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より高く、より遠く、より強く、共に。ローラ・カープマンによる『マーベルズ』の音楽を紐解く

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 11月10日に公開されたマーベル・シネマティック・ユニバース最新作『マーベルズ』。音楽を担当したローラ・カープマンはエミー賞受賞経験を持つ作曲家。今作にも登場する新世代ヒーロー『ミズ・マーベル』ドラマシリーズの音楽を手掛けており、そのメインテーマ曲で本年度もノミネーションを受けている。

そんな彼女の手による『マーベルズ』サウンドトラック。聴きどころについて、長谷川町蔵さんに寄稿いただきました。

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「マーベルズ」ファイナル予告

 

キャプテン・マーベルことキャロル・ダンバース(ブリー・ラーソン)は、宇宙の平和を脅かすクリー帝国の人工知能を破壊した。これを恨んだクリーの戦士ダー・ペンは、伝説と化していた魔法のバングルを発見し、ワームホールを創り出す。これによって宇宙が不安定化し、キャロルと旧知の関係にある宇宙飛行士モニカ・ランボー(テヨナ・パリス)、そしてジャージー・シティでミズ・マーベルとしてヒーロー活動する女子高生カマラ・カーン(イマン・ベラーニ)の体が入れ替わるようになってしまう。それぞれ能力を使うたびに体が入れ替わることを知った三人は、ダー・ペンの企みを阻止するためにチームを結成するのだが……。

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の最新作『マーベルズ』は、大ヒットした『キャプテン・マーベル』(2019)の続編であると同時に、ディズニープラスで配信された『ワンダヴィジョン』(2021)でスーパーパワーを得たモニカ、『ミズ・マーベル』(2022)の主人公カマラのその後も描いた野心作となった。

特筆すべきなのは、マーベルズが女性だけのヒーローチームであること。スタッフサイドにもそれは共通しており、『キャンディマン』(2021)で名を挙げた監督ニア・ダコスタ、『ワンダヴィジョン』からの続投となった脚本家ミーガン・マクダウェル、そしてスコアを手がけたローラ・カープマンも女性である。

1959年カリフォルニア生まれのカープマンは、スティーブン・スピルバーグが製作総指揮を手がけたSFドラマ『TAKEN』(2002)で名を挙げ、ドキュメンタリー『Why We Hate』(2019)でエミー賞を獲得。エレノア・コッポラ監督作『ボンジュール、アン』 (2016)やジョナサン・メジャース主演ドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』(2020)といった作品を手がけた後、アニメシリーズ『ホワット・イフ…?』(2021)からMCUに関わるようになった映画音楽作曲家だ。

圧巻だったのは、『ミズ・マーベル』における仕事で、パキスタンにルーツをもつ主人公に合わせて、民族楽器を駆使したトライバルなサウンドを展開。これがプロデューサーのケヴィン・ファイギに評価されて『マーベルズ』での起用に繋がったのだろう。

メインテーマ曲「Higher. Further. Faster. Together.」は、宇宙が舞台の本作に相応しい壮大なオーケストラ・ナンバー。ヒーロー物のお約束である金管楽器をメインに据えながら、パーカッションや混声コーラスを加えて、映画音楽の次の潮流を示してみせている。

Laura Karpman – Higher. Further. Faster. Together. (From "The Marvels"/Audio Only)

混成コーラスは他の曲でも活躍しており、バトルシーンで流れる「Final Fight」ではハーモニーを担当するだけでなく、リズム楽器のようなフレーズまで奏でている。カープマンは芸術系大学の名門ジュリアード出身だが、専攻はクラシックでなくジャズ。プライベートではスキャットの名手らしい。そんなバックグラウンドがスコアにも活きている。

彼女のジャズ的なアプローチに言及するなら、水の惑星アラドナで流れる楽曲群も語らないわけにはいかない。『梨泰院クラス』(2020)のパク・ソジュン扮するヤン王子が治めるこの星は、言葉はすべて曲として歌われるという設定。なので、マーベルズの面々が到着すると、途端に映画はミュージカル風の演出にチェンジ。このシーンでは、カープマンも大いに遊んでおり、「Voice of Aladna」では一曲の中でカリビアン・サウンドからブロードウェイ風へと変化。挙句の果てにはプリンセス風のドレスに身を包んだブリー・ラーソンとパク・ソジュンが踊りながらデュエットまでしてしまう。MCUがディズニー映画でもあることを再確認させられる楽しいナンバーだ。

そんな中、劇中で大フィーチャーされているのが、ヒップホップ・トリオ、ビースティ・ボーイズが1998年に放ったヒット曲「Intergalactic」。三人が体を入れ替わりながら特訓するシークエンスに流れるこの曲は一見、「銀河系規準」を意味するタイトルが本作に相応しいからというだけの使用に思えるけど、本当の理由はおそらくもっと深い。嘘だと思うなら、ビースティーズのラップに耳を傾けてほしい。彼らのラップはソロでマイクリレーしたかと思えば、ユニゾンでコールしたりと、コンビネーションが変幻自在かつ息もぴったり。つまりキャロルたち三人は、ビースティーズの「銀河系規準」なコンビネーションを目標にして特訓しているというわけだ。

Beastie Boys – Intergalactic

ちなみに『マーベルズ』のポスト・クレジット・シーンでは、オリジナル・サウンドトラックや公式プレイリストにも入っていない別の映画のスコアが流れる。まだ作品を観ていない人へのネタバレを防ぐために、ここでは作曲を手がけたのはジョン・オットマンとだけ書いておこう。

Written by 長谷川 町蔵


Laura Karpman
『マーベルズ(オリジナル・サウンドトラック)』
2023年11月8日配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music / LINE MUSIC

マーベル・スタジオ 公式プレイリスト
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