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ポール・マッカートニーの最新ドキュメンタリー『McCartney 3,2,1』で語られる10の事実

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Photo: Courtesy of Hulu

ザ・ビートルズ(The Beatles)の熱狂的なファンを悩ませるような事実が明らかになるようなことはあまりないが、時折これまでになかったような事実が明らかになる新しいドキュメンタリーが出てくることがある。2021年7月16日に米Huluで配信された6回にわたるドキュメンタリーシリーズ『マッカートニー 3,2,1』(原題:McCartney 3, 2, 1)は正にそうした映像作品の一つだ(*11/22 update: 日本ではディズニープラスにて12月22日から独占配信決定)。

このドキュメンタリーのコンセプトはシンプルだ。ポール・マッカートニーが音楽プロデューサーであるリック・ルービンと同じ部屋に座り、ビートルズやポールのソロ作品、ウイングスの曲などをかけて、それらがどのようにして作られたかについて語るというものだ。

白黒の映像で撮影され、そのスタイルは過激なまでにミニマリスティックなのだが、とても興味深い。6回のシリーズを通じて、ポールとリック・ルービンはいろいろな楽曲とヴォーカルのパフォーマンスを選び出し、ビートルズが地球上最高のロック・バンドである理由となっている細かい部分にスポットが当てられる。

ネット上でウィキペディアの内容を深掘りして読み込んだり、あちこちに存在するビートルズに関する掲示板を読み込んだりすることで、こうした新たな事実のいくつかは発見できるだろう。だが、ポール自身が「While My Guitar Gently Weeps」のギターパートの制作について、他の楽器から切り離されたソロの文脈で語るのを聴くのは、他では経験できない特別な楽しみだ。

リックが自分が語りたい楽曲の数々をポールの元に持ってくるところで始まるこのドキュメンタリーには、そうした場面がたくさんある。そこからは、二人でひたすら語りながら曲を聴くのだが、それを観ているのは素晴らしく啓発的であり間違いなく最高の時間なのだ。

このドキュメンタリーの中で我々が発見した10の最も興味深い瞬間を以下にまとめたので、是非ご覧ください。

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「マッカートニー3,2,1」|予告編|Disney+ (ディズニープラス)

1. 「While My Guitar Gently Weeps」のベースラインは史上最高のものの一つ

ビートルズ・ファンにとって『McCartney 3, 2, 1』の最もエキサイティングな点の一つは、ビートルズ・サウンドの核心にある輝きにスポットライトを当てるため、ポールとリック・ルービンが楽曲の一部を抜き出して検証するというやり方だ。

第1話の最後、ビートルズ不朽の名作「While My Guitar Gently Weeps」に関する様々な珠玉のような裏話が明らかにされた。まず、事実としてこの曲でのエリック・クラプトンの演奏は、ビートルズのレコードでメンバー以外が参加したという珍しい出来事だったという点で重要だ。続いて、ポールはクラプトンがあのクリームの伝説のギタリストだとはつゆ知らず、ジョージの”友人のエリック”がたまたま世界的なギタリストだったというだけのこと、というちょっとしたエピソードを語っている。

そしてそのエピソードの終わりに、リックが選んで抜き出したベースラインに圧倒されることになる。それはカリカリとしたファズ・ギターの音色のようで、二人のコメントなしで聴いているととてもベースの音とは気が付かないような音だ。

「こんなベースの音は聴いたことがない」とリックは声を上げ、さらに「まるで二つの曲が同時に進行しているみたいですね」と付け加える。その楽しみに参加しようと、ポールもハード・ロックっぽいボーカルを自身のボーカルラインの上に乗せて歌うことで、多くのビートルズの曲に活気を与えている要素の並存がその核心にあることが明らかになる。

「今聴くまで、そのことに気が付いてなかったなぁ」とポールはコメントし、リックもそこに同意しながらこう続ける。「この曲であのベースの音色を聴くと『何だこれ!』っていう感じですね。世界一最高なセッションプレイヤーを呼んでプレイさせても、こんなことはしないでしょうね」。ポールはリックのそんな発言に対して「そんなプレイヤーだったらもっと分別あるプレイをするだろうからね」と彼独得のドライなユーモアで遮りながら言うのだ。

