来日公演直前、ジョン・バティステ:ジャズからポップス、モーツァルトまでのジャンル横断の歩み
自身の出発点であるジャズにとどまらず、アメリカーナやクラシックなど幅広い音楽性を持ち、さまざまなフィールドで活躍してきたジョン・バティステ(Jon Batiste)。主要部門である年間最優秀アルバム賞、年間最優秀レコード賞を含むグラミー賞通算8冠に加え、アカデミー賞、エミー賞、ゴールデン・グローブ賞など、数々の栄誉に輝いてきた。2025年のスーパーボウルでは国歌斉唱も務めている。
2026年5月末には来日公演を控え、6月19日にはモーツァルトの旋律をブラック・アメリカン・ミュージックの視点から再解釈した新作『Black Mozart (Batiste Piano Series, Vol. 2)』をリリース予定だ。
本記事では、改めて彼の歩みと、いま彼を聴くべき理由をあらためて紹介する。
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現代アメリカ音楽を代表する世界的アーティスト
ジョン・バティステを知った人は、何がきっかけだっただろうか。
ディズニー&ピクサー映画『ソウルフル・ワールド』の音楽で、あるいはグラミー賞で年間最優秀アルバム賞を受賞した『WE ARE』で、その名を知った人もいるかもしれない。
近年の彼は、グラミー賞8冠、アカデミー賞受賞という実績を重ね、ジャズ・ピアニストという出発点を超えて、映画音楽、テレビ、アメリカン・ルーツ、クラシックの再解釈までを横断する存在へと評価を広げてきた。
彼の名をアメリカの幅広い層に届けた場のひとつが、米CBSの深夜トーク番組『The Late Show with Stephen Colbert』だった。バティステは2015年から2022年まで同番組のバンドリーダー/音楽監督を務め、ジャズやソウルの感覚をテレビという大衆的な場へと持ち込んだ。
2020年、ジョン・バティステは『ソウルフル・ワールド』の音楽を担当し、大きな注目を浴びることになる“現代ジャズ”の重要人物だった。それから数年、彼の歩みは想像以上のスピードで広がっている。いまやジョン・バティステは、現代アメリカ音楽を代表する世界的アーティストの一人といっても過言ではないだろう。
もちろん、彼の凄さは受賞歴の多さだけではない。ジャズ、ニューオーリンズのブラスバンド、ゴスペル、ソウル、R&B、クラシック、映画音楽、アメリカン・ルーツ・ミュージック。バティステはそれらを横断しながら、どの領域でも確かな評価を獲得してきた。2026年5月に予定されている東京・大阪での来日単独公演を前に、彼の歩みを整理しておこう。
ニューオーリンズからジュリアードへ
ジョン・バティステは1986年、ルイジアナ州メトリー生まれ。ニューオーリンズ近郊の音楽一家に育ち、幼少期からピアノや打楽器に親しんできた。ニューオーリンズのセカンドラインやブラスバンド、ゴスペル、ブルースといった土着の音楽文化は、彼の血肉となっている。その後、名門ジュリアード音楽院でジャズを学び、ニューヨークを拠点に活動を広げていく。
ジャズ・ピアニストとしての高度な技術を持ちながら、彼の音楽は最初からジャズの枠に収まるものではなかった。クラシックに通じる端正なピアノ表現、ニューオーリンズで培われたリズム感、ブルースやゴスペルに根ざした力強さ、そしてポップ・ミュージックにも届く親しみやすいメロディ。そのすべてが、彼の演奏には同時に息づいている。
だからこそバティステは、ジャズの伝統を背負いながらも、映画音楽、ポップス、アメリカン・ルーツ、クラシックの再解釈へと自然に領域を広げることができた。彼の音楽は、ひとつのジャンルに属するというより、複数の音楽文化を自分の身体を通して鳴らすものなのだ。
その感覚は、彼が影響を受けてきた音楽の幅広さにも表れている。バティステは、ジャズやクラシックだけでなく、日本のゲーム音楽にも親しみ、それらをピアノで弾きながら作曲やアレンジを学んできたことを語っている。ジャンルを越えて音楽を受け取り、自分の表現へと変換していく姿勢は、現在の彼の創作にも通じている。
転機となった『ソウルフル・ワールド』とグラミー最優秀アルバム受賞
バティステの名を世界的に押し上げた転機の一つが、ディズニー&ピクサー映画『ソウルフル・ワールド』だった。トレント・レズナー、アッティカス・ロスとともに音楽を手がけた同作は、2021年のアカデミー賞で作曲賞を受賞。主人公がジャズ・ピアニストである同作において、バティステの演奏と音楽的感性は作品の核を担っていた。
