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“マカレナ”以来の現象化:ストリーミング時代のラテン・ポップのブームと過去のヒット曲を振り返る

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Photo: Universal Music Latino

ラテン・ポップはこれまでにも定期的に復活を遂げてきた。しかも、今回のブームはそう簡単には終わりそうにない。「Despacito」や「Mi Gente」などのヒット曲は、過去の記録を塗り替え、大衆の意識にしっかりと定着している中、ラテン・ポップのプレイリスト『Fiesta Latina』は、現在乗りに乗っているラテン・アメリカの創造力が、なんの前触れもなしに出現した訳ではないこと明示している。

レゲトンの情熱的なアコースティックギターのリズムとダンスホールのルーツを再発見するべく、ラテン・ポップの新星たちによるヒット・シングルを収録したこのプレイリストは、ラテン・ポップの復活を支えるダンス・パーティの人気トラックが網羅されている。

 

ラテン・ポップの復活というよりも、ラテン・ポップの襲来といったほうが良いのかも知れない。ルイス・フォンシの「Despacito」やJ. バルヴィンの「Mi Gente」といったメガ・ヒットは、1993年の「La Macarena(恋のマカレナ)」以来の現象となった。ポップ界のビッグスターであるジャスティン・ビーバーやビヨンセらをゲストに迎えた2017年のサマー・アンセムのヒットによってレゲトンは世界的に普及し、ラテン・ポップがメインストリームに復活を果たしているのだ。

2017年1月、数々のNo.1シングルを世に送り出してきた“キング・オブ・ラテン・ポップ・バラード”、ルイス・フォンシが、レゲトンの先駆者ダディー・ヤンキーとタッグを組みスペイン語で「Despacito」を発売した。海外でも人気のプエルトリコ出身のビッグ・スターによるコラボレーションは、ラテン・アメリカ各国のチャートを席巻し、ビルボードのホット・ラテン・ソングには2位で初登場した。

Luis Fonsi – Despacito ft. Daddy Yankee

その後、ジャスティン・ビーバーが英詞のリミックスを彼らに打診したことから、世界中のジャスティンのファンにもこの曲が知られるきっかけとなる。そうして同年4月、ジャスティン・ビーバーをフィーチャーした「Despacito」のリミックスがYouTubeで公開されると、完全なるポップ作品として制作された同曲は予期せぬクロスオーヴァー・センセーションを巻き起こし、世界規模で商業的な成功を収めつつ、史上最もストリーミングされた楽曲となった。

Luis Fonsi, Daddy Yankee – Despacito (Remix) (Official Audio) ft. Justin Bieber

 

「Despacito」は、英語以外の外国語楽曲として珍しい全米No.1を獲得した他、マライア・キャリー&ボーイズIIメンによる「One Sweet Day」の全米1位最長記録と並ぶ快挙を達成し、ラテン・アメリカの音楽がメインストリームで成功を実現できることを証明した。

ではラテン・ポップスの歴史を少し振り返ってみよう。

フルーツ・ハットで知られるブラジル人女優でシンガーのカルメン・ミランダが、40年代に映画を通して初めてラテン音楽をアメリカの観客たちに紹介した。今では忘れ去られてしまっているが、彼女が英語とポルトガル語の両方を歌詞の中に取り入れたことでサンバが脚光を浴び、大陸を越えた知名度を獲得したのだ。

デジ・アーナズやザ・チャンプスも同様のアプローチをとったが、実際にポップスのメインストリームにラテンのサブジャンルを導入するための基礎を築いたのは、リッチー・ヴァレンスが「La Bamba」を発表した1958年10月のことだった。全米でヒットを記録した「Donna」のB面に収められていた「La Bamba」は、メキシコの伝統的なフォークソングをロック風にアレンジしたもので、全編スペイン語で歌われている。アメリカでは思いがけないヒットとなり、このラテン・アンセムは全米チャートで最高22位にランクインし、1987年にはヨーロッパのチャートでもリバイバルヒットになるなど、リッチー・ヴァレンスはこの世を去った後も成功を収めることになった。

La Bamba

今や広く知られているホセ・フェリシアーノのクリスマスの名曲「Feliz Navidad」は、フラメンコギターを全編に取り入れ、スペイン語と英語を継ぎ目なく織り交ぜている。それまでにもラテン・ポップ以外のアーティストは自身のヒット曲を海外にも広めようと試みてきたが、スペイン語と英語の両言語でアルバムをリリースしたラテン・アーティストはホセ・フェリシアーノが史上初めてだった。

ナット・キング・コールからフランク・シナトラ(1967年のアントニオ・カルロス・ジョビンとのコラボレーションは新たな観客にボサノヴァを紹介した)、マドンナ、ビヨンセ、ケンドリック・ラマーまで、それぞれの世代のスターたちが英語とラテン・ポップ音楽を繋ぐ架け橋になろうと試みている。

