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ジャスティン・ビーバー、コロナ禍でポップスターが生み出す音楽と自身の心情を歌い始めた理由

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ジャスティン・ビーバー
Photo: Mike Rosenthal

2020年2月にアルバム『Changes』を発売したジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)。コロナ禍の中でコラボ曲や新曲を積極的にリリースし、先日YouTubeにてドキュメンタリー『Justin Bieber: Next Chapter』(日本語字幕あり)を公開してその心情を明かしています。

そんなジャスティンの最近の活動について、音楽ライターの新谷洋子さんに解説頂きました。

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『Changes』以降とコロナ禍のポップスター

ジャスティン・ビーバーの周辺が、秋になってにわかにざわついてきた。今年2月、ずばりバレンタイン・デーに5年ぶりのアルバム『Changes』を発表し、故郷カナダとアメリカで実に7枚目となるナンバーワンを記録した彼。前作を送り出してから長い空白が開いたものの、「Yummy」(全米最高2位)と「Intentions」(同5位)の2曲の全米トップ5ヒットも生まれて、根強い人気を見せつけたことは記憶に新しい。

しかし5月に始まる予定だったツアーはコロナ禍で延期されてしまい、ジャスティンの落胆が半端ではなかったことは想像に難くない。というのも当時広く報じられていた通り、ここ数年間の彼は名声のプレッシャーに苦しみ、メンタルヘルス面で様々なトラブルに直面。その末に、パートナー(モデルのヘイリー・ボールドウィン)との出会いなどを経て立ち直り、まさに今回のツアーで完全復活を証明するはずだったのである。

そんなわけで3月に入ると、他のLAの住人たちと同様にロックダウン生活に突入。以来活動に様々な制限が課せられたが、ジャスティンはただじっとしていたのではなかった。5月にはアリアナ・グランデとデュエットするチャリティ・シングル「Stuck With U」(フロントライン・ワーカーや医療関係者の子供たちを支援するために、ジャスティンとアリアナのマネージャーであるスクーター・ブラウンが発案。彼にとって6曲目の全米ナンバーワン・シングルに)で話題を提供し、次いで9月15日、“新しい時代、新しいシングル、始まる”と突如ツイッターで発信する。

過去に度々コラボしているチャンス・ザ・ラッパーをフィーチャーしたその新しいシングル「Holy」は、なるほど、“新しい時代”と呼ぶにふさわしい1曲だった。ヘイリーとの結婚を受けて制作した『Changes』が、幸福感を隅々まで行き渡らせたトラップ風味のR&Bジャム集だったのに対し、「Holy」では独自のアプローチでゴスペルに挑戦。神への愛とパートナーへの愛の偉大さを讃え、これらふたつの愛があれば苦難を乗り越えられるのだと切々と歌う。彼もチャンスも敬虔なクリスチャンであることは有名だが、ジャスティンが曲の中で、こんなにも率直に信仰心を表現したのは初めてだ。

Justin Bieber – Holy ft. Chance The Rapper

この「Holy」を全米チャートの3位に送り込んだジャスティンは、1カ月後に早くも、「Lonely」と題されたピアノ・バラードをリリースする。こちらはベニー・ブランコ(「Eenie Meenie」や「Love Yourself」でもコラボしたプロデューサー)との連名シングルだったが、ビリー・アイリッシュの兄で彼女の音楽作りの相棒であるフィネアスも、共作・共同プロデュースで参加(この原稿を書いている時点で全米チャート最高14位)。またもや歌詞の内容に注目が集まった。何しろここでのジャスティンは、誰にも理解されず孤独感に苛まれていた10代の自分の気持ちを赤裸々に綴っていたのである。ミュージック・ビデオでは、同じカナダ出身の俳優ジェイコブ・トレンブレイ(映画『ルーム』や『ワンダー君は太陽』などで注目を浴びた)が昔の彼を演じており、映像を伴って聴くといっそう胸が痛む。

ちなみに、「Holy」のミュージック・ビデオでも二人の役者――ウィルマー・バルデラマ、ライアン・デスティニー――が共演。ジャスティンはコロナ禍の影響で仕事を失う労働者を、ウィルマーは彼を助ける軍人を演じ、タイムリーなメッセージを込めて重厚な人間ドラマを作り上げていた

Justin Bieber & benny blanco – Lonely (Official Music Video)

 

なぜ心情を歌に込め始めたのか?

