませんでした。その後も様々な国で、異なるオーケストラや指揮者の方々と共に20回以上も演奏する機会に恵まれましたが、水戸での夢のような時間が忘れ難いですね」

    モーツァルトの美しき名ピアノ協奏曲・第23番の中でもとりわけ名高い、第2楽章アダージョ(嬰ヘ短調)のメランコリックな旋律が最初に現れかけては消え、最後に再び花開くように出現するのが印象的。

    「静かな月の夜、蓮の花は未だ蕾の姿で月光を浴び、開花の時を待ちながら、夢を見ては微睡(まどろ)む。その夢の中には、モーツァルトの音楽への深い憧れが幽かに感じられる…」と、細川は作品のイメージを国内盤ライナーノーツで語っている。

    「泥の中から水面に立ち上がった蓮が、月の方を向いて美しい花を咲かせている情景を思い浮かべると、そこに希望が見えてきます。14年前の録音ですが、コロナ禍という“泥の中”にどっぷり浸かっている今だからこそ、余計に心に響きます。花を象徴するピアノと、それを取り巻く水や風を表すようなオーケストラの音が溶け合って、豊かな色彩感を作り出しているのも素敵です」

    細川作品とカップリングすることで、よく知られたモーツァルトのコンチェルトもまた新たな輝きを放つ。

    「室内楽の魅力に満ち溢れた、このような作品を水戸室内管弦楽団と一緒に演奏できて幸せです。ひとりひとりが個性的なソリストなのに、アンサンブルはまるでひとつの家族のようにまとまるところが凄いです。今回はもちろんアイヒャーさんは録音の現場に立ち会っていませんが、音のクオリティも抜群に良く、こだわりのECMファンにもきっと満足していただけると思います」

    作曲家・細川俊夫との関係はこの「月夜の蓮」をきっかけにより深まり、後にドビュッシー「12の練習曲」を演奏する児玉のために6曲のエチュード集(このうち第3~第6番の4曲を児玉がルツェルンで世界初演)が書かれ、前述のECM NEW SERIES 第2弾『点と線~ドビュッシー&細川俊夫:練習曲集』を生む。

    「細川さんは、それまで、ピアノの作品をあまり書いてはいらっしゃらなかったのですが、嬉しいことに“月夜の蓮”でその魅力に目覚められたようでしたね。本来ご自身もピアノの名手なので作品はとてもピアニスティックで、ペダルの使い方など、楽器の持つ可能性を最大限に引き出して下さり、弾いていると新しい色彩を発見することができます。

    そしてあの独特の間合いに、時間に対する能楽などの日本的な感覚、文化の息遣いを感じます。書き方はモーツァルトの楽譜と同じように明確ですから、まさに東洋と西洋のハイブリッドです。ご自分の言葉を持っておられるので、少し聴いただけですぐ彼の作品だとわかります」

    現代の作品はピアニスト・児玉桃の演奏活動において常に重要な部分を占めてきた。

    「パリ国立高等音楽院で学んだ“私たちの時代の音楽”に対する捉え方が、今もしっかりと胸に刻まれています。現代音楽は時代を反映し、時に反撥しながら、脈々と続く音楽史の発展に繋がっています。今起こっていることに目を向け、次の世代に伝えていくのも私たち演奏家の大切な役割だと思うのです。生きている作曲家と直に意見を交わしながら新作を一緒に創り出せるのは、なんと光栄なことでしょう!」

    それだけに、古典から現代曲まで自然に連なるレーベル、ECM NEW SERIESからのニュー・レコーディングにも大きな期待がかかる。

    「アイヒャーさんは天才的であり、オープンマインド。アイデアを沢山持っています。朝オフィスに来て、先ずは何もせずに音楽だけを聴いているような人です(笑)。演奏やサウンドだけでなくデザインや解説に至るアルバム(CD)の全体像をとても大切にされますね。現場では細かいことなどはあまり仰らないけれど、ちょっとした一言にもひらめきがあって当を得ている。録音が始まる前から空気を作り上げてくれる気配りにいつも感銘を受けていました。またぜひ、ご一緒したいです」

    コロナ禍で、まだ先の見えない世の中だが、今後も彼女がピアノで描き出す世界を楽しみにしたい。

    「おうち時間が増え、これまで弾けなかった作品に触れたり、新しく出逢う楽譜に目を通したりする機会に恵まれ、読書の時間も多く、、日本語で翻訳したいなと思うような本をみつけたり、それなりに充実した毎日です。でも、テーブルだけはやたら大きな我が家に、音楽家だけじゃなくいろんな人を集めて食事とおしゃべりを楽しむのが大好きで、そこから思わぬアイデアが生まれたりするので、またそんなことができる日が早く戻ってくることを、祈っています」

    Interviewed & Written By 東端哲也


    ■リリース情報

    2021年3月12日発売
    『細川俊夫:月夜の蓮 -モーツァルトへのオマージュ-、
    モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番』
    児玉桃 (ピアノ)、小澤征爾 (指揮)、水戸室内管弦楽団
    CD / iTunes / Apple Music / Spotify /Amazon Music

    収録曲:
    細川俊夫:
    1. 月夜の蓮 -モーツァルトへのオマージュ
    モーツァルト:ピアノ協奏曲第23 番 イ長調 K.488
    2. 第1 楽章:Allegro
    3. 第2 楽章:Adagio
    4. 第3 楽章:Allegro assai

    児玉桃 (ピアノ)
    小澤征爾 (指揮)
    水戸室内管弦楽団

    録音:2006 年12 月 水戸芸術館 コンサートホール ATM