新たなグレイト・アメリカン・ソングブックである現代のスタンダードを作り上げる若きアーティスト8名

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ソングライターとして、またはパフォーマーとして、印象深いメロディーや永遠に続く感情を表現し、グレイト・アメリカン・ソングブックにふさわしいミュージシャンをご紹介しよう。

それぞれの世代において音楽の趣向は変わっていくものだが、新たなアーティストが登場し、アメリカの音楽に貢献していく中で、昔と変わらず見事に書き上げられた曲というのは確実に存在する。“スタンダード”という言葉は、以前であればブロードウェイやハリウッドのためにティン・パン・アレーで作られたロック以前の楽曲専用の用語だったが、過去50年間における重要な音楽を含めるためにその定義の幅が広げられ、60年代のモータウンから70年代のシンガー・ソングライター、そして80年代のポップスも含まれるようになった。ある意味ガーシュウィン兄弟は当時のポップ・ミュージックだったと言えるだろう。“もう名曲って昔みたいに作られなくなったよね”と簡単に言ってしまう罠に陥るのは簡単だが、シスコの「Thong Song」のような楽曲が出る度に、ザ・ノヴァスの「The Crusher」のような楽曲も出現することだけは忘れてはならないのだ。

人々が音楽を消費するプラットフォームがめまぐるしく変化し、新曲がリリースされるの速さを考えると、ポップス界において、楽曲が普遍的に購買されていく図式を作り上げるのがますます困難になってきている。しかし、本当の持続力を誇る楽曲はキャッチーでシンプルなメロディーを駆使しながら、大きなメッセージを伝えることに成功している。ここにご紹介するソングライター、パフォーマー、または両方のスタンスで活躍するアーティストたちは、グレイト・アメリカン・ソングブックの条件を満たし、印象深いメロディーや永遠に続く感情をもたらしてくれる。

◆レディー・ガガ
曲:「Million Reasons」「Edge Of Glory」「Born This Way」「Bad Romance」
マドンナのカメレオンのような戦術から1ページを拝借したレディー・ガガこと本名ステファニ・ジャーマノッタは、ポップ・ディーヴァの競争の先頭を走り、ヴィジュアル的にも音楽的にも常にエクスペリメンテーションへの熱意を見せてきた。2000年代初めにリリースした巧妙なクラブ・バンガーの「Just Dance」や「Bad Romance」の礎には、心からのシンガー・ソングライターが存在しており、それが「Million Reasons」で証明されている。

アルバム『Art Pop』のタイトルが示す通り、レディー・ガガはアート・ポップを世に知らしめた人物であり、ソングライティングでもパフォーマンスにおいても、ポップがいかなるものかという境界線や限界に常に挑んできた。また、レディー・ガガはグレイト・アメリカン・ソングブックの大砲を尊敬し、クルーナーのトニー・ベネットと組んでスタンダード曲を収録したアルバム『Cheek To Cheek』をリリースしている。胸が膨らむような熱意あふれる「Edge Of Glory」からアンセムの「Born This Way」まで、レディー・ガガは各曲における主人公を見事に演じ、まさに人生をかけているかのような情熱を持って歌っている。彼女のアイドル、デヴィッド・ボウイのように、レディー・ガガも異なる性別のアイデンティティーを演じ、ホンキー・トンクなバー・ルームのヒット曲「You And I」ではドラッグ(女装)のキャラクターであるジョー・カルデローンを登場させた。

◆シーア
曲:「Breathe Me」「The Greatest」「Chandelier」「Elastic Heart」
オーストラリア出身のシーアを初めて知ったのは大ヒット作「Chandelier」と「Elastic Heart」だったという人が多いだろうが、シーアは2004年の「Breathe Me」以降、美しいポップ曲を作り続けてきており、ビヨンセの「Pretty Hurts」、リアーナの「Diamonds」、デヴィッド・ゲッタの「Titanium」など、ここ10年のヒット曲のクリエイティヴな立役者でもあった。シーアの刻印が刻まれた楽曲の特徴はわかりやすい。しっかりとした作り、ドラマティックなヴォーカルの弧、独特な構造だ。しかし、自身の楽曲ではソングライター、パフォーマー、そしてヒットメーカーとして、3倍の脅威になるのだ。

そのソングライティングの多様性により、シーアはインディーズで愛される人物から、今日のラジオ・ポップにおける主要人物の一人へと発展した。彼女の音楽が世界的に愛される理由のひとつは、人間が生まれ持った弱さと、それをどう乗り越えていくかということを織り交ぜていることであり、その音楽にはメランコリーもあれば自己への動機付けも含まれている。ある意味気乗りのしないポップ・スターであるが、派手なカツラを使って自身のアイデンティティーを覆っていること自体がパフォーマンス・アートになっており、彼女のヴォーカルにさらなるインパクトを与えている。

