ケンドリック・ラマーのベスト・ソング30:頂点に上り詰めたラッパーによる名曲たち

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Photo: Larry Busacca/Getty Images for Coachella

ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)が生み出した名曲たちは、どんな人の心にも響くものがある。王道のポップ・ソングもリスナーの想像力を掻き立て、そこに使用されたメタファーにはひとつひとつ読み込んで解釈する余地があるほど深い意味が込められている。

また、彼は黒人たちに対する抑圧の歴史を描いた政治的な楽曲も制作している。確かに、彼より人気のあるラッパーは他にもいるだろう。だが、彼ほど高い技術を持ち、バランスに優れ、リリックを細かくみても才能に溢れたラッパーは珍しい。

ケンドリックはたった数枚のソロ・アルバムで、ラップ界の頂点に上り詰めた。間違いなく彼はラップ界の王者のひとりであり、ラシュモア山に肖像を刻まれるべき人物である。そんな”K-Dot”ことケンドリックの驚くべき作品群から、たった30曲を選び抜くのはほとんど不可能に近い。

コンプトン生まれの彼は、“アルバム・アーティスト”以上の存在であり、彼が触れたものはすべて金に変わるといってもいい。前置きはこのくらいにして、我々がなんとか選出したケンドリック・ラマーの最新アルバム『Mr. Morale & the Big Steppers』以前までのベスト30曲をご覧いただこう。

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30位  For Sale? (Interlude)

いつだってケンドリックは、音楽業界で行われる駆け引きを楽曲にしてきた。ビジネスを動かす善と悪のせめぎ合いを彼は表現しているのだ。「For Sale? (Interlude)」では、ありきたりな風習に抗おうとしながらも、富の象徴としてのジュエリーや車や女性を見せびらかさねばならないラッパーたちの姿を描いている。

 

29位  ジェイ・ロック「Vice City (feat. ケンドリック・ラマー、スクールボーイ・Q、アブ・ソウル)」

ジェイ・ロックは「Vice City」で、トップ・ドッグ・エンターテインメント(TDE)の大物ラッパーたちを起用して、黒人女性たちが社会において果たしてきた役割を鋭く描いてみせた。ケンドリック・ラマーはコーラス部分で、大金を稼ぐことと浪費が招く苦難との間での葛藤を見事に表現し、こうラップしている。

I pray to a C-Note, my mama gave up hope
I can’t stand myself
I just bought a new coat, I might go broke
I can’t stand myself.
俺は100ドル札に拝む、母さんは望みを捨てた
自分のことが信じられない
俺は新しいコートを買って、破産寸前
自分のことが信じられない

 

28位  The Blacker the Berry

「The Blacker the Berry」にはあまりにパワフルなメッセージが込められているため、ケンドリック・ラマーは一流のメンバーで脇を固める必要があった。そこで同曲の楽器陣には、テラス・マーティン、ロバート・グラスパー、レイラ・ハサウェイ、サンダーキャットという面々を起用。ケンドリックはその中で、アメリカ社会に根強く残る人種差別について心から湧き上がる想いを存分に表現している。

 

27位  LUST.

ケンドリック・ラマーの『DAMN.』は、前作『To Pimp A Butterfly』よりシンプルなアルバムだった。楽曲のテーマも複雑さが薄れ、コンセプトもわかりやすくなった。

その収録曲である「LUST.」は日常に関する曲で、性欲や欲望といったものにあっけなく邪魔される日々の習慣が歌われている。ケンドリックはそのことについて思索を巡らせた後、そうした願望に身を任せるのは、好むと好まざるとに関わらず人生の一部として当たり前のことだと気づくのだ。

 

26位  Big Shot feat. トラヴィス・スコット

大作映画『ブラックパンサー』のサウンドトラックであることなど物ともせず、ケンドリック・ラマーとトラヴィス・スコットは「Big Shot」でその能力を遺憾なく発揮してみせた。ビルボード誌のインタビューでスコットは、ふたりの関係についてこう話している。

「あるときMTVビデオ・ミュージック・アワードで彼に会ったんだ。彼は俺のところに来て“ねえ、きみの音楽は好きだよ。超カッコいいし、刺激になるんだ”と言ってくれた。俺は“ワオ、世界最高のラッパーが、俺の音楽を好きだって!”って喜んだ」

そうして、ふたりのコラボは実現したのだ。

 

25位  HUMBLE.