じゃあなぜジャスティンはこのように、今までになくパーソナルな歌を歌い始めたのか? 答えは、10月30日にYouTube Originalsで公開された、25分の長さのドキュメンタリー・フィルム『Justin Bieber: Next Chapter』にあった。彼に関するドキュメンタリーとしては、映画『ジャスティン・ビーバー ネヴァー・セイ・ネヴァー』(2011年)、『Changes』のリリースに合わせて届けられた全6話の短編集『Justin Bieber: Seasons』に続いて、これが第3弾となる。

このうち『Seasons』は、4作目『Purpose』(2015年)に伴うツアーの途中キャンセルに始まり、薬物依存など前述したトラブルの数々を乗り越えて、結婚し、キャリアをリセットして『Changes』を完成させるまでのジャスティンを、彼自身とヘイリーやスクーターほか関係者のコメントを交えて追っていた。

Leaving the Spotlight – Justin Bieber: Seasons

『Next Chapter』(監督は『Seasons』と同じマイケル・D・ラトナー)はその続編にあたり、2020年の動向を本人の語りを中心に伝えるもので、予期せぬ展開に戸惑いながらも自分がやるべきことを見極めて、「Holy」と「Lonely」を作った経緯を振り返るドキュメンタリー。

彼は冒頭で早速、現在の自分についてふたつの重要なポイントを打ち出している。ひとつは、パンデミック下で多くの人の人生が変わってしまった今、幸運にも仕事を続けられる立場にあるからには、人々をインスパイアする作品を作りたいということ。そしてもうひとつは、自分は生身の人間に過ぎず、己について理解を深める努力を日々しているという点において、ほかの人たちと変わらないのだということだ。

以後ジャスティンは、結婚からの1年間を振り返ってヘイリーとの絆の深まりを語り、二人の結婚式を執り行ったジュダ・スミス牧師(チャーチホームという教会を拠点にする著名な牧師で、アメリカのセレブリティたちが信頼を寄せる)も交えて、自分にとって大切なものは何なのかとじっくり論じる。それは何よりも、近しい人たちとの関係であり、財産や成功ではなく、ありのままの自分を受け入れてくれる家族や友人にこそ価値があるのだ、と。

続いて、「何かエンパワーリングなものを作って希望を伝えたかった」と、「Holy」が生まれた背景を解き明かす彼。チャンス・ザ・ラッパーと芝生に座り込んで、年齢を重ねることや信仰や愛について語り合うシーンは、本ドキュメンタリーにおいて最もインパクトのあるシーンなのではないかと思う。そして次に話題は「Lonely」とそのインスピレーション源に移り、一時は自殺も考えたこと、心無い言葉に傷つけられて、自分も他者を傷つけてしまうという負のサイクルに陥ったことなどに触れて、曲に託された想いの深さを窺わせる

そんなジャスティンが、辛い体験を後輩のために活かしたいと考え始めたのは、自然な成り行きなのだろう。『Next Chapter』の終盤では、オーストラリア人の新進シンガー・ソングライター、エディ・ベンジャミンにアドバイスを与える26歳の彼が、15歳の自分にも優しい言葉をかけている。そう、本ドキュメンタリーの冒頭で、彼は15歳の自分に宛てて手紙を綴っていたのだが、エンディングではその全文が映し出され、そこにはこんなことが書かれていた。

他人の意見に惑わされて自分を見誤ってはいけない。耳を傾けるべきは神の意見であり、神のパーフェクトな愛情は、自分を傷付けるようなことを言われても、君のハートを柔らかいままにしておいてくれるから

Justin Bieber: Next Chapter | A Special Documentary Event (Official)

こうして、新しい時代に突入した今の気分を、2曲のシングルとドキュメンタリーで届けてくれたジャスティンは、さらなるサプライズを用意していた。

12月に控えるショーン・メンデスの4枚目のアルバム『Wonder』からのセカンド・シングル「Monster」に、ゲスト参加していたのである。彼とショーンは同郷とあって、ショーンがブレイクした時には、メディアがしきりにジャスティンと比較してライバル扱いしたものだが、最近のショーンのインタヴューによると、ふたりはここにきて親交を深めて、ショーンはジャスティンから貴重なアドバイスを得ているのだとか。

「Monster」にはそんな経緯が投影されており、彼らが共有する体験――つまり、やたらチヤホヤされたかと思えば、激しい批判を浴びせられ、世間の目に翻弄されながら生きることの苦しみを吐露し(“15歳の時に世界は僕を祭り上げた”とジャスティンは歌う)、“じゃあ道を誤ったら自分はモンスターになってしまうのか?”と問いかけている。

Shawn Mendes, Justin Bieber – Monster

2013~14年頃に色んな騒動を起こして、まさしくモンスター扱いされたジャスティン。自分も同じような状況に陥るのではないかと不安を抱えているショーン。それぞれの立場からスターダムのダークサイドを突きつけている。中でもやっぱりジャスティンの言葉には、危機を幾度も乗り越えてきた人ならではの重みがあるんじゃないだろうか?

そんな「Monster」を聴きながら思い出したのは、飛行機に乗った時に必ず耳にするアナウンスメントだ。「緊急時に酸素マスクが下りてきたら、まず自分が装着してからほかの人を助けましょう」と。使命感に燃えて、後輩のケアをし、苦難と向き合う人たちをインスパイアしようと試みる彼を見ていると、次のアルバムは意外に早く聴けそうな気がしてきた。

Written By 新谷洋子



ジャスティン・ビーバー「Holy」
2020年9月18日発売
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music


ジャスティン・ビーバー「Lonely」
2020年10月15日発売
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music


ショーン・メンデス&ジャスティン・ビーバー「Monster」
2020年11月20日発売
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music




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