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U2の音楽的DNAに組み込まれたアイルランド文化:U2を理解するには、彼らの母国を知る必要がある

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Photo: Peter Noble/Redferns

U2について充分理解するためには、アイルランドのことを少しでも理解することが極めて重要だ。それもバンド初期の頃から。例えば下記の楽曲のように。

・デビューアルバムにアイルランド語の曲が収録:「An Cat Dubh」1980年
・イリアン・パイプ(アイルランドのバグパイプ)をフィーチャー:「Tomorrow」1981年
・直接的に北アイルランド紛争のことを歌う:「Sunday Bloody Sunday」1983年

このように、U2は当初から彼らの出自を誇らしげに歌うことをためらうことは決してなかった。

しかし彼らの最も素晴らしいところは、世界最大のロック・バンドの地位を手にしてから、最近の2作のアルバム、2014年の『Songs Of Innocence』や2017年の『Songs Of Experience』でも、しっかりアイルランドについてのテーマを貫いていることだ。

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An Cat Dubh (Remastered 2008)

最初の頃から、ボノはU2の音楽にとってアイルランドがいかに重要かを理解していた。彼は1980年にニュー・ミュージカル・エクスプレス誌にこう語っている。

「最初の計画では、アイルランドを離れることはあってもそれはしばらくの間だけというつもりだった。我々はバンドが刺激を受けて変化し続けていくためには、様々な異なる環境に身を投じなければいけないと思っていた。ここに留まっているのは簡単だったけど、僕らは出て行って、また帰って来なきゃいけないんだ」

1987年の『The Joshua Tree』で、バンドはアメリカに対する愛を強固なものにしながらも、そのアルバムに収録された「Running To Stand Still」と「Where The Streets Have No Name(約束の地)」の2曲の舞台を故郷ダブリンとベルファストに設定せずにはいられなかった。

U2 – Where The Streets Have No Name (Official Music Video)

90年代のほとんどにおいては、グループ内のいざこざや手探りの実験的な作品作り、そしてバンドの存亡の危機などへの対応がバンドの優先事項となっていたが、既にメンバーが40代かそれを目の前にしていたU2は、2000年の『All That You Can’t Leave Behind』以降、彼ら自身がどの方向に進むかよりも自らの出自に改めて目を向けるようになっていた。

同アルバム収録の「Kite」は、ボノが娘との絆作りに失敗したことについての曲だというだけでなく、死を目の前にした彼の父についての歌でもあった。一方「Peace On Earth」の歌詞は、北アイルランドでの1998年のオマー爆弾テロ事件からインスピレーションを受けて書かれたものだ。

Peace On Earth

2009年のアルバム『No Line On The Horizon』もまた、本質的に個人的な事柄に焦点を当てた作品だが、地理文化的視点から言うと、彼らが自身の過去を(ほとんどそのために酸素タンクが必要ではないかというくらいに)実に深く掘り下げるという試みは、2014年の『Songs Of Innocence』にその端を発している。アイルランドで育つこと、故郷、心、そして痛みといったものを対象にしたテーマを扱ったこのアルバムは、U2にとって歌詞の一貫性が他の作品に比べてユニークであり、並外れて個人的な作品だ。ボノはアルバムのリリース直後、地元のアイリッシュ・タイムズ紙にこう語った。

「このアルバムでは、僕らがそもそもどうしてバンドをやりたかったのかという理由を突き止めようとしているんだ。バンドを取り巻く人間関係や、僕らの最初の旅路。それは地理的なもの、精神的なもの、そして性的なものも含めて、それらについての作品なんだ」

『Songs Of Innocence』の曲はほとんどが過去の出来事について触れている。「The Miracle (Of Joey Ramone)」はダブリン郊外の映画館で1978年に観たラモーンズのことを歌っており、「Raised By Wolves」は1974年にダブリンと北アイルランドに接したイギリスのモナハン県で同時に起きた爆弾事件についての歌だ。

U2 – Raised By Wolves (iNNOCENCE + eXPERIENCE Live In Paris / 2015 / Remastered 2021)

「Cedarwood Road」はボノが生まれ育った通りのことを「離れたことのない場所には、決して戻ることはできない」と直接的に歌い、「The Crystal Ballroom」では、U2がまだ駆け出しの頃にライヴを行い、ボノの両親がデートやダンスをしたダブリン中心部の店、マッゴナグルズをボノが思い起こしている。ボノは2005年のインタビュー本『Bono On Bono』の中で著者のミーシュカ・アサイアスにこう話している。

「そういうダブリンやアイルランドでの隠れ家が本当に好きなんだ。公私共に両立できる環境を与えてくれるからね。スターという立場で出て行って演奏することもできるし、自分のプライベートな生活が必要な時はダブリンではそれが手に入るから」

The Crystal Ballroom

『Songs Of Innocence』では、既に長い間人気が確立されているのに、自らの出自を極めて赤裸々に語ることに何の躊躇もないU2による新鮮な視点が届けられたことに多くのファンが驚いた。

そして『Songs Of Innocence』が人生を生きて生き抜くことについての作品だとすると、2017年の『Songs Of Experience』は死のテーマで満ちているため、この2作をセットで評価するのは理にかなっている。

アルバム『Boy』のジャケットから伺える意図から始まって、『Songs Of Innocence』のジャケット(U2のドラマー、ラリー・マレンJr.が息子のエルヴィスを抱きしめている)や『Songs Of Experience』のジャケット(ボノの息子のイーライと、エッジの娘のシャーンが手をつないでいる)に伺える作品の目的に至るまでの一つの完成形になっているのだ。

そられでは家族、友情、両親、子供達、愛、損失、人生、死、暴力、優しさなど、すべてが掘り下げられ、織り交ぜられ、お互いに結びつけられて、雄弁に語られている。

これらのアルバムを点と線で結ぶというアプローチは、U2という大物ロック・バンドとしては細かく考えられ、傷つきやすくむき出しのアプローチで行われた。これらのアルバム発表と同時に行われたライヴを経験すれば、更に一層理にかなっていることがわかる。

無邪気なティーンエイジャーから、より深い知性と顔の皺を蓄えた男達に成長するまでのバンドメンバーの旅路はその完結の時を迎えており、その途中のポイントポイントには常にアイルランドが、まるでタトゥーのようにくっきりと彫り込まれているのだ。

Written by Tony Clayton-Lea




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