失敗したバンドの再挑戦:成功へのプレッシャーから生まれたマルーン5の『Songs About Jane』

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マルーン5のデビュ-・アルバム『Songs About Jane』は2002年6月25日に、特に注目を浴びることなく静かに店頭に並んだ。しかしこのアルバムは何年もかけて、世界中で1,000万枚以上の売り上げを着実に築いていくことになる。

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カーラズ・フラワーズからの転身

アルバムからのファースト・シングル「Harder To Breathe」は一番最後に出来た曲だ。アルバムの制作が終わったとメンバー達が思っていたにもかかわらず、レーベルはそれに満足せずもっと曲を要求。そのプレッシャーの中で作曲されたものだとリード・ヴォーカルのアダム・レヴィーンが後日語っている。

そして全ての駆け出しバンドがそう思うように、彼らもまた“自分達はいったいいつ注目されるのだろうか?”と不安を感じていた。というのもマルーン5のメンバーのうち4人は90年中盤から、カーラズ・フラワーズという名前のバンドで活動しており、他の多くのバンド同様カーラズ・フラワーズは成功を掴むことはできなかった。

その失敗を乗り越えるために、ジェイムス・ヴァレンタインが加入して5人組バンドとして名前をマルーン5と改名。そして作り上げたこのアルバムにはたくさんの想いが詰まっており、このアルバムで今度こそ注目を浴びなかればならないというプレッシャーもあった。

マルーン5の初の全米シングル・チャート登場曲「Harder To Breathe」は、今から振り返ると彼らにしてはロックすぎる曲で、この後ポップ・バンドとして位置付けられるマルーン5としては面白いファースト・シングルだった。

確かに、よりメロディック志向の「This Love」や「She Will Be Loved」はラジオでヘヴィ・ローテンションとなり、ソングライターのジェシー・カーマイケルとアダム・レヴィーンによる一度聞いたら心を捕えるメロディは素晴らしい。しかし「Harder To Breathe」は音楽的には少なくとも、このロサンゼルス出身のグループの背景にある“成功しなかったバンド/カーラズ・フラワーズ”のストーリーを表しているものだった。

 

『Songs About Jane』の制作

カーラズ・フラワーズの活動はたった一枚のリリースで終わってしまい、彼らには根本的な見直しが必要だった。そこにはアダム・レヴィーンと元彼女のジェーン・ハーマンとの関係は、12曲の力強い新曲を残すほどの起爆剤となった(アルバムタイトルの「Jane」はその彼女からとっている)。

新しいレーベルであるオクトーン・レコードと今やお馴染みとなったバンド名のマルーン5はバンドが成功するために必要な要素をすべて揃えていた。カーラズ・フラワーズと違い、マルーン5が生み出した楽曲は、徹底的にインディ・ロックで、クリーンだけども実際には、ソウル・ファンクとクラシックなポップ・ロックのよりエクスペリメンタルな混合物だ。そしてファースト・シングルの「Harder To Breathe」はカーラズ・フラワーズの楽曲と、『Songs About Jane』からの最初のヒット・シングル「This Love」との懸け橋になった。

「This Love」は素晴らしくキャッチーなコーラスと共に、殆どのポップ・ソングライターが一度もたどり着くことができない、一生に一度生み出さればよいぐらいの最高なリフがある。この曲がマルーン5をスターダムに押し上げ、ソフィー・ミュラー監督による官能的なプロモーション・ビデオもあいまって、アダム・レヴィーンをフォトジェニックなフロントマンとして際立たせた。「This Love」は元彼女に対する中傷的な当てつけと性的関係を歌った曲だったので、世界的な成功にきっとジェーンも赤面したことだろう。

 

続くシングルヒット「This Love」「She Will Be Loved」

「This Love」はUKでは3位、アメリカでは5位に食い込んだ。そして続くシングル「She Will Be Loved」はこのアルバムのもうひとつの大ヒット曲となった。この曲はより優しいグルーヴを持ち合わせ、バンドの魅力が大人でも十分聴くに耐えうるものであることを示してみせた。加えて、この曲でマルーン5は型にはまらないグループであることを証明し、曲の成功に大きな影響を及ぼすラジオ番組の制作者たちはこの曲が持つ幅広い音楽性のため、ジャンル分けについて常に頭を悩ませていた。(*アメリカのラジオ局/番組では細かいジャンル分けがされている)。

ジャンル分けの問題があったもののラジオでは、クラシックなスティービー・ワンダーのひらめきや、ザ・ローリング・ストーンズのギター・リフのエッジを合わせ持つマルーン5は非常に好意的に受け入れられた。そこに、今も続く彼らの重要な決め手が転がっている。それは、どのような音楽の方向性であっても心地よく感じさせるアプローチと多種多様な音楽的影響をひとつに融合させる演奏能力である。これはライアン・デューシックの素晴らしいドラミングを中心に、高校生バンドではできない年を経たグループが確信を持って築き上げてきた演奏力のたまものでもあり、創設当時からマルーン5が固めてきた方法でもあった。

 

その後に続くシングル「Sunday Morning」や「Must Get Out」はバンドの領域を広げながら、演奏の大部分はメロディックに演奏されていた。しかし「Shiver」といったアルバム曲では、むしろ少し鋭い、ひっきりなしのブルース・ジャムが曲全体をかきまわしている。リード・ギターのジェイムズ・ヴァレンタインとベースのミッキー・マデンはこれらの曲で本領を発揮している。

『Song About Jane』はミュージシャンのためのアルバムだとも言われてきた理由は作曲能力だけではなく、バンドの演奏力がワールドクラスという良いこともその理由のひとつだ。

ミッドテンポのバラード曲でシングル・ヒットを生み出す一方、「Through With You」では他の曲を裏打ちする憤りを感じた強烈さを隠さずストレートに表現している。そこではアダム・レヴィーンの豊かで、カリスマ性のあるヴォーカルが歌詞に含まれた悪意をまるで蜂蜜で包んでいるようだ。

最近ではテレビ番組シリーズ『The Voice』の審査員としても成功し、どんなにゴシップ記事が出回っても、彼は頼りになるいいやつとしての理想的なタイプであると気づくだろう。

きっとシングルで出していたとしてもヒットしなかったであろう美しい「Secret」での、シンプルな楽器編成と辛辣な歌詞が『Songs About Jane』の持つ真実を明らかにする。そして『Songs About Jane』はカーラズ・フラワーズの日々と比べると非常に異なる結果となった。シングルごとに観客を増やし、マルーン5は切れ目なく激しいツアー・スケジュールをこなすことになる。

しかし、どんなに成功したとしても、この名作を作り上げる原動力となったのは、マルーン5が彼ら自身にかけていたプレッシャーから生まれたインスピレーションであることには間違いないであろう。

Written by Mark Elliott



マルーン5『Song About Jane』
2002年6月25日
LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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