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オリヴィア・ディーン母国凱旋ツアー:世代やジャンルを横断して音楽文化を現在へと接続した一夜

2025年9月26日にリリースしたセカンド・アルバム『The Art Of Loving』が、母国UKだけでなくオーストラリア、アイスランド、オランダなど全世界7か国で1位を獲得。全米チャートでは3位を記録し、Brit Awards 2026では最優秀ブリティッシュ・アーティスト、最優秀楽曲賞など合計4部門を受賞、2026年度グラミー賞でも最優秀新人賞を受賞するなど、大きな成功を収めているオリヴィア・ディーン(Olivia Dean)。
オリヴィアはアルバムだけでなく、同作からの先行シングル「Man I Need」でも全英1位、全米2位、Spotifyでは約12億再生を記録するなど、絶好調を維持。そんな彼女が、アルバムタイトルを冠したツアーを2026年4月から開始した。そのツアーのロンドン公演のレポートが到着。
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6公演連続ソールドアウトのロンドン公演
2026年6月11日、ロンドンで2万人を収容する最大級の会場、O2アリーナでオリヴィア・ディーンの公演が行われた。2025年に発表されたアルバム『The Art of Loving』のツアーの一環である今回の公演は、同会場6公演連続ソールドアウトという快挙の一部として行われたものだ。1999年、ロンドン出身の彼女にとって、堂々たる凱旋ライブである。近年のイギリス音楽シーンにおいて、ディーンが最も重要なシンガーソングライターの一人であることは、この数字的な事実からも間違いない。
会場に到着してまず気づいたのは、開演前に流れる音楽である。メアリー・J.ブライジやレゲエのクラシックが開演前の空間を温めていた。2024年から2025年にかけて、ディーンはロンドンの音楽ラジオ局NTSに出演し、自身に影響を与えた楽曲をセレクトしていたのだが、この日の選曲もそこに重なる。つまり、それは単なるBGMというよりも、彼女の音楽を形作る参照点の地図のように感じられた。
会場にはディーンと同年代の若者を中心に、カップル、家族連れ、中高年の観客も数多く見られた。私の目の前には親子で来場している観客がいたのだが、ビヨンセの「Love on Top」が流れると、2人は自然に歌い始めた。その光景は、このライブが特定の世代のためのイベントではなく、複数世代が共有する音楽文化の場であることを象徴しているようだった。
ロンドンには長いブラック・ブリティッシュ・ミュージックの歴史がある。ジャマイカ移民によってもたらされたサウンドシステム文化。レゲエやラヴァーズ・ロック。そこから生まれたUKソウル、アシッドジャズ、さらに、ディーンもその一部として活動を続ける現在のジャズ・リバイバルやネオ・ソウルへと至る流れ。その歴史の中で、自身もカリブ海にルーツを持つディーンは単なるポップスターではなく、多文化共生の街、ロンドンという都市が育んできた音楽文化の継承者として存在している。
そのことは、この日のライブ全体から伝わってきた。20時にサポートアクトのアリス・フィービー・ルーが登場した頃、客席はまだ7割程度しか埋まっていなかった。しかし仕事帰りの観客たちが次々と会場へ流れ込み、転換時間が終わる頃には巨大なアリーナはほぼ満員となった。TikTok世代の若者だけではない。さまざまな世代の人々が、それぞれの生活の延長線上でこの場所へ集まってくる。
ライヴの中心は歌
ライブは「The Art of Loving (Intro)」から始まり、「Nice to Each Other」へと続いた。これだけの規模の会場でありながら、ディーンのパフォーマンスはオーディエンスとの距離を感じさせない。舞台演出にも工夫が凝らされており、アリーナ中央には円形のBステージが設置されていた。「Loud」「A Couple Minutes」「The Hardest Part」「Baby Steps」といった楽曲を中央ステージで披露することで、彼女は巨大な会場を一時的に小さなライブハウスのような空間へ変えてみせた。
近年のポップ・コンサートでは巨大な映像演出が主役になることも少なくない。この日のライブではステージ後方にディーンとバンド・メンバーの姿が映るスクリーンこそ設置されていたが、ライブの中心にあったのは、あくまでも歌とバンド・アンサンブルだった。特に印象的だったのは「Time」である。楽曲後半ではサックスによる長いソロが展開される。その瞬間、会場はポップ・コンサートというよりも、ジャズやソウルのライブに近い空気に包まれた。
彼女の音楽の背後には、現在のポップ・ミュージックだけではなく、ソウルやレゲエ、ジャズの豊かな蓄積が存在する。そしてその蓄積は、この日のライブにおいても明確に表現されていた。その象徴が、カーティス・メイフィールドの「Move On Up」のカバーだろう。この選曲は、ディーン自身がどのような音楽の歴史を受け継いでいるのかを示しているようにも聞こえた。
曲の合間に常にディーンはオーディエンスに語りかけていた。その共感と肯定にあふれた言葉は、彼女の生き方そのものを体現している。「私たちはお互いに分断される世界にいるけど、誰かを愛すること、自分を愛することを忘れないで」。力強いスピーチの後に堂々と演奏された「Let Alone The One You Love」に、会場は一層エモーショナルに反応した。
冒頭で書いたように、カリブ海のジャマイカとガイアナに出自を持つディーンにとって、自分のルーツと向き合うことは、音楽的にも人間的にも非常に重要な意味を持つ。「今日、会場にカリブ系の人はいる?」と彼女は会場に問いかける。イギリスとカリブ系のミックスである自分のアイデンティティに悩んだ時、自分の背中を押してくれたのは、祖母と母の姿であったと彼女は語る。「次の曲をイギリスにやってきた私の祖母に捧げます」と始まった「Carmen」。ルーツと向き合い、自分を肯定するメッセージが感動的に突き刺さる。
ライブ終盤には「OK Love You Bye」「It Isn’t Perfect But It Might Be」「Dive」、そして最後の「Man I Need」と代表曲が続いた。観客は大合唱しながらも、どこか穏やかな熱狂の中にいた。6公演ソールドアウトという数字は確かに驚異的だ。しかしこの夜が本当に示していたのは、商業的成功だけではない。異なる世代やジャンルを横断しながら、過去の音楽文化を現在へと接続すること。そしてその歴史を、新世代のポップ・ミュージックとして、オーディエンスに共感を通して提示すること。ディーンは今、その役割を担う数少ないアーティストの一人なのだと思う。彼女の愛する技法(the art of loving)が、どのような形で進化していくのか、今後も楽しみでならない。

Written &Photo By 髙橋勇人
オリヴィア・ディーン『The Art Of Loving』
2025年9月26日発売
CD / LP / カラーLP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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