フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのベスト・ソング15:80年代の傑作ポップ・ソング

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Photo: Mike Prior/Getty Images

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド (Frankie Goes To Hollywood) は、最初のシングル「Relax」が露骨な性的描写を理由としてBBCで放送禁止になった。その瞬間から、このバンドはイギリスの音楽界でトップ・スターとなった。

結局のところ、その名声は儚いものではあったが、彼らは画期的な楽曲を何曲も残した。それらは1980年代を代表する最高に創造的で挑発的な楽曲であり、最大級の成功を収めた。

このバンドの名前は「フランキーがハリウッドに行く」という意味だが、これはフランク・シナトラにちなんだものだった (もともとのフレーズは、シナトラの映画界でのキャリアに関するポスターに登場していた) 。

彼らはリバプール出身ではあったが、見た目もサウンドも他とはまるで違っていた。まず、ヴォーカルのホリー・ジョンソンとポール・ラザフォードは、どちらも自らがゲイ男性であることを公表していた (当時のポップス界では、ゲイであることをカミングアウトするのはまだまだごく少数だった) 。一方、そのバックを務めるメンバーたちはヴォーカリスト2人とは対照的だった。ピーター・ギル、マーク・オトゥール、ブライアン・ナッシュは強面のミュージシャンであり、彼らは親しみを込めて「ゴロツキども」と呼ばれていた。

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドがこれほどの成功を収めたのは、さまざまな要素を見事なかたちで組み合わせたおかげだった。彼らは喧嘩腰の小生意気な態度をとっており、マーケティングも大胆不敵だった (一連の“Frankie Says” Tシャツは、そこら中に出回っていた) 。そして最も重要なことに、レコード・プロデューサーのトレヴァー・ホーンの熟練した手腕に助けられ、非常にオリジナリティあふれる楽曲を作り出していたのである。

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドは、トレヴァー・ホーンと彼の妻ジル・シンクレアの新レーベル、ZTTレーベルと契約した最初のアーティストとなった。そしてホーンは、キッスとドナ・サマーを融合させたようなサウンド作りに乗り出した。

当時のトレヴァー・ホーンは、ABCやマルコム・マクラーレンなどと組んだ活動のおかげで、急速に評価を高めつつあった。そんな彼は、文字通り未来のサウンドを作り出そうとしていた。当時まだ珍しかったサンプリング・マシンを駆使して、彼は大げさだが豪華な響きを持つ楽曲を仕上げた。それらが、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの1984年のデビュー・アルバム『Welcome To The Pleasuredome』として発表されることになった。ホーンが意図的に仰々しい音作りを施したこの2枚組アルバムは、発売前の段階で出荷枚数100万枚という記録を打ち立てた。しかもそこに収録された最初のシングル3枚は、すべてチャートの首位に到達している。

しかし、それより10年ほど前のセックス・ピストルズと同じように、このグループも始まったとたんに終わってしまう。セカンド・アルバム『Liverpool』を発売した翌年、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドは崩壊し、そのあとには1980年代という時代をとりわけ特徴付けた楽曲が残された。

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ヒット曲

1. Relax

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの激しく脈打つようなエネルギーあふれるデビュー・シングル「Relax」は、1983年秋のリリース直後はほとんど注目されなかった。しかし翌年1月には全英チャートのトップ10に入り、テレビの人気番組『Top Of The Pops』でも演奏された。

そんなデビューしたての段階で、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドは最高に意外な方面から後押しを受けることになった。ある朝、BBCを代表する全国放送であるレディオ1の司会者が、このシングルの性的な歌詞とアートワークに嫌悪の気持ちを抱いていると生放送で口にしたのである。その結果、「Relax」はBBCで放送禁止となり、あっという間に新たな悪評と貴重なプロモーションのチャンスを得た。

この曲はたちまちチャートの一番上に昇り詰め、5週連続で首位の座を保った。売上は180万枚におよび、このシングルはイギリスで史上最も売れたシングル10曲のひとつとなった。また、この曲はフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドにとって初めての全米チャート・トップ10入りのヒットにもなっている。