そして2022年、アルバム『WE ARE』がグラミー賞の年間最優秀アルバム賞を受賞した。彼はこの年、最多となる11部門にノミネートされ、最終的に5冠を獲得。受賞カテゴリーは、年間最優秀アルバム賞に加え、映像音楽、アメリカン・ルーツ、ミュージック・ビデオなど多岐にわたった。つまりバティステは、ジャズの枠を超えた“ジャンル横断型の音楽家”として評価されたのだ。
その後も歩みは止まらず、2023年には『World Music Radio』を発表。世界中の音楽を電波のように受信する架空のラジオ局というコンセプトのもと、NewJeans、J.I.D、Camilo、Lana Del Reyらとの接点も生み出した。同作は2024年のグラミー賞で、主要3部門を含む計6部門にノミネートされている。
さらにNetflixで配信されたドキュメンタリー『ジョン・バティステ:アメリカン・シンフォニー』では、キャリアの頂点へと向かう彼と、病と向き合う妻スレイカ・ジャワードとの日々が描かれた。同作は2025年のグラミー賞で最優秀ミュージック・フィルムを受賞し、劇中歌「It Never Went Away」も映像メディア向け楽曲部門で受賞している。
スーパーボウルでの歌唱や大ヒット映画への出演
2025年に発表された9枚目のアルバム『BIG MONEY』は、バティステのアメリカン・ルーツへの意識をより前面に出した作品だった。ニューオーリンズ、ソウル、ブルース、ゴスペル、アメリカーナ。そこには、彼が生まれ育った土地の音楽と、現代社会への視線が同居している。
同作は2026年のグラミー賞で最優秀アメリカーナ・アルバム賞を受賞し、彼のグラミー受賞歴は通算8回となった。また2025年には、ニューオーリンズで開催されたスーパーボウルで国歌斉唱も担当。地元ルイジアナ出身の彼にとって、これは単なる大舞台以上の意味を持つ出来事だったはずだ。
さらに近年のポップカルチャー的な広がりを示すトピックとして、映画『プラダを着た悪魔2』へのカメオ出演も挙げられる。ファッション映画として日本でも高い知名度を持つ同シリーズの続編に名を連ねたことは、バティステが音楽シーンにとどまらず、映画やファッションを含むカルチャーの場にも自然に接続していることを物語っている。
映画、グラミー、ドキュメンタリー、スーパーボウル、そしてファッション・カルチャー。バティステは、アメリカのポップカルチャーの中心的な場を次々と横断しながら、自身の表現領域を広げ続けている。
モーツァルトを“現代のジャズ”として再解釈する新作
そんなジョン・バティステの次なる章が、2026年6月19日にリリースされる新作『Black Mozart (Batiste Piano Series, Vol. 2)』である。同作は、2024年の『Beethoven Blues』に続く“Batiste Piano Series”第2弾となる。
ソロ・ピアノ作品である新作は、ジャズ、ラグ、ストライド、ブルース、ストンプといった要素を通じて、モーツァルトの旋律をバティステならではのピアノ表現で再構築した作品だ。単なるジャズ風アレンジではなく、モーツァルトの音楽の核を保ちながら、自身の解釈によって現代的なピアノ作品として再提示している。
バティステ本人は、モーツァルトとセロニアス・モンクを、時代を超えて響き合う革新者として捉えている。2人はいずれも独自の音楽言語を作り、構造と自由、シンプルな旋律と複雑な発想を共存させた存在だった。『Black Mozart』は、モーツァルトを現在のバティステのピアノへと呼び込む作品であり、8月に予定されているモンクをテーマにした2作品への入り口でもある。
2026年5月、ふたたび日本へ
ジョン・バティステは2023年10月に初の来日単独公演を行い、神田スクエアホールを熱気に包んだ。そのステージではジャンルの垣根を越えて観客を巻き込み、会場全体を祝祭的な空気へと変えていった。彼のライヴには、ジャンルの説明より先に、身体を動かし、心を開かせる力がある。
2026年5月24日にはGREENROOM FESTIVAL’26へのヘッドライナー出演に加え、5月26日には東京・Spotify O-EAST、5月27日には大阪・Zepp Nambaでの単独公演も決定している。世界中の音楽をつなぎ直しているアーティスト、ジョン・バティステの現在を見ることができる来日公演は必見だ。
Written by uDiscover Team
ジョン・バティステ『Black Mozart』
2026年6月19日(金)発売
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