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『THE MIRACLE / ザ・ミラクル』

 


クイーンにとって13作目となるアルバムは、制作中、元々は『The Invisible Men』(直訳すると“透明人間=姿が見えない男達”)というタイトルが付けられていた。ひとつには批評家達に対する鋭い反論としてだが、『A Kind Of Magic』から3年近く経ってからリリースされたというのも、別の理由としてあった。

この間、バンドのメンバー達は、精力的な活動を行っている。ロジャー・テイラーはザ・クロスを結成。フレディ・マーキュリーは、スペインのソプラノ・オペラ歌手モンセラート・カバリエとのコラボレーションによって野望を実現し、クラシック・クロスオーヴァー・アルバム『Barcelona』(表題曲は全英シングル・チャートでトップ10入りするヒットに)を発表した。ブライアン・メイはスティーヴ・ハケット(元ジェネシスのギタリスト)のアルバム『Feedback 86』に参加した他、後に妻となるアニタ・ドブソンのヒット・シングル「Anyone Can Fall In Love」をプロデュース。そしてジョン・ディーコンは、映画『ビグルス/時空を越えた戦士(原題:Biggles: Adventures In Time))のサウンドトラックに取り組んだ。

その点については文句のつけようがない。だが熱心なファンは、彼らがバンドとして戻ってくることを願っていた。内輪の聖域外に知らされていなかったのは、フレディ・マーキュリーが1987年にHIV陽性であると診断されていたことだ。HIVに感染しエイズを発症すると、体力と集中力を激しく消耗させる関連疾患が現れるのであった。

だが、この恐ろしい病気に怯むどころか、連帯感を新たにした4人は、スタジオに戻ることに心を集中。後に『The Miracle』に収録される曲は、誰が実際にその主要部分を書いたのかにかかわらず、全てクイーン名義としてクレジットされた。レコーディングには、ロンドンのタウンハウスや、バンドが所有するモントルーのマウンテン・スタジオといった、旧友のように馴染み深いスタジオの他、バーンズのオリンピック・スタジオも使用。クイーンとデヴィッド・リチャーズがアルバムのプロデュースを手掛けている。

今作では、プログラミングやシンセのキーボード等々に一層の注意が傾けられ、アルバムの完成までには1年間——1988年1月から1989年1月まで——が費やされた。

オープニング・トラック「The Party」は、フレディ・マーキュリー、ジョン・ディーコン、ブライアン・メイの三者が分担。深夜に行われたジャム・セッションの結果生まれたこの曲は、解放感に満ちたロック攻撃で聴き手を即座に惹きつける。「Khashoggi’s Ship(邦題:カショーギの船)」は、フレディ・マーキュリーの原案による曲だが、それが軌道に乗ったところで、他の3人が協力する形となった。1曲目に続き、これ見よがしなロック・ナンバーのこの曲で言及されているのは、大富豪の実業家アドナン・カショーギだ。彼の所有する超豪華クルーザーでは、様々なポップ・スターや映画スター達、政治家の面々、有閑階級の人々が集う伝説的パーティが催されていた。この頃にはクイーンのメンバーも資産家になっており、上流の生活には慣れていたが、起業家アドナン・カショーギの贅沢なライフスタイルはフレディ・マーキュリーを魅了。想像に任せる余地がないほど猥雑かつ頽廃的な歌詞を書くに至った。

アルバム表題曲「The Miracle」は、本作からの5枚目にして最後のシングルだ(本作のシングルは全て、7インチと12インチのアナログ盤、カセット・テープ、及びCDというフォーマットで発売された)。フレディ・マーキュリーが手掛けた中でも特に極めて哲学的な曲であり、この世を広い目で見渡している。この曲の基本的なコード構成を思い付いたのはジョン・ディーコンで、大変複雑な作りとなっており、容易に理解できるものとはなっていなかった。

ブライアン・メイの「I Want It All」は、1989年5月初頭、アルバムの先行シングルとしてリリースされ、『The Miracle』からの最大のヒットとなった。バスドラムのダブルキックが轟き渡る、激しく荒々しいロックン・ロール・ナンバーで、タフな魅力のこのアンセムは即座に名曲リスト入りを果たした。フレディ・マーキュリーがこの歌をライヴで歌う機会がなかったことは、今も信じ難い。所々でザ・フーをも思い出させるこの曲には、明らかに観客参加型の雰囲気が備わっており、三つ巴のヴォーカル・アレンジとパワー・コードが、この珠玉の曲を引き立てている。

