ジョン・バティステ来日公演レポ【後編】:会場を祝祭空間へ変えたニューオーリンズ流パフォーマンス

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©GREENROOM FESTIVAL’26

2026年5月24日のGREENROOM FESTIVAL、25日の東京公演、26日の大阪公演と、3日間にわたり来日公演を行ったジョン・バティステ。約3年ぶりとなる日本でのステージでは、初めてフルバンドを率いて登場し、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了した。

本記事では、大きな盛り上がりを見せたGREENROOM FESTIVALと東京公演の模様を、音楽ライター・内本順一さんによる長編ライヴ・レポートでお届けする。前編はこちら

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ニューオーリンズ音楽の祝祭性と連続性を伝えた打楽器セッション

ピンクのシャツで登場したこの日のバティステのライブは「TELL THE TRUTH」で幕を開けた。弾むように動いて歌い、何度か高い声で「アオッ」とシャウト。始まってすぐに観客たちにジャンプを促し、弾いていたギターを途中で置いて早速ピアノの前へと動いたりも。ホーンは高らかに鳴り、パーカッション(コンガとボンゴ)がアフリカ的なリズムを加え、バンドがひとつとなって凄まじいグルーブが生み出される。

「ゲンキデスカ?!」と日本語で問うてからの2曲目「FREEDOM」(GREENROOMでは終盤に演奏された)では早くもピークを迎えたかのような盛り上がりとなった。やはり金管とコンガが効いていて、ファンクでありながらブラスロック的でもある。(GREENROOMではやらなかった)3曲目「BOOM FOR REAL」をリズムを強調した演奏で終えたかと思えば、そのままクラシカルなピアノとファルセットで始まる「Worship」へ。

“Oh,my father、Oh,my brother…”の言葉がコンガの音と合わさりながら繰り返され、“ラ~ラララ、ララ、ララ”の部分を観客たちとシンガロング。その終盤でバティステはマイケル・ジャクソンの「Wanna Be Startin’ Somethin’」のフレーズを入れ込んだりもした。

どの曲もそうだが、演奏される曲は音源の何倍も膨らみと躍動がある。音源通りに演奏される曲などひとつもなく、3~4分の曲が10分以上演奏されたりもする。先にも書いた通りバティステの即興が多いので、メンバーみんなが常に彼の動きに集中して反応する。観客の反応の仕方によっても曲の進み方は変化する。これぞライブだ。

日本では「幸せなら手をたたこう」という歌詞とタイトルで童謡としても親しまれている「If You’re Happy and You Know It」をバティステがメロディカで吹けば、パンパンと手を鳴らして応える観客たち。同曲はそこから管楽器の厚みある音を中心にセカンドライン的展開へ。

そしてそこからが凄かった。Alvin Ford Jr.と川口千里というふたりのドラマーと、コンガのPEDRO MARTINEZ(“ジャズ・パーカッション・オブ・ザ・イヤー”に何度も選ばれている現代アフロ・キューバン・パーカッションの代表格)、さらには鍵盤とコーラス担当のMAX TOWNSLEYがカウベルを叩き、バティステもスティックでシンバルを叩いて5人での長い打楽器セッションが始まったのだ。

「リズムは人間を原初的に結びつけるもの」だとバティステはインタビューでよく話しているが、この場面はまさにその体現で、単なる盛り上げではなくアフリカ由来のポリリズムや身体性を色濃く残しながらニューオーリンズ音楽の祝祭性・連続性を伝えているのだなと、そう思った。この日のひとつのハイライト的な場面であった。

先にもチラと触れたバラード「Wherever You Are」はバティステのソウルフルな歌唱が印象的で、その艶のある歌声とピアノの合わさりに自分は開演前に曲がかかっていたスティービー・ワンダーを想起したりも。

この曲の終盤、若いギタリストのBRANDON NIEDERAUERがプリンス「Purple Rain」のようにスケール感大ありのギターを弾いたのもエモかった(ピーター・バラカン氏によるXのポストによれば、TAZと呼ばれる彼は15歳のときにZydefunkのギタリストとしてバラカン氏監修のイベント「Live Magic!」に出演していたそうだ)。

そしてベートーヴェン交響曲第5番「運命」をバティステ流に弾ませた「Symphony No.5 Stomp」へと移ると、そこから発展させたピアノに乗せてPEDRO MARTINEZがユッスー・ンドゥールばりのヴォーカルを。そう、彼は歌いもするのだ。

続いては眼鏡&ジャケットのギタリスト、ニック・ウォーターハウスが主役に。L.A.出身のウォーターハウスはソロアルバムを数作出し、単独で来日公演も何度か行なっている“ヴィンテージ・ソウル・シーンの伊達男”。バティステが大好きで以前からライブで取り上げている「Some Place」は彼の曲で、ここでは彼自身の渋いヴォーカルとギターがフィーチャーされた。

そしてバティステはグラミー受賞作『WE ARE』より「I NEED YOU」を歌って教会の雰囲気をそこに表し、それを受けてDESIREE “Dosz” WASHINGTONがド迫力のゴスペル的ヴォーカルでレイ・チャールズ「Night Time Is The Right Time」の一節を。音楽オーディション番組『ザ・ヴォイス』シーズン19から登場したヒューストン出身の彼女は、この場面に限らず圧倒的な声量と存在感で終始観客を魅了していた。

 

