エミネム『Revival』解説:自分の魂をむき出しする感覚と、政治性が同時に存在したアルバム

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エミネム初期のアルバムでは、カラフルでダークなコミックのような世界観はよく知られており、キャリア全般を通してだと家族関係や個人的な不安についての感情を正直に吐露している。そんなエミネムが2017年にリリースしたアルバム『Revival』の中心には、自分の魂をむき出しにするという感覚と、政治性が同時に存在している。

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アルバム・オープニングの「Walk On Water」は、脆弱性と自信喪失に満ちた自身の姿を明らかにしている。ビヨンセがゴスペル風の優雅なコーラスで曲を始め、「But I ain’t no Jesus」と歌う彼女の高揚感は、ファンの非現実的な要求に応えようとするエミネムの苦悩を詳細に語るこの楽曲の完璧な導入となっている。エミネムは楽曲の中でこう語る。

Why are expectations so high?
Is it the bar I set…
It’s the curse of the standard
That the first of the Mathers discs set…
Will this step be just another misstep
To tarnish whatever the legacy, love or respect I’ve garnered?”
なぜ期待がこんなにも大きいのか
俺が設定したハードルのせいなのか…
基準の呪いなのか
The Marshall Mathers LPで設定した
このステップはただのミスステップになってしまうのか
集めたレガシー、愛、尊敬のどれをも汚してしまう

しかしその後で、自分の能力を力強く思い出す。

Cause I’m just a man
But as long as I got a mic, I’m godlike…
B__ch, I wrote ‘Stan’
だって俺はただの人間
だけど マイクを握っていれば 神になる
俺は「Stan」を書いたんだ

他の楽曲では、悔い改めが中心となっている。エミネムはこれまでにも音楽の中で謝罪の言葉を述べており、特に2013年の「Headlights」では悪評高い母親に謝罪しているが、『Revival』の10曲目に収録された「Bad Husband」では元妻のキム・スコットに過去の悪行について謝罪する

You hit me once, and that I would use
To continue the pattern of abuse…
But I’m sorry, Kim
お前は一度俺を殴り 俺はそれを利用して
虐待のパターンを続けようとした…
だけどすまない キム

この思慮深い曲調は「Castle」でも継続されている。この曲は、エミネムの人生を彩り、長年にわたって彼の歌詞に影響を与えてきたもう一人の重要な女性である、彼の娘、ヘイリーへ向けたものだ。「Castle」は3通の手紙で構成されている。1通目は娘が生まれる直前に書かれたもの、2通目はその1年後に書かれたもの、そして3通目は2007年にエミネムが薬物を過剰摂取した直後に病院のベッドで書かれたものだが、その内容はとても悲惨なものだった。エミネムはこう歌っている。

And if things should worsen
Don’t take this letter I wrote
As a goodbye note
’Cause your dad’s at the end of his rope
I’m sliding down a slippery slope
Anyways, sweetie, I better go
I’m getting sleepy, love, Dad
万が一、事態が悪化した場合
俺が書いたこの手紙を受け取らないでくれ
さよならの手紙としてはね
だって君の父さんはもう限界だ
俺は滑りやすい斜面を滑っている
とにかく、かわいい子よ、俺は行かないと
眠くなったんだ。愛してる パパより

「Castle」での個人的な魂の吐露は、2017年のBETアワードでのドナルド・トランプを糾弾するセンセーショナルなパフォーマンスをきっかけに、多くの人が期待していた政治的な怒りとは相反するものだった。しかしながら、その激しいパフォーマンスから『Revival』をリリースするまでの6カ月間、エミネムの政治的な怒りは衰えることがなかった。

「Untouchable」では、再び時事問題について説明し、ブラック・ライヴズ・マター運動や警察による残虐行為、アメリカにおける人種差別の歴史についてラップしている。彼の祖国に対する評価は辛辣だ。

Throughout history, African-Americans have been treated like s__t
And I admit that there have been times where it’s been embarrassing to be white boy
歴史を通して アフリカ系アメリカ人はクソみたいに扱われてきた
そして俺は白人であることが恥ずかしいとすら感じた時がある
共和党の意見なんてクソくらえ
自力で立ち上がれ
ブーツはどこにあるんだよ

「Like Home」では、トランプ大統領に対して「黒人を嫌っている」「ヒスパニックを貶めている」と言い放ち、ファンに対して2017年に極右集会の参加者とそれに抗議する人たちが激しく衝突した事件「シャーロッツビル」のために団結しようと呼びかける。

エミネムは、トランプとナチスやKKKとの間に線引きをし、トランプ大統領を「フォックスニュースを見てそれをオウムのように繰り返すだけのチンピラ」と罵倒。

そして、かつて同性愛嫌者としての烙印を押されたエミネムにとって最も信じられないことは、彼がトランスジェンダー・コミュニティへの支援を表明していることだ。

While he looks like a canary with a beak
Why you think he banned transgenders from the military with a tweet?
くちばしのあるカナリアのような顔をしながら
なぜ彼はツイートでトランスジェンダーを軍から追放したんだ?

魂の探求、成熟した反芻、政治的な炎の中に、昔のスリム・シャディのいたずらの要素も残ってる。「Remind Me」では「インプラントがデカくて、彼女は俺をそれに吊せるぐらい」とかつての攻撃的な歌詞も復活しており、「Heat」では、これまでで最もセクシーな歌詞が登場する。

「Offended」や「Framed」では、彼が得意とするコミカルな暴力的な表現も見られる。後者では、エミネムが殺人の妄想を繰り広げ、車のトランクにトランプ大統領の娘、イヴァンカ・トランプの死体を発見するという、またしてもトランプへの攻撃を展開している、彼は自分の無実を公言している。

I know what this looks like, officers
I ain’t murdered nobody
I know these words are so naughty
But I’m just here to entertain
これがどう映って見えるかわかってるさ お巡りさんよ
誰も殺しちゃいない
この言葉がすごく下品だってわかってる
でも俺は楽しませるためにここにいるんだ

30年目を迎えたキャリアにおいて、エミネムは単に楽しませるだけではなく、それ以上のことをしてきた。彼は、新しいアルバムを出すたびに、臆することなく自分自身をどんどんさらけ出しており、『Revival』は彼をもっともむき出しにした作品と言えるかもしれない。エミネムは幅広い感情を表現することで、今日の音楽界で最も複雑で、恐れを知らない正直なアーティストの一人であることも示されている。彼のインパクトの強さは決して衰えておらず、アルバム『Revival』は、「ラップの神様」への信頼を新たにする作品だ。

Written By Paul Bowler



エミネム『Revival』
2017年12月15日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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