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スコーピオンズ最大のヒット曲「Wind of Change」: “変革の風”を歌い今にも伝わる平和の歌

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2022年2月25日に発売となった7年ぶりの新作アルバム『Rock Believer』が話題のスコーピオンズ(Scorpions)。そんな彼らが1990年に発売したアルバム『Crazy World』に収録され、翌年シングルとして発売された「Wind of Change」が今改めて注目されています。

ベルリンの壁崩壊やソ連崩壊、終わろうとしていた冷戦のただ中、平和を歌ったこの楽曲について、音楽評論家の増田勇一さんに寄稿いただきました。

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【和訳MV】スコーピオンズ – ウィンド・オブ・チェンジ / Scorpions – Wind Of Change

 

絶賛されている新作アルバム

スコーピオンズの新作アルバム『Rock Believer』がまさしくロック信奉者たちの熱烈な共鳴を集めながら、快調な動きを見せている。ここ日本での好調さもさることながら、バンドの出身国であるドイツのアルバム・チャートでは2位を記録。この老舗バンドが根強いどころではない支持を獲得し続けていることが実証されている。

1972年に『Lonesome Crow』と題されたアルバムで世に出てから半世紀に及ぶ長い歴史において、彼らはどんな時代にも強力な楽曲を発表し続けてきたが、この最新作に収録されている楽曲たちも今後、確実に彼らの名曲・必殺曲リストに名を連ねていくことになるはずだ。

実際、まだリリース直後の時期であるだけに当然のことではあるのだが、Spotifyなどを覗いてみると彼らの人気曲の上位にはこの『Rock Believer』からの楽曲がいくつもひしめいている。ただ、そんな中でひときわ根強い人気を長きにわたり維持し、再生回数を伸ばし続けているのが「Wind Of Change」だ。この楽曲は1990年11月にリリースされた彼らにとって11作目のオリジナル・アルバム『Crazy World』に収録されていて、1991年1月に同作からの第3弾シングルとして登場したもの。このシングルが従来以上に幅広く各国で人気を集めたことが、同アルバム自体の息の長いロングセラーに繋がっている。

空前のヒットとなった「Wind Of Change」

なにしろこの「Wind Of Change」は全米シングル・チャートで4位を記録しているのみならず、イギリスで2位と両国での自己最高位を大きく更新、そして母国ドイツをはじめとする欧州各国で首位を独占しており、ことにドイツでは同国のアーティストによるシングル・セールスの史上最高記録を樹立しているほど。しかもアルバムに収録されているオリジナル・ヴァージョン以外にスペイン語、ロシア語によるヴァージョンも発表されている。つまり、そうした言語圏で高い需要があったということに他ならない。

Scorpions – Ветер перемен[Wind of Change](russian version

では、何故この楽曲がそれほどまでに広く愛されることになったのか? もちろんそれはバンドのフロントマンであるクラウス・マイネの作によるこの楽曲自体の普遍的な魅力によるところが大きいわけだが、この歌詞が当時の彼だからこそ書き得たものだったこと、そしてその内容に当時のヨーロッパの情勢に重なる部分があった事実も忘れるわけにはいかない。

発売された当時の時代背景

この「Wind Of Change」は、1989年にモスクワを訪れた際の印象をクラウスが綴ったところから生まれたもので、「モスクワまで行き/ゴーリキー・パークで変革のうねりに耳を傾けた」という意味合いの歌い出しから始まる詞の内容も、当時の旧ソビエト連邦のグラスノスチを祝うものとなっている。

スコーピオンズは1988年に、前作アルバムにあたる『Savage Amusement』に伴うツアーでいち早くソビエトを巡演している。これはいわゆる西側のバンドとしては、前年末にレニングラード公演を実施しているユーライア・ヒープに次ぐものだった。1989年にモスクワで実施された『Moscow Music Peace Festival』にも、彼らはヘッドライナーのボン・ジョヴィに次ぐポジションで登場している。クラウスはそうした際に現地で体感したことを歌詞にしたのだった。

Scorpions – Blackout (Moscow Music Peace Festival 1989)

当時のインタビューで彼は「言葉では表現できないようなインスピレーションを受けた」と語っている。彼は特に政治的なことを書こうとしたわけではなく、ソビエトでドイツのバンドが英語で歌い、それに合わせて現地の大観衆が歌っているというさまに感銘を受け、純粋にそれに触発されたのだった。しかも、それからほどなく彼らの母国ドイツでは、いわゆるベルリンの壁が崩壊に至っている。

