『スター・ウォーズ クラシック・トリロジー』サントラがLPで限定発売。その進化と変遷を辿る

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2021年11月3日の「レコードの日」に合わせて『スター・ウォーズ/新たなる希望』『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』のオリジナル・サウンドトラックがアナログ盤にて数量限定で発売された。

3作品ともに初回分は発売とともにほぼ売り切れ、12月24日に追加分が市場に出ることが決まったこの3枚のアルバムについて、東京大学総合文化研究科特任准教授であり、過去にスター・ウォーズ・シリーズのサウンドトラックのライナーノーツを担当してきた井筒 節さんに解説いただきました。

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『スター・ウォーズ』サーガの原点であり、7つのオスカーに輝いた1977年公開『スター・ウォーズ/新たなる希望』、1980年『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』、1983年『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』のサウンドトラック3作品が、192kHz/24bitリマスター音源を採用し、アナログ盤で限定発売された。プレスは、レコードの日を主催する東洋化成。アルバム・ジャケットには、公開当時のポスター・アートを使用している。

 

時代とともに進化する『スター・ウォーズ』

『スター・ウォーズ』は、時代を牽引しながら、常に進化を繰り返してきた。例えば、70年代から80年代に上映されたオリジナル3部作は、1997年に『特別篇』としてデジタル・リマスターされ、公開時にはリソース・技術面で実現できなかったシーンをCG等を駆使して大幅に追加・変更した。更に、2004年にも変更が加えられ、今では公開当時の姿は幻となり、現在発売・配信されているメディアではもはや見ることができない。

大きな進化を遂げてきたのは、音楽も同様だ。50年近い歴史の中、映画で使用される音楽が置き換えられたり、サウンドトラックの収録曲やメディアも何度も変更されたりしてきた。

そんな中、今回発売された限定アナログ盤は、レコードで、オリジナル楽曲を聴くことができる点で、『スター・ウォーズ』音楽の原点回帰と言えるものだ。しかし、ただ復刻するのではなく、現代のテクノロジーを活かした最新のリマスター音源を使用するところが『スター・ウォーズ』らしい。

 

アートワークでの『ジェダイの復讐』表記

そして、『スター・ウォーズ』と言えば、ラルフ・マクォーリー、トム・ユング、ドリュー・ストルーザン、生頼範義作品をはじめとするアーティストによるポスター・アートも魅力の一つだが、今回、ジャケットに、当時のポスター・デザインを採用したこともユニークな取組み。表面に採用されたのは、エピソード4はSEITO、エピソード5は写真のコラージュ版、エピソード6はティム・リーマーによるもの。帯の文言も、一部公開当時のものを参考にしている。

エピソード6のタイトルは、現在は『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』に統一されているが、今回のジャケットでは公開時の『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』表記が見られるのも嬉しい。アメリカでは、封切前に「復讐/Revenge」という用語は適切でないと判断され、「帰還/Return」に変更されたが、日本では「復讐」のまま公開。その後、2004年のDVDボックス発売に際して、ルーカス等が本来意図していた「帰還」に変更された。

今回収録されている音源は、2018年にショーン・マーフィーとスカイウォーカーサウンドのチームがリマスターしたものだが、そのCD版発売時もどちらの表記にするか議論があり、エピソード4部分に『新たなる希望』表記があることから、これが加えられた後の文言に統一することとし、また、ジョージ・ルーカスの元来の思いを尊重する形で『帰還』が使用された。今回は、これをうまく拡張させ、長年これらの楽曲を『ジェダイの復讐』として愛してきた日本のファンの方々の想いにも応える形になっている。

 

収録楽曲やタイトルの変遷

このように、『スター・ウォーズ』のサウンドトラックには長い歴史があり、これまでも様々なバージョンが発表されてきた。原点は、今回アナログ盤として復活した70~80年代のオリジナル。これらは、主に、映画内で登場する楽曲をそのまま収録するのではなく、別バージョンを収録したり、順番を変えたり、別々の曲の部分部分を一つにまとめたりして、レコードを聴く際の体験を高めるように制作された。

当時の曲名表記は今と異なり、エピソード5のM3「ジェダイ騎士団の訓練」は「ジェディー騎士団の訓練」(エピソード4と5のライナーノーツでは「ジェディ騎士団」の表記も)、エピソード6のM10「ジェダイの帰還」は上記の理由で「ジェダイの復讐」となっていた。

ヨーダがルークにフォースの訓練をするダゴバのシーンで使用されるM13「ヨーダとフォース」の英語タイトルは「YODA AND THE FORCE」だが、当時は「ヨーダと正義の軍隊」と「THE FORCE」を意味違いの「正義の軍隊」と訳していた(ちなみに、エピソード5のライナーノーツでは、フォースは「霊力」と訳された)。また、「レイア姫」が「王女レイア」、「TIEファイター」が「TIE戦闘機」であった等、時代の変遷を感じられるのが興味深い。

