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ユーロビジョン・ソング・コンテストとは?大会の経緯と近年での注目参加者たち

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毎年ヨーロッパ各国を代表するミュージシャンたちがパフォーマンスを披露して、1位を決めるユーロビジョン・ソング・コンテスト(Eurovision Song Contest)。世界中で毎年何億人もの視聴者が見守り、65年の歴史を持ち、ABBAやセリーヌ・ディオンといった世界的スターたちもここがきっかけでその人気を爆発させていき、近年でもマネスキンが世界ヒットとなっている。

ではこの大会とはどういうものなのか? そしてどういったパフォーマンスやアーティストが生まれたのか、音楽ライターの新谷洋子さんに解説いただきました。

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2016年大会の様子:Photo by Albin Olsson

毎年開催されている数多の音楽イベントの中で一番楽しみにしているのは何かと問われたら、迷わず答える。ユーロビジョン・ソング・コンテストだと。世界一エンターテイニングな音楽イベントでもあると思う。

なのに、サッカーのUEFAチャンピオンズリーグの音楽版みたいな地域限定の催しであるゆえに長らく知名度が上がらなかったのだが、ここにきてユーロビジョンを題材にしたNeflix制作のコメディ映画『ユーロビジョン歌合戦~ファイア・サーガ物語~(Eurovision Song Contest: The Story of Fire Saga)』(2020年)が公開されたり、ユーロビジョンを介してスーパースターとなったABBAが昨年約40年ぶりに復活してニュー・アルバム『Voyage』を発表したり、昨年のロッテルダム大会のチャンピオンであるイタリア出身のバンド=マネスキンが世界的成功を収めたりと、話題が目白押し。誕生から65年を経て、日本を含め、ヨーロッパ圏外でもより多くの人のレーダーに引っかかっているようだ。

 

その歴史

そう、その年のヨーロッパのベストソングを選ぶユーロビジョンの第一回大会が、主催者であるEBU(ヨーロッパとアフリカ諸国の放送局が加盟する欧州放送連合)が本部を構えるスイスはルガーノにて開かれたのは、1956年5月のこと。以後参加国は当初の7カ国から徐々に増え、冷戦終結を受けて90年代にはロシアと旧ソ連の国々、東欧諸国も加わった。

そしてこの間、結成2年目にして「Waterloo」で1974年の英ブライトン大会を制したABBAを筆頭に(英国の審査員が彼らに0点を与えたという逸話も有名だ)、「Poupée De Cire Poupée De Son(夢見るシャンソン人形)」を歌ったフランス・ギャル(1965年/ルクセンブルク代表)からセリーヌ・ディオン(1988年/スイス代表)、ニューエイジ系のシークレット・ガーデン(1995年/ノルウェイ代表)からコスプレのヘヴィメタル・バンド=ローディ(2006年/フィンランド代表)に至るまで、実に多彩なアーティストが優勝。

チャンピオンの出身国が翌年のホストを務めるという制度も確立され、毎回ホスト・シティは趣向を凝らし、五輪に近いノリで町を挙げ、国を挙げて祭を盛り上げてきた。ちなみに2021年の第65回ロッテルダム大会では、ヨーロッパ諸国にイスラエル及び、5年前から参加しているオーストラリアを交えた39カ国が参加。生中継の視聴者は1億8千万人以上を数えたという。

ABBA Waterloo Eurovision 1974 (High Quality)

 

どんなシステムなのか

ここで簡単にシステムを説明しておこう。まず、参加国はそれぞれに国内予選などを通じて代表を選出。うちシード権を持つ5カ国(英国、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア)と開催国、セミ・ファイナルを勝ち抜いた20カ国、計26カ国がグランド・ファイナルに進んでパフォーマンスを披露し、審査員による採点と、一般視聴者による投票の合計で順位が決まる。

中立を保つべく審査員も視聴者も自国の代表には投票できないのだが、視聴者が結果を左右し(マネスキンの場合も視聴者が審査員の採点を引っくり返した)、国の大小に関係なく誰でもチャンピオンになり得る平等主義的なところに、人気の理由があるのだと思う。何しろ英国は5度も最下位の屈辱を味わっており、昨年の得点は0点。代表のジェイムス・ニューマンの曲もパっとしなかったが、それ以上にEU離脱が心証を悪くしたというのが専らの噂だ。

