The 1975、ジャパン・ツアー初日の東京公演のライヴ・レポートが到着

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Photo by Jordan Curtis Hughes

2023年4月24日からジャパン・ツアーを開始したThe 1975。この初日公演となった東京ガーデンシアター公演のライブ・レポートが到着。

また、この初日公演セットリストが公式プレイリストとなって公開されています(Apple Music / Spotify / YouTube)。

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7年ぶりの単独公演

昨年のサマーソニックでは遂に初のヘッドライナーへと昇りつめ、その勢いのまま10月には5枚目となるアルバム『Being Funny In A Foreign Language』をリリースしたThe 1975。本国UKでは5作連続となる1位を獲得する等、世界中でその破格の存在感を示しているが、4月24日よりここ日本での久しぶりのヘッドライン・ツアーをスタートさせた。ここ数年はフェスティヴァルでの来日が多かったため、単独公演はなんと2016年のEX THEATER以来となる。東京、横浜、名古屋、大阪とまわるツアーは全公演ソールドアウト(一部追加席の販売あり)し、バンド過去最高規模のツアーとなる。

2013年のサマーソニック出演及びアストロホール単独公演での初来日からちょうど10年。バンドは来日を重ねる度、それまでの最高値を超えてくるライヴ・パフォーマンスで毎回日本のオーディエンスを興奮の渦に巻き込んできたが、全キャリアを網羅したベスト的選曲で堂々のヘッドライナーをつとめた昨年のサマーソニックのあのステージを超えることは相当難しいのではないかと思っていなかったかと言うと噓になる。期待が高くなり過ぎているというのもあった。

しかし、ふたを開けてみればそんなことは全くの杞憂に過ぎず、今回またしても彼らはこれまでの自己ベストを超えてくる最高のステージを初日から披露してくれた。東京ガーデンシアターに足を運んだ人すべてがそう思ったであろう。間違いなく2010年代以降に出現したバンドの中でも最重要バンドのひとつに挙げられると呼ばれる彼らだが、自らそのことを多幸感を持って証明した、そんなステージだったように思う

開演時間とほぼ同時に暗転し、エルヴィス・プレスリーの「Love Me Tender」が流れる中、ステージ背後の巨大なスクリーンに遠目に映るのはマシュー・ヒーリー(vo&g)。映像はステージ裏からの生の映像なのだろうか、画面左右には日本語の案内標示も見える。

画面には”Atpoaim”の文字が大映しになるが、これは”A Theatrical Performance Of An Intimate Moment(=親密な瞬間の劇場的なパフォーマンス)”の頭文字を取ったもので、これは最近バンドが公開しているショート・フィルムの名前でもある。その映像からマシューは消えてしばらくするとマシューがふらりとステージ袖から姿を現した。そのあまりに自然な姿にどよめく会場に向かってキーボードだけをバックに「Oh Caroline」を歌い始めるところからショウはスタート。

そして「Be My Mistake」の弾き語りを披露してなんとも自然な流れでステージ袖に向かってメンバーを呼びこむと他メンバー3人とサポート・メンバーが入ってバンドでのパフォーマンスが始まった。椅子とギター・スタンドしかなかったマシューの周りにもラグやソファー、テーブル、ライトなどが持ち込まれ、彼のリヴィング・ルームができあがるという素晴らしいオープニングの演出も見どころであった。

このオープニングの流れの自然さや気負いのなさがもたらす素晴らしさは、トーキング・ヘッズの『Stop Making Sense』を2020年代にアップデートしたような感じと表現すると大げさだろうか。いずれにせよ、このあまりに素晴らしいオープニングで、この日のライヴが格段に素晴らしいものになるであろうことはここで既に確信に変わったのであった。ステージセットは昨年のサマーソニックのものに近く、電球色と昼白色の照明で統一されている。ただし、ステージ後ろと両サイドに設置された巨大なスクリーンに映し出される映像がライヴ感をより濃く出すことを意図されているようでその映像からもよりオーディエンスの興奮度合いは高まっていった。