While My Guitar Gently Weeps (2018 Mix)

 

2. ビートルズの曲は全てシンプル

ポールは物事を単純化しているのかもしれないが、彼によるとビートルズで書いた楽曲はみな、キーボードの「ド」の音から派生した基本的なロックンロールのピアノ・コードを実験的に使ったものなのだそうだ。

ポールは自分の好きな初期ロックンローラー達、例えばジェリー・リー・ルイスらの曲をカバーするのにいくつかのコードを覚えなくてはいけなかった。というのも、楽譜の読み書きができない自己流のプレイヤーだったからだ。そうした自分の好きな曲を演奏するのにマスターしなければいけなかったいくつかのコードを元にビートルズの曲を組み立て始めたのだ。

そこから彼は、そうした10代の頃に学んだ基礎を維持しながら、オクターブ上下の音やハーモニーを試し始めた。この法則はほぼ全てのビートルズ楽曲だけでなく、同じ構成で書かれた「Imagine」のようなジョン・レノンのソロ作品でも聴くことができる。ポールは、ジョン・レジェンドのコンサートを観た時にも、彼が一見初歩的なコードについて、同じようなバリエーションを施していたのを思い出したと番組で語る。ポールが悪戯っぽくリックに演奏して聴かせた「Let It Be」でさえも、この同じ指針に従って書かれているのだ。

Let It Be (Remastered 2009)

 

3. ビートルズはクラシック音楽からインスピレーションを得ていた

ポールの言葉によると、ビートルズはクラシックの作曲家バッハの音楽にビートを加えることによって自分達のサウンドを作り出そうとしていたという。当然ながら、ビートルズはクラシック音楽のグループではなかったが、バッハの伝説的な楽曲に、感情溢れるコードやカタルシスを産み出すようなクライマックスの要素を注ぎ込もうと努力したのだ。

番組内でポールはバッハの作品の数学的な側面を気に入っており、そういう側面を使った例として「Eleanor Rigby」で曲のコード上にその倍速の音を加えながら、全体を通じてコードが進行していく様子を説明している。

The Beatles – Eleanor Rigby (From "Yellow Submarine")

 

4. 『Band On The Run』では一人何役もこなさなければいけなかった

ポールはウイングスのアルバム『Band On The Run』の準備している頃、60年代によく使われた4弦のテナー・ギターにハマっていた。彼のレーベルEMIは世界中にスタジオを持っていたので、ポールは当時エキサイティングな音楽シーンが盛り上がっていたアフリカのナイジェリアの首都ラゴスにあるスタジオを試してみることにした。

しかしバンドがラゴスに出発しようという前日、メンバーの何人かがポールに電話してきて、ラゴスには行かないと伝えた。ポールは数分の間悩んだが、すぐにお得意の楽観指向に戻って、彼らなしでもレコーディングをしようと決心した。

ポールは当時人気のあったロック・オペラにインスピレーションを受けて、そのスタイルを『Band On The Run』で彼なりに解釈して採り入れた。リックも言っているが、アルバム・タイトル曲を通じて起きる予期できないメロディやリズムの波乱曲折が全体のオペラっぽいスタイルを形作っている。それを実現させるために、ポールはこのプロジェクトで一人何役もこなさなければいけなかった。

さらに、ある夜、ポールはラゴスの街でナイフを突きつけられてアルバムのデモテープを盗まれるという事件に遭遇してしまったために、ポールはリンダとデニー・レインの3人で、アルバムをもう一度ゼロから作り直す羽目になった、ということもこういう状況の要因になっていただろう。

Band On The Run (Remastered 2010)

 

5. ポールは「Back In The U.S.S.R.」でドラムを叩いていた

ビートルズは最初チャック・ベリーの名曲「Back In The U.S.A.」を下敷きに「Back In The U.S.S.R.」を書いていて、ポールはその曲に聴いてすぐ判るドラム・パターンのアイデアを思い付いた。彼はリンゴにどういう風にそのドラムを叩くかを説明したが、リンゴから「じゃあ君がやればいいじゃないか」と言い返されたのだ。

