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2パック「Dear Mama」解説:複雑な感情を歌で表現する母への賛歌

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2パック(2 Pac)登場以前からラッパーは楽曲の中で傷つきやすい存在になることはあったが、彼の感情的な勇気と透明性は当時としては前例がないものだった。ニューヨーク生まれの詩人であり俳優でもあった彼は、西海岸のギャングスタ・ラップの象徴として、自分の魂と精神のあらゆる部分を歌詞の中でさらけ出し、ファンと深くつながり、同時代に生きたラッパーや後継者たちの前に立ちはだかる壁を打ち破った。

2パックは、リスナーや同業のラッパー達に、悲しみ、フラストレーション、トラウマ、不安などを恐れずに伝えても良いというライセンスを与えたともいえる。ワル達は2パック以前にも泣いていたが、彼の後ではもっと大っぴらに泣けるようになったのだ。

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2Pac – Dear Mama

 

母への愛

楽曲「Dear Mama」は、複雑な感情を歌にする2パックの才能を示す代表的な例である。曲の中では母親から家を追い出されたこと、母親がクラック中毒になったこと、わずかなお金で感謝祭のご馳走を作ってくれたこと、塀の中から母親を抱きしめることなど、母親であるアフェニ・シャクールとの関係を、シンプルかつ切実なシーンに集約して生々しく語っている。2パックは、母親の過ちを批判するのではなく、ただ現実を見ていた。シングルマザーで育つことの難しさと同時に、彼女の変わらぬ愛とサポートへの感謝の気持ちを語っているのだ。

「Dear Mama」は、2パックの最終的な行動の始まりと見ることができる1995年のアルバム『Me Against the World』の収録曲の一部に過ぎなかった。2パックは、前2作である『2Pacalypse Now』(1991年)と『Strictly 4 My N.I.G.G.A.Z.』(1993年)の詩的で過激な社会政治的主張から一転、チンピラのアウトローと同時に殉教者になっていた。

気性が荒く、妄想癖もあった彼は、あらゆるところに敵や死を見据えていた。しかし、運命的な「If I Die 2nite」と欲望に満ちた「Temptations」の間に、「Dear Mama」があった。MTVのインタビューで2パックは、ある朝トイレで「ママへのラブソング」を書き、母親に電話をかけてラップを聞かせたと語っている。また、2パックは1995年のインタビューでロサンゼルス・タイムズ紙には次のように語っている。

「俺はいつも、発売前に(ママに)曲を聴かせるんだ。なぜ僕が“Dear Mama”を書いたと思う? ママを愛しているから、ママのために書いたんだ。何か深い借りがあると思ったんだよ」

 

当時の評価の反応

「Dear Mama」がリリースされると、批評家たちはこの曲を賞賛した。The Sourceは収録アルバム『Me Against the World』に5つのマイクのうち4つを与え、「Dear Mama」を取り上げ、次のように書いている。

「もっと繊細なことを言えば、“Dear Mama”は、自分のママを愛し、厚かましくも犠牲を認めるすべてのヘッズにとって母の日のテーマとなるだろう」

ローリングストーン誌は、『Me Against the World』を称賛するレビューの中でこの曲について次のように評している。

「“Dear Mama”は、それぞれが相手を苦しめた試練を扱い、母親への愛を心から、時には厳しく捧げた作品だ」

また同誌は、『Me Against the World』は、「2パックが(彼の精神を引っ張る相反する力を)初めて正面から受け止めた」とも述べている。

 

後世のラッパーへの影響;エミネム、ドレイク、ケンドリック

「Dear Mama」(そして『Me Against the World』)の脆弱性と感情のニュアンスは、2000年代と2010年代の偉大なラッパーたちにもインスピレーションを与えている。エミネムは、2パックが「Dear Mama」をリリースしてから1年間、車の中でこの曲を聴き続けたと伝えられている(このことは、エミネムが自身のディスコグラフィーの中で、母親との波乱に満ちた関係を積極的に検証していることの説明にもなる)。

「Dear Mama」がなければ、ドレイクは「You & the 6」のような曲をレコーディングできなかったかもしれない。「You & the 6」は母親に捧げる心のこもった曲で、ドレイクの父親とのぎくしゃくした関係にも取り組んでいる。

さらにピューリッツァー賞を受賞したコンプトンのラッパー、ケンドリック・ラマーは、西海岸で育ったため、彼の文化を変えたカタログに2パックの影響があることは間違いなく、「Dear Mama」を直接的なインスピレーションとしても挙げている。ケンドリックはかつてXXL誌に次のように語っていた。

「自分を表現することを恐れずに、傷つきやすさという価値を本当に理解することができた。(俺の母は)人生でいくつかの間違いを犯したが、それでも俺が彼女を見る目を変えることはなかった…俺はそれを振り返ったとき、2パックに敬意を表するんだ」

今日、「Dear Mama」は、米国議会図書館の全米録音資料登録簿(National Recording Registry)に登録されている3つのラップ曲のうちの1つである。その理由を理解するのは簡単だ。ラップの中で最も偉大な母への賛歌である「Dear Mama」は、すべての人に、自分を育ててくれた女性を愛し、感謝し、許し、祝福するよう呼びかけている。この曲は、この世が終わるまで、毎年母の日になると鳴り響くだろう。

Written By Jim Bell


トゥパック『Me Against The World』
1995年3月14日発売
LPiTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




 

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