日本の担当者に聞く、ジョン・コルトレーン完全未発表アルバムが売れるまで

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6月29日に発売となったジョン・コルトレーンの完全未発表アルバム『Both Directions At Once: The Lost Album』。世界中でコルトレーンとしての過去最高売上を記録し、ここ日本でもオリコンデイリーランキング総合5位(6/29付)というジャズの過去の音源としては異例の売り上げを記録しているこのアルバムについて、日本のユニバーサル ミュージック、クラシックス&ジャズ次長であり今作の担当ディレクターの斉藤嘉久さんにお話しを伺いました。


――今回のアルバムについて、日本の担当者である斉藤さんも多くの取材を受けられていたようですが、今までどれぐらいの数を受けられました?

斉藤 アルバムの情報解禁の際には3-4社くらいの新聞記者の方から問い合わせのお電話を頂戴し、そのうち読売新聞では私のコメントも記事に掲載いただきました。発売後にも産経新聞デジタルの記者の方にインタビューを受けました。

――ラジオにも出られてましたね。

斉藤 音楽プロデューサーの行方均さんがプロデュースされているJFN系「A・O・R」ですね。アルバムから3曲をノーカットでオンエアしていただきました。

――今回のコルトレーンのアルバムについて、一番初めに知らされたのはいつ頃でした?

斉藤 去年の時点で「コルトレーンの未発表音源が出るらしい」という話は水面下で聞いていたのですが、果たしていつ出るのだろう?と半信半疑でいました。詳しい情報を知ったのは、今年1月のニューヨークでのジャズ・カタログ・ミーティングの場でした。そこでヴァーヴのカタログ担当のケン・ドラッカーが、今年の大目玉作品ということでこのアルバムを紹介したんです。それで「Impressions」をかけてくれて、「これは凄い!」と。

――その会議には世界中から何人ぐらいが集まっていたんですか?

斉藤 UK、フランス、ドイツ、イタリア、日本、それにアメリカのチームで、会議室には20人ほどいましたね。その日はそれまでマーケティングに関するディスカッションを延々とやっていて、みんな少し疲れ気味でした。そんな折に聴いたので、一同ものすごく盛り上がりましたね。

――斎藤さんは最初聞いた時にどう感じましたか?

斉藤 「音がいい」というのが第一印象でした。これほどの良い音質の正規録音がこれまで世に出ていなかった驚きと、演奏もこれまでの未発表作品よりもクオリティのレベルが違うなって思いました。

――他の国の人の反応はどうでした?

斉藤 聴き終わると自然に拍手がおきて、みんな凄い凄いって盛り上がりましたね。会議室にはヴァーヴのスタッフ以外にもドン・ウォズをはじめとするブルーノート・チームもいましたが、みんな「おおっ!」っていう印象でしたね。会議で音源を聴いてここまで盛り上がることは異例のことです。

――今回の音を他の日本のスタッフが聴けたのはいつ頃だったんでしょうか?

斉藤 アルバム全曲の音源が届いたのは4月頃だったと思います。部内スタッフと聴いて、「これはとんでもない作品だ」と興奮しました。それを受けて、メディアの方やCDショップの担当者向けに試聴会を開催したのですが、そこでも参加者のみなさんから絶賛の声を頂戴しました。我々も素晴らしいとは思っていましたが、みなさんも同じ感想を抱いてくださったので、自信が確信に変わりました。

――通常、未発表音源だからといってもジャズの昔の録音はなかなか売れることはないと思いますが、最初の目標は何枚ぐらいだったんですか?

斉藤 当初は、年間で1.5万枚を目標にするとヴァーヴに伝えていました。もともと「このアルバムは、単なる未発表アルバムではなく、コルトレーンのニューアルバムとして売っていく」という意思統一が各国の担当者間でありました。それを受けて、日本でも情報解禁タイミングで、宣伝チームが新聞各紙やTVのニュース番組に積極的にアプローチしました。結果、ジャズ作品ではありえないくらい大きなメディアに良い形で取り上げられ話題となりました。他の国でも同様だったようで、ユニバーサル ミュージックの全世界のプライオリティ作品に認定され、発売に向けて一気に熱くなっていきました。

――発売日前日の6月28日に一般の方を迎えての試聴会をされましたがその時のお客さんの反応はどうだったんでしょうか?

斉藤 ハイレゾ音源の試聴会だったのでオーディオ愛好家の方が大半でしたが、中にはコルトレーンのTシャツを着た20代の方もいらして、終了後に「この曲は、あのアルバムのあの曲と同じ曲なんでしょうか?」といった質問を受けました。たぶんご自身も楽器を演奏する方だと思いますが、若い層にも熱心なコルトレーン・ファンがいることは嬉しい事実でした。

――コルトレーンがここまで大きく取り上げられたことは今までありましたか?