The Girl From Ipanema (2008 Remastered)

「Despacito」は、いとも容易く一夜にしての成功を収めたと思われているかも知れないが、そのような文化的なクロスオーヴァーは決して簡単ではなかった。例えばラ・レイナ(女王)の愛称で知られていたセレーナ・キンタニーヤは、メキシコ系アメリカ人だったにも関わらず、全米の聴衆に受け入れてもらえるまでの道のりは長かった。

テハーノ(アメリカテキサス州に生まれ住むヒスパニック系住民)の文化と共に育ったセレーナ・キンタニーヤだったが、ラテンアメリカ人3世の多くがそうであるように、スペイン語は話せなかった。アメリカン・ポップとラテン・ミュージックの枠組みの中で受け入れてもらうことを望んでいた彼女は、ポップとクンビアを融合した曲をスペイン語と英語の両言語で歌った。悲劇にも23歳という若さで射殺されてしまったが、ビルボードのラテン・チャートとメキシコ地域のチャートで1位を獲得した「No Me Queda Más」(1994年)といったヒット曲によってラテンのアイコンとなったセレーナ・キンタニーヤは、ロス・デル・リオの世界的ルンバ・ヒット「La Macarena」をきっかけに1996年から始まったラテン・ポップ・ブームの基盤づくりに貢献した。

Selena – Bidi Bidi Bom Bom (Official Music Video)

「Despacito」のように、「La Macarena」は1997年までの約60週間にわたって世界中のチャートを席巻した。時を同じくして、ジェニファー・ロペスは自身が主演を務めたセレーナ・キンタニーヤの伝記映画『セレーナ』で大ブレイクを果たし、その翌年にはドゥルー・ヒルのラテン・スタイルの曲「How Deep Is Your Love」とルー・ベガの「Mambo No.5」がヒットを記録。

しかしながら、リッキー・マーティン、ジェニファー・ロペス、エンリケ・イグレシアス、サンタナ、グロリア・エステファン、そしてマーク・アンソニーらの存在が本格的にポップのメインストリームに浸透し、ラテン・ポップ・ミュージックの前例なき世界的ブームが始まったのは90年代後半から2000代初期に突入してからだった。

Lou Bega – Mambo No. 5 (A Little Bit of…) (Official Video)

 

そしてYouTubeやSpotifyといったストリーミング・プラットフォームのアクセスのしやすさと一般化のお陰で、ラテン・ミュージックは音楽業界において絶大な影響力のある流行を作り出す存在となった。現在のSpotifyのグローバルTop 50はラテン・ポップ・ミュージックが独占している他、YouTube上で最も再生されたミュージックビデオ10曲の内6曲はラテン関連作品となっており、その人気はしばらく衰えそうにない。

現在活躍するラテン・ポップ系アーティストたちは、ラテン・ポップのヴォーカルやグルーヴに、音楽的トレンドを融合する新たな手法を模索している。2017年の夏の終わりにヒットしたJ. バルヴィンの「Mi Gente」は、ヴォーカルのループを加工し、ラップではなく歌を取り入れたレゲトンとして存在感を放ち、そのリリックもほとんどがスペイン語(ビヨンセとフランス人DJプロデューサーのウィリー・ウィリアムが英語とフランス語を少しだけ加えている)でヴァイラル・センセーションを巻き起こした。

J Balvin, Willy William – Mi Gente (Official Video)

 

J. バルヴィンが注目すべき人物であることは間違いないが、その他にもラテン・ポップ・ミュージック界の期待の新星たちは、ラテン音楽の知られざるサブジャンルからアイデアを見出し、世界規模でカルチャーの壁を崩しにかかっている。プエルトリコ人のクリス・ジェダイは、アトランタのトラップ・ミュージックからインスピレーションを得て、伝統的ラテン音楽と特徴的な波打つベースラインとジリジリとしたスネアを融合させ、スウェーデン生まれのマペイは、ブラジリアン・ファンクを実験的に取り入れたR&Bバラードを披露する。

相互に繋がった世界に生きるこれらのアーティストたちは、これまで別々に存在していた様々な音楽の要素を一体化させている。コロンビアで生まれ、マイアミで育ったセバスチャン・ヤトラは、ロマンチック・ポップとヒップホップ、そしてトロピカル・ハウスを融合し、近いうちに世界的な脚光を浴びることが予想される。ワンリパブリックとのコラボレーション・トラック「No Vacancy」が、次の「Despacito」になったかもしれない。

OneRepublic, Sebastián Yatra – No Vacancy (Audio)

Written By Theresa Lopez



 

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