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デフ・レパード『Diamond Star Halos』レビュー:新たなステージへ進んだことを象徴する名盤

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2022年5月27日に発売されたデフ・レパードの7年ぶりの最新アルバム『Diamond Star Halos』。日本のチャートでデイリー3位、母国UKでは26年ぶりのTOP5、全米では10位と好評のこのアルバムについて、音楽評論家の増田勇一さんに寄稿頂きました。

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大好評のアルバムとタイトルの意味

5月27日に世界同時発売を迎えたデフ・レパードの新作アルバム『Diamond Star Halos』が快調な出足をみせている。全米アルバム・チャートでの初登場ランクは10位、全英チャートでは『Slang』(1996年)以来となるトップ5入りを果たし、オリコンの調べによる日本のデイリー・チャートでも3位を記録。早くも2015年発表の前作『Def Leppard』の実績を超えそうな勢いだ。

今作に掲げられている『Diamond Star Halos』というタイトルは、T・レックスの代表曲のひとつで1971年発表の『Electric Warriors』に収録されている「Get It On」の歌詞の一節であり、フロントマンであるジョー・エリオットは、この表題がそこからの引用であることを認めている。

「Get It On」はT・レックスにとって「Hot Love」に続く2曲目の全英No.1ヒットとなり、1985年にはザ・パワー・ステーションによるカヴァー・ヴァージョンもヒットしている。その言葉自体は、強引に直訳するならば「ダイアモンド星の後光」といったところで、どこか意味ありげな妖しさも纏っているが、特に意味のない語呂合わせのような歌詞はグラム・ロックにはつきものだし、それをルーツに持つデフ・レパードの歌詞にもそうしたものが少なくないことは改めて説明するまでもない。

Bang a Gong (Get It On) by T.Rex

表題自体がそうした音楽的背景や嗜好を感じさせるものであるうえに、先行シングルとしていち早くリリースされた「Kick」がまさしくグラム・ロック的なキラキラ感を伴う楽曲だったこともあり、筆者はルーツと趣味性丸出しのポップなアルバムが届くことになるのを想像していた。

Def Leppard – Kick

 

コロナ禍での制作

当然ながらコロナ禍での制作ということになるし、そうした状況下、スタジオに短期間泊まり込んで集中的にレコーディングを行なってきたバンドも少なくない。デフ・レパードもそうした手法で、たとえばジョーが2009年にモット・ザ・フープルやその界隈の楽曲をカヴァーするために始めたダウン・アンド・アウツのような良い意味での気軽さの中でアルバム制作に取り組んでいたのではないか、と推測していたのだ。

しかしそうした邪推はほぼ外れていた。いや、ルーツに忠実な作品、メンバーたちの嗜好性が現れた、必要以上に肩に力の入っていないアルバムであることは間違いないのだが、なにしろ彼らは一度も一堂に会することのないままこの作品を仕上げているのだ。なにしろ今や母国イギリスに住んでいるのはリック・サヴェージのみで、ジョー・エリオットはアイルランド、フィル・コリンとヴィヴィアン・キャンベル、リック・アレンの3人はそれぞれアメリカ国内の異なる地域に暮らしている。

国境をまたいでのひとつの場所に集結することが難しい状況が続く中、彼らはデータのやり取りをしながら楽曲を練り込み、個々のプライヴェートな環境で自身のパートを録音。そのすべてを、ジョーと同じくダブリンを拠点とするプロデューサー/エンジニアのローナン・マクヒューが取りまとめる形で作業が進められてきたのだった。

実際、今作のクレジットを確認してみると、たとえば“JOE’S GARAGE”、“SAV’S BASE”といった具合に、メンバー個々が自宅スタジオなどで作業してきたことを裏付ける記述がある。ただしリック・アレンに関してだけはそうした表記が見当たらず、逆に、各収録曲の参加者クレジットの中には、前述のローナン・マクヒューがドラム・プログラミングを担当していることが明記されている。つまりリック・アレンによる演奏はこの作品には収められていないということになるわけだが、昨今の状況を踏まえればそれも致し方のないことだといえるし、そうした手段の選択には確実に彼自身の意思も反映されているはずだ。

ただ、「すべてのドラムは打ち込み」などと言うと無機質でメカニカルな音像を想像する向きもあるかもしれないが、実際に聴こえてくるのはそれとは真逆と言ってもいいほどに、オーガニックで親密な感触を伴った音像だ。各メンバーの異なった声が重なることで生まれるヴォーカル・ハーモニーのマジックがそこで一役買っていることも間違いない。綺麗ごとを言うつもりは毛頭ないが、こうした制作手法がとられたことにより、結果的にはバンド内の繋がりの強固さ、意思疎通の確かさが改めて浮き彫りになったと言ってもいいだろう。

 

ヴァラエティに富んだアルバム

楽曲面においてはフィル・コリンとジョー・エリオットのクレジットが目立ち、両者による共作曲、フィルと外部ソングライターとのコラボ楽曲も含まれているが、リック・サヴェージも自らの提供楽曲で彼ならではの持ち味を発揮している。さらにはデヴィッド・ボウイとの活動歴を持つマイク・ガーソンの演奏によるピアノ、「This Guitar」と「Lifeless」の2曲をジョーとデュエットしているアリソン・クラウスの歌唱といったスパイスも、この作品にいっそうの広がりと奥行きをもたらしている。

