ガンズ『Appetite For Destruction』アウトテイクで紐解く当時の制作秘話

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ガンズ・アンド・ローゼズの画期的なデビュー・アルバム『Appetite For Destruction』が1987年7月21日にリリースされた時、より広く理解されるには数ヶ月かかったかもしれないが、ベーシストのダフ・マッケイガンが後に「全米中のクラブやバーへの飛び入りなどで磨き上げた 2年間分の音楽の集大成」と語っている通り、完成度の高い傑作に仕上がっていた。彼らがスタジオに入る準備ができた頃には、「それぞれの曲をどんな風に演奏するべきかっていうのはすぐに掴めていたよ」とダフ・マッケイガンは語る。「俺たちの楽曲は観客の反応から作り上げられていくものだから、クラブ・ツアーの間、いろいろと演奏しながら試していくんだ」そんなアウトテイクやデモ音源の数々が、この度発売された『Appetite For Destruction』のリイシュー版に収録されたことで、今作にまつわる知られざるストーリーも明かされていった。

青写真

エアロスミス「Mama Kin」のカバーが”自主制作盤”『Live ?!*@ Like A Suicide』に収録された時には既にガンズ・アンド・ローゼズは前時代の王から冠を奪うことを確固として視野に入れていた。今回のリイシューでは、アクセル・ローズがL.A.ガンズに在籍していた頃に作った「Shadow Of Your Love」などを復元させるなど、過去の楽曲までも掘り起していった。

一方で、スタジオではエアロスミスが彼らの試金石でもあった、アルバム『Appetite For Destruction』のプロデューサーであるマイク・クリンクは、バンドとの最初の打ち合わせを振り返り、「彼らは僕の手掛けた過去のレコードで気に入らなかった作品を僕に見せてきたんだ」と語る。だが、マイク・クリンクは彼がエアロスミスの過去の名作を通して培ってきたプロダクションを活かし、ガンズ・アンド・ローゼズの荒削りな音をメインストリームへと進化させた。「僕はエアロスミスの作品で作り上げた青写真と経験を活かして、それらを踏襲したんだよ」。

 

マイク・クリンクが手掛けた1986年の「Mama Kin」のサウンド・シティ・バージョンは、観客の声が後で足された『Live ?!*@ Like A Suicide』に収録されたものと比べてより激しい仕上がりになっている。さらに、ガンズ・アンド・ローゼズのサウンド・シティでのアウトテイクにはザ・ローリング・ストーンズの「Jumpin’ Jack Flash」や第一次ロックンロール・ブームからのエルヴィス・プレスリーの名曲「Heartbreak Hotel」なども含まれており、彼らがグループとして過去の偉大な作曲家たちに注目してただけでなく、アクセル・ローズが自身のステージ上でのペルソナを磨き上げていくための偉大なライヴ・パフォーマーたちにも目を向けていたことがわかる。

どうやってアルバムにするべきか

クラブ・ツアーによって楽曲に磨きをかけていった彼らは、1986年の終わり頃にはこれ以上ないくらいにスタジオへ入る準備ができていた。初期の時代のパンキッシュな楽曲と共に、その制作過程では「Welcome To The Jungle」や「Sweet Child O’ Mine」といった本物のアンセムも作り出していたのだ。ただ、アクセル・ローズはいかにスタジオの中で彼らの生々しいエネルギーをどうやって表現すべきかを悩んでいた。

 

「俺たちは自分たちがステージでどんな風にパフォーマンスするかをよくわかっていたから、そのライヴ感をレコードに録音する唯一の方法は、ベースやドラム、そしてリズム・ギターを同時に、ライヴみたいにレコーディングするしかないって思ったんだ」、彼は『Appetite For Destruction』のレコーディングについてこう振り返る。「ライヴよりもちょっとだけ早いテンポで演奏することで、エネルギーが吹き込まれるってね」。

