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NE-YOはやはり完璧なエンターテイナー:Blue Note JAZZ FESTIVALライブレポ
2025年9月27日に神戸にて単独公演、9月28日にはBlue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2025でのヘッドライナー公演を行ったNe-Yo。
このBlue Note JAZZ FESTIVAL公演のライブレポートを、ライター/翻訳家の池城美菜子さんに執筆いただきました。
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華やかさと、甘酸っぱさと。すぐに消えそうなこのふたつの特性を、20年近くもキープしている奇跡のシンガー・ソングライターが、NE-YOだ。シングルデビューを果たした2005年からちょうど20周年。恋愛模様を鮮やかに描いた歌詞と、キャッチーなメロディーという鉄板のフォーミュラを生み出し、R&Bとポップ・シーンを刷新したNE-YOが帰ってきた。
9月28日、Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2025の2日目は、SOIL&“PIMP”SESSIONS with special guest 長岡亮介からスタートし、UKソウルの雄、インコグニート、日本のR&Bキング、三浦大知、長寿ファンク・バンドのタワー・オブ・パワーと、ソウルとR&Bのカラーが濃いラインナップ。ヘッドライナーのNE-YOは、前日に神戸のGLION ARENAを沸かせてから東京入りをしていた。
全てが最高水準のステージ
暗転した場内で、ソウル・II・ソウル「Back to Life」が流れた。妖艶なムードをかもす、UKソウルの名曲でNE-YOはこの夜のムードをセットした。最近のお気に入りらしいカウボーイ・ハットとラインストーンをあしらったジャケットで本人が登場、おもむろに「Stay」を歌い出す。ヒップホップのスクラッチを巧みに入れ込んだデビュー曲から始めて、アニバーサリーの色合いを強める。4人の女性ダンサーの動きも、4ピースのバンドの演奏もタイト。近年、数多のステージに立っているNE-YOチームは最高水準だ。
2曲目が「She Got Her Own」、別名「Miss Independent Part 2」。3作目『Year of the Gentleman』の日本盤のボーナス・トラックであり、客演したジェイミー・フォックスのアルバム『Intuition』にも収録された息の長いヒット曲だ。ラッパーのファボラスを迎え、3人が経済的に自立した女性を讃える歌詞は、2008年の世相を切り取っていたのが、世界的ヒットになった理由だろう。つぎが、本家の「Miss Independent」。ミッドテンポの曲でも、美声がよく響いて心地いい。続いてTikTokでリバイバル・ヒットした、2作目のタイトル曲「Because Of You」。すでに有明アリーナで午後いっぱい過ごした観客も、おなじみのメロディーに合わせて揺れ始める。ダンサー4人のダンスブレイクを挟んで、『Year of the Gentleman』からの「Nobody」に流れたのも美しかった。
ここで「Champagne Life」を入れて、祝福ムードに転じた。「シャンパンを飲みながら、上等な暮らしを楽しもう」というおもしろいコンセプトの曲である。マイケル・ジャクソン仕込みのステップを華麗に披露して、4作目『Libra Scale』からの「One in A Million」へ。「百万人のなかのたったひとりの君」がテーマのため、結婚式でも重宝されている。曲のムードに合わせたダンサーたちコスチューム・チェンジも見もので、タキシードの男装がとくに2025年らしかった。
一方、主役のNE-YOは勢いよく脱いだジャケットをステージ後方で丁寧に畳んでみせて、笑いを誘うひと幕も。「アイシテル!」のあいさつのあとは、「Sexy Love」。「歌詞がわかったら歌って!」とのかけ声に答えて、場内に歌声が広がった。やはり、デビュー・アルバムからの曲の浸透ぶりはすごい。火花が上がって6作目『Non-Fiction』のリード・シングル「She Knows」を歌い込む。
20周年への意識
どのアルバムからも満遍なくセットリストに組むあたり、アニバーサリーを意識していたのかもしれない。「20周年を迎えられたのは、みんなのおかげだよ」と、NE-YOもあいさつしていた。シルバーのジャケットに着替えると、「So Sick」のイントロが流れ、客席から悲鳴にちかい歓声が上がった。ノルウェーのスターゲイトがプロデュースした、彼の出世作である。
「ラジオから流れてくるラヴソングにはうんざりなんだ、でもやめられない」とのコーラスを歌いながら、スマホのライトをかざすように促した。その「流れてくるラヴソング」を作る、トップアーティストにNE-YO本人がなったのだから、予言のような曲だ。この合唱シーンが、当夜のハイライトのひとつ。