 

2. Two Tribes

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのセカンド・シングル「Two Tribes」もやはり物議を醸し、デビュー・シングルとほぼ同じくらいの成功を収めた。この曲は、核兵器による大虐殺が現実的な脅威として常に存在していた時代に発表された。

この曲では、冷戦という暗いテーマと、差し迫った紛争に関する楽しげな歌詞が共存していた。それを支えたのは、ドラマティックで凄みのあるトレヴァー・ホーンの音作りとミュージック・ビデオだった。そのビデオでは、当時のアメリカ大統領ロナルド・レーガンとソ連の書記長コンスタンチン・チェルネンコがレスリングで戦う姿が描かれていた。

このシングルは全英チャートで初登場1位を記録し、150万枚以上を売り上げ、さらには9週連続で首位の座を保った。これは、1980年代の全英チャートにおける最長記録である。これほど長いあいだに渡って好成績を挙げた理由のひとつは、ZTTがこの曲の12インチ・リミックスを次々に投入したことにもあった。

 

3. The Power Of Love / 4. Welcome To The Pleasuredome

続くシングル「The Power Of Love」は、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドにとって音楽的な面での方向転換となった。これはストリングスをたっぷりとかぶせたバラードだった。クリスマス前という発表時期に合わせて、キリストの降誕祭をテーマとしたミュージック・ビデオも作られている。

この曲が1位を獲得したことで、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドはデビュー・シングルから3枚連続で全英チャートの首位を獲得した史上2組目のアーティストとなった。しかし、快楽主義的な4枚目のシングル「Welcome To The Pleasuredome」は最高2位にとどまり、この快進撃の記録も途切れてしまった。

 

5. Rage Hard

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドは、もう一度だけ全英シングル・チャートのトップ5に到達している。その曲「Rage Hard」は1986年のアルバム『Liverpool』から出た第1弾シングルで、よりロック志向のサウンドを取り入れている。

 

カヴァー曲

6. Ferry Cross the Mersey

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドはオリジナリティあふれる楽曲を発表していたが、それと並行して、短いレコーディング・キャリアの中でもうひとつの路線を追求していた。つまり、昔の名曲のカヴァー録音である。それらはポピュラー音楽のあらゆるジャンルを網羅しており、マージービートやイージーリスニング、さらにはモータウンや肉体派のアメリカン・ロックの楽曲までが取り上げられていた。

マージービート・グループのジェリー&ザ・ペースメイカーズが最初に発表した「Ferry Cross the Mersey」は、故郷リバプールに捧げるラブ・レターだった。その録音から20年後、同じくリバプール出身のフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドがこの曲を心に残るメランコリックなアレンジでカヴァー録音し、シングル「Relax」の12インチ・ヴァージョンに収録した。

素敵な偶然の一致だが、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドより前にデビュー・シングルから3枚連続で全英チャートの首位を獲得したアーティストというのはペースメイカーズだった。

 

7. War

一方セカンド・シングル「Two Tribes」のB面にはいくつかの曲が選ばれていたが、そのひとつ「War」はもともとエドウィン・スターがベトナム戦争の時代にヒットさせたプロテスト・ソングだった。

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのヴァージョンは攻撃的でパンチの効いた内容になっており、イギリスの俳優/コメディアンのクリス・バリがロナルド・レーガンのモノマネをすることで最新の状況も反映していた。

 

8. Born To Run

さらに意外な選曲だったが、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドはブルース・スプリングスティーンの「Born To Run」もカヴァーしている。そのイントロはまるでセックス・ピストルズの「God Save The Queen」のようなサウンドだが、その後はスプリングスティーンのアンセムをかなり忠実に再現していた (ややオーバーなくらいの仕上がりではあったが) 。

 

9. San Jose (Th3e Way)

それと同じくらいリスペクトにあふれたカヴァーになったのが、バカラック&デイヴィッドの名曲「Do You Know The Way To San Jose」である。フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの爽やかなヴァージョンは「San Jose (The Way) 」と改題されており、デビュー・アルバムではスプリングスティーンのカヴァーの次に収録されていた。