◆アデル
曲:「Someone Like You」「Rolling In The Deep」「Send My Love (To Your New Lover)」「Hello」
音楽の消費者が今まで以上に細分化されていく中で、アデルは未だに楽曲を出すたびにチャートを独占することのできるアーティストだ。失恋した傷心の曲「Someone Like You」「Hello」「Send My Love (To Your New Lover)」など、世界中の失恋へのオフィシャル・サウンドトラックを作り、批評家にも商業的にも大成功だったヒット・アルバム『21』でそのレガシーを確固たるものにして以来、彼女はブルー・アイド・ソウルの炎を燃やし続けてきた。

真のスタンダード・シンガーを示す要素のひとつは、カヴァー曲を自分自身のものにできるかどうかだ。アデルはまさにそれを実現し、特にボブ・ディランの「Make You Feel My Love」やザ・キュアの「Love Song」は見事な解釈だ。魂を揺さぶるような声とレトロな楽曲制作により、サウンド的に老若男女の心をつかみ、彼女の世代において最も偉大なシンガーのひとりだと言える。カヴァー曲がアーティストの影響力を示唆するものだとすれば、「Someone Like You」が「Happy Birthday」以来最もカヴァーされてきた楽曲であることも納得がいく。『21』を21歳の年齢で共同で書き下ろしたアデルのソングライティングは、常に彼女の年齢を超えた成熟さを見せてきた。アデルの失恋バラードには、鋭い歌詞と心が痛むようなヴォーカルが詰まっている。

◆ジョン・レジェンド
曲:「All Of Me」「Ordinary People」「Darkness And Light」「Glory」
このリストにあげたアーティストの中で、ジョン・レジェンドはその透明なクルーンとソウルフルなソングライティング、鍛錬されたピアノで、最もティン・パン・アレーのサウンドを体現していると言えるだろう。さらに、ソングブックの伝統であるデュエットでも人々を魅了し、ブリタニー・ハワード、ミゲル、メアリー・J.ブライジやその他大勢のシンガーと共演している。

今日のR&B界における数々の仲間達同様に、ジョン・レジェンドは様々なジャンルを自由に行き交い、自身の磨き上げたピアノ・アレンジメントを「All Of Me」などの優しいラヴ・バラードから公民権運動を題材にした映画『セルマ』のために書き下ろし、その認識を広めるための楽曲「Glory」まで幅広く活躍している。オールド・スクールなロマンティシズムに没頭する楽曲もあれば、ロマンティックなもつれの複雑な部分にも触れており、彼がブレイクするきっかけとなったヒット曲「Ordinary People」、そしてアルバム『Darkness and Light』がそれを証明している。ストーリーテリングに長けたジョン・レジェンドのソングライティングのスキルはハリウッドでもその活躍を見せ、オスカー賞のベスト・オリジナル・ソングを受賞している。

◆ラナ・デル・レイ
曲:「Video Games」「Summertime Sadness」「Young And Beautiful」「Born To Die」
イメージというのは、テレビの時代以前からミュージシャンにとって(特に女性ミュージシャン)重要な要素だったが、同時にアーティストの価値を計る際には、今でも信憑性がその基準となっている。

ラナ・デル・レイはまさにインターネット時代の真のスターだ。自身を神格化した不可思議なシンガーであり、未来のテクノロジーを駆使しながら過去を楽しんでいる。「マリリン・モンローの外面とレナード・コーエンの内面を持ち合わせている」と称されたラナ・デル・レイは、常にグッド・ガールとバッド・ガールの両極を受け入れながら、彼女が崇めるハリウッドのアイコンのように様々なペルソナを身につける。ブレイクしたヒット曲「Video Games」から悲しみに溢れた「Young and Beautiful」まで、ラナ・デル・レイの魅惑的な低音域は、彼女を一躍有名にした宿命を悟ったラヴ・ソングを見事に表現している。No.1ヒットの法則である元気でアップ・テンポの楽曲を避け、自滅的なダークでメロディックな瞑想と、それに見合った物議を醸す歌詞を好んできた。

◆ロード
曲:「Royals」「Green Light」「Liability」「400 Lux」
ブリング文化をからかった見事にキャッチーな楽曲「Royals」で、エッジーな美的感覚を持って突如シーンに現れたロード。ニュージーランド出身のティーンエイジャーは、一夜にしてポップの作家として一躍有名になり、ティーンエイジャーの不安を思慮深い物語へと展開できることを示した。成熟した歌詞とそのユニークな声が称えられたロードは、ある種ポップの天才と位置付けられ、デビュー・アルバム『Pure Heroine』ではポップ、エレクトロニカ、ダンス、そして上記のサブジャンル全ての境界線を超えた作品を制作した。