斉藤 コルトレーンは常にジャズのトップアーティストではありますが、ここまで一般的なメディアで報じられたのは私の知る限り今までないですね。数年前に『至上の愛』の50周年記念デラックス・エディションを発売しましたが、これはオリジナルアルバムに未発表の別テイクを加えたものでした。今回はアルバムまるごと未発表の音源で、しかもその中にコルトレーンの未発表オリジナル曲も含まれていたという衝撃度が、大きく取り上げられた要因だったと思います。

――だからこそ世界中でコルトレーン史上最高位を獲得しているんですね。ちなみに斉藤さんがコルトレーンに音楽出会ったのはいつ頃なんですか?

斉藤 大学1年の時だったと思います。ジャズを聴き始めた頃で、近所の輸入盤屋で代表作だという『至上の愛』の廉価版LPを買いました。

――最初聴いたときの感想はどうでした?

斉藤 正直、ちんぷんかんぷんでした。凄い演奏だなっていうのはなんとなく肌で感じましたが、その凄さをちゃんとは理解できなかったですね。大学ではニューオリンズ・ジャズのサークルでトランペットを吹いていたので、ジャズはニューオリンズから年代を追って順番に聴いていったんです。なので、コルトレーンのようなモダンジャズを向き合って聴いたのは、大学3年あたりのことでした。

大学卒業後にポリグラム(現在のユニバーサル ミュージック)に入社して、2年半後にジャズ部に異動して以来、ほぼずっとジャズの制作に携わってきました。私が20代半ばの新米だった頃、当時の「スイングジャーナル」の編集長がものすごく可愛がってくださって、その方がコルトレーン研究家だったこともあり、いろいろと教えていただきました。

――そんな斉藤さんのキャリアの中で今回のコルトレーンの作品と同じぐらいの一般メディアで話題になったものはありましたか?

斉藤 ハービー・ハンコックが2008年に『River: The Joni Letters』でグラミー賞最優秀アルバムを受賞したり、2011年に上原ひろみが参加作品でグラミー賞を受賞したときには、一般のニュース番組でも取り上げられましたが、ジャズの過去録音の作品の中では、ここまで大きくなったものはないですね。

――今回のアルバムはもちろん完全未発表の新曲が注目されるところですが、他の聴きどころを教えて頂けますか?

斉藤 ピアノが入っていない「Impressions」は貴重ですね。デラックス・エディションのDisc 2に収録されている「Impressions」のテイク1と2にはピアノが入っているんです。でもテイク3と4はピアノがいないんですよ。なので、録音を進めながら試行錯誤してテイクを作り上げていったのが、続けて聴くとよくわかると思います。




あとは「Slow Blues」。これはブルースを即興で合わせたものですが、この時期のコルトレーンの録音でここまでカジュアルに演奏している音源は私の知る限りなくて、これはこれで貴重だと思います。

――海外ではソニー・ロリンズが今作を「これはまるで、巨大ピラミッドの中に新たな隠し部屋を発見したようなものだ」と例えたコメントありましたが、斉藤さんが例えるなら何かありますか?

斉藤 それに関しては、実は私自身も例えを考えてツイートをしています。是非みなさんも何か思い浮かんだら気軽な気持ちでツイートしていただけると嬉しいです。

――そういえば、uDiscoverで連載している丸屋九兵衛さんにもこんなものを頂いていました。

「ジャズ界のムー大陸(伝説の聖痕)、数十年の沈黙を破ってついに浮上」
「ジャズ界のエクスカリバー(伝説の聖剣)、ついに発掘!」

他にも面白いツイートがあるんですね。

――今回のアルバムがコルトレーンの最初に買った作品という方もいると思うんですが、2枚目はこれを聴いて欲しいというお薦めのアルバムは何になりますか?

斉藤 もちろん『Ballads』や『至上の愛』といった名盤も素晴らしいですが、今回のアルバムの録音と同じ年の1963年10月に、コルトレーン・カルテットがニューヨークのバードランドで演奏した際のライヴ音源が『Live at Birdland』として発売されていますが、その演奏も本当に素晴らしいです。絶頂期にあった1963年のコルトレーンを、スタジオとライヴの両面で味わって頂きたいですね。

――ありがとうございました!


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2CDデラックス・エディション」「1CD通常盤」「LP

<パーソネル>ジョン・コルトレーン(ts, ss)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)
★1963年3月6日、ニュージャージー、ヴァン・ゲルダー・スタジオにて録音


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