 

 リミックス

10. Two Tribes (Annihilation)

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのDNAと成功と切っても切れなかったのが、連発されたリミックス・ヴァージョンである。これは彼らの大ヒット曲の魅力を大きく広げ、さらには事実上の新曲に変えてしまうことさえあった。

その代表的な例が「Two Tribes」である。この曲はオリジナルのシングル・エディットに加え、6種類の12インチ・ミックスが次々に発表された。そのうち最初のリミックスは「Annihilation」と題されており、長さは9分以上に及んでいた。これは防空サイレンの音で幕を開け、クリス・バリによるレーガンのモノマネが曲全体で主役となっている。

またテンポの速いエネルギーたっぷりのダンス・ビートに載せて、俳優のパトリック・アレンが不気味なナレーションも披露している。このナレーションは、アレンが以前イギリス政府の広報映画用に録音した台詞を再現したものであり、そこでは核戦争で生き残る方法について語られていた。ホリー・ジョンソンのリード・ヴォーカルは、曲が始まってから5分半も経過した後でようやく登場する。

 

11. Relax (Sex Mix)

また、「Relax」は最初に発表された時点で複数のミックスが制作されていた。たとえば16分にも及ぶ「Sex Mix」はオリジナルのヒット・ヴァージョンから大きく様変わりしており、ジョンソンのヴォーカルは一切含まれていない。

今聞くと1980年代の古風な曲のように感じられるが、ホーンならではの「何でもあり」の音作りが完璧に表現されたものだと言える。

 

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのロック・ソング

12. Black Night White Light

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドは表面的には普通のロック・バンドであり、メンバーはギタリスト、ベーシスト、ドラマー、そして2人のヴォーカリストという顔ぶれになっていた。とはいえ彼らがロック・バンドであるということを感じられる瞬間は、ファースト・アルバムにはあまりなかった。

このアルバムに収録された「Black Night White Light」では珍しくギター・ソロが前面に出ており、これは4曲の大ヒット曲と並ぶハイライトとしてアルバムの中で際立っていた。

 

13. Warriors Of The Wasteland

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドがロック・バンドとしての性格をさらに押し出すのは、ようやくセカンド・アルバム『Liverpool』でのことだった (これが最終的にはラスト・アルバムとなった) 。

そうした方針転換を可能にした一番の要因は、プロデューサーのスティーヴン・リプソンの起用にあった。リプソン (その前の年に同じくZTTに所属していたプロパガンダのアルバム『A Secret Wish』を手がけている) は、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドに自分たちの楽器を演奏するように勧めた。

これは、スタジオ・ミュージシャンを中心として録音された『Welcome To The Pleasuredome』とは対照的だった。その結果として、よりヘヴィなロック・サウンドが実現している。たとえば「Warriors Of The Wasteland」は、静かで雰囲気たっぷりのオープニングが突然活気あふれるアレンジに変わり、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドはファースト・アルバムでは決してやらなかったようなロックっぽい演奏を披露している。

 

14. For Heaven’s Sake

同じアルバム『Liverpool』に収められていた「For Heaven’s Sake」は、イギリスが深刻な不況に陥っていた時期に当時のイギリス首相マーガレット・サッチャーを鋭く攻撃していた。ホリー・ジョンソンは「サッチャーは俺たちみんなに酒をおごるべきだ」と小生意気に主張している。

 

15. Watching The Wildlife

一方「Watching The Wildlife」は、バンドが解散する前の最後のシングルとなった。この曲は当時はあまり注目されることがなかったが、高揚感のある決めフレーズが入った楽しい曲であり、改めて評価するだけの価値がある。

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドが王座にあった期間は短かったが、彼らはわずか2年ほどのあいだに完璧なまでの活躍を見せた。そうして1980年代を代表する不朽の名曲を何曲も生み出したのである。

Written By Paul Williams


フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド『Welcome To The Pleasuredome – Deluxe Edition』
2025年10月31日
7CD+Blu-Ray / 2CD / 2LP



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