ケンドリックは「HUMBLE.」がヒット曲になるとは思っていなかったが、彼のチームからの説得で考えを改めた。

同曲は最終的に『DAMN.』からのリード・シングルとして発表されたが、そのビートはもともとマイク・ウィル・メイド・イットがグッチ・メインのために制作したものだった。そのビートを聴いたケンドリックは、それに乗せてラップをレコーディング。ふたりはこれをマイク・ウィル・メイド・イットのデビュー・アルバム『Ransom 2』に収録することにしたものの、ケンドリックのチームはこれを彼の次のアルバムに収録するよう説き伏せたのだった。

 

24位  Hood Politics

『To Pimp A Butterfly』に収録された「Hood Politics」でケンドリックは、高めの声を使ってラップをしている。同曲は、地元と決別しようとしつつも、面倒な大人の世界との狭間で葛藤する若者の視点で描かれているのだ。

 

23位  Sherane aka Master Splinter’s Daughter

ヒップホップ史に残る名作アルバムの始まりにはどんな曲が相応しいだろう。ケンドリック・ラマーはブレイクのきっかけになったアルバム『good kid m.A.A.d. city』の1曲目に「Sherane aka Master Splinter’s Daughter」を選んだ。

これは思わずうっとりするような物語が悲劇へと変わる、ケンドリックにしか書けない1曲だ。刺激的な恋物語は徐々に危険をはらみ始め、最後にケンドリックはシェレーンの家に車で向かうが、黒いパーカーの男ふたりに取り囲まれてしまうのだ。

 

22位  ビッグ・ショーン「Control (feat. ケンドリック・ラマー、ジェイ・エレクトロニカ)」

ビッグ・ショーン、ジェイ・エレクトロニカ、そしてケンドリック・ラマーの3人が「Control」で展開するラップはその道の最高峰だ。

7分半にも及ぶ同曲は、ショーンの2013年作『Hall of Fame』に収録。そこでは3人全員が一流のラップを披露しているが、主役を奪ったのはケンドリックだった。10人ほどのラッパーの名前を挙げ、全員をラップで打ち負かすと言い放った彼のリリックは大きな物議を醸した。

 

21位  Rigamortis

ケンドリック・ラマーにはヒット曲があまりに多いため、コンプトン生まれの彼のラップの巧さは見過ごされることもある。西海岸で生まれた初期の傑作『Section.80』に収録された「Rigamortus」では、ケンドリックがその能力を存分に発揮。

ラップ・バトルで粉砕した相手を、死後硬直した遺体になぞらえた1曲である。腐敗するまで放置されることで、その体からは毒素が抜け出していくのだ。

 

20位  Poetic Justice (feat. ドレイク)

「Poetic Justice」でケンドリック・ラマーとこの曲をプロデュースしたスクープ・ドゥヴィールのふたりは、ジャネット・ジャクソンの「Any Time, Any Place」をサンプリングし、そこからまったく新しいサウンドを作り上げた。

ドゥヴィールはしばらくの間、このビートの提供先を探しており、様々なアーティスト(50セントもそのひとり)が興味を示していたという。だが最終的にはケンドリックの元に落ち着くこととなり、彼は不滅のラップ・ナンバーに変えてみせた。

 

19位  ADHD

ケンドリック・ラマーは度々、故郷であるカリフォルニア州コンプトンのことを振り返っている。『Section.80』収録の「ADHD」で彼は、薬に頼りすぎる現代のアメリカの若者を、ドラッグの使用に寛容な1980年代生まれの世代と結びつけた。

そんな同曲は、ケンドリックが”社会学者”としての力量を見せつけた初期の楽曲だ。彼はこの問題とアメリカの歴史との繋がりを示し、白人至上主義という根深い要因による影響を指摘しているのだ。

 

18位  XXX (feat. U2)

ケンドリック・ラマーがU2とコラボするとは夢にも思わなかったが、『DAMN.』のハイライトのひとつである「XXX」で彼らは実際にそれをやってのけた。同曲でケンドリックはモラルというものの曖昧さを分析しており、最後には、人間のモラルの指標は条件が揃えば崩れうるという結論に至っている。もの悲しい結論だが、間違いではない。

 

17位  Keisha’s Song (Her Pain)

ケンドリック・ラマーが2011年に発表したアルバム『Section.80』に収録された「Keisha’s Song (Her Pain)」は、初期のファンたちが彼の才能を痛感した1曲である。

ケンドリックが妹のためにレコーディングしたという同曲は、売春の経験が女性たちに植え付けるトラウマや心理的負担を描いている。そこでは売春をする女性たちを蔑視することは決してなく、多くの女性たちをそうした状況に陥らせる社会的な不平等を告発しているのだ。

 

16位  All The Stars (feat. SZA)

オールスターが集結した映画『ブラックパンサー』のサウンドトラックで、ケンドリック・ラマーとSZAが共演した1曲。そんな曲に相応しいタイトルは「All The Stars」しかないだろう。

