様々な既成概念を打ち壊したクイーンの「Bohemian Rhapsody」:歴史的名曲の背景と制作秘話

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クイーンの大ヒット曲「Bohemian Rhapsody」の下地は、60年代後半のあるときに生まれた。フレディ・マーキュリーがイーリング・アート・カレッジの生徒だった頃、紙切れに走り書きされた曲のアイデアがすべての始まりだった。

ギターのブライアン・メイは、優れたシンガー・ソングライターであるフレディが70年代前半に初めてその一端を披露してくれたことを覚えていた。そのときの曲名は「ザ・カウボーイ・ソング」というものだった。おそらくは”ママ、人を殺しちゃったんだ(Mama… just killed a man)”という一節からつけられたのだろう。

 

「彼はハーモニーを頭の中で組み立てていた」

「フレディが、父親の仕事で出たポスト・イットくらいの紙切れを大量に持って入ってきたのを覚えています。そしてピアノを弾き始めたんです」2008年にブライアンはそう明かしている。「彼はドラムを叩くみたいにピアノを弾いていた。その曲には空いている箇所がたくさんあって、彼によればオペラのようなものがそこに入るとか言っていました。彼はハーモニーを頭の中で組み立てていたんです」

フレディはメンバーに、3曲分ほどの材料はあるものの、その歌詞を合わせてひとつの長い奇抜な曲にしようと思っていると話していた。結果として完成した6分のミニ・ロック・オペラはバンドの代表曲となり、2018年に公開され世界中で大ヒットした伝記映画のタイトルにもなった。同映画ではマーキュリーをラミ・マレックが演じた。

 

「すごくゾクゾクした」

「Bohemian Rhapsody」のリハーサルが正式に行われたのは1975年の半ば、場所はサリー州のリッジ・ファーム・スタジオだった。バンドはヘレフォードシャーのペンロス・ コートで3週間かけて演奏に磨きをかけ、夏頃にはレコーディングの準備が整った。1975年8月24日、ウェールズのモンマスにある著名なロックフィールド・スタジオでレコーディングを開始。ブライアンはその瞬間について「すごくゾクゾクした」と振り返っている。

革新的な同曲はアカペラの有名なイントロで始まる「これは現実なのか? それとも幻想なのか?/ Is this the real life? Is this just fantasy?」。その後で、グラムやメタル、ロックからオペラまですべての要素を含んだ展開が続く。フレディがすべてのハーモニーのメロディを書いたオペラ・パートのレコーディングには1週間を費やした。大合唱の部分ではヴォーカルのオーヴァーダブが160トラック分(24トラックのアナログ・レコーダーを使用)も行われた。そこではフレディが中音階、ブライアンが低音階、ドラムのロジャー・テイラーが高音階を担当している(ベースのジョン・ディーコンは歌に参加していない)。マーキュリーのヴォーカルには気迫がこもり、聖歌隊のようなサウンドになるまでオーヴァーダビングが繰り返された(”マンマミーア”や”ガリレオ”、”フィガロ”といった言葉が上下のオクターブで繰り返される)。

 

「彼はあの曲に自分自身の多くを投影した」

「繰り返しテープを回していたから、テープは擦り切れていきました」とブライアンは話す。「テープを照明に当ててみると、向こうが透けて見えたほどです。音楽もほとんど消えかかっていた。フレディがもう少し”ガリレオ”を足そうというたび、代わりに何かが消えていったんです」。マーキュリーが”ガリレオ”という言葉を入れたのは、天文学に熱心なブライアンのためだったと言われる。ブライアンはのちに天体物理学の博士号を取得している。

「Bohemian Rhapsody」には想像力豊かな言葉が多く使われ、それはフレディのソングライターとしての才能の証明ともなっている。スカラムーシュとは16世紀の喜劇、コメディア・デラルテのひとつ『ビスミラー』の道化的な登場人物の名だ(『ビスミラー』とは、コーランから取られた「アラーの名のもとに」という意味の言葉)。一方でベルゼブルとは、サタンの古い呼び方である。

「フレディはとても複雑な人間でした。表面上は軽薄で面白いけど、幼少期に決定付けられた人生の不安や問題をひた隠しにしていました」とブライアンは話す。「彼は歌詞について説明しなかったけど、彼はあの曲に自分自身の多くを投影していたと思います」

 

