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1963年7月、ストーンズ初の歌番組出演
1963年5月初旬、ロンドンのウェスト・エンドのカールトン・ストリートにある旧オリンピック・スタジオにて、ザ・ローリング・ストーンズは初のシングルであるチャック・ベリーのカバー「Come On」をレコーディングしていた。1分45秒のこの曲は、ザ・ビートルズの成功にあやかって登場した典型的なビート・グループのシングルで、当時彼らがロンドンのクラブで演奏していたようなブルースっぽい曲ではなかった。そして、1963年6月7日に発売されたこの楽曲をプロモーションすべく、レーベルであるデッカ・レコードとバンドのマネージメントはなんとかバンドをテレビに出演させるべく躍起になっていた。
当時イギリスのテレビ番組の中で最も重要な音楽番組は『Thank Your Lucky Stars』であった。この番組のプロデューサーは、ストーンズをバーミンガムのアストンにあるアルファ・スタジオで収録することを了承した。
『Thank Your Lucky Stars』(以下TYLS)がイギリスで放送をスタートしたのが1961年、当時BBCが放送していた『Juke Box Jury』という番組と直接のライバル関係にあった。『TYLS』の番組構成は至ってわかりやすく簡単なものであった。週替わりでシンガーやバンドが登場し、最新の曲をわざとらしく、確実に、時間内に当て振りで演奏するものだった。
ザ・ローリング・ストーンズが出演を決めた頃『TYLS』は既に国民的な番組になっていた。そして、彼らの初めてのテレビ出演の放送日が7月13日に決定した時、彼らのマネージャーであるアンドリュー・ルーグ・オールドハムはひとつだけ問題を抱えていた。「バンドのいつも通りの衣装ではスタジオに入れさせてもらえず、番組から”制服”タイプの衣装を着て来るように指示された」というのだ。これに対し彼の考えた解決策は、収録前の週末にメンバーをソーホーへショッピングに連れて行くことだった。
出演の数週間前、アンドリュー・ルーグ・オールドハムはバンドを連れてカーナビー・ストリートに行き、メンバーは黒いズボン、黒いベルベット襟に千鳥格子柄のジャケットを仕立ててもらった。さらにお揃いの青いシャツ、黒いニットのネクタイ、青い革のベストも用意した。場に相応しいように。。。
7月5日金曜日、ウィンドソーのスター・アンド・ガーター・ホテルにあるザ・リッキー・ティック・クラブには出演したが、7月7日日曜日の早朝にはロンドンを車で出発し収録のためにバーミンガムに向かわなければならないという理由から、土曜日の夜に予定していたイギリス東海岸のノーフォークにあるキングズ・リンでの公演をキャンセルした。
ザ・ローリング・ストーンズが番組出演したその週の他の出演者達は、ゲストDJにジミー・ヘニー、ゲスト・シンガーにヘレン・シャピロ、ミッキー・モスト、ジョニー・シンバル、パッツィー・アン・マレー、そしてザ・ヴィスカウンツとアイルランドのショー・バンドであるザ・キャデッツの2組がいた。
その日、ザ・ローリング・ストーンズが当て振りでシングル曲を演奏する為に用意されたセットは、まるで西部劇に出て来る酒場のベランダのような作りで、そこにミック、キース、ブライアン、ビル、そしてチャーリーが、お揃いの千鳥格子のジャケットを着て、彼らの中では非常にスマートなルックスで登場したのだが、髪型だけが浮いていた。ザ・ローリングストーンズの髪型は長髪でこそなかったものの、悪く言えばボサボサだったのだ。彼らの出演スポットが終わった後、審査員のピート・マーレイは、バンドが去年から髪を切っていないから、理髪師協会が面会を希望しているとコメントした。
そして『Thank Your Lucky Stars』への出演の2週間ほど後、ようやく「Come On」はUKトップ40の32位に登場。テレビの出演効果は見事発揮されたのである。
Written By Richard Havers