彼らはその曲を書き上げてすぐにスタジオ入りしたが、曲の仕上がりとレコーディングの間には一日しかリハーサルする日がなかった。幸いバンドは多くのカバー曲を演奏して育ったので、曲の感触を理解して実際にそれを演奏するまでの間にあまり時間をかけず素早く曲を覚えることには慣れていた。「Back In The U.S.S.R.」のレコーディングは素早く行われ、リンゴにとっては面白くない結果となった、すなわちドラムはポールが叩いていたのだ。

The Beatles – Back In The U.S.S.R. (2018 Mix / Lyric Video)

 

6. ビートルズは彼らのアイドル、リトル・リチャードとの共演を果たした

初期ビートルズ時代のポールにとっての最大の成果は、アメリカで「I Want To Hold Your Hands(抱きしめたい)」を1位にしたことだった。彼をはじめバンドのメンバーは皆アメリカの音楽に夢中だったので、そこのチャートで1位を獲得することは彼らにとってはとても大きな意味があったのだ。英国リヴァプールでリトル・リチャードらのアーティストを崇拝して育った四人の男の子が、何とそのリトル・リチャードと一緒に演奏するなんてことは正に夢のようだった、とポールはリックに番組内で語る。

「本当にすごいことで、それ自体がTV番組のようで」とポールは冗談っぽく言う。彼らはハンブルグ修業時代のライブの前にリトル・リチャードと時間を過ごす機会を得て、彼が次から次に話す内容に静かに聴き入っていたという。「教会で牧師さんの説教を聞いているようでしたよ」とポールは言う。リトル・リチャードはちょうどオーストラリアからドイツに着いたばかり。そんなリチャードは物質主義を捨て去るために自分の指輪を全部水の中に投げ捨てていたということだったが、彼らはそれは本当かと尋ねたそうだ。

このドキュメンタリーは、ポールがリトル・リチャードにどういう印象を持ったかを聴くことができるだけで充分価値がある。ビートルズはアメリカで絶大な人気を勝ち得たことは最高だと思っていたが、リトル・リチャードのようなアーティスト達が彼らの作品に対して敬意と賞賛を払い始めるまでは本当の意味で自分達が有名になったとは感じていなかった。

Lucille (Live At The BBC For "Pop Go The Beatles" / 17th September, 1963)

 

7. ビートルズはアルバムに収録されないシングルの先駆者だった

今現在、シングルを発表するアーティストはみな、その曲を新しいアルバムに収録するというのが一般的に行っていることだ。バンドは年に1枚のアルバムを発表して、それ以外に4枚ほどのシングルを発表する。ところが、ポールが番組内で説明するように、ビートルズはどのアルバムにも収録されないシングルをリリースするという“贅沢”を許されていた。ポールはこう説明する。

「もしヒット曲があって、それがそのアーティストにとっての唯一のヒット曲だとすると、それはアルバムに入れた方がいい。だけど私たちには自信があったからね」

彼はある日プロデューサーのフィル・スペクターが彼らに与えたアドバイスを思い出して言った。

「フィルがこう言ったんだ『ヒットをA面に入れて、B面にはボーカルを抜いた曲を入れてカラオケだといって出せばいい』ってね」

ポールによると、バンドはそれには反対だったという。なぜなら、彼ら自身が最近まで普通にレコードを買う側だったので、そういうレコードを買うと騙されたような気分になると思ったからだ。

 

8. ビートルズは“シンセサイザーの父”とスタジオで会っていた

「Maxwell’s Silver Hammer」のレコーディング中、ビートルズはちょっとした効果音が欲しくなって、数日かけてそれを作り出した。そのうちの一つは、ポールがベース音を一切残響音が残らないように極端なスタッカートで演奏したもので、これによってベース音がチューバか何かの音のように聞こえることにより、破壊的にユーモアたっぷりな効果を残すことが実現できた。

バンドはまた、楽曲にこの世のものではない感じを与えるためにムーグ・シンセサイザーの音を追加したのだが、それはアビー・ロード・スタジオの同じ建物内に、ムーグ社の創設者であるロバート・ムーグがたまたまいたというエピソードをポールが明かす。

「アビー・ロード・スタジオには当時最先端の機材が揃っていた。ある日私達は、上の階にロバート・ムーグって人がいて、山ほど機材を持っているらしい、と聞かされたんだよ」

