Join us

Stories

「ハイパーポップ」とは何か?:ネット上を席巻する最も旬なジャンルとおススメの7組

Published on

UFO CLUB Photo of PINK FLOYD, L-R: Roger Waters, Syd Barrett (back), Nick Mason (front), Rick Wright - posed, group shot, psychedelic lighting (Photo by Andrew Whittuck/Redferns)

インターネット時代に生まれた音楽ジャンルは数多くあるが、ハイパーポップ(hyperpop)やデジコア(digicore)、そうしたムーヴメントから派生したサブジャンルほどにネット上を拠点とした音楽は珍しい。

だがそもそもハイパーポップとは何か?そしてアーティストたちはどんな活動をしているのか? これはなかなか難しい質問だ。簡単に言えば、ハイパーポップは「ポップ・ミュージックを一歩引いた視点で再解釈した音楽」といえる。ポップというジャンルに関するすべて (キャッチーなサウンドや、繰り返しのメロディ) を、やりすぎなほど大袈裟に強調しているのが特徴だ。

現在は勢いを増し、メインストリーム寄りのポップ・ミュージックに接近しはじめているハイパーポップだが、その過剰なスタイルが誕生したのは2010年代中盤のこと。恐るべき才能を持ったミュージシャンたちが、アヴァンギャルドな電子音を使用した実験的なサウンドに、耳に残るメロディやハーモニーを組み合わせ始めたのだ。

パイオニアの100 Gecs

一般的に (そしてそれに相応しく) ハイパーポップのパイオニアと呼ばれているのは100 Gecsだ。同ジャンルが産声を上げたのは2010年代前半のことだったが、彼らが2019年に発表した『1000 Gecs』はインディ・シーンを席巻した。

この実験的なポップ・アルバムで、ローラ・レスとディラン・ブレイディのふたりはラップやポップ、R&B、エレクトロニック・ミュージックなど様々なサウンドを取り入れ、それらすべてが完璧に融合したカオスな音楽を作り上げた。例えばリル・ベイビー、デュア・リパ、ガール・トーク、ディスクロージャー、エイフェックス・ツインをごちゃ混ぜにしたサウンドをイメージすれば、100 Gecsのデビュー・アルバムの中身が大体想像できるはずだ。

100 gecs – money machine (Official Music Video)

 

PCミュージックとプレイリスト

だが彼らが新たな音楽シーンを形作る以前から、現在のハイパーポップに近い音楽を生み出すアーティストは存在していた。今は亡き偉大なアーティストであるソフィー(Sophie)や、A・G・クック率いるレーベル、PCミュージックから発表された2010年代中盤の作品、そしてラスティやハドソン・モホークといった実験的なダブステップのプロデューサーなどがそれに当たる。

クック率いるPCミュージックは、レーベルというより共同体と呼ぶに相応しい。所属アーティスト間のコラボレーションや、音楽の中身に重きを置くための別名の使用が活発に行われているのがその理由だ。また、PCミュージックに所属するアーティストの多くはLGBTQIA+であることから、これまで共感できるコミュニティを見つけづらかった若者たちからの支持も得ている。英インディペンデント紙は「ハイパーポップを深く理解するためには、社会におけるネット依存や、LGBTQ+の若者たちにとってのその重要性を念頭に置く必要がある」と記している。

同じく忘れてはならないのは、Spotifyの編集者であるリジー・ザボが作成したハイパーポップのプレイリストだ。2020年にニューヨーク・タイムズが論じた通り、無数の音楽が登録されている同プラットフォームはハイパーポップという概念の形成に大きな役割を果たした。

チャーリー・XCXやドリアン・エレクトラのほか、リル・ピープらSoundCloudで活躍するラッパー、ポップ・パンク、チップチューン、トランス、ブラックウィンターウェルズなど実に幅広い音楽がそこには含まれていた。共通点がないように見えるアーティストやジャンルをひとまとめにすることで、そのプレイリストは音楽ファンの関心を集めるともに、音楽業界の関係者にハイパーポップ・シーンを知らしめる手段にもなったのである。

