ジョン・バティステ来日公演レポ前編:“自由”を体現した圧巻のフルバンド公演

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©GREENROOM FESTIVAL’26

2026年5月24日のGREENROOM FESTIVAL、25日の東京公演、26日の大阪公演と、3日間にわたり来日公演を行ったジョン・バティステ。約3年ぶりとなる日本でのステージでは、初めてフルバンドを率いて登場し、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了した。

本記事では、大きな盛り上がりを見せたGREENROOM FESTIVALと東京公演の模様を、音楽ライター・内本順一さんによる長編ライヴ・レポートでお届けする。今回は前編、後編は後日公開。

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ジョン・バティステが初めて日本で公演したのは、2023年10月6日。アルバム『World Music Radio』をリリースした翌々月というタイミングだった。会場はスタンディング時で約1000人収容の神田スクエアホール。第64回グラミー賞で最多の11部門にノミネートされてアルバム・オブ・ザ・イヤーを含む5部門を受賞したアーティストの初来日公演にしては規模の小さなものだった。

もっともこの公演は「Premium Showcase in TOKYO」と銘打たれたものであり、ショーケースという位置づけである故にフル編成ではなく、彼をサポートするミュージシャンはドラムスとパーカッションのみ(プリセットではない鍵盤音も鳴っていたが鍵盤奏者はステージ上に確認できなかった)。

ミニマルな編成だからこそ尚更、ピアノ、メロディカ、ギター、サックスと曲毎に楽器を替えて音楽の楽しさを全身で伝えてくるバティステの才能が直に伝わったとも言えるがしかし、小編成のショーケースでこんなに楽しいのだからフル編成のライブだったら一体どれほどのものになるのか、こんなもんじゃないだろう?!……という気持ちになったのも事実だ。

ああ、フル編成のバティステのライブを早く観たい。そう思っていたらその翌年(2024年)のSUMMER SONIC出演が決定し、豊洲PITと名古屋DIAMOND HALLでの単独公演も発表された。

やった! いいタイミングだ! そう喜んだのも束の間、残念ながらそれらの公演は直前になって「不測の事態により」キャンセルに。フェスが似合う開かれたパフォーマンスをするアーティストであるからして、あのタイミングでサマソニ出演が実現していたら日本での彼の評価はまた違ったものになっていただろう。

そこから2年が経ち、待ち望んだフル編成の日本公演が遂に実現した。昨年のアルバム『BIG MONEY』が今年のグラミーでベスト・アメリカーナ・アルバムに輝いたとはいえ、絶好とも言い難いタイミングではあったが、バティステは直前の5月22~24日に韓国はソウルで行われた「Seoul Jazz Festival」のヘッドライナーを務め、その流れで来てくれたのだ(因みに同フェスの3日間のヘッドライナーは、ジョン・バティステ、ジャネール・モネイ、ハービー・ハンコック。ほかに同時期に来日していたトロンボーン・ショーティ、エラ・メイ、アルトゥーロ・サンドバルらも出演)。

今回バティステはまず横浜赤レンガ倉庫特設会場で開催された「GREENROOM FESTIVAL2026」の2日目(24日)にヘッドライナーとして出演。続いて26日に渋谷・Spotify O-EAST、27日に大阪・Zepp Nambaで単独公演を行なった。

自分はGREENROOMと渋谷の単独公演を観た。通常、このようにフェスと単独公演がある場合、基本的に構成自体はそれほど大きく変えずに尺の長さだけ変えるものだ。例えばフェスでは1時間程度のなかに旨味を凝縮し、それより尺が長い単独公演ではフェスでの演奏曲に数曲を加えて膨らませる。しかしバティステは違った。フェスと単独とで演奏曲を変え、構成も変え、そればかりかバンドの編成まで変えていたので驚いてしまった。

 

ピアノ弾き語りが感動を呼んだGREENROOM

GREENROOMではステージの後ろに巨大スクリーンがあり、演奏するバティステとメンバーたちの姿が大きく映されていた。ステージ上のミュージシャンとスクリーンに映ったミュージシャンの姿が重なり、その立体感が音楽の躍動に結びついていた。照明演出も華やかで、玉虫色に光るスーツを着たバティステが尚更輝いて見えた。バティステはこの公演のなかで、ピアノ、メロディカ、アコースティックギター、エレクトリックギター、サックスを演奏。ドラマーの横に立ってスティックで一緒にリズムを叩き出した場面もあった。