また、“16歳以上のアーティストによる3分以内の楽曲(前年9月以前に公開された作品は除く)”というエントリー条件さえ満たせば、代表は新人だろうとスーパースターだろうと構わない。逆にスターが上位に入る保障もない。曲の言語・ジャンルは不問だし、ヒップホップあり、ヨーデルあり、民族音楽×エレクトロニック・プロダクションのパターンも定番で、アーティストも曲もキャラは総じて濃い目。その濃い目のキャラを各々が全開にし、衣装にダンスにパイロに、しばしば理解不能な演出を過剰に施したキャンプなパフォーマンスで競うのが、ユーロビジョンの醍醐味だ。

毎年「なんだこりゃ!」と叫び声を上げることが数回あり、近年の大会で筆者の記憶に残っているのは、民族衣装姿でパンを焼きながら歌ったロシアのおばあちゃん集団ブラノフスキエ・バブシュキ(2012年)や、なぜか美女がミルクを攪拌してバターを作っている脇で歌う2014年ポーランド代表のドナタン&クレオなど、料理ネタ系だろうか? 映画『ユーロビジョン歌合戦』で、主演のウィル・ファレルが巨大なハムスターホイールの中で走るシーンの元ネタは、2014年のウクライナ代表マリヤ・ヤレムチュクのステージだし、あの映画を彩る奇天烈なパフォーマンスの数々は、誇張では全くない。

Buranovskiye Babushki – Party For Everybody – Live – Grand Final – 2012 Eurovision Song Contest

原案者でもあるウィルはアメリカ人でありながらユーロビジョンとその意義に関して造詣が深く(彼の妻はスウェーデン人なので)、オーセンティシティにこだわってはいるのだが、そもそもホンモノのユーロビジョンがある意味ですでに最高級のコメディ・エンターテイメントなのだから、わざわざ映画にする必要があるのかという疑問さえよぎってしまう。

Mariya Yaremchuk – Tick – Tock (Ukraine) LIVE Eurovision Song Contest 2014 Grand Final

 

話題となった近年の出演者

またユーロビジョンは楽しいだけでなく、世の中の在り様を鮮明に映しているゆえに、学べることも多い。例えばヨーロッパの多様性。網羅するジャンルの幅広さにもそれは表れているが、代表の肌の色は様々で、全域が極めてコスモポリタンな社会であることが分かる。

ロッテルダム大会では、ふたりの元難民のアーティスト(タジキスタン生まれのロシア代表とコンゴ民主共和国生まれのスウェーデン代表)の存在が注目されたものだ。また性的マイノリティの活躍も目覚ましく、有名なのは、ユダヤ教保守派の激しい抗議を受けながらイスラエル代表となったトランスジェンダーのデイナ・インターナショナル。1998年に優勝したデイナはトランスジェンダーの社会的認知度アップに貢献し、2014年にはゲイのドラァグ・パフォーマーであるオーストリア代表のコンチータも、性的マイノリティの弾圧を強めていたロシアや東欧の政治家のバッシングをよそに、壮大なバラード「Rise Like A Phoenix」で視聴者の圧倒的な支持を得て、チャンピオンとなった。

ヒゲ×ドラァグというヴィジュアル・インパクトもさることながら、ディーバと呼ぶに相応しい類稀な歌唱力を備えた彼女、「この名誉を平和と自由の未来を信じる人たちに捧げます。ひとつに結ばれた私たちを、誰も止めることはできません!」というパワフルな優勝スピーチで喝采を浴び、現在は音楽活動の傍ら性的マイノリティの人権擁護を訴える活動も精力的に行なっている。

Conchita Wurst – Rise Like a Phoenix (Austria) 2014 LIVE Eurovision Second Semi-Final

そして20代前半のメンバーから成るマネスキンにいたっては、最早ジェンダーに線引きをすることさえ野暮だと言わんばかりに、今時の若者らしいジェンダーフリュイドなスタンスをとり、アンドロジナスな衣装に身を包んで、ラウドでグラムでファンキーなロックンロールを鳴らした。

