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フランク・ザッパ、6枚組のボックス・セット『ZAPPA/ERIE』発売。その中身の詳細とは

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フランク・ザッパが1974年と1976年に残した極上のライヴ音源を、求め得る最高の音質で収録した、初出音源満載の6枚組のボックス・セット『ZAPPA/ERIE』の発売が決定した。発売日は2022年6月3日(日本盤は6月17日)。

この発表にあわせて、ボックスに収録される1976年11月12日エリー・カウンティ・フィールドハウスのライヴ音源「You Didn’t Try To Call Me」が公開された。

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You Didn’t Try To Call Me (Live From Erie, PA – November 12, 1976)

伝説となっているフランク・ザッパの広大なテープ倉庫から、新しい秘蔵音源が発掘された。『ZAPPA/ERIE』は、1974年から76年の間にペンシルベニア州エリーとその周辺で行われた3つの名ステージの音源を集めたボックス・セットである。

6CDのボックスとデジタル配信の各媒体で6月3日に発売(日本盤6月17日)される同コレクションには、計7時間以上に亘る未発表ライヴ音源を収録。3つのライヴはそれぞれにメンバーが異なり、いずれも全盛期のザッパ・バンドを彩った凄腕のミュージシャンが顔を揃えている。ブートレグ盤として出回っていた低品質の音源を除けば、全71トラックのうち過去にリリースされているのは1974年にリリースされた名ライヴ・アルバム『Roxy & Elsewhere』に使用されていた約10分分の音源のみという貴重なボックス・セットである。

ザッパ・トラストが監修、アーメット・ザッパとテープ倉庫管理人のジョー・トラヴァースがプロデュースを務めた『ZAPPA/ERIE』には、トラヴァース本人と地元エリーのジャーナリストであるダン・シェルが当該公演やレコーディングに関する詳細なライナー・ノートを寄稿している。

膨大な情報量を誇る著作『9 Years Of Rock: The Story Of The Concerts At The Erie County Fieldhouse (原題) 』を執筆したシェルは、そこで公演や会場に関して知られざる裏話を明かしてくれている。ブックレットにはライナーのほか、デヴィッド・スミスが撮影したザッパの写真やオリジナル・テープの写真、実際の公演のフライヤー、公演に関する当時の新聞の批評記事、そして熱烈なファンによる当該批評への痛烈な反論までを掲載。

一方で肝心の音源は、ビル・ヘナイ、ブライアン・クロークス、デイヴィ・モイア、クラウス・ウィーデマンというザッパのエンジニア・チームが4トラック・テープにプロの技術で録音したもの。それを基にザッパ・トラストの作品を長年手掛けてきたクレイグ・パーカー・アダムス (ウィンズロー・コネチカット・スタジオ) が新たにミキシング、ジョン・ポリート (オーディオ・メカニクス) がマスタリングを施した。アダムスとポリートのふたりは、歴史的なコンサートを可能な限りクリーンな音質で届けられるよう、テープの補修も手がけている。

収録された3つの公演

『ZAPPA/ERIE』には、ザッパがペンシルベニア州郊外の湖畔で行なった3公演の記録が時系列で収録されている。ひとつ目はエリーの外れにある地元の大学、エディンボロ・ステート・カレッジで行われた1974年5月8日のステージだ。

続いてふたつ目は、ザッパによるエリー市内での初ライヴとなった1974年11月12日の公演。こちらはカトリック系の私立大学であるギャノン・ユニヴァーシティ内にあるギャノン・オーディトリアムで行われたもの。

3つ目は、ザッパにとって最後のエリー公演となったエリー・カウンティ・フィールドハウスでの1976年11月12日のステージである。全編が収録されたこれらのライヴのほか、各公演と同時期に行われたインディアナ州サウスベンド、オハイオ州トレド、ケベック州モントリオールでのライヴ音源の一部が、ボーナス・トラックとして追加されている。

最初の公演

1974年のエディンボロ公演は、常に進化を続けていたザッパの名バンド、マザーズの結成10周年とアルバム『Apostrophe (‘) 』のリリースを記念した約1ヶ月の小規模ツアーの一幕。このツアーでザッパが集めた最強のバンドは、

・ブルース・ファウラー (トロンボーン、ヴォーカル)
・チェスター・トンプソン (ドラム、パーカッション)
・ドン・プレストン (シンセサイザー)
・ジョージ・デューク (キーボード、シンセサイザー、ヴォーカル)
・ジェフ・シモンズ (ギター、ヴォーカル)
・ナポレオン・マーフィー・ブロック (テナー・サックス、フルート、リード・ヴォーカル)
・ラルフ・ハンフリー (ドラム)
・トム・ファウラー (ベース)
・ウォルト・ファウラー (トランペット)