ロジャー・テイラーの「The Invisible Man」は、正統派クイーン・ナンバーだ。シンセサイザーは入っていないが、デヴィッド・リチャーズがキーボードを追加。歌詞の中では、バンドの各メンバーの名前が半ばサブリミナルな形で引用されており、それは4人の顔がひとつに溶け合っているアルバムのジャケットの反映でもある。そのジャケットを手掛けたのは、写真家のサイモン・ファウラーとグラフィック・デザイナーのリチャード・グレイで、恐らくはロジャー・テイラーの発案だ。

アルバム第二弾シングルでもある「Breakthru」(12インチ・ミックスの方が長くなっている)は、フレディ・マーキュリーの緩やかなハーモニーに端を発し、やがてロジャー・テイラーのアップテンポなロックの中へと滑り込んで行く。こういった曲作りの手法は、『The Miracle』ではかなり典型的なのものであった。というのも、この時クイーンの手元には有り余るほどの素材があったため、全てを使って曲として完成させるわけにもいかず、その代わり、厳選した抜粋や要素を曲に組み込む形を取っていたからだ。

フレディ・マーキュリーは次のように説明している。「‘Breakthru’は元々ロジャーから生まれた曲で、実際、基本的には彼のトラックなんだ。だけど冒頭のアカペラ風ヴォーカル部分は、前にも言った通り、別の人間が書いている。僕らの手元には30曲あったんだけど、その短い部分は中々の出来だと僕は思っていたから、“ねえ、どうかな、それを‘Breakthru’の前に置いてみようよ”と言ったんだ。要するに、基本的には別の曲なんだけど、そこにぴったり収まっているように思える。だから切り貼りして繋いだんだ」。

このコラボレーション法は、「Rain Must Fall」でも功を奏している。フレディ・マーキュリーの明らかに自伝的な歌詞は、実際にはむしろ日記の記述のようだ(「君は成功を収め、称賛を得た/けれど、どんな人生にも多少の雨は降るものだ」)。それがジョン・ディーコンの溌剌としたメロディに乗り、更にロジャーの電子ドラム・キットによるラテン・パーカッションのエフェクトが加えられている。

苦い思いが描かれているブライアン・メイの「Scandal」は、彼の私生活での出来事にマスコミが干渉してきたことに対する反撃だ。ここではジョン・ディーコンのベースではなく、デヴィッド・リチャーズのシンセ・ベースがフィーチャーされているが、それを除けば典型的なクイーン・スタイルで、ブライアン・メイのギター・ソロとフレディ・マーキュリーのヴォーカルはファースト・テイクが採用されている。全英チャートで25位を記録したこのシングルは、当時英国で流行していた音楽の傾向とは全く異なるものであった。

夏の雰囲気を漂わせる軽妙でポップな「My Baby Does Me」は、アナログ盤の最後の曲「Was It All Worth It(邦題:素晴らしきロックン・ロール・ライフ)」と完全な対比を成している。爆発的なリフ、エレクトロニック・オーケストレーション、ゴングやティンパニの音が盛り込まれた派手な後者はキャリアの概要が描き出されており、激しく震動するノイズで『The Miracle』に幕を降ろす。

CDに投資した人には、更に「Hang On In There」と「Chinese Torture」、そして「The Invisible Man」の12インチ・ヴァージョンという追加3曲が提供された。このうち最も大きなインパクトがあったのが「Hang On In There」である。伝統的スタイルの壮大なメタル・ロックであるこの曲は、ザ・フーや、チープ・トリック、レッド・ツェッペリンを彷彿とさせながら、ニュー・メタルをも予見させている。

英国の批評家の中にはクイーンを酷評する者もいたが、米国や他の国々では、若き未来のロック・スター達が、クイーンの影響とレガシーとを正当に評価。そこには、カート・コバーンや、ガンズ・アンド・ローゼズ、スマッシング・パンプキンズ、トレント・レズナー、ジョン・グラント、トム・ヨーク、ミューズらが含まれていた。

フレディ・マーキュリーが病に罹っているというニュースが明るみに出たのは、『The Miracle』がリリースされた時だ。その後間もなくして、“innuendo”(=真意説明、風刺、ほのめかし)が企てられることになる。本作は1989年6月3日、全英チャート首位に立った。だがフレディ・マーキュリーが断続的に体調を崩し、初期段階のHIV治療を受けていたため、迫り来る1990年代を前に、かつてのような祝賀会を催す余裕は恐らくなかったことだろう。

 

– Max Bell

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