そうしたムードはソビエトやドイツに限ったものではなく、つまり当時の欧州にはまさしく“変革の風”が吹いていたというわけだ。だからこそ歌詞の物語の舞台がモスクワではあっても、この曲は彼らの母国では東西ドイツ統合を象徴する楽曲として人々に愛され、国や地域を問わず変革や平和を象徴するものとして浸透してきたのだ。

一般レベルの大ヒット

話は少しばかり横道に逸れるが、日本でも昨年公開された『ロード・オブ・カオス』というブラック・メタル界の実話をもとにした映画の中で、登場人物のひとりが、着用していたジャケットにスコーピオンズのロゴ・パッチを縫い付けていことから“ポーザー”よばわりされる場面がある。

彼らはいわゆる軟派なバンドでは決してないし、スコーピオンズ・ファンであることで“にわかメタル・ファン”呼ばわりされるというのは納得しにくいところではあるが、実はその場面は1991年当時を描いたもの。つまり「Wind Of Change」が世間一般に認知され、普段はメタルを聴かないような層にまで口ずさまれ始めていた当時にあたる。その頃、物語の舞台であるノルウェーのヒット・チャートでもこの曲は1位になっている。

究極のブラック・メタルの帝王を目指す登場人物からすれば、スコーピオンズは「老若男女から支持される、平和の象徴のようなバンド」であり、自分たちとは真逆の存在だったのだろう。これは逆に言えば、それくらい彼らの存在が一般レベルにまで浸透していたことの証でもある。

楽曲制作背景

この「Wind Of Change」の誕生には、スコーピオンズ自身にとっての変革とも重なるところがある。彼らのサクセス・ストーリーの立役者のひとりにドイツ人プロデューサーのディーター・ダークスがいる。両者は足並みを揃えるようにお互いを高め合ってきたはずだったが、あまりに長きにわたり制作現場を共にしてきたことで、次第にディーターが独裁的な態度をとるようになり、彼との決別を経たうえで制作されたのが『Crazy World』だったのだ。そこでバンドは、長年の共闘体制の下で失われつつあった創作上の自由度を取り戻す結果となった。

しかも当時のクラウスはあまり作曲について積極的ではなく、バンドのメイン・ソングライターであるルドルフ・シェンカーにそれを全面的に任せていたが、そこでの制作体制の変化もまた、彼が「Wind Of Change」を書き上げるうえでの後ろ盾となった。

当初、彼はそれをあくまで自分の記憶のために形にして残しておこうと考えていたのだという。そこで彼の背中を押したのが、当初このアルバムのプロデューサーに起用される予定だったブルース・フェアバーン(結果的にはキース・オルセンを起用)であり、ソングライターのジム・ヴァランスだったのだ。ボン・ジョヴィやエアロスミスとの仕事で知られるフェアバーンは当時の売れっ子プロデューサーのひとりで、このタイミングでのコラボレーションは叶わなかったが、彼らの次なるアルバム『Face The Heat』(1993年)でプロデューサーを務めている。

また、この曲は象徴的な歌詞やメロディのみならず、口笛が効果的に用いられていることでもよく知られているが、ルドルフは当初、「楽曲自体は素晴らしいと思ったが、あの口笛だけはどうしても好きになれなかった」のだという。しかしそのパートをギターや他の楽器に置き換えてみてもまるでうまくいかず、いわば少しばかり妥協する形で世に出ることになったのだが、のちにラジオでこの楽曲を耳にして、口笛の印象度の高さによりこの曲が際立ったものに聴こえることに気付かされたことを認めている。

 

現在にもつながるメッセージ

さて、スコーピオンズの代表曲のひとつであると同時に、異文化を繋げ得るコミュニケーション・ツールたる楽曲の代名詞に数えられるべき「Wind Of Change」の背景についてあれこれと書いてきたが、当時のモスクワで“音楽と平和の祭典”が開催されたのとは真逆ともいえることが現在のウクライナでは起きている。

音楽にそうした現実を変えたり緩和したりする力がどれほどあるのかはわからないが、「歴史は繰り返す」という言葉を信じるべきなのだとすれば、一刻も早く、ポジティヴな意味での変革の風が吹くことを願わずにはいられない。言葉や文化、価値観の壁を越えて人々が同じメロディを口ずさみ、口笛を重ねることができる日の早期到来を信じたいものである。

Scorpions – Wind Of Change (Live At Hellfest, 20.06.2015)

Written By 増田勇一



最新アルバム
スコーピオンズ『Rock Believer』

2022年2月25日発売
CD / iTunes Store / Appel Music / Spotify / Amazon Music




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