ここから、新しめの曲に移った。最新作『Self Explanatory』収録の「Handle Me Gently」〜「U 2 Luv」、2018年の7作目『Good Man』から「Push Back」を続けた。『Self Explanatory』は、彼の離婚経験がテーマの作品だが、ニューエディションを思わせるダンスを織り交ぜて、80年代風にショーアップしたのはさすがプロ。いい曲が多く、評価が高いアルバムなので未聴の人も、ぜひチェックしてほしい。ここで客席から女性3人をステージに上げて、ダンスコンテストを行なった。ベタな演出ながら、アフロビートに合わせて一緒に踊るNE-YOも楽しそうで、観客席も拍手で参加して盛り上がった楽しい場面だった。
米エンターテイメントの伝統
後半でNE-YOの真骨頂、恋愛の機微をテーマにした曲のセクションへ。ピアノの音色に合わせて、元カノに「僕とのちがった未来を考えたことはある?」と問う「Do You」。喧嘩したまま眠りにつきたくない、と歌う「Mad」はテンポを落としたアレンジでじっくり聴かせ、ライブの良さを再確認した。2007年の2作目からの「Say It」と2024年のシングル「Show Me」をつなげても違和感がなかったのも、NE-YOの音楽性がブレない証左となった。
そこから、デビューアルバムの隠れ名曲「Mirror」へ。マイケル・ジャクソンを思わせる赤と黒の服を着たダンサーと、椅子を使ったセクシーなダンスを披露。ミュージカルから派生した1972年の名作映画『キャバレー』からヒントを得たこの演出も、エレガント。昨年、ラスベガスでレジデンシー公演を任された彼は、アメリカのエンターテイメントの伝統をつなぐ存在になったのだ、とこちらも感慨深い。
続けて、ヒット曲を連発するソングライターにしかできない芸当を見せた。「この曲を書いたのは僕だよ!」と言わんばかりに、元カニエ・ウエストと作ったケリー・ヒルソンの「Knock You Down」と、リアーナ「Take A Bow」のコーラス部分を歌ったのだ。「Take A Bow」の「悪いと思ってもいないくせに謝らないで/ベイビー 見つかったのがまずかっただけでしょ(Don’t tell me you’re sorry ‘cause you’re not/Baby, when I know you’re only sorry you got caught)」の箇所を男性の歌声で聴くのは新鮮だった。
R&Bの金字塔と完璧なエンターテイナー
3回目の衣装替えは、キャップとブルゾンと少しカジュアル。ほかのアーティストへの提供曲を締めたのが、マリオに書いた「Let Me Love You」だ。NE-YOがデビュー前に書いた、00年代R&Bの金字塔のひとつだろう。これを彼が本腰でカヴァーしたのは、筆者の個人的なハイライトだった。
雰囲気がしっとりしたところで、アップテンポの代表曲「Closer」で観客をダンス大会へと誘った。「もうミス・インディペンデントに話しかけたし、セクシーラヴにも話しかけたし‥」と曲名を織り交ぜてMCをしてから、同名異曲の「Let Me Love You (Until You Learn to Love Yourself)」。「僕にしておきなよ」というコーラスは同じものの、マリオの曲の女性はどちらかと言えば男性依存型、同じコンセプトながらNE-YOのほうはセルフラヴの大切さを諭す内容になっていて、彼がつねに新しい価値観を提示するソングライターなのだ、と考えながら聴き入る。
終盤。黒いタンクトップ姿になってから、4作目のヒット「Beautiful Monster」へ。最後は華やかなダンスナンバーの連続投下だ。スモークがステージを覆ったあと、「跳ねて!」と客席にジャンプを促し、カルヴィン・ハリス作「Let Go」から、デイヴィッド・ゲッタ作「Play Hard」へ。ヨーロッパのダンスフロアーでも大人気を博した曲だ。ここで金色の紙吹雪が舞い、フェスティバルがクライマックスに近づいたことを告げた。
NE-YOのEDM曲は、「しっかり働いたんだから、ここでは楽しもうよ」というメッセージを放つ。同様のコンセプトの、ピットブルとの「Time of Our Lives」と「Give Me Everything」で、凛々しいビキニ姿のダンサーたちと有明アリーナ全体をクラブ・モードに変えた。
入念に計算された演出と構成のメリハリ。今回のフェスで彼のステージを初体験した音楽ファンは、きっとまた彼のコンサートに足を運びたくなるような盛り上がりだった。歌唱もダンスも超一流、NE-YOはやはり、完璧なエンターテイナーであった。
Written by 池城美菜子 (noteはこちら) / All Photo ©︎ Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2025
NE-YO『NE-YO 20 <オールタイム・ベスト>』
2025年9月17日発売
CD
- NE-YOが自身のキャリアを振り返る『In My Own Words』の予告編公開
- 13年の時を超えて再ブレイクしたNe-Yo「Because of You」
- Ne-Yoのヒット曲「Because Of You」がTikTokをきっかけに再度ブレイク
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