アリソンはイリノイ州出身のカントリー/ブルーグラス系ミュージシャンであり、ロバート・プラントとのコラボレーションや幾多のグラミー賞受賞歴でも知られているが、彼女自身、長年のデフ・レパード・ファンでもあるのだという。

This Guitar

グラム・ロック的な楽曲もあればピアノ・バラードもあり、カントリー歌手との共演曲も含まれているなどという事実関係からも、本作がヴァラエティに富んだものであることは想像できるはずだが、そこで危惧される散漫さとは無縁の作品だということも付け加えておきたい。多様な楽曲がいずれもデフ・レパード然としたものにしか感じられないし、付け焼刃で新たな要素を取り入れたかのような印象が伴う曲も一切ない。

また、これは筆者が本作をアナログ盤(2枚組仕様)で聴いていて気付かされたことなのだが、全15曲がSIDE ONEからSIDE THREEまでに各4曲、SIDE FOURに3曲という割合で振り分けられた状態で聴くと、そのサイドごとにひとつの小さな流れが完結しているような感触がある。もちろんCDや配信で全編続けざまに聴いていても今作における楽曲の充実ぶりには感動をおぼえるほどだが、そうした作品全体を通じての構成の絶妙さにも思わず感嘆の声が漏れてしまう。

そうした構成の妙という意味においてはクイーンの往年の名作群にも重なるものを感じるが(そういえばフィル・コリンは「U Rok Mi」でウクレレを弾いている。かつてブライアン・メイが『A Night At The Opera』に収録の「Good Company」でそうしていたように)、筆者がふと思い出したのはチープ・トリックの2000年代の名盤のひとつ『THE LATEST』(2009年)だ。

U Rok Mi

同作では3曲ずつがひとつのセットのような構成がとられていて、当時はリック・ニールセン自身もそうした表現形式を思い付いたことにご満悦の様子だったものだ。そして実際、そうした構成上の共通項ばかりではなく、本作におけるデフ・レパードの「音楽的背景を網羅しながら自分たちならではの楽曲を編み上げていく手腕の確かさ」については、そのチープ・トリックにも匹敵する説得力を感じさせられる。アルバムの最後を飾っているリック・サヴェージ作曲の「From Here To Eternity」を初めて聴いた際に筆者が連想したのも、チープ・トリックの第3作『Heaven Tonight』の表題曲だった。

From Here To Eternity

 

“デフ・レパードらしい作品”

この『Diamond Star Halos』には、他にもピンク・フロイドを連想させる要素や、70年代に生まれた数々のロックの名盤に通ずるような感触がある。ただ、何よりも強く感じさせられるのは、デフ・レパードならではのバランス感覚とさじ加減の見事さ、そして楽曲の素晴らしさだ。ただ、ここで「この上なくデフ・レパードらしい作品」などと言うと、読者の多くは『Pyromania』(1983年)や『Hysteria』(1987年)のような作品像を思い浮かべることになるのかもしれないが、筆者自身はむしろ『Slang』に重なるものを感じている。

同作には「グランジ/オルタナティヴに影響されたアルバム」といった受け止め方をされてきた一面もあるが、体温が感じられるような生々しくリアルなサウンド感、楽曲の方向性を問わずヴォーカル・ハーモニーでアイデンティティを示すかのような部分には、今作にも通ずるところがある。

もちろんこの作品がロック史においてどのように位置付けられることになるかは、この先の経過によって決まってくることになる。ただ、今現在の感覚に素直に言わせてもらうならば、これは2022年にデフ・レパードが新たなステージへと歩みを進めたことを象徴する名盤として記憶され続けていくべきものだろう。僕自身は、前作『Def Leppard』についても「これぞデフ・レパード!」と言いたくなるような機能性の見事さを感じていたが、今作での彼らはさらに違った次元へと飛躍を果たしている。

そして『Diamond Star Halos』という意味がありそうでなさそうな言葉は、この先「T・レックスの曲の歌詞の一部」ではなく「デフ・レパードの名盤のタイトル」として浸透していくことになるに違いない。

Written By 増田 勇一


最新アルバム

デラックス(左)、通常盤(右)

デフ・レパード『Diamond Star Halos』
2022年5月27日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

1CDデラックス収録曲
1. Take What You Want
2. Kick
3. Fire It Up
4. This Guitar (featuring Alison Krauss)
5. SOS Emergency
6. Liquid Dust
7. U Rok Mi
8. Goodbye For Good
9. All We Need
10. Open Your Eyes
11. Gimme A Kiss
12. Angels
13. Lifeless (featuring Alison Krauss)
14. Unbreakable
15. From Here To Eternity
16. Goodbye For Good This Time – Avant-garde Mix *
17. Lifeless – Joe Only version *
*ボーナストラック
*限定盤デジパック仕様

1CD通常盤
1. Take What You Want
2. Kick
3. Fire It Up
4. This Guitar (featuring Alison Krauss)
5. SOS Emergency
6. Liquid Dust
7. U Rok Mi
8. Goodbye For Good
9. All We Need
10. Open Your Eyes
11. Gimme A Kiss
12. Angels
13. Lifeless (featuring Alison Krauss)
14. Unbreakable
15. From Here To Eternity
16. Angels – Striped Version *
17. This Guitar – Joe Only version *
*ボーナストラック



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