という布陣。この編成についてトラヴァースはライナーでこのように記している。

「トランペットのウォルト・ファウラーとキーボードのドン・プレストンが加わったこともあり、このツアーの楽器編成はかなりバラエティに富んだものになっていた。また当時の編成では、ラディックのオクタ=プラス・ドラム・セットも大きな役割を担っている。これは当時非常に人気を集めていた大がかりなドラム・セットで、フランクは2組購入していた。そのおかげで、チェスター・トンプソンとラルフ・ハンフリーは新たにさまざまなサイズのタムを叩けるようになった。その新しいサウンドは、ザッパの楽曲に斬新なかたちで組み込まれていた」

このツアーのセットリストには、マザーズ・オブ・インヴェンションのデビュー・アルバム『Freak Out!』 (1966年) と『We’re Only In It For The Money』 (1968年) の収録曲で構成されたメドレーも含まれているが、オリジナルとは大きく異なるアレンジが施されている。その特別なアレンジが聴けるのも、そして10周年記念ツアーの公演が全編に亘り聴けるのも、この『Zappa/Erie』が初めてとなる。

ディスク1と2にまたがった同公演の聴きどころを絞るのは難しいが、特に「Cosmik Debris」や、ファンキーな好アレンジによる「Pygmy Twylyte」「Montana」「Cheepnis」、1曲を通してカウベルが効果的に使用された「Inca Roads」、そしてオリジナルとは劇的に異なるサウンドとなった初期マザーズの楽曲群 (「Hungry Freaks, Daddy」「Wowie Zowie」「How Could I Be Such A Fool」「Harry, You’re A Beast」「The Idiot Bastard Son」など) が挙げられるだろう。

上述の通り公式リリースは今回が初となるものの、関係者からのサウンドボード・カセットテープの流出により長らくブートレグ盤が出回っていたことで、以前からこのステージの評判は高まっていた。また、ザッパはこの公演から「Son Of Orange County」と「More Trouble Every Day」の一部を人気の高いアルバム『Roxy & Elsewhere』に使用している。それから50年近い歳月を経て、マスター・テープからミキシングされた全編の音源がついにリリースされるのだ。

同じ年の秋、ザッパはエリーのギャノン・オーディトリアムを訪れた。その頃、彼のバンドは人数を縮小し、トンプソン、デューク、ブロック、トム・ファウラー、そしてグループに復帰した名手ルース・アンダーウッド (パーカッション) というメンバーになっていた。

体調が悪いなかでのライヴ

当日、ザッパはインフルエンザに苦しんでいたものの、プロとしてステージを完遂。強力なバンドとともに聴き応えのあるパフォーマンスを披露している。ディスク3と4に収録されたこの日のセットリストは、数ヶ月前のそれと大きく変わったものになった。中でも、ザッパが普段は歌わない追加パートを歌う”1974年アレンジ”の「Dinah-Moe Humm」、時期によりアレンジが大きく異なる「Inca Roads」、「Penguin In Bondage」、「Uncle Meat」、そして「Don’t Eat The Yellow Snow」などがハイライトになるだろう。それに加え、「Dupree’s Paradise」でザッパが披露するギターの即興演奏は、「Zoot Allures」や「Any Downers」をはじめとするその後の楽曲の片鱗を感じさせる。

同公演でザッパは自身の体調不良のほか、言うことを聞かない観客にも悩まされていた。座らずにステージへの視界を塞ぐ前方の観客と、それに腹を立てた後方の観客が揉め事となり一触即発の状況になったのだ。この事態の収拾のため何度か演奏を止めるザッパの奮闘ぶりも、音源から聞き取ることができる。

ザッパ自身も同様のトラブルが発生した「Geneva Farewell」を含む『You Can’t Do That On Stage Anymore, Vol. 5』などを発表していることから、これはある種の伝統とも言えるだろう。

なお、ディスク3にボーナス・トラックとして収録された「Montana」と「Get Down」は74年のインディアナ州サウスベンドでの公演からの音源だが、これはザッパ自身が自らミックスダウンを済ませていたものの、これまで未発表となっていたトラックである。