最終的にバンドのメンバーは、壁全面に装備されたムーグ・シンセサイザーを試してみることができ、ロバートはポールが自分達の楽曲に使いたいと思うような数々の効果音を彼らに披露してくれた。バンドのメンバーは、「Maxwell’s Silver Hammer」の伝統的な楽曲構成と、現代的で革新的な楽器による演奏を併存させたかったのだ。

Maxwell's Silver Hammer (Remastered 2009)

 

9. ビートルズは最初から自分達がオリジナルだと自覚していた

当初ビートルズは、リヴァプール以外では絶対に成功しないと常に言われ続けており、それは事実でもあった。しかし、ポールがリック・ルービンに説明しているように、その低評価はむしろ彼らの決意を強くした。ポールはこう説明する。

「私たちは自分達が他のバンドとは違うと思っていた。いや、それがわかっていた。そういう思いは私たちの音楽に現れていたからね」

そしてこのドキュメンタリーでは、ビートルズの作品の中でも判りやすい曲の一つなのに、未だに果てしなく楽しくも不可解な曲「Lovely Rita」へと移っていく。この曲はリックがコメントしているように、極端にストレートなベースラインがある一方、奇抜な効果音や鼻歌で歌われるハーモニー、チャックを開け閉めする効果音などがそれに並んで使われているというアイデアの選択が魅力的なのだ。

そうしたオリジナリティは、ポールがこのドキュメンタリーを通じて何度も引き合いに出す見事な楽曲要素の並列配置によるものだ。そして彼のベースに対するアプローチは、彼がステージで緊張してしまうためにリード・ギター担当を諦めなければいけなかったことが原因で作りあげられたものだとこう語る。

「私はソロを弾くタイミングになると、凍り付いてしまった。指もうまく動かなくなって何やってもダメ。で、思ったんだよ。そうか判った、リードはやめだってね」

ジョン・レノンのアート・スクールの友人でビートルズ最初のベーシスト、スチュアート・サトクリフは演奏するために訪れていたハンブルグに残る決心をし、ジョンもジョージもベースを弾くことを拒んでいたため、ポールがベースを担当することになった。結果、彼のベースへの独特なアプローチが、ビートルズがスターダムに昇り詰める決定的要素となった。

Lovely Rita (Remastered 2009)

 

10. ポールは自分より前に誰かが「Yesterday」を作曲していたと思っていた

ある日、自分のアパートで目覚めたポールの頭にはある曲が浮かんだ。彼はそれが、子供の頃から聴いて育った父親のお気に入りの曲の一つに違いない、と思った。アパートからスタジオにピアノを持って行く訳にいかないので、彼はそれを書き留め、更にそれをギターの演奏に置き換えた。

彼はその曲をジョンに演奏して聴かせた。二人とも絶対どこかで聴いたことがあると確信したが、ジョンもそれをどこで聴いたかを思い出せなかった。そこでポールはその曲を、古い音楽の知識については彼らより遥かに多く持っているジョージ・マーティンに聴かせたが、ジョージが思いついたのは「Yesterdays」という古い曲だけだった。ポールはこう言った。

「タイトルはどうでもいいけど、このメロディなんだよ。自分で書いた曲のはずがない。何の努力もせずに浮かんできた、起きたらこのメロディがそこにあったんだから」

今日、ポールは誰かに魔法の存在を信じるか、と聞かれたらこう返答するそうだ。

「信じざるを得ない。だって、あの曲はどこから出てきたんだ、ってことですよ。夢の中で美しい音楽を聴いたと言う人は多いと思いますが、自分の場合は起きてもそれを覚えていたんだから」

Yesterday (With Spoken Word Intro / Live From Studio 50, New York City / 1965)

Written By Will Schube


『マッカートニー 3,2,1』情報

2021年12月22日より:ディズニープラスにて独占配信スタート(全6話)
出演・製作総指揮:ポール・マッカートニー、リック・ルービン
監督:ザッカリー・ハインザーリング(『キューティー&ボクサー』)

「マッカートニー3,2,1」|予告編|Disney+ (ディズニープラス)


ポール・マッカートニー『McCartney III Imagined』
デジタル:2021年4月16日発売
CD&LP:2021年7月23日発売
CD&LP / iTunes / Apple Music / SpotifyAmazon Music / YouTube Music





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