「歴史が作られる音が聴こえた」

ラウンドハウス、サーム・イースト・スタジオ、スコーピオ・サウンド、ウェセックス・サウンド・スタジオの4箇所での調整を経て最終ヴァージョンが完成すると、メンバーたちの間では特別なものを生み出したという空気感が高まった。「すべて繋ぎ合わせたとき、6分の曲としてどう聴こえるのか誰にもわからなかった」とプロデューサーのロイ・トーマス・ベイカーはパフォーミング・ソングライター誌の取材に話している。「コントロール・ルームの後ろに立って聴いていたけど、歴史の大きな1ページが作られる音が聴こえました。僕の中の何かが、今日は記念すべき日だと知らせてきた。そして本当にそうなりました」

アルバム『A Night At The Opera (オペラ座の夜)』収録の同曲は1975年10月31日、ついにリリースされた。その反響は即座に返ってきた。ABBAのビョルン・ウルヴァースはこう話す。「“Bohemian Rhapsody”を聴いたときは、嫉妬で青ざめた。ロックやポップを普通の道から外したオリジナリティの塊のような曲だ」

レコード会社は当初「Bohemian Rhapsody」のシングル・カットに否定的だった。だがクイーンのメンバーは総意として、3分程度のシングルが一般的だった中であっても、同曲をシングル・カットすべきだと主張した。ラジオでの放送は見込めないと言われたものの、フレディの友人でキャピトル・ラジオの友人だったケニー・エヴェレットはある週末に14回も同曲をプレイした。それが評判を呼び、シングルは1位を獲得した。

 

「Bohemian Rhapsody」の前代未聞のビデオ

クイーンはこれまでにないビデオを作るため、監督にブルース・ゴワーズを雇った。『クイーンII』のジャケットの印象的なポーズを再現したビデオは3,500ポンド(50万円弱)の低予算で、エルストリー・スタジオにてたった3時間で撮られた。完成したビデオはロック界のマーケティングにおける金字塔ともなり、マーキュリーがマレーネ・ディートリヒを真似たお気に入りのポーズで映るマルチ・アングルのショットが印象的だ。バンドは撮影を楽しんでいたようで監督のゴワーズはこう回想する。「7時半に撮り始めて、終えたのは10時半。15分後にはパブにいました」

1975年11月20日、出来立てのビデオはメディアやファンの期待が高まる中で英・音楽番組『トップ・オブ・ザ・ポップス』で初公開された。メンバーはトーントンのホテルの部屋で番組を観ていたという。「Bohemian Rhapsody」はクイーンにとって初めての全米トップ10ヒットとなり、イギリスでは9週連続で1位となり、当時の新記録となった。ちなみに惜しくも2位となっていたのは、ローレル&ハーディの「トレイル・オブ・ザ・ロンサム・ パイン」という意外な楽曲だった。

また、「Bohemian Rhapsody」は、全英チャートでクリスマスに2度首位を獲得した唯一の曲でもある。さらに同曲はクイーンの英国盤シングルで初めてピクチャー・スリーヴが同梱された楽曲でもある。B面はテイラー作の「I’m In Love With My Car」だった。

 

「そのメッセージ通りに心を決めればいいんだ」

フレディによる野心的な同曲は、彼に作曲に関する賞であるアイヴァー・ノヴェロ賞をもたらした。また、1975年の『A Night At The Opera』ツアーでの初披露以降、クイーンのライヴのハイライトとして定着した(前述のツアー最終日の映像はDVD『オデオン座の夜〜ハマースミス1975』に収録されているが、デラックス・ボックスではサウンドチェック中に収録された最初期のライヴ演奏が見られる)。

 

1985年7月の”ライヴ・エイド”にて「Bohemian Rhapsody」は1曲目に披露され、現在でもその人気は衰えていない。2004年にはグラミーの殿堂賞を受賞。フレディのヴォーカルはローリング・ストーン誌の読者によって、ロック史最高に選ばれた。同曲はさらに、イギリスで史上3番目のセールス記録を保持。2018年12月には、主要ストリーミング・サービスにて世界で16億回再生を記録し、20世紀の楽曲で最もストリーミング再生された楽曲となった。そのたった7ヶ月後の2019年7月21日には、YouTubeでのビデオ再生が10億回を突破、Spotifyでは20世紀の楽曲として初めて再生回数が10億回を突破した。

「幻想的な雰囲気を持った楽曲のひとつです」とフレディは語っている。「みんなこの曲を聴いて、この曲について考えて、そのメッセージ通りに心を決めればいいんです」

Written By Martin Chilton


フレディ・マーキュリーの全キャリアを網羅したボックス・セット10月11日発売


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