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MCUの人気ヴィラン、裏切り王子『ロキ』の時間をめぐる冒険とそれを盛り上げる楽曲たち

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兄である雷神ソーを何度も裏切り、時にアベンジャーズさえ翻弄しながらどこか憎めない悪戯の神。人気ヴィラン、ロキをフィーチャーしたドラマシリーズ『ロキ』の第2シーズン最終話が11月10日にディズニープラスで配信された。

前シーズンに続いて本作でも音楽を手掛けたのはイングランド出身の作曲家、ナタリー・ホルト。複雑に分岐する世界の時間と、予測のつかない冒険を彩る楽曲について、烏山タラさんに解説頂きました。

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MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の中でも特に人気のヴィランといえば、悪戯の神でソーの弟であるロキ。さまざまな悪行を繰り返してきた<裏切り王子>が今までにない活躍を見せる『ロキ』の待望のシーズン2が配信開始となり、各エピソードの配信のたびに「X」で世界トレンドにランクインするなど大きな盛り上がりを見せてきた。

シーズン1に引き続き、本シリーズの音楽を手がけるのはイングランド出身の作曲家で、ロンドンを拠点に活動するナタリー・ホルト。

映画『スターダスト』(2007)や『黄金のアデーレ 名画の帰還』(2015)の作曲を担当、本作と同じディズニープラス配信作品ではスター・ウォーズシリーズのスピンオフ作品である『オビ=ワン・ケノービ』(2023)も手掛けており、そのジャンルは多岐にわたる。過去にはハンス・ジマーや『ジョーカー』(2019)で知られるヒドゥル・グドナドッティルなどの大御所音楽家との協働プロジェクトの経験もあり、着実にキャリアを積んでいる実力者である。

シーズン2のキーワードは、“タイムトラベル”。作中で描かれる、常人の想像を超えた「TVA」(時間変異取締局)のシステムや、「神聖時間軸」をめぐるマルチバースの複雑怪奇な世界観を盛り上げるため、本作ではシンセサイザーやボコーダーを始めとする電子音楽、さらには鬼気迫るストリングスの演奏が効果的に使われている。

シーズン1に続き、作品のスコア全体で中心的に使われている楽器は、世界初の電子楽器とされるテルミン。楽器本体に手を接触させず、空間中の手の位置や動きによって音の高さとボリュームを調節できるこの楽器の仕組みは、秘密裏に全宇宙の時間軸を司っている組織「TVA」をどこか彷彿とさせ、人類の理解を超越した神秘的なイメージを決定づけている。

Natalie Holt – TVA (From "Loki")

また、そんな近未来的なサウンドに、あえてクラシックや讃美歌の要素を混ぜることで、北欧神話とゆかりのある神ロキの荘厳で中世的なイメージを加えているのも、ナタリーの手腕が光るところ。

中でも、前作に登場した曲”Classic Builds”は、巨匠ワーグナーの「ワルキューレの騎行」を彷彿とさせるテーマが登場するなど、MARVELの音楽からは一見かけ離れた、古典音楽的な魅力をはらんだ傑作だ。

Classic Builds

シリーズ通してのメインテーマに当たる2曲“Loki Green Theme”と”TVA”の旋律は、シーズン2においても各所で多用されているが、シーズン1と違いをつけた点についてナタリーはMARVEL公式サイトのインタビューでこう語っている。

「(シーズン1と比べて)全体のスコアをかなり暗くしました。 私はもう少し無調性(厳密な中心音がなく、予定調和でない音)にこだわって、時間織り機が崩壊する様子にガイガーカウンター(放射線計測値)の音を使用したのです」

確かにスコアに耳を澄ませると、ロキのタイムトラベルを体現する時計のチクタク音に加え、「バチバチ」「ジリジリ」といった電磁波を彷彿とさせる音が聴こえてくる。無数に枝分かれする時間軸≒無限のマルチバースの存在を左右するキーアイテムである時間織り機を意識したナタリーならではのこういった細かい演出が、ロキが経験する想像を超えた冒険を緊張感たっぷりに盛り上げる。

Slip in Time

今回ロキがタイムスリップするのは、1868年、1893年、1962年、1994年、2012年と多岐にわたっており、その時代設定に応じた音楽アレンジが加えられるのも見どころ。

特にロキとメビウスが、要人のヴィクター・タイムリーを探しに1893年のシカゴを訪れる第3話「1893」では、MARVELスタジオのロゴが浮かび上がるあのオープニング・ロゴのBGMがラグタイム調にアレンジされた、遊び心あふれるイントロになっているので、ファンは必聴だ。(”Golden Olden“)

Golden Olden

“ラグタイム”と言えば、従来のクラシックのリズムを遅くさせる(ラグを設ける)ことで生まれた、黒人音楽の影響を多大に受けた演奏方法。スコット・ジョプリンなどのアフリカ系アメリカ人ピアノ演奏家が名を馳せたことで知られるジャンルであるが、第3話でフォーカスされるのが他でもないラヴォーナ・レンスレイヤーとヴィクター・タイムリーという、黒人のキャラクターである点も特筆したい。

“Chicago 1892”や”Time to Go”、”Giant Clock”など、このエピソードに登場する他の楽曲も当時のシカゴの喧騒を想起させるような、金管楽器を強調したマーチ風アレンジなのも新鮮だ。