同曲は、控えめに言ってもヒット曲になった。第76回ゴールデングローブ賞と第91回アカデミー賞ではどちらも歌曲賞にノミネートされ、第61回グラミー賞では、最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞を含む4部門にノミネートされた。

 

15位  Compton

ジャスト・ブレイズのトラックに乗せてケンドリック・ラマーとドクター・ドレーがラップするというのは、ヒップホップ・ファンの思い描く夢だった。幸運にも『good kid m.A.A.d. city』を締めくくる「Compton」でふたりのコラボは実現。ケンドリックはここでもいつもの通り、見事なライムを披露してみせた。

Fix your lenses forensics would’ve told you Kendrick had killed it
Pretend it’s a massacre and the masses upon us
And I mastered being the master at dodging your honor
レンズを直しなよ、ケンドリックが殺したことは科学捜査でわかる
まるで大虐殺さ、大衆が俺たちに襲いかかる
俺はお前らの敬意から逃れる名人なのさ

 

14位  Complexion (A Zulu Love) (feat. ラプソディー)

「Complexion (A Zulu Love)」は、大衆文化におけるカラリズム(同じ人種の中での肌の色の濃さによる差別)に光を当てた1曲。特に、カラリズムが”黒人の美しさ”の基準に与える悪影響を描いている。ケンドリックはアルバムの制作過程について語る中で、同曲の題材に関してもこのように説明している。

「黒人女性のあらゆる肌の色を表現したアルバムを作りたいと思っていた。仕方ないことだけど、明るい肌の人と暗い肌の人の間には隔たりがある。だけど俺たちはみんな黒人だ。このコンセプトは南アフリカで思い付いたもので、そこでは肌の色の異なる人々がひとつの美しい言葉を共有していたのさ」

 

13位  Institutionalized (feat. ビラル、アンナ・ワイズ、スヌープ・ドッグ)

ケンドリック・ラマーはアルバム『To Pimp A Butterfly』で、いかにも得意げな曲調の「King Kunta」の次に「Institutionalized」を配した。前者「King Kunta」は、ラップ界でまたひとつステップ・アップしたケンドリックが意気揚々と作り上げた1曲。

一方でビラル、アンナ・ワイズ、スヌープ・ドッグの3人とコラボした「Institutionalized」では、異なる世界観が展開される。この曲で彼は、『good kid m.A.A.d. city』で描いた厳しい現実が、どれだけ逃れようとしても目の前に立ちはだかることを認めている。

 

12位  DUCKWORTH

2017年作『DAMN.』に収録されている「DUCKWORTH」でケンドリックは、ストーリーテラーとしての力量を見せつけた。この曲では元ギャングでTDEの創設者でもあるアンソニー・ティフィスと、ダッキーと呼ばれていたラマーの父のことが語られる。ケンドリックがTDEと契約する前のふたりの関係を描くことで、彼はラッパーとしての自身の原点を振り返る温かい楽曲を作り上げたのだ。

 

11位  How Much a Dollar Cost (feat. ジェイムズ・フォンテレロイ、ロナルド・アイズレー)

『To Pimp A Butterfly』収録曲の「How Much a Dollar Cost」を聴けば、ケンドリック・ラマーの卓越した語り口に驚くことだろう。彼はメタファーを巧みに活用して、貧困や利己主義、神の役割などを表現してみせた。当時の大統領であるバラク・オバマが2015年のベスト・ソングに挙げたことからも、その完成度に疑いの余地はないだろう。

 

10位  Ronald Reagan Era (His Evils)

ケンドリック・ラマーが「Ronald Reagan Era (His Evils)」の舞台をコンプトンにしたのは詩的な判断といえる。なぜならそこはレーガン政権の厳しい犯罪対策に苦しんだ地域だからである。

『Section.80』に収録されたキャッチーなサウンドの同曲でケンドリックは、反抗的なラップを展開している。

We’re far from good, not good from far
90 miles per hour down Compton Boulevard
With the top down, screamin’, “We don’t give a f—k”
Drink my 40 ounce of freedom while I roll my blunt
俺たちはどこからどう見ても善良とは程遠い
コンプトン大通りを時速90マイルで飛ばしながら
オープンカーの外に叫ぶのさ、「俺たちの知ることか」って
大麻を巻きながら自由を謳歌している

 

9位  Untitled 02 | 06.23.2014.