1986年のガンズ・アンド・ローゼズのアウトテイクからは、『Appetite For Destruction』の作品自体にも通じる自由なものを創り出そうというバンドの気迫が感じられる。実際に、「You’re Crazy」は常に針が振り切っているような、バンド自体もコントロールできないくらいの凶暴性に満ちていていたりする一方で、「Welcome To The Jungle」や「Nightrain」、「Out Ta Get Me」のアウトテイクは彼らの自由なエネルギーに満ちているが最終バージョンに比べると少しだけスピード感に欠けている。

ただ、驚くべきことに、楽曲自体は全て完成度が高く、バンドはそれを最高の状態に作り上げるための準備はできていた。

5人という共同体の延長

「曲作り自体は、歯を抜くみたいなもんで難しくはなかったよ」、とダフ・マッケイガンは語る。「曲は自ずと出来上がっていったんだ」。

『Appetite For Destruction』制作時に録音されたアウトテイクの中でも、「You’re Crazy」と「Move To The City」そして、「New Work Tune」という曲名がつけられていたトラックからは、いかにバンドが一から曲を作り上げているかがわかる。「この音はいいって思ったら、それを取り入れながら作り上げていくんだ」、スラッシュは語る。「まず誰かが思いついたリフがあって、そこに別の誰かが持ってきたアイデアを組み合わせて、バンって曲が出来上がるんだよ」。

なぜアウトテイクでエレキギターがより際立って聴こえるのかという疑問に対してスラッシュは、「俺がBメロやソロを弾くとき、いつも一番最初にその曲を書いた時に聴こえた音、マントラのような構造やメロディーがそこにはあるんだ。だからガンズ・アンド・ローゼズの曲はいつも自然発生的に出来上がるんだ」と明かした。

「アルバム全曲を2度目か3度目のテイクで仕上げた。そうすることで楽曲が独り歩きするようになるんだ」とスラッシュは断言する。「もしそれでダメなら、その曲のフィーリングは亡くなってしまうんだ」。

写真:ロス・ハルフィン

バラードが存在しない理由

1990年代のガンズ・アンド・ローゼズを代表する2曲のバラード「Don’t Cry」と「November Rain」は共にアルバム『Use Your Illusion I 』に収録されているが、実はこの2曲は当初『Appetite For Destruction』のセッションのために書かれた曲だった。ただ、当時のバンドはこれらの楽曲は、彼らがもっと有名になった時に発表した方が良いのではと感じ、後のためにとっておいたそうだ。結果的に『Appetite For Destruction』は、ガンズ・アンド・ローゼズの伝記作家のステファン・デイビスによれば、”レッド・ツェッペリンの『Physical Graffiti』以来の最も激しいロック・アルバム”になった。

今回の『Appetite For Destruction』のアウトテイクの賜物としては、「November Rain」のアコースティック・デモ音源によって、この名曲バラードがどのように出来上がったのかを垣間見ることができる。セッションからこの曲と「Don’t Cry」は、後の作品のためにとっておかれた。1986年のサウンド・シティ・セッションには「Ain’t Goin’ Down No More」の一部も収録されており、後に再録音されたこの曲のインストゥルメンタル・トラックが、1994年の夏、ゲームセンターに登場したガンズ・アンド・ローゼズのピンボール・マシーンで使われている。

生き残るために

ダフ・マッケイガンは「もし『Appetite For Destruction』の収録曲について、誰がどの曲を書いたっけと訊いたとしたら、5者5様の答えが返ってくるだろうね。スラッシュのギター・スタイルには間違いなくイジー・ストラドリンが影響しているだろうし、アクセル・ローズは”クソ喰らえ”的な精神が大前提だし、みんなそれぞれ、独自のものを曲に取り入れているんだ」。

ガンズ・アンド・ローゼズの『Appetite For Destruction』の超豪華ボックス Locked N’ Loaded Editionは、このアルバムが歴史上で最も偉大なロック・アルバムの一つであり、おそらく最も偉大なデビュー・アルバムであると言うことを指し示すためのヒントをくれる作品になっている。

スラッシュは『Appetite For Destruction』についてこう語っている。”このバンドがハリウッドで生き残っていくために80年代初めから終わりまで経験したとても深いストーリーだ”

Written By Jason Draper


『Appetite For Destruction』発売中

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