以来エントリー曲「Zitti e Buoni」ほかシングル曲が各地のチャートを席巻し、イギー・ポップの客演を得た「I Wanna Be Your Slave」は全米ビルボード・ハード・ロック・ソングス・チャートで、史上最長記録の20週間1位を達成(1月2週目の時点でも首位を維持している)。ユーロビジョンのチャンピオンがこの規模で全米ブレイクを果たすのはセリーヌ以来で、ヨーロッパの人々の耳に狂いはなかったのだ。

https://www.youtube.com/watch?v=RVH5dn1cxAQ

同様に近年は#MeTooの動きにも呼応しており、その好例が、2018年のリスボン大会で優勝したイスラエル代表のネッタことネッタ・バルジライ(映画『ユーロビジョン歌合戦』にコンチータらとカメオ出演している)だった。海軍の軍楽隊に在籍したのち音楽学校で学んだという彼女は、“私はアンタのオモチャじゃない/男っておバカさん”と歌うエントリー曲「Toy」で、女性のエンパワーメントとボディポジティヴのメッセージを発信。

中東の伝統音楽調のビートをベースに、スキャットの経験を活かして発した奇妙な声をループし、こぶしの効いた声で歌う独特のスタイルで強烈な印象を刻み、グランド・ファイナルでは「多様性を讃えてくれてありがとう」と感謝の言葉を述べていたものだ。その後「Toy」は全米ビルボード・ダンス・チャートで1位を獲得しており、パンデミックで気勢を殺がれた感もあるが、遠くない将来本格的な世界デビューが控えているに違いない。

Netta – Toy – Israel – LIVE – Grand Final – Eurovision 2018

他方ポリティカルな騒動もユーロビジョンには付き物で、ネッタの優勝を受けて開催されたテルアビブ大会では、かねてからパレスチナ問題について積極的に発言していたアイスランド代表のバンド=ハタリが、警告をシカトしてグランド・ファイナルでパレスチナの国旗を掲げたため、罰金を科せられる羽目に……(ユーロビジョンには政治的な表現を禁止するルールがある)。

また2016年のストックホルム大会では、ウクライナ代表のジャマラがスターリンによるクリミア・タタール人の強制移住を題材にした曲「1944」で優勝したのだが、2014年にロシアがクリミア半島を併合したことに暗に抗議していたことは明白で、クレムリン周辺で怒りを買い、翌年のキエフ大会をロシアがボイコット。ルカシェンコ大統領の独裁下にあるベラルーシにいたっては、昨年政権のプロパガンダ同然の曲をエントリーして出場権を剝奪されてしまった。

LIVE – Jamala – 1944 (Ukraine) at the Grand Final of the 2016 Eurovision Song Contest

つまり、歴史問題や政治や人権意識における分断や対立が露呈することも多々ある。それでも可能な限り年に1度はみんなで集まって、歌って、楽しくパーティーしようぜ!というのがユーロビジョンのスピリット。そんなポジティヴなメッセージを世界に広めるべく、2010年代にはアメリカやカナダのテレビでも生放送を始め(中国でも放映されていたが同性愛的表現が検閲に引っかかって中止されてしまった)、ストリーミングでも圏外のファンを掴んで、着々とグローバル化を図ってきた。そしていよいよ2月末には、50の州の代表が歌を競うアメリカン・ソング・コンテストの第一回が控えている。実はアジア版をローンチする計画も数年前からあるのだが、こちらが難航している理由は、パンデミックを別にしても、推して知るべし、か?

というわけで、当面は本家本元で楽しむしかない。次回トリノ大会は4カ月後、このディストピアンな世に、ほんの数時間だとして、とことんオプティミスティックなこの祭ならではのユートピアンな夢を見せつけて欲しいものだ。

Written by 新谷 洋子


40年ぶりの新作アルバム
ABBA『Voyage』
2021年11月5日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



2018年ユーロビジョン・ソングコンテスト優勝者
ネッタ「CEO」
2021年10月13日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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