『To Pimp A Butterfly』のリリースから間もなく、ケンドリック・ラマーは『untitled unmastered』という謎に満ちた作品を発表してファンを驚かせた。

「Untitled 02 | 06.23.2014.」は同作のハイライトで、そのサウンドは『To Pimp A Butterfly』の収録曲に近いものだった。ひとりのコンプトン市民としての顔と世界的なスターとしての顔を併せ持つ、ケンドリック自身の二面性を描いた1曲だ。

 

8位  LOYALTY. (feat. リアーナ)

ケンドリック・ラマーは「LOYALTY.」をラジオ向きの軽いヒット曲にしようと試みたが、楽曲の質を下げることが彼にできるはずもなく、批評家や文化人からも高い評価を受ける1曲になった。

リアーナが披露するフックもすばらしいが、ケンドリックはファンク/ポップ/ヒップホップを融合させたようなビートに乗せて、当初の構想を基にした自身の想いをラップしてみせている。

 

7位  Money Trees

「Money Trees」は記憶に残るリリック満載の1曲だが、次の一節はその中でも最高のものだろう。

It go Halle Berry or hallelujah
Pick your poison tell me what you do
Everybody gon’ respect the shooter
But the one in front of the gun lives forever.
ハル・ベリーかハレルヤか
お前はどちらの毒を選ぶんだ
誰もが狙撃手を尊敬するが
銃に倒れた者は永遠に生き続ける

ここではたった4小節のうちに楽曲のテーマが完璧に表現されている。ケンドリックは『good kid, m.A.A.d city』に登場する少女シェレーンとその2人の仲間との出会いに立ち戻って、どんな行動を取るべきか決断するのである。

 

6位  Backseat Freestyle

ケンドリック・ラマーがラップの名手であることは誰もが知る通りだが、『good kid m.A.A.d. city』収録の「Backseat Freestyle」で彼はとてつもないラップの才能を見せつけている。鮮やかな描写が印象的な同曲でケンドリックは、その見事な腕前に加えてユーモアのセンスまでも発揮している。

All my life I want money and power
Respect my mind or die from lead shower
I pray my d–k get big as the Eiffel Tower
So I can f–k the world for 72 hours.
生まれてからずっと富と権力を求めている
俺の考えが認められないなら、撃たれて死んじまえ
俺はアソコがエッフェル塔くらいデカくなれと願う
世界を72時間犯し続けられるように

 

5位  Wesley’s Theory (feat. ジョージ・クリントン、サンダーキャット)

ケンドリック・ラマーは『To Pimp A Butterfly』の1曲目に、ジョージ・クリントンとサンダーキャットを迎えた実に刺激的なナンバー「Wesley’s Theory」を配した。黒人アーティストを利用して利益を得るアメリカの白人至上主義、というアルバムのテーマを冒頭から提示する1曲である。

 

4位  Swimming Pools (Drank)

「Swimming Pools (Drank)」はある意味、ケンドリック・ラマーの原点といえる楽曲だ。『good kid m.A.A.d. city』からのファースト・シングルである同曲で、彼は世間にその名を知られるようになった。一緒になってアルコールを飲ませようとする周囲からの圧力に苦しむケンドリック自身を描いた”中毒性のある”楽曲だ。

 

3位  Bitch Don’t Kill My Vibe

「Bitch Don’t Kill My Vibe」が名曲であることは明らかだが、その制作は順調に進んだわけではなかった。もともとコーラス部分はレディー・ガガが歌う予定だったが、スケジュール面の折り合いがつかずコラボレーションは実現しなかった。

結果としてこの曲はケンドリックのキャリアを代表する1曲になったものの、ふたりが肩を並べていたらどうなっていたかと想像せずにはいられない。

 

2位  Alright

ケンドリック・ラマーが特にすばらしいのは、”何があったとしても結局はうまくいくはず”とファンに伝えていることだ。この曲はのちにブラック・ライヴズ・マター運動と結びつき、若者たちのデモ活動で同曲のコーラス部分が歌われることもあった。ケンドリックの考え方に揺るぎない力があることを象徴する楽曲である。

 

1位  Sing About Me, I’m Dying of Thirst

「Sing About Me, I’m Dying of Thirst」は控えめにいっても叙事詩と呼ぶに相応しい。『good kid m.A.A.d. city』の終盤に配された同曲はふたつのパートから成り、その再生時間は12分に上る。

ファンの間では、ケンドリックの最も感情豊かなパフォーマンスと評されることが多い。このランキングに関しては議論の余地があるだろうが、この曲が彼のキャリアにおける最高峰のパフォーマンスであることは間違いない。つまり、並大抵の楽曲ではないということだ。

Written By uDiscover Team


最新アルバム

ケンドリック・ラマー『Mr. Morale & the Big Steppers』
2022年5月13日発売
国内盤CD / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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