 

ジェンダーレス

新世代のハイパーポップ・アーティストたちは、この音楽シーンが誰にでもオープンなものになるよう願っている。トランス・ジェンダーやジェンダーレスの人びとがその担い手であることを考えれば、それはごく自然なことだ。だがそれ以上に、この記事で紹介しているような同ジャンルの新たなスターたちは、インクルーシヴな社会作りやマイノリティ・グループとの積極的な連携を自身の活動において重要視している。

また、こうしたサウンドはアメリカ以外の国でも爆発的な人気を得つつある。NYLON誌はスペインのスターたちについてこう記している。

「ラッキー・リッパー、eurosanto、PUTOCHINOMARICÓN、オートチューン・エンジェルなどはこの音楽シーンにおける最重要アーティストだ。彼らが作り出す刺激的で甘いハイパーポップは、現実逃避とノスタルジーを最高のバランスで体感させてくれる」

とはいえ、この空想と懐かしさのバランスは、将来をしっかりと見据えて未来のサウンドを切り開くアーティストたちによって覆されつつある。ハイパーポップの拠点となっているソーシャル・メディアのDiscordや、まだ認知度の低いSpotifyのプレイリストに明るくない読者のために、ここではハイパーポップのシーン、ひいては音楽の未来を変えようとしている7人のアーティストを紹介しよう。

<関連記事>
ヨット・ロック:冷やかしから生まれた起源不明のサブジャンル
サイケデリック・ロック特集:ビートルズから始まった名曲たち

1. ericdoa

コネチカット出身の謙虚な19歳、ericdoaは、ヒップホップ、ポップ、エモを見事に融合させた楽曲で一躍ネット界のスーパースターに躍り出た。2021年のドラマ『ユーフォリア』のサウンドトラックに使用された「sad4whattt」や2022年の「fool4love」といったシングルでは失恋や叶わぬ恋が歌われている。

そんなericdoaのサウンドは、ハイパーポップの中でも激しい部類に入るだろう。彼はシンセやドラム・マシンの音よりも、甲高いギターの音色や高揚感のあるメロディに重きを置く。エモの実直さとパンクの衝撃を併せ持った斬新な楽曲は、マイ・ケミカル・ロマンスとグライムスを足して2で割ったような派生ジャンルの形成にも繋がった。

ericdoa – sad4whattt, from “Euphoria” an HBO Original Series (Official Video)

 

2. dltzk

専らネット上で活動するハイパーポップ/デジコア界の神童、dltzkは、フェーダー誌の取材で自分の好きな音楽を明かしている。ポップ、エモ、エレクトロニカを巧みに組み合わせた彼の音楽を聴けば、幅広いアーティストの名前が挙がっていることにも納得がいくだろう。

そこではスクリレックス、ポーター・ロビンソン、キル・ザ・ノイズ、ショーン・ワサビ、ヴァーチャル・ライオットらのほか、ポケモンやアンダーテイルなど様々なテレビ・ゲームも影響源として言及されている。

だがもっと意外だったのは、スクリレックスの『Bangarang』とチャイルディッシュ・ガンビーノの『Because The Internet』という2枚のアルバムから大きな影響を受けていたことだ。確かにdltzkの音楽には、EDMの特徴である静と動の対比や、『Because The Internet』に見られたメッセージ性の強さがどちらも含まれている。dltzkは多種多様なアーティストからの影響を取り込んで、他の誰とも違うハイパーポップの新たなスタイルを確立したのだ。

homeswitcher

 

3. glaive

glaiveという名前で活動するフロリダのティーンエイジャー、アッシュ・グティエレスは、新型コロナウィルスのパンデミックが始まった頃、SoundCloudにハイパーポップの楽曲を次々投稿して名を知られるようになった。彼はすぐに過激ともいえるほど熱烈なファンを獲得し始めたが、2021年にインタースコープ・レコードからEP『All Dogs Go To Heaven』をリリースするとその人気は一層大きなものになった。

glaiveはハイパーポップのレコード・レーベルに属さないことでも知られているが、低音重視のポップやエレクトロニカ、ヒップホップなどを融合させた華やかで楽しいサウンドは、どれだけ進化しても間違いなくハイパーポップのそれである。

glaive – astrid (official video)

