Stories
ニール・ダイアモンドと『The Jazz Singer(ジャズ・シンガー)』:映画の失敗と音楽の成功

2026年4月17日にニール・ダイアモンド(Neil Diamond)の実在したカバーバンド夫婦をヒュー・ジャックマンとケイト・ハドソンが演じる映画『ソング・サング・ブルー』が公開される。
この公開にあわせてニール・ダイアモンドの経歴や楽曲、アルバムなどを振り返る記事を公開中。今回はニールが主演と音楽を担当した1980年の映画『ジャズ・シンガー』について。
<関連記事>
・ニール・ダイアモンドの解説と映画『ソング・サング・ブルー』まとめ
・ニールの人生:売上1億3,000万枚以上、米音楽界の至宝の経歴と名曲
・ニールのトリビュート・バンドの映画『ソング・サング・ブルー』公開
“二流の役者になるくらいなら、本当の歌手でいよう”
ニール・ダイアモンドに映画『ジャズ・シンガー』の話題を振れば、彼は何とも言えないリアクションをするだろう。リチャード・フライシャーが監督した1980年の同名映画に出演したことで彼はゴールデングローブ賞での主演男優賞やオリジナル歌曲賞のノミネートと並び、ゴールデン・ラズベリー賞(物議を醸したハリウッド映画のパフォーマンスを”称える”冗談半分の映画賞だ)を獲得することになった。
一方で彼が制作したサウンドトラック盤は文句なしの大成功を収めたのだ。そのアルバムは現在までに600万枚以上を売り上げ、名作の評価をほしいままにしている。それゆえ、ダイアモンドがのちにこう語ったのも無理はない。
「『ジャズ・シンガー』の撮影中に、“二流の役者になるくらいなら、本当の歌手でいよう”と決意したんだ。“自分の音楽、自分のレコード、自分のコンサートに集中しよう”とね」
好評となったサントラと収録曲
この映画は、アル・ジョルソンが主演を務めた1927年の名作をリメイクしたもの。ニューヨーク生まれのダイアモンドは、ローレンス・オリヴィエ演じる威圧的な父の礼拝堂で歌う若きユダヤ教先唱者、ヤッセル・ラビノヴィッチを演じた。彼は同作の制作時点で40歳目前だったこともあり、相当な勇気をもって役者業に挑戦していた。しかも彼はその直前まで、脊椎の腫瘍の切除手術を受けた影響で長期の車椅子生活を送っていた。
完成した映画の評判は芳しくなかったが、そのサウンドトラック・アルバムは1980年11月10日のリリース直後から好セールスを記録。「Love On The Rocks」「Hello Again」、そして愛国心溢れる「America(自由の国アメリカ)」など、感情のこもった収録曲もヒット・チャートに入った。
ダイアモンドはソロ・アーティストとしてデビューする以前に作曲家として優れた実績を残していた。彼は大学を中退したのちニューヨークのティン・パン・アレーで曲を書いて生計を立て、その間にウィーヴァーズというフォーク・グループの音楽を通じてギターを習得していた。
少年時代の彼が最初に買ったレコードの1つにエヴァリー・ブラザーズの作品があった。中でも彼のお気に入りは、本人が「美しく、とてもメロディアスな楽曲」と評する「Let It Be Me」だったという。そしてその原曲は、フランク・シナトラやジュディ・ガーランドにも楽曲をカヴァーされたシンガー、ジルベール・ベコーがフランス語で書いたものだった。
ダイアモンドは『The Jazz Singer』の制作に先立ってジルベール・ベコーにコンタクトを取り、彼とともに曲作りを行った。このサウンドトラック盤においては「Love On The Rocks」「Summerlove」「On The Robert E Lee(誇り高きロバート・E・リー)」「Hey Louise」「Songs Of Life(人生の詩)」の5曲が2人の共作だ。
中でも特に大きな成功を収めたのは「Love On The Rocks」だった。感傷的なこのラヴ・ソングはダイアモンドの代表曲になり、のちにグラディス・ナイトのヴァージョンもヒットしている。
他方、移民たちの抱く希望と不安を描いた「America」は、リスナーの愛国心をくすぐる心憎い1曲。“はためく星条旗”が登場する歌詞やキャッチーなコーラス・パートも相まって、こちらもダイアモンドのキャリアを象徴するアンセムになった。
このアルバムにはユダヤ教の聖歌(「Adon Olom」)も収められており、30秒ほどの同曲はコンパクトな楽曲が並ぶ全13トラックにおける間奏曲として機能している。実際、収録曲のほとんどは3分足らずだが、甘く深みのある彼の歌声の力でどれも心に響く仕上がりとなっている。
「You Baby」は軽快かつウィットに富んだナンバーで、「On The Robert E Lee」はジャジーであると同時に風変わりな1曲。そして「Summerlove」は単純によく練られたポップ・ソングと言える。それらすべての魅力が結集することで、同作は5×プラチナに認定されるほどの成功を収めたのだ。
それに加え、アルバム『The Jazz Singer』はそのギター・ワークにおいても賞賛に値する。同作で主にギターを弾いているのは、23年に亘りマーク・ノップラーと仕事をしていたことでも知られるリチャード・ベネットだ。70年代にダイアモンドのバンドの主要メンバーとして活躍した彼は、ベラミー・ブラザーズが1975年に放ったヒット曲「Let Your Love Flow(愛はそよ風)」でも楽曲の肝となる素晴らしいプレイを披露している。
ダイアモンドは一流のミュージシャンたちを集めることを好んだ。例えば長年に亘って彼のバンドに在籍したアラン・リンドグレン(このサントラ盤ではシンセサイザーとピアノのほか編曲も担当)はフランク・シナトラとの共演歴を持つ名手。また、愛らしい楽曲である「Acapulco(アカプルコの青い海)」はギタリストのダグ・ローンとの共作曲だ。
ダイアモンドは映画『ジャズ・シンガー』に出演した際、新人俳優としては史上最高クラスのギャランティー(実に350万ドル)を受け取った。だが、本人がCNNの「Larry King Live」に出演して語ったところによれば、これは愉快な経験ではなかったという。
「僕は制作のプロセスについて何も分かっていなかった。少し怖いと感じるほどだった。何しろ経験のないことだからね。結局、映画作りの面白味は分からないままだったよ」
映画は失敗に終わったが、その音楽は成功を収めた……。そして、アルバム『The Jazz Singer』は音楽史に残る重要作であり続けている。
Written By Martin Chilton

1980年11月10日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
- ニール・ダイアモンドの解説と映画『ソング・サング・ブルー』まとめ
- ニールの人生:売上1億3,000万枚以上、米音楽界の至宝の経歴と名曲
- ニールのトリビュート・バンドの映画『ソング・サング・ブルー』公開
- ニール・ダイアモンド『12 Songs』解説:リック・ルービンと完成させた傑作
- ニール・ダイアモンドの「Cherry Cherry」と「I’m A Believer」の不思議な関係
- プレスリーやニール・ダイアモンドらのドラムを務めたロン・タットが逝去
- 1960年代のベスト・ソング100:音楽の未来を変えた10年間に生まれた名曲とその解説
- 【動画付】洋楽ベスト・カヴァー曲ランキングTOP25とオリジナル




















