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アリアナ・グランデが新作『petal』に込めたもの:むき出しの怒りとあまりに人間らしい詞と歌

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Photo: Katia Temkin

2026年7月31日にリリースされたアリアナ・グランデ(Ariana Grande)の8作目のスタジオ・アルバム『petal』は、『thank u, next』以来の売上枚数で全米チャート1位となり、全英などを含めて19か国で1位を獲得した。

“他人が作った私と決別する”ことがテーマとなる新作アルバムの発売記念として公開してきた、辰巳JUNKさんによるアリアナのキャリアを振り返る短期連載、最終回となる第4回は、新作アルバム『petal』について。

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アリアナ・グランデ、2年ぶりの新作アルバム『petal』7/31発売決定


 

「むき出しの怒り」をはじめて歌う

映画『ウィキッド』シリーズ(2024〜2025)を大ヒットさせ、アカデミー賞にもノミネートされたアリアナ・グランデ。歌唱でも演技でも最高峰に輝く快挙のかたわら、プライベートの離婚騒動も重なって噂や詮索の類も増えていった。

こうした制御不能な評判をめぐる問題が、直近二枚のスタジオアルバムにも反映されている。前作『eternal sunshine』(2024)は、真実が多層であることを幻想的に奏でたアルバムだった。一方、暗い時期につくられたという新作『petal』(2026)では反対のアプローチがとられている。

「救いが必要な世の中」でスリルを追い求めるオープニング「kiss me」では、前作の名残を感じさせるロマンチックなイントロが重く幽幻なシューゲイザーへと呑み込まれていく。これは、キャリアを通して思いやりを大切にしてきたアリアナが「むき出しの怒り」をはじめて歌うアルバムなのだ。

「なぜそこまで自立した女性を嫌うの これって私の落ち度かな
自分から心を捧げてきたのはあなたたちだよね?」
(「hate that i made you love me」)

「怒り」をテーマにした『petal』を盛り立てるのが、ホラー映画の世界観。アリアナ自身が幼いころから大のホラーファンというだけあり、リードシングル「hate that i made you love me」のミュージックビデオには映画『バーバリアン』(2022)の名悪役ジャスティン・ロングが起用されている。

歌われるのは、惚れてきた相手への嫌悪感。ここで面白いのは、こだまするアンニュイなボーカルの効果もあって複数の解釈ができること。失望を表明される「あなたたち」とは、元恋人たちなのか、それともアリアナに勝手な理想を押しつける世間やアンチなのか?(なお、コンサートに来てくれるようなファンのことではないと明言されている)。

【和訳】Ariana Grande – hate that i made you love me / アリアナ・グランデ

 

 

「アーティストの闇」?

「なんて最悪な状況なんだろう アスファルトに散った花びら」
(「petal」)

「花びら」を意味する表題曲「petal」はさらに過激だ。映画『Pearl パール』(2022)、『サブスタンス』(2024)を彷彿とさせるミュージックビデオの舞台は、夢の都ハリウッド。ペッパーという名のスターの卵がオーディションを受けては門前払いを受けていく。

歌声を評価されているのに、容貌や体重に文句をつけられてきたから自分を変えたのに、今度は「やりすぎ」と見なされ落とされてしまう。そのたび、ウォーク・オブ・フェイムの通りに咲く花の花びらが落ちていく。「昔の君のほうが本物らしくて良かった」と突きつけられたら最後、沸点に達したペッパーは審査員たちを血祭りにあげる。

激しい議論を巻き起こしたこの作品で、重要な展開は最後にやってくる。それまでの惨劇は劇中で撮影されていた映画であり、悲劇のヒロインを演じていた役者こそ夢の都の頂点に立つスターだったと明かされるのだ。通りの花にしても、完全に枯れてしまったかわりに新たな花が咲いている。考察するなら、この衝撃的な映像を見た大勢が「アーティストの闇」だと確信したとしても、それが真実なのか虚像なのかは結局わからない、ということかもしれない。