幸福感と開放感

バンドがステージに上がってからはサポート4人とバンド4人のアンサンブルが有機的に絡み合い、各アルバムから名曲群がバランスよく惜しげもなく披露されていく。ロック・バンドであり、そして同時にロック・バンドであることを超えることに意識的であるこのバンドが、他のバンドが選ばなさそうな様々な時代の音楽や様々なジャンルを取り入れて創り上げてきたスタイルを自由自在に鳴らしていく。

そのバンドとしての4人のパフォーマンスの基礎体力の高さとユニークさは圧巻のレベルに到達していた。サックスをあんなにもフィーチャーして様になるロック・バンドが今の世の中にどの位この世に存在するのだろうか。そしてその上にパフォーマンスの独特さだけではなく、歌に安定とブレなさのあるマシューのヴォーカルが乗る。

序盤で披露された「Looking for Somebody (To Love)」や「Me & You Together Song」の軽快さや解放感は、これが終わらなければいいのにと思わせてくれる幸福そのものだった。その一方で「Love It If We Made It」等でのラウドさ、「Sincerity Is Scary」等での雰囲気ある心地良さの表現の幅も特筆すべきポイントだった。

日本のファンとバンドとの強固な信頼関係

マシューは数曲毎にオーディエンスとコミュニケーションを取る。日本に来れたことや日本でこうやって大きな会場でプレイできることへの感謝をしきりに伝えてくれようとしていた。その姿はこの10年の間に日本のファンとバンドの間の強固な信頼関係が築かれたことの証しだったのではないか。そして、そんな姿のハイライトはライヴ終盤に訪れた。

アコギ一本を持ったマシューがギターをつま弾きながら歌い出す。それは『Notes On A Conditional Form』の最後に収録された「Guys」の一節だった。この曲はマシューが3人の他のメンバーへの感謝と愛情を綴った曲で、ここで披露されたのは同曲の「初めて僕らが日本に行った時/人生で起きた最高の出来事だった」という部分で、そこを歌ってからバンドの「I Always Wanna Die (Sometimes)」へ曲が流れていったのだ。マシューにとってはこの部分こそが彼なりに最大限の日本への愛情とリスペクトを示す表現だったのではないかと思う。

御猪口で(おそらく)日本酒を飲みながら、軽快なステップを見せるマシューの姿はまるで酔拳を操るファイターのようで、しかし歌やパフォーマンスがヨレることはなかった。そしてどこか芝居がかったようなパフォーマンスをしているようにも見えるけれど、その端々でとても人間臭い姿を見せていたようにも映った。

そんな姿は、バンドという集合体は完璧な形をしているわけではなく、そんな人間臭さを携えて前へ進んでいこうとするからある意味醜くて美しい…そんなメッセージにも受け取ることができた。そんなことがステージから発信されていたからこそ、ステージ最初と最後のスクリーン上には”Atpoaim”と記されていたのではないだろうか。

バンドは「I Always Wanna Die (Sometimes)」をアルバムで聴かせる以上にドラマティックにプレイし、その後は「The Sound」「Sex」、「Give Yourself A Try」と立て続けにプレイして会場を興奮の最高潮のピークに導きライヴは終了。アンコールはなく潔く終わった1時間55分だった。高揚したオーディエンスを見送るように会場にはシャロン・ヴァン・エッテンの「 The End Of The World」が心地よく流れていた。

最新作『Being Funny In A Foreign Language』の収録曲11曲から5曲もの曲が披露され、それ以外はこれまでのキャリア総括的な選曲となったセットリストは、今を生きるこのバンドの最新形にして最高形をまざまざと見せつけてくれた。“バンド”という生き物がもたらす幸福。

日本に来る前のツアーのセットリストを見ていると、これがフィックスのものではなさそうなので、残りのジャパン・ツアーもいろいろとプレイする曲は変わることが予想されるが、どの曲がどの順番で披露されたとしても最高なものは最高、そんな強さをもった今最高なロック・バンドの現在形を見逃さないでほしい。

 

All Photo by Jordan Curtis Hughes


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2023年4月14日発売
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