 

4. quinn

運転免許を取れる年齢になったばかりのquinnは、ハイパーポップ・シーンを去ったのが惜しまれる重要人物だ。2020年に驚くべき名デビュー・アルバム『drive-by lullabies』をリリースしたquinnは一躍、謎多きハイパーポップ界の新人として知られるようになった。

当初はSoundCloudやYouTubeを活動拠点として、”p4rkr”、”cat mother”、”osquinn”といった別名で作品をリリース。しかし数ヶ月経つと、突如ネット上にアップしていたハイパーポップの楽曲を全て削除し、アンビエント・ミュージックや架空のテレビ・ゲームのBGMを制作するようになった。quinnはハイパーポップやそれを取り巻く音楽シーンに幻滅してしまったようだが、その全盛期には最高の音楽を届けてくれた。

drive-by lullabies

 

5. ブレイド (Bladee)

スウェーデン出身のラッパーであるブレイドが作品をリリースし始めたのは、ハイパーポップが爆発的に流行し始める以前の2016年のこと。だがもともとオートチューンを使用したヴォーカルや、シンセによる奇抜なメロディ・ライン、電子音を多用したサウンドなどを特徴としていたことから、やがて新世代のアーティストたちとともにハイパーポップの枠組みで括られるようになった。

彼は音楽グループ、ドレイン・ギャングのメンバーでもあり、同じくメンバーでシンガー/デザイナー/モデル/ディレクターとして活躍するEcco2kとも度々コラボしている。ブレイドの音楽はアメリカのラッパーのそれに近いものだが、そこへ電子音を中心に据えたヨーロッパ人ならではの冷ややかなセンスが加えられることで、同世代の他のラッパーにはないハイパーポップ寄りのサウンドが生まれている。

bladee – Be Nice To Me

 

6. midwxst

インディアナ州を拠点に活動するmidwxstは、ハイパーポップの中でもラップ寄りのアーティストだ。その音楽は派手な電子音やエモーショナルでパワフルなヴォーカルを含んではいるが、ヒップホップやR&Bに近いサウンドである。

そんなmidwxstはサウスカロライナ州コロンビア生まれ。GarageBandでレコーディングを始めたことから、DIY精神溢れるローファイ・サウンドがその特徴になった。彼は両親の影響で音楽に目覚めたといい、母親はTLCやアリーヤ、マライア・キャリー、ビヨンセ、デスティニーズ・チャイルドを、父親はファレル・ウィリアムスやN.E.R.D、ネプチューンズを好んで聴いていたという。

やがてJ .コール、リル・ウェイン、ナズなどの音楽に出会った彼は、ラップ/R&B界の様々なアーティストからの影響を取り入れ、”ハイパーポップ寄りのヒップホップ”という独自のスタイルを確立した。

midwxst – i know you hate me (Official Video)

 

7. aldn

ヴァージニア州レストン出身のaldnは、ほとんど一夜にしてインターネットの寵児となった。すると今度はglaiveやmidwxstなどハイパーポップ界のスターとのコラボ作品を発表。2021年のアルバム『Greenhouse』では幅広いファン層を獲得した。

独特なヴォーカル・スタイルやハイパーポップの定義を揺るがすようなサウンドが印象的な同作は、リリース時からハイパーポップの名作として賞賛を受けている。aldnが今後も進化を続けるハイパーポップ界に新たなサウンドをもたらすアーティストのひとりであることは間違いない。

aldn – i'm alright [official music video]

Written By Will Schube



Share this story
Share
日本版uDiscoverSNSをフォローして最新情報をGET!!

uDiscover store

Click to comment

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Don't Miss