Ariana Grande – petal

 

あまりに人間らしい詞と歌

アリアナ自らサウンドエンジニアリングの多くを担当した『petal』は、キャリア史上もっとも実験的なアルバムにもなっている。持ち前のゴージャスな歌唱はおさえめで、濁流のような音響の影に潜んでしまう場面も多い。いつなんどきも雑音にさらされるスターの境遇を体現しているようなサウンドスケープのなかであたたかみを感じさせるものこそ、あまりに人間らしい詞と歌なのだ。

UKガラージ風の「oh well」では友だちだと信じていた人々に「地獄行き」だと告げる。得意のトラップビートに『ウィキッド』で習得したオペラティック歌唱を乗せた「like i do」では、商品としての自分を皮肉り、ぶつけられる悪口すら自分の稼ぎに還元されると応戦してみせる。

 「いつの日か すべての種が芽吹く
凍てついた人生の可能性が あたり一面に花ひらく」

(「freak」)

「freak」のような瞬間に希望の光もさす。結局、このアルバムの本質は、これまでのアリアナの音楽と変わらない。勇敢で残酷なまでに「自分らしさ」を晒しながら、それでも目指す先は前。アスファルトに咲こうとする花のような強さなのだ。

「『petal』というアルバムは、冷たく硬い、険しいところの隙間を突き破って育まれる生命力の物語です。心の中に潜む怪物や外野の声、自分のためにならないネガティブなものと決別することについて歌っています」
(アリアナ・グランデ)

Ariana Grande – freak (official visualizer)

 

真実なのか虚像なのか

失恋ソングかアンチ批判か、真実か虚像か──さまざまな解釈ができるようにつくられた『petal』には、もうひとつ選択肢がある。期待されるイメージを演じる宿命を背負ってきたポップスターとして、本当の自分自身に語りかけている説だ。

「もう逃げなくていい ここであなたといたいだけだから」
(「nowhere, nobody」)

ポップパンクな「bad thing (bunny hop)」で「周波数」が浄化されたあと、アルバムを締めくくるのが、つかの間の安息に至る「nowhere, nobody」。これもおだやかなラブソングとして聴けるが、幼いころから困難を抱えてきた自分に寄り添う自己受容としても響く。

重なり合うロボット・ハーモニーから連想されるのは、マライア・キャリーに並ぶ生涯のアイドル、イモージェン・ヒープだろう。演劇好きの音楽少女として育ったアリアナは10代のはじめにブロードウェイに参加したことで知られるが、じつは同時期、イモージェンを真似てループマシンを手に本格的な作曲をはじめていた。このとき、歌唱、演技、さらにサウンドプロデュースの才能を兼ね備えるアーティスト像が芽吹いたのだ。

実験的な音響を主役とする『petal』は、声の才能で知られるアリアナ・グランデが秀でた耳の持ち主であることも証明したアルバムにほかならない。

Ariana Grande – nowhere, nobody (official visualizer)

 

ファンに語った今の心境

「怒り」のアルバムリリース後、休養計画を発表したことで、またしても大きな論争を呼んだアリアナ。その後のライブのMCで、自分の口から本当のことを明かした。その言葉は『petal』に流れる真実でもあるはずだ。

「世の中にどんな雑音があったとしても、この場所で私たちが分かち合っている愛よりも、私にとって現実味を持つものも、大きく響くものもありません。誰にも、私の現実をゆがめることはできません。

私が愛し、尊敬している人たちと一緒に作品を作るときの気持ちも同じです。何があっても、そのことが変わったり、私の中でゆがめられたりすることは絶対にありません。

みんなのことを愛しています。私がこれからもずっと心に留め、持ち続けていくのは、この愛です。それ以外のくだらないことは、私が背負うべきものではありません。だから、私は背負いません」
(アリアナ・グランデ)

Written by 辰巳JUNK



アリアナ・グランデ『petal』
2026年7月31日発売
国内盤CD(デラックス/通常):2026年9月23日発売
CD・LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

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