Join us

Columns

ケミカル・ブラザーズのトムとAURORAによる新ユニット「TOMORA」とは?

Published on

Photo Credit: Dan Lowe

2025年12月、英国のエレクトロニック・ミュージックの巨星、ケミカル・ブラザーズ(The Chemical Brothers)のトム・ローランズと、ノルウェーが生んだ異才の歌姫オーロラ(AURORA)という国籍も、世代も、そして音楽的背景も異なる二人による新ユニット「TOMORA」(トモーラ)が発表となった。

彼らが2026年4月17日に発売するデビューアルバム『COME CLOSER』は、単なる“コラボレーション”や“フィーチャリング”といった既存の枠組みを遥かに超えた、極めて有機的で独創的なサウンドを描き出している。本稿では、ケミカル・ブラザーズのファン、そしてAURORAのファン双方に向けて、この奇跡的なプロジェクトの全貌と、互いのアーティストが持つ深遠な魅力、そしてTOMORAが鳴らす「音」の核心に迫りたい。

<関連記事>
ケミカル・ブラザーズの20曲
ケミカル『Dig Your Own Hole』25周年記念盤発売記念、全曲本人解説
AURORA(オーロラ)ってどんな歌手? イラストによる解説

 

1. 二人の“エイリアン”の邂逅:新ユニット結成の軌跡

「私たちは、地上を歩き回る二人の小さなエイリアンのような気がする。
何か特別なものを求めてやまない、同じ飢えを持っている」

AURORAがこう語るように、TOMORAは異なる星から来たかのような二人の魂が、地球という場所で共鳴したことで生まれたプロジェクトだ。その出会いの発端は、トムが自宅のテレビでグラストンベリー・フェスティバルの映像を見ていた時に遡る。

画面越しに映るAURORAのパフォーマンスに、彼は「鋼のような強さ」と同時に「脆さ」や「美しさ」を感じ取り、一瞬にして心を奪われたという。トムは即座に「一緒に音楽を作らないか」とアプローチを試みた。

このオファーに対し、AURORAは飛び上がるほど嬉しかったが、自分自身を整えるため、あえて一週間返信を寝かせたというエピソードも、彼女らしいユーモアと芯の強さを感じさせる。その後、二人はスタジオに入り、当初は何のプレッシャーもなく、ただ純粋に音楽を作る楽しさに没頭したという。そのセッションは2017年頃から断続的に行われ、当初はリリースを目的としない、互いのクリエイティビティの休暇のような時間だった。そこで生まれた楽曲「Eve Of Destruction」は、2019年に発売されたケミカル・ブラザーズのアルバム『No Geography』に収録されている。

しかし、そこで生まれた音はあまりにも特別だったため、この化学反応は、単発の共演で終わらせるには惜しいほどのエネルギーを放っていた。こうして、長い潜伏期間と熟成を経て、2026年の今、満を持して「TOMORA」という名の「地球上の友好的な相棒」が世に放たれることとなったのだ。

 

2. ケミカル・ブラザーズ:ビートの魔術師たち

AURORAのファンの中には、ケミカル・ブラザーズの名前は知っていても、その音楽性の深さまでは触れてこなかった者もいるかもしれない。トム・ローランズとエド・シモンズからなるこのデュオは、90年代から現在に至るまで、ダンス・ミュージックの最前線を走り続けているUKのレジェンドである。

彼らの最大の特徴は、ロックのダイナミズムを持ったダンス・ミュージックであることだ。単にクラブで踊らせるだけでなく、スタジアム級の熱狂を生み出し、聴く者の感情を根底から揺さぶるそのサウンドは「ビッグ・ビート」と呼ばれ、日本を含めて世界中の音楽フェスティバルでヘッドライナーを務めてきた。彼らのライブは、視覚と聴覚を同時にジャックするサイケデリックな体験であり、一度味わえば抜け出せない中毒性を持っている。

そして特筆すべきは、彼らがボーカリストの魅力を引き出す天才であるという点だ。彼らの歴史は、ジャンルを超えたコラボレーションの歴史でもある。

例えば、オアシスのノエル・ギャラガーを招いた「Setting Sun」や「Let Forever Be」では、サイケデリックなロックとブレイクビーツを見事に融合させた。

The Chemical Brothers – Setting Sun (Official Music Video) ft. Noel Gallagher

ア・トライブ・コールド・クエストのQ-Tipをフィーチャーした「Galvanize」は、中東風のストリングスとラップが絡み合う世界的なアンセムだ。

The Chemical Brothers – Galvanize (Official Music Video)

また、ベックとの「Wide Open」では、哀愁漂う歌声とエレクトロニクスが溶け合う美しいサウンドスケープを作り上げた。

The Chemical Brothers – Wide Open ft. Beck

彼らは、単に有名なシンガーを呼ぶのではなく、その楽曲が持つ世界観に最もふさわしい「声」を選び抜く審美眼を持っているのだろう。

今回、彼がAURORAを選んだという事実は、AURORAの声が持つパワーと独自性が、歴代のレジェンドたちと肩を並べる、あるいはそれ以上のインスピレーションをトムに与えたことの証明に他ならない。

