カニエ・ウェスト「Stronger」解説:ダフト・パンクのサンプルと“苦労は汝を強くさせる”と歌う代表曲

Published on

Photo: Dave Hogan/Getty Images

カニエ・ウェスト(Kanye West)は、20以上のグラミー賞と2,000万枚以上のアルバムセールスを誇る、音楽界で最も栄誉あるアーティストの一人だ。米シカゴ出身の彼は、90年代後半にRoc-A-Fella Recordsの社内プロデューサーとしてキャリアをスタートさせ、2004年の『The College Dropout』でソロ・アーティストとして頭角を現した。

しかし、カニエ・ウェストを音楽界で先見の明を持つスターへと変貌させたのは、2007年のアルバム『Graduation』、特にそのセカンド・シングル「Stronger」だった。

<関連記事>
カニエ・ウェストの新作アルバム『DONDA』徹底解説
カニエ・ウェストと宗教、そして神:アルバム『JESUS IS KING』へ至る道
カニエ・ウェスト『Graduation』:ロックとポップを織り込んだ野心作

ニーチェの引用

『Graduation』に収録されているほかの多くの曲と同様に、「Stronger」は、カニエの過去のアルバムで見られたソウルをサンプリングしたサウンドから大きく逸脱していた。その代わりに、電子楽器のような巨大なシンセサイザー、オートチューンのヴォーカル、そしてアリーナを埋め尽くすようなポップなコーラスを採用した。

「Stronger」は、ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの有名な言葉「死なない程度の苦労は汝を強くさせる / What does not kill me makes me stronger」を引用したやる気を起こさせるアンセムだったが、この曲を完成させるためには小さな軍隊が必要だった。というのもカニエはこの曲のために、8人のオーディオエンジニア、11人のミキシングエンジニア、プロデューサーのティンバランドを集め、ニューヨーク、ロサンゼルス、東京のスタジオで75以上のバージョンをミックスしたと言われている。

ダフト・パンクのサンプリング

1988年のアニメ映画『AKIRA』にインスパイアされたミュージック・ビデオを除けば、「Stronger」が傑出した楽曲である理由は、ダフト・パンクが2001年にグラミー賞を受賞したシングル「Harder, Better, Faster, Stronger」を中心に構築された心躍るプロダクションにある。ダフト・パンクのトーマ・バンガルテルは2007年にVariety誌にこう語っている。

「私たちは、“Harder, Better, Faster, Stronger”でエドウィン・バードソングによる1979年の“Cola Bottle Baby”をサンプリングしていましたが、カニエは私たちが使ったアカペラをサンプリングしたんです。これは、サンプリングした曲がサンプリングされて、それを次のプロデューサーに渡すという循環を象徴しています…私たちはいつもオープンマインドで、思いがけないつながりに興奮しています」

カニエによる「Stronger」は、サンプリング元のダフト・パンクにも新しいファンをもたらし、2008年のグラミー賞ではカニエと共にサプライズ出演した(当時、ダフト・パンクにとって初のテレビ出演でした)。そしてカニエはこの夜、最優秀ラップ・ソロ・パフォーマンス賞を受賞している。

チャートでの成功

「Stronger」はチャートでも人気を博し、UKチャートでカニエにとって初の1位を獲得し、全米シングルチャートでは2004年にトゥイスタとジェイミー・フォックスと共演した「Slow Jamz」、2005年にジェイミー・フォックスと共演した「Gold Digger」に続いてカニエ3度目の1位を獲得した。

また、「Stronger」は、『アントラージュ☆オレたちのハリウッド: ザ・ムービー』『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』といったテレビや映画のサントラに頻繁に使用され、ポップ・カルチャーにも浸透している。さらにこの楽曲は世界中のスポーツのアンセムとしても愛されている。トロント・ラプターズやニューヨーク・ジャイアンツのチーム紹介ソングとして使われたり、スポーツジムのプレイリストの定番曲となっている。

カニエ・ウェストの「Stronger」はこういった批評面と商業面での成功を持って、ティンバランドの「The Way I Are」(2007年)、リル・ウェインの「Lollipop」(2008年)、キッド・カディの「Day ‘n’ Nite」(2008年)、そしてブラック・アイド・ピーズのEDM主体のアルバム『The E.N.D.』と並んで、00年代後半に脚光を浴びたクラブ・ラップをフィーチャーしたヒップホップのニューウェーブに加わった。

「Stronger」のリリース以来、カニエ・ウェストは音楽界で最も物議を醸す才能豊かな人物の一人として君臨し続けている。『Graduation』以降、彼は10枚のソロやコラボ・アルバムをリリースし、4人の子供の父親となり、大統領選挙に出馬し、ファッションとスニーカー業界を席巻するブランドを作り上げ、その影響力を広げ続けている。

Written By Bianca Gracie



「Stronger」収録アルバム
カニエ・ウェスト『Graduation』

iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music




Share this story

Don't Miss

{"vars":{"account":"UA-90870517-1"},"triggers":{"trackPageview":{"on":"visible","request":"pageview"}}}
モバイルバージョンを終了