13歳でレコーディング契約を締結した人にしては、驚くほど自身の歌を探求する自由が与えられ、それは見事に功を奏した。デヴィッド・ボウイからも認められたほどで、彼はロードの音楽を「明日を聴いているようだ」と語った。若くして自己意識に芽生え、ロードの楽曲は「White Teeth Teens」で若者の文化を非難しながら、同時に「Green Light」ではそれを快く容認している。ロードの歌詞同様に、自身の声も大事なツールとして扱い、息使いのあるコーラスからしゃがれた唸りへと自在に扱う。ロードは、まだまだ始まったばかりだ。

◆リアーナ
曲:「Love The Way You Lie」「Only Girl In The World」「We Found Love」「Stay」
リアーナは、このリストでご紹介した他のポップやR&Bシンガーと同じような決まり文句を浴びせられてきたわけではないが、彼女の影響力は彼らと同じように感じられてきた。ヒップから歌うスワガーは何年もの間トップ40チャートに浸透し、ここ10年のポップ界において最も影響力のあるヴォーカル・スタイリストの一人だ。バルバドス出身のシンガーは、初期のフックの多い「Pon De Replay」から、彼女でなければ単純なダンス曲になっていただろう「We Found Love」に自身のスタイルを刻んでヒットさせた。揺るがない自信と堂々と性欲をあらわにするリアーナは、型にはまったポップ・スターからそのイメージを打破し、クラブを制覇する人物へと変貌した。

ティン・パン・アレー全盛期のスタンダード・シンガーのように、リアーナの声はポップ・ミュージックのソングライティング・チームの楽曲を伝える手段であるが、同時に「Stay」、そして最近のドゥーワップ・ソウル曲「Love On The Brain」ではバラードを見事に歌い上げられることを示している。決してあるべき道を進むだけで満足することのないリアーナは、家庭内暴力を取り上げたエミネムとのデュエット「Love The Way You Lie」など、タブーとされるテーマにも挑んできた。また、ダンスホールをメインストリームに戻したのもリアーナであり、2016年のシングル「Work」には島の方言も融合し、何百万人というアメリカ人を混乱させながら、同時にチャートのトップに君臨したのだ。

◆テイラー・スウィフト
曲:「Blank Space」「You Belong With Me」「All Too Well」「I Knew You Were Trouble」
タイムズ・スクエアの少し北にありアメリカン・ソングブックの名曲が生み出されたブリル・ビルディングの伝統をくまなく学んできたテイラー・スウィフトは、シンガー・ソングライターの王位を継承すべき位置にいるのは明らかだ。過去のベスト・セラー・アルバムの全曲を共同で書き下ろしてきたテイラー・スウィフトは、日記の内容を、大衆が魅了されるような親近感のあるチャート・トップの楽曲へと変貌させてきた。テイラー・スウィフトの「Dear John」は彼女の世代の「You’re So Vain」(カーリー・サイモン1972年の大ヒット曲)であり、憶測しながら聴くことがその魅力の一端を担っている。

ナッシュヴィルのスターだった彼女がグローバルなアイコンへと変貌し、すでに音楽を10年以上もリリースし続けてきているのは驚きだ。さらに言えば、テイラー・スウィフトが完全にポップの世界を乗っ取る前の景色を思い出すのすら今では難しい。彼女の一般的なイメージ同様に、テイラー・スウィフトの楽曲は対話的であるが、スマートな言葉遊びと耳を虜にするフックが備わっている。マックス・マーティンたちやミュージック・ロウが提供できる最高のソング・エディターたちと掛け合う以前から、テイラー・スウィフトは自身のカントリー・ポップのスイーツを作っており、「Our Song」に至っては、高校1年生のタレント・ショーのために書いた曲だった。

アルバム『1989』でポップ・シンガーとしての地位を確立してからも、テイラー・スウィフトはその告白するスタイルを貫き、カントリーからフォーク・ポップ、アリーナ・アンセムからダンス・ロックまでそれを適応した。そしてライアン・アダムスがアルバム『1989』を全曲カヴァーしたことでインディー・ロック界からも認められ、テイラー・スウィフトの魅力はあらゆる音楽の趣向を超越したものだと証明した。

♪ プレイリスト『Nonstop Pop!

Written by Laura Stavropoulous


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