 

3. AURORA:北欧の神秘と野生

一方、長年ケミカル・ブラザーズの重厚なビートに身を委ねてきたファンにとって、AURORAは「北欧の儚げな女性シンガー」に見えるかもしれない。しかし、その認識は半分正解で、半分は裏切られることになるだろう。

ノルウェー出身のAURORAは、妖精のような可憐なビジュアルと透き通るような歌声を持ちながら、その内側にはパンク精神にも通じる「強烈な個」と「野生」を秘めている。彼女の代表曲「Runaway」が世界的なバイラルヒットとなったことは記憶に新しいが、彼女の魅力は美しいメロディだけではない。

自然への畏敬、人間社会への鋭い眼差し、そして内なる感情の爆発を楽曲に込め、演劇的とも言える表現力でステージ上で解き放つのである。彼女は「戦士」のような魂を持ったアーティストだ。

【和訳MV】AURORA – Runaway【公式】/ TikTok動画をきっかけにSpotifyチャート16位へと急上昇中

AURORAがケミカル・ブラザーズの音楽に初めて出会ったのは2011年の映画『ハンナ』のサウンドトラックであり、その際に「サウンドが巨大でありながら繊細で、残酷だけど優しくて、ダークだけど遊び心があって美しい」と感じたそうだ。

実は、TOMORA結成の前段として、AURORAはケミカル・ブラザーズの2019年のアルバム『No Geography』に収録された楽曲「Eve of Destruction」等に参加している。この時、彼女はトムからの「(自分の声を)破壊してほしい」というリクエストに応え、それまでのイメージを覆すようなパワフルで攻撃的なヴォーカルを披露している。

The Chemical Brothers – Eve Of Destruction (Official Music Video)

トムが彼女に見出したのは、単なる美声ではなく、彼女の中に潜む「得体の知れないエネルギー」だった。ケミカル・ブラザーズのサイケデリックで時に暴力的なまでのサウンド・テクスチャーに対抗できるだけの芯の強さを、AURORAは持っている。彼女は決してビートに埋もれることなく、むしろそのビートを乗りこなし、支配することができる稀有なボーカリストなのである。

ちなみにAURORAらしいエピソードとして、田舎のスタジオで作業している中、AURORAが散歩に行くと言ったまま日が暮れてからも戻ってこなくなり、ヘリコプターが出動する騒ぎもあったそうだ。

 

4. アルバム『COME CLOSER』:TOMORAが鳴らすサウンド

そんな二人が作り上げたTOMORAの音楽とは、一体どのようなものなのだろうか。2026年リリースのデビューアルバム『COME CLOSER』は、両者のソロワークとも異なる、全く新しい地平を切り拓いている。

一言で表現するなら、それはスモーキーなジャズクラブで鳴り響く、巨大なサブベースのような音楽だ。トム・ローランズによるプロダクションは、ケミカル・ブラザーズ特有の快楽的な低音とグルーヴを保ちつつも、より有機的で、どこか懐かしさを感じる温かみを帯びている。そこにAURORAの、時に囁きかけ、時に叫ぶような変幻自在のヴォーカルが絡み合うことで、聴く者を異世界へと誘う。

アルバム収録曲の「RING THE ALARM」では、緊迫感のあるビートの上でAURORAが警告を鳴らすかのように歌い上げ、フロアを熱狂の渦へと巻き込む。トムの硬質なビートの上で、AURORAの声は楽器の一部のように機能し、かつ物語を紡ぐ語り部となる。

TOMORA – RING THE ALARM (Official Video)

彼らが目指したのは、完璧に磨き上げられたデジタルな音楽ではなく、人間味のある、血の通ったエレクトロニック・ミュージックだ。AURORAはトムのサウンドを「私の心に溜まっていたものを吐き出させてくれた」と独特の表現で称賛し、トムはAURORAの即興的なアプローチに「驚きと喜び」を感じながら制作を進めた。二人のベン図が重なる場所、そこにはお互いのソロでは到達し得なかった第三の場所が広がっている。

アルバムタイトルの『COME CLOSER』には、分断が進む世界において、もっと近くへ、もっと親密にというメッセージが込められている。テクノロジーが進化し、人々が孤立しがちな現代において、TOMORAの音楽はフィジカルな繋がりと感情の共有を求めている。

このデュオの名前「TOMORA」は、「TOM + AURORA」からきたものだが、AURORAはこのデュオ名について、あとから日本語で「地上の親愛なる友(friendly companion on earth):“友ら”」という意味もあるらしいと語っている。これは単なる偶然なのだろうか。

さあ、警戒心を解いて、もう少し近くへ。二人のエイリアンが奏でる、未知なる地球の音楽に耳を傾けてみてほしい。

TOMORA – COME CLOSER

Written By uDiscover Team


TOMORA『COME CLOSER』
2026年4月17日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




Share this story
Share
日本版uDiscoverSNSをフォローして最新情報をGET!!

uDiscover store

Click to comment

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Don't Miss