3つ目のライヴ

1976年11月12日、エリーを再訪したザッパは自身にとって同地での最後となるステージに立った。当時、彼の人気はさらに高まっており、会場は70年代に大物バンドがこぞってライヴを行なったエリー・カウンティ・フィールドハウスへとステップアップしている。今度のメンバーは前回から大きく変わっており、

・エディ・ジョブソン (キーボード、ヴァイオリン)
・パトリック・オハーン (ベース、ヴォーカル)
・レイ・ホワイト (ギター、ヴォーカル)
・テリー・ボジオ (ドラム、ヴォーカル)
・レディ・ビアンカ (キーボード、ヴォーカル)

という顔ぶれ。うちレディ・ビアンカはこのライヴの1週間後に、たった1ヶ月ほどのツアーを共にしたザッパのバンドを去っている。この日もザッパ率いるバンドの演奏自体は素晴らしかったものの、何事もなくライヴが終わったわけではなかった。突然の猛吹雪により、照明・音響機材の到着が遅れてしまったのだ。

土壇場でようやく会場側がレンタル機材を取り寄せたものの、<料金に見合わない>とチケット売り場に苦情を寄せるファンも現れる始末であった。ディスク5と6に収録された同公演では、『Apostrophe (‘) 』、『Over-Nite Sensation』、そして当時の最新作だった1976年の『Zoot Allures』という3アルバムからの楽曲が大半を占めた。

そのうち当時の新曲である「The Torture Never Stops」や「Black Napkins」では、ザッパが長尺の名ギター・ソロを聴かせている。なお、ボックス・セットの最後に収録されたボーナス・トラックの「Black Napkins」は、その翌日のオハイオ州トレド公演からの音源。これを聴くと、ザッパが日によっても楽曲のアレンジを変えていたことがよくわかる。

ジョー・トラヴァースによる解説

エリー出身のジョー・トラヴァースにとって、新しいボックス・セット『ZAPPA/ERIE』の編集はいつも以上に熱の入る仕事だったという。27年ものあいだテープ倉庫の管理人を務めてきた彼は、”エリー”と記されたテープを見たことはあったものの中身を聴いたことはなかった。しかし新型コロナウイルスによるパンデミックをきっかけとして実際に手に取り、世に出すべき名演であることを知ったのだ。

「2020年、新型コロナウイルスの流行が始まったとき、ほかの多くの人たちと同じように僕にも空き時間がたくさんできた」トラヴァースはライナーにそう綴っている。

「そのおかげで、フランク・ザッパの素晴らしいテープ倉庫のアーカイブ化に以前よりもさらに深く没頭することになった。そんな時期に気付いたことがあった。僕はザッパ・トラストのテープ倉庫管理人を長年務めてきたけれども、自分の故郷であるペンシルベニア州エリーでフランク・ザッパが披露したコンサートの音源にはずっと手をつけていなかったのだ」

本ボックスのブックレットには、トラヴァースの母が1990年代に地元エリーのガレージ・セールで息子のために買ってきたという、ザッパの直筆サイン入りポラロイドも掲載されている。トラヴァースはこれを長年大切に保管してきたため、この写真が1976年のエリー・カウンティ・フィールドハウスで撮られた可能性が高いことにも、リリースの準備を進めていた最近になってようやく気づいたようだ。

そして撮影から46年以上、トラヴァースが母から譲り受けて20年以上が経った今、その写真がエリーでのザッパのライヴを纏めたパッケージに使用されている。これですべてが繋がったといっていいだろう。

Written By uDiscover Team



フランク・ザッパ『ZAPPA/ERIE』(6CD)

2022年6月17日発売
国内盤CD / iTunes Store / Apple Music



『ZAPPA (Original Motion Picture Soundtrack)』(3CD)
輸入盤/デジタル:2020年11月27日発売
日本国内盤:2022年4月20日発売
国内盤CD / LP/ iTunes Store / Apple Music / Amazon Music
<日本盤のみ>解説付/歌詞対訳付SHM-CD仕様


映画情報

ZAPPA
2022422()日本劇場公開

公式サイト

監督:アレックス・ウィンター|出演:ブルース・ビックフォード、パメラ・デ・バレス、バンク・ガードナー、デヴィッド・ハリントン、マイク・ケネリー、スコット・チュニス、ジョー・トラヴァース、イアン・アンダーウッド、ルース・アンダーウッド、スティーヴ・ヴァイ、レイ・ホワイト、ゲイル・ザッパ
キングレコード提供|ビーズインターナショナル配給
シネマート新宿・シネマート心斎橋ほかにて

2020年|アメリカ映画|129分|原題:ZAPPA

『ZAPPA』予告編


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