その後、収録曲に一部の変更が加えられたLP再発版、一部の楽曲を外し、未発表音源が加えられたCD版等を経て、1993年の4枚組ボックス・セット『スター・ウォーズ』アンソロジーでは、映画中の登場順に基本的に則した形で、多くの未発表曲が収録された。

1997年には、映画の『特別篇』発表に合わせて、新サウンドトラックもリリースされた。デジタル・リマスターされた音源を、登場順、場面ごとに収録し、多くの楽曲が追加された。この際、ジャバの宮殿でのバンド・シーンが大幅変更され、「ラプティ・ネック(ジャバの王宮バンド)」が「ジェダイ・ロック」に置き換えられた他、クライマックスの「イウォーク・セレブレイションとフィナーレ」も「イウォーク族のパレード」と「勝利のセレブレーション」に変更された。今回のアナログ盤では、映画上はもう聴くことができない、これらの楽曲を、リマスター音質で、レコードで聴くことができるのも嬉しい。

2007年に限定発売された8枚組の『The Music of Star Wars​ 30th Anniversary Collector’s Edition』でも、CDの収録曲はアップデートされ、CDジャケットには公開当時のレコード・ジャケットを再現したものが用いられた他、当時のライナーノーツも復刻された。

そして、エピソード9『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』でスカイウォーカー・サーガがフィナーレを迎えた今、新たな『スター・ウォーズ』の幕開けに向けて、今回のアナログ盤の発売となった。

 

『スター・ウォーズ』を受け継ぐ者たち

そんな『スター・ウォーズ』の音楽は、40年以上に渡り、巨匠ジョン・ウィリアムズが紡ぎあげてきたものだ。演奏は、今回の3作品を含むエピソード1~6まで、ロンドン交響楽団が担当。エピソード7~9では、ロサンゼルスのオーケストラ・メンバーが演奏した。エピソード7『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では、エル・システマで教育を受け、ロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督を務めるグスターボ・ドゥダメルが一部の指揮を担当。その後、ウィリアムズは、カリフォルニアとフロリダのディズニーパークで新たに生まれた「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」のテーマ曲も作曲し、今日も世界中の人々を楽しませている。

2016年『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』では、マイケル・ジアッキーノ(『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)、『スター・トレック』シリーズ、『ズートピア』(2016)等)が、2018年『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』では、ウィリアムズが作曲した「ハン・ソロの冒険」以外をジョン・パウエル(『ボーン・アイデンティティー』シリーズや『ボルト』(2008))が担当。

アニメーション映画『クローン・ウォーズ』(2008)と『クローン・ウォーズ』TVアニメーションシリーズ、2015年のCGアニメーション『スター・ウォーズ 反乱者たち』、そして今年Disney+で公開され話題を呼んだ『バッド・バッチ』ではケヴィン・カイナーが、2019年『スター・ウォーズ レジスタンス』ではマイケル・タヴェラ(『シンデレラ II』(2002)、『スティッチ ! ・ザ・ムービー』(2003))が音楽を担当。

Disney+の実写ドラマシリーズ『マンダロリアン』(2019)では、『ブラックパンサー』(2018)を手掛けたルドウィグ・ゴランソンが活躍した。

日本の7つのアニメーションスタジオが描いた『スター・ウォーズ:ビジョンズ』では、日本人を含む作曲家が音楽を担当した。

ジョン・ウィリアムズの『スター・ウォーズ』音楽の世界とレガシーは、その確固たる土台の上に、様々な後進のアーティストたちへ引き継がれつつある。

今後も、12月29日から配信される「ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』、『オビ=ワン・ケノービ(原題)』『スター・ウォーズ:アンドー(原題)』『スター・ウォーズ:レンジャーズ・オブ・ザ・ニュー・リパブリック(原題)』等の配信予定がDisney+によって発表されており、これらも、『スター・ウォーズ』の音楽の世界を更に拡張してくれるだろう。しかし、どれだけ時が過ぎ、新しい作品が生まれようと、ジョン・ウィリアムズが築いたオリジナル3部作の音楽は色褪せることなく、全ての『スター・ウォーズ』作品、そして、『スター・ウォーズ』の世界を越えて多くの人々の人生の中で、華やかに響き続けるはずだ。

今回のエピソード4~6に、プリクエル(エピソード1~3)とシークエル(エピソード7~9)、そして、『ローグ・ワン』と『ハン・ソロ』、『マンダロリアン』『バッド・バッチ』『ビジョンズ』等から人気楽曲を集めたディズニー公式「Best of Star Wars」プレイリストも用意されている。『スター・ウォーズ』の音楽をデジタルとアナログで聴きながら、今一度宇宙を旅しよう。

Written by 井筒節



『スター・ウォーズ クラシック・トリロジー オリジナル・サウンドトラック』
2021年11月3日発売
LP新たなる希望 /LP帝国の逆襲LPジェダイの帰還


スター・ウォーズ プレイリスト


『スター・ウォーズ』シリーズ
ディズニープラスで独占配信中

公式サイト



 

 

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