そのマルチプレイヤーっぷりといい、パーンと弾けるようにステージに登場して端まで駆ける姿といい、ダークな要素が1ミリもない陽のエネルギーといい、1年前にGREENROOMの同じステージでヘッドライナーを務めたジェイコブ・コリアーを想起させるところもあった。次にどう動いて何をどう演奏するのか予想がつかない。そのような、めくるめくエンターテインメント・ショーを見せたのはGREENROOMも単独も一緒だ。が、曲の選びと並びは大きく変えていて、何を重点的に見せるのかの意識がフェスと単独とで違っていたのだろうと今は思う。

GREENROOMのライブでとりわけ印象に残ったパートは、中盤から終盤にかけてのピアノ弾き語りだ。ベートーヴェンの「エリーゼのために」をバティステ流に味付けした「FUR ELISE-BATISTE」(2024年作品『Beethoven Blues』に収録)をピアノで弾いたあと、彼が弾いて歌ったのは、プリンスのロマンティックなバラードでステファニー・ミルズやアリシア・キーズらがカヴァーした「HOW COME U DON’T CALL ME ANYMORE」。

マルチプレイヤーで、音楽のジャンルを自由に横断し、バンドと一体となって徹底的にエンターテインする、そのようなパフォーマーとしてのあり方に(セクシャルな要素こそないにしろ)プリンスと通じるものを少なからず感じていた自分としては我が意を得たりの思いだった。

 

即興性とセッション感をより強めた単独公演

そしてバティステはそこから2PAC「CHANGES」のメロディ部分をさらりと弾き、レナード・コーエンの大名曲「ハレルヤ」へと続けた。その祈るような歌唱表現を保たせたまま、さらには自身の名バラード「BUTTERFLY」へ。Netflix『ジョン・バティステ アメリカン・シンフォニー』(2023年)のなかで闘病中だった妻スレイカに作ったラブソングとして象徴的に使われていたその曲を聴き、思わず涙が溢れた。

様々な名場面があったGREENROOMのステージのなかでも、その一連のピアノ弾き語りパートはとりわけ感動的だった。

賑やかで躍動感のあるパートと深く聴き入ってしまうそのようなパートとを自然に合わせた上に、共同体のアンセムとして機能する「WE ARE」も力強く演奏したGREENROOMのステージは、緩急ありのショーとして非常に構成の練られたものだった。それに対してO-EASTでの単独公演はというと、より即興性とセッション感を強めたものだったように思う。

『World Music Radio』収録曲「WHEREVER YOU ARE」をピアノを弾いてソウルフルに歌い上げる場面はあったが、前述したように静かながら心の深くに響くピアノ弾き語りはほとんどなし。その分、バンドメンバーそれぞれの見せどころとジャムセッション場面がかなり増えていた。

ここでこの日の編成を記しておくと、ギター×2、ドラムス×2、ベース、キーボード、パーカッション、チューバ(またはスーザフォン)、トランペット、ヴォーカル、そしていろんな楽器を演奏して歌うバティステの総勢11名。

先に「編成まで変えていたので驚いてしまった」と書いた通り、GREENROOMでドラマーはひとり(ALVIN FORD,JR)だったのが、単独公演ではツインドラムになっていた。単独公演のほうに新たに参加したドラマーは日本人で、名は川口千里。10代から海外で注目され、YouTube上にアップされた当時16歳の彼女のプレイ姿を見てレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロが「今まで出会ったなかで最高のドラマーだ」と絶賛したというほどの技巧の持ち主だ。

参加に至った経緯をあとでユニバーサル ミュージックの担当に聞いたところ、バティステがSNSで彼女の演奏動画を見つけて長らくオファーしていたそうで、今回ようやく共演が実現したとのこと。その川口氏は東京公演翌日、Xに「今回初めて“何をやるか全く知らないままステージにあがる”という経験をしました。ステージ上でJonさんが思うままに決めていくので、それを汲み取ったバンドメンバーの様子を、私が更に汲み取るという連想ゲームを1時間半繰り広げていました」と投稿。

つまりはバンドメンバーみんなが、その場で“思うままに”曲を決めて演奏し始めるバティステに即座に反応して演奏していたということで、それぞれの技量の高さと集中力を実感すると共に、やはりプリンスにも似たバティステの天才的な即興表現力を改めて思い知った次第だ。

<後日公開の後編に続く>

Written by 内本 順一 / Photo : ©GREENROOM FESTIVAL’26


ジョン・バティステ『Black Mozart』
2026年6月19日(金)発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




 

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