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メガデス『Youthanasia』解説:世界“最速”ではなく世界“最高”のメタル・バンドになろうとした1枚

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1983年の結成当初、メガデスはほかのどんなスラッシュ・メタル・バンよりも“速い”サウンドを武器にしていた。しかし『Youthanasia』をリリースした1994年の彼らは、まったく別の姿へと変貌を遂げていた。

1992年にリリースした前作『Countdown To Extinction』は、メタルらしい音作りを保ちながらも演奏スピードがグッと遅くなった作品だった。その曲作りは一層クリエイティヴなものになり、同作は全米アルバムチャートで2位を記録。世界中のアリーナを回ったツアーの助けもあって、ロサンゼルス出身のメガデスは一躍メインストリームに躍り出た。だが同時に、次作でもそれに匹敵する成功を得ることへのプレッシャーも高まっていた。

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新たな制作アプローチ

デイヴ・ムステインは『Youthanasia』の制作に先立ち、薬物を絶ち続けるためアリゾナ州フェニックスへと移り住んでいた。だがそれも長続きはせず、グループのフロントマンである彼は再び依存症治療のリハビリを経験。それからアルバムの曲作りを開始していた。

そうした背景がありながらも、同アルバム制作時のメガデスはキャリア史上もっとも安定した時期を迎えていた。『Youthanasia』は、メガデスの“黄金期”のラインナップが揃ってから3作目となるアルバムだった。

レコーディング中にバンド内の衝突がなかったわけではないが、ムステインも他のメンバーと緊密に連携すべく、建設的に物事を進めていった。また、プロデューサーのマックス・ノーマンの提案で、メガデスはアルバムの演奏スピードを『Countdown To Extinction』より更に落とし、力強い歌のメロディやラジオに適した楽曲構成に重点を置くことにした。

その手法が彼らのサウンドを損なうのではないかと思う人がいるのなら、アルバムの冒頭を飾る激しい1曲「Reckoning Day」を聴いてみて欲しい。それだけで、メガデスの本気が伝わるはずである。

Megadeth – Reckoning Day

「Reckoning Day」は、シンプル志向のアプローチがパワフルなサウンドを損なっていないことの何よりの証明である。強力なメイン・リフの明快さはそれだけで楽曲の大きな魅力になっており、これ見よがしのギター・ソロや難解なギター・プレイに頼る必要性を感じさせない。それに加え、この頃のムステインはメガデス全員で一丸となって演奏することを学びつつあった。リズム・セクションの2人と、もう2人の名ギタリストたちとの距離はこれまでにないほど縮まっていたのである。

だからといって、『Youthanasia』には派手なギター・プレイが一切ないわけではない。例えば「Train Of Consequences」では、マーティ・フリードマンが速弾きのギター・ソロを披露。同曲のいかにもラジオ向きなロック・サウンドとの絶妙なバランスが、確かなメガデスらしさを演出している。

Train Of Consequences (Remastered 2004)

また、「Addicted To Chaos」では、ゆったりとしたテンポと引き換えにフリードマンとムステインが絡み合うようなギター演奏を聴かせる。「A Tout Le Monde」は一歩間違えばバラードになりそうな1曲だが、フロントマンのムステインが唸るようなヴォーカルでメタルの世界へと引き戻してくれる。

Megadeth – A Tout Le Monde (Official Music Video)

 

社会問題への意識の高まり

『Youthanasia』では全体を通して、シンプルな作風がメガデスに新たなパワーを与えている。「Elysian Fields」や「The Killing Road」もその好例で、リフやグルーヴの一音一音がはっきりと演奏されるようになった。これは、機関銃のごとく猛烈なスピードでメタル・サウンドを展開していた過去の作品とは対照的といえる。

「Blood Of Heroes」には以前のアルバムにもあった軍事的な題材との継続性も感じられるが、メガデスにとって通算6作目となる同作の特徴のひとつとして、社会問題への意識の高まりが挙げられる。そのタイトルは安楽死を意味する“euthanasia”に若さを意味する“youth”を組み合わせた造語で、暴力やドラッグが横行する若者世代の未来を案じるムステインの想いが表れている。

Blood Of Heroes (Remastered 2004)

自らのグループを結成して10年を経たデイヴ・ムステインは、世界“最速”のメタル・バンドの一員であることに固執しなくなっていた。彼は世界“最高”のメタル・バンドの一員になる野望を抱いていたのだ。現在に至るまで、メガデスがライバルであるメタリカに並ぶ成功を手にすることはなかったが、『Youthanasia』は前作からの勢いをそのまま維持。1994年11月1日にリリースされた同作は、アメリカ国内だけで100万枚以上を売り上げ、プラチナ・ディスクに認定された。

Written By Caren Gibson



メガデス『Youthanasia』

1994年11月1日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


最新アルバムメガデス『Rust In The Sick, The Dying…And The Dead!』
2022年9月2日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Amazon Music



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