会場全体を祝祭空間に変える観客巻き込み型パフォーマンス

観客にポーズとダンスを指導した上での「BIG MONEY」でステージの上と下はさらにひとつとなり、その曲の途中ではサプライズで男性が登場。誰だろう? と思って見ていたら、バティステが「マイ・ファーザー!」と紹介した。ニコニコ顔の温和そうなお父さん、続いてのインプレッションズ「It’s All Right」ではバティステと一緒に歌ったりも(バティステ家はニューオーリンズ屈指の音楽一族で、父・マイケルはベーシストだった)。

そこから『World Music Radio』収録のレゲエナンバー「Be Who You Are」へ。終盤はバティステのメロディカとPEDRO MARTINEZのコンガを中心に曲が展開していった。バティステのメロディカ・ソロはそのあともしばらく続き、ステージに座った彼は映画『サウンド・オブ・ミュージック』の1曲「My Favorite Things」やベートーヴェン「エリーゼのために」を吹奏。その流れからメロディカで始めたモーツァルト「トルコ行進曲」の途中、再びバンドの演奏が加わって一気に賑やかなムードになった。

盛り上がるその最中、バティステはステージを下りてフロアへ。メロディカ吹奏を続けながら観客たちのなかに分け入った。バンドメンバーたちも彼に続く。「トルコ行進曲 (Turkish March)」での文字通りのマーチングに、観客たちは大興奮だ。

観客のなかに分け入って演奏するのはまさにニューオーリンズ流儀で、バティステのライブの核と言ってもいいもの。それはセカンドライン/ジャズ・フューネラル文化に繋がったもので、会場全体を祝祭空間に変えてしまうこの観客巻き込み型パフォーマンスこそが彼のライブの最大の楽しさ・面白さだ。

2023年の神田スクエアホール公演では、バティステは確か3~4回、メロディカを吹奏しながらフロアを練り歩いた。GREENROOMでは興奮した大勢の観客たちにもみくちゃにされながらもメロディカを吹奏し続け、その後ステージに戻ってバンド演奏が再開された。

そして渋谷の単独公演ではバティステを先頭にしてバンドメンバーたちもあとに続き、みんなでマーチングしながらそのまま会場出口へ。ステージに戻ることはなく、すぐに「本日の公演は全て終了しました」のアナウンスが流れたので、(自分もそうだったが)多くの客は「え?」となった。なかなかない終わり方だ。正直、もう一度ステージに戻ってあと少し演奏してほしかったという思いが残りながら自分は会場をあとにしたのだが……。

しかし実際は、あれでライブが終わったわけではなかった。自分は帰宅後にSNSで知ったのだが、出口を出てO-EASTの階段を演奏しながら下りたバティステとメンバーたちはそのまま会場の外を練り歩き、道路と搬入口のスペースで演奏を続けたそうなのだ。ついていった人たちは本当にラッキー。まさかそんなことになっていようとは。

因みに翌日の大阪・Zepp Namba公演ではオープニングからいきなりバンドを引き連れて2階に登場し、そのまま1階におりてマーチングしながらステージへ上がったそうだ。バティステとバンドは渋谷の街を演奏しながら歩き続け、そこから丸1日かけてZepp Nambaに到着したのだな(んなわきゃない)。

 

全てが同じ源から生まれたアメリカーナであることを表現

さておき、バティステが昨年発表した『BIG MONEY』は彼の多くの作品のなかでも即興的で有機的で根源的なアルバムだった。作り込みすぎにも思えたコンセプトアルバム『World Music Radio』の真逆とも言えるくらいに、閃きがそのまま形になったようなアルバムだった(曲が多すぎないのもよかった)。複雑な要素がなく、わかりやすい性質のアルバム。ではあるが、シンプルながらもゴスペル、ブルーズ、ジャズ、ソウル、ロッキンなR&Bまでが同時にそこにあった。バティステはそれをニュー・アメリカーナと呼んだ。

今年のグラミーでその作品がベスト・アメリカーナ・アルバムに輝いたのは彼にとって誉れなことだったに違いない。いろいろ削ぎ落とした形でニュー・アメリカーナを表現して伝えること。バティステは『BIG MONEY』でそれをやったわけだが、今回の公演もまたそれがテーマだったのではないかと自分は感じた。多様な音楽ジャンルがそこにあり、ルーツ音楽と共にプリンスもMJもレイ・チャールズもインプレッションズもあり、驚くことにクラシック音楽とアフロアメリカン音楽を続けて演奏したりもする。

しかもそうしたあれこれをシームレスに繋げる。こんな音楽もあんな音楽もありますよと紹介的に演奏するのではなく、全てが同じ源から生まれたアメリカーナなのだという考えのもとに縫い目なく演奏するのだ。そこに複雑さも理屈っぽさもなく、メンバーたちとひとつになって同じ空間で演奏する喜び、もっと言えば生きる喜びのようなものが現れていた。そこが素晴らしかったし、自分もこうして人と繋がりながら生きていくのだと、そんなポジティブな気持ちでいっぱいにもなった。

8月14日にはモーツァルトの曲をバティステ流のピアノ表現で再解釈した新作『Black Mozart (Batiste Piano Series, Vol.2)』と、セロニアス・モンクをテーマにした2作品が発表されると聞いている。
『BIG MONEY』と今回のツアーである意味原点に立ち返った彼が、そこから何を繋げてどう次の章を展開するのか楽しみだ。

Written by 内本 順一 / Photo : ©Masanori Doi


ジョン・バティステ『Black Mozart』
2026年8月14日(金)発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




 

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