ガンズが一夜で大スターに:ド深夜にMTVで初めて流れた「Welcome To The Jungle」

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ルックスもアティチュードも揃っていた。何より「Sweet Child O’ Mine」、「Paradise City」、そして勢いの止まらない「Welcome To The Jungle」など、間違いなく良い曲を持っていた。しかし、ロサンゼルスではガンズ・アンド・ローゼズの噂は広まっていたものの、『Appetite For Destruction』がリリースされた1987年7月21日、世間はほとんどその存在に気がついていなかった。

2016年のBBCのインタビューで、1986年にガンズ・アンド・ローゼズと契約したゲフィン・レコードのトム・ズータウは、当時ゲフィンの社長だったエド・ローゼンブラットからこういわれたことを明かした。「リリースから数ヶ月で20万枚ぐらい売り上げたあとは、もうこのアルバムは放っておこう」と。

「僕は“いや、これはミリオンいける”って言ったんだけど」とトム・ズータウは振り返るが、実際ラジオやテレビでも曲を流してもらえなかったのは痛手だった。ミック・ウォールがKerrang!誌でEP『Live ?!*@ Like A Suicide』について、モトリー・クルー以来の「ロスから出た最もいかがわしいロックン・ロール」と表現した評判が先行してしまい、「誰もアメリカで彼らのことを知りたがらなかった」とトム・ズータウは話した。「みんなはただ彼らに消えて欲しいと思っていたよ」と。

そして、メディア王のジョン・マローンからいわゆるブラックリストに入れられたことがとどめを刺した。ジョン・マローンが「これを放映したら、ケーブルのネットワークから落とす」と言ったといわれており、MTVは9月28日に完成した「Welcome To The Jungle」のMVを放映することを恐れたのだ。そこで、トム・ズータウはレーベルの創設者であるデヴィッド・ゲフィンに掛け合い、直接MTVに連絡するように説得し、やっと放送されることが決まった。しかしそれは、ジョン・マローンや関係者が誰も起きていない、ニューヨークの午前4時、ロサンゼルスの午前1時という時間帯だった。

このビデオは、アクセル・ローズがロスの6thストリートとサウス・ラ・ブレア・アヴェニューの交差点で小麦を咥えて降りてくるという、自身の中西部出身ということをとことん見せるところに始まるが、映像の大半はパーク・プラザ・ホテルに門を構えた80年代を象徴するハード・ロックのクラブ、”スクリーム”での「Welcome To The Jungle」のパフォーマンスだった。初期ガンズのありのままを捉えたその映像には、映画『時計じかけのオレンジ』のようなイメージがちらつかせられ、’超バイオレント’な暴動や警察による暴力、拘束衣を着ているアクセル・ローズが拷問されるシーンなども含まれている。ジョン・マローンが、このバンドは“良きクリスチャンを脅かす”と批判していたとおりの表現をしたようなものだった。

苦労の末に手にしたこの機会を祝うため、早朝の放映を心待ちにしていたバンドは、パーティーをすることにした。バンドと友達が集まり、思い思いにロックな楽しみ方をしていた中で、トム・ズータウは、体がもつようにと大量のクッキーとミルクを持参した。「ビデオが流れる前、夜の11時頃だったかな、ドアをノックする音が聞こえて、そしたらロスの保安局だった」と思い出を語る。トム・ズータウは、捕まる証拠になるようなものは全て破棄したことを確認してから、彼らを家の中に入れた。そこにはただ、男女が「口の周りにミルクをつけてクッキーを食べながらテレビを見ている」光景があった。そしてそれを見た保安官は、「なぜ近所の人が苦情を言ったのかさっぱりわからないですね」と言った。

そしてビデオが予定どおりに放映された。翌朝、トム・ズータウが目覚めると、無数のメッセージが残されていたのだ。会社でゲフィンのプロモーション部門のトップだったアル・コウリーのもとに行くと、アル・コウリーは興奮しすぎてまるで“ステロイドをやっているグレムリン”のようだったと言う。

「MTVの交換台が爆発したんだ。問い合わせの電話が殺到して、交換台に火花が散って溶けたよ」とアル・コウリーに言われたことを思い出す。こんな数の問い合わせは初めてだったし、「Welcome To The Jungle」のビデオのリクエストはその翌日も続いた。「アメリカ中の子供達がこの曲をリクエストしているんだよ。サクラを雇ったとしても、こんなにも大量のリクエストの数がくることはないってとMTVが言っていたよ」と当時アル・コウリーが話したのだ。

さすがにこの需要には諦めがついたMTVは、「Welcome To The Jungle」をロテーションに組み込み、ガンズ・アンド・ローゼズにあって当然な全世界的展開が実現した。その後、全てが変わった。20万枚のセールス? その売上枚数は”毎週”続くことになった。アルバムは全米アルバム・チャートのトップとなり、アメリカでデビュー・アルバムとしては史上最高の売上を記録し、最終的に1,000万枚を売り上げダイヤモンド・ディスクに認定された。アメリカ以外の様々な国にでもマルチ・プラチナ・ディスクとなっている。

累計でこのアルバムは全世界で3,000万枚以上の売上を記録。現在オリジナルラインナップのダフとスラッシュが参加し世界中で大好評となっている’Not In This Lifetime…’ツアーの真っ只中にいるガンズ・アンド・ローゼズへの世間の’Appetite’(食欲)がなくなることはなさそうだ。

Written By Jason Draper

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