なお、“Chicago 1892”はロキに扮するトム・ヒドルストンのセリフ(「在り続ける者の変異体だ 襲ってくるぞ」)も収録されている。

Natalie Holt – Chicago 1892 (From "Loki: Season 2 – Vol. 1 (Episodes 1-3)"/Audio Only)

シーズン2において、ナタリーが前作から変化を加えた点として、”声”(コーラス)も挙げられる。

ロキが北欧神話をルーツとする神であるという点もあってか、ナタリーは現在では話されていない非常に古い北欧語で書かれた歌謡集(エッダ)を見つけ、最も近い言語であるアイスランド語の専門家の協力を得て、現地の歌手たちとコーラスを録音したという。その後、ウィーンでも 40 人編成の巨大な合唱団と録音することで、これらの絶え間ない声が、運命に翻弄されるロキにささやきかけるような楽曲を創り上げた。

前作のサウンドトラックで、特にコーラスを印象的に使用した楽曲といえば、フィナーレで流れた”He Who Remains”(在り続ける者)。この曲はメインテーマの”TVA”の中でずっと使われていた旋律を引用したもので、印象的なシンセサイザーとテルミンの無機的な音色と、ドラマティックなコーラス・ボーカルという、相対する要素が重なる演出が物語のクライマックスを飾るのにふさわしい1曲だった。

シーズン2の第6話「大いなる目的」でのハイライトに使用される壮大な楽曲”Ascension”にもこの要素が取り込まれており、ナタリーにとって最もお気に入りの曲に仕上がったという。

「この曲は2年半の集大成のように感じました。チェロとテルミンとの二重奏、そしてコーラスの爆発が融合した曲です。ロキが常に望んでいた、輝かしい目的を成し遂げたのですから。一方で、それは今や彼が自分の人生や友人たちから離れてしまったということでもあるので、一抹の悲しみも感じました」

”Ascension”は、即位や上昇という意味も持つタイトルだが、2シーズンを通してロキが至った真の境地を体現する楽曲ともいえ、後半にかけてコーラスとともに盛り上がる演出とどこか儚さを持つチェロの音色に圧倒される、壮大な1曲になっている。

Natalie Holt – Ascension (From "Loki: Season 2 – Vol. 2 (Episodes 4-6)"/Score/Audio Only)

エンドロールで流れる曲”History Is Now”も、シーズン2のフィナーレということで一味違うアレンジが垣間見え、エレキギターのリフの音が聴こえてくる。

「(ロキのために)歌を書きたかったんです。当初私はソングライターと一緒にスタジオで作業し、ロキのテーマを使用した歌を考え出そうとしていたのですが、ケヴィン・ファイギ(マーベル・スタジオのCEO兼チーフ・クリエイティブ・オフィサー)は『ここで歌詞が登場するのは好きじゃない、それはちょっと観客の注意が歌詞に方に流されちゃうように感じるな』と言いました。それもあって、(歌を使わずに)このような曲の深層部分にテーマを残したのです。歌詞を曲に追加すると(テーマが)具体的になりすぎることもあるけれど、(このアレンジなら)歌詞の助けなしでうまく機能するように思えました」

エレキギターといえば、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)でも印象的に使用された楽器であり、ソーのパワフルな魅力と相まったエネルギッシュな使われ方(なお、音楽を担当したのは1970年代後半から80年代にかけて一斉を風靡したポップ・バンド、DEVOのマーク・マザーズボーという、MARVEL作品の作曲家としては異色の人選!)だったのに対し、本作では複雑な生い立ちや葛藤を抱えてきたロキならではの、どこか悲しさをはらんだサウンドを奏でている。

History Is Now

第6話のタイトルにも、そしてスコアのタイトルにもなっている”Purpose Is Glorious”(大いなる目的)。

今から12年前、『マイティ・ソー』(2011)で兄ソーへの嫉妬と憎悪を抱えた弟として初登場した時や、『アベンジャーズ』(2012)でニューヨークを舞台に大暴れした時のロキは、まさに<裏切り王子>の名を欲しいままに、自らが世界や人々を支配しコントロールすることに渇望していた。

しかし、本シリーズにおいてロキは長年彼自身でさえ知り得なかった、真の目的を悟り行動に移すことで「大いなる目的」を達成する。そんなクライマックスに流れるこの神々しく雄大な1曲は、長く彼の旅路を見届けてきたファンであれば胸が熱くなること間違いなし。

Purpose Is Glorious

時にテルミンやエレキギターなどの多様な楽器、時に迫力溢れるボーカル、そしてオーケストラ演奏など、ありとあらゆる技法を駆使して我々を楽しませてくれる本作のサウンドトラックは、劇中で描かれる世界観と同じくらい、深遠で研ぎ澄まされたナタリー・ホルトの才能と絶え間ない努力によって完成したアルバム。

ロキのみならずMCUの今後にとって切っても切り離すことができない、マルチバースの更に奥深く、未知なる世界へと、そして新たな境地へと我々をいざなってくれる。

Written by 烏山タラ


ナタリー・ホルト
『ロキ:シーズン 2 – Vol. 1 (Episodes 1-3)(オリジナル・サウンドトラック)』
2023年9月15日配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music / LINE MUSIC

ナタリー・ホルト
『ロキ:シーズン 2 – Vol. 2 (Episodes 4-6)(オリジナル・サウンドトラック)』
2023年11月17日配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music / LINE MUSIC

マーベル・スタジオ 公式プレイリスト
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