ニルヴァーナ「Come As You Are」解説:『Nevermind』の2ndシングルに込められたもの

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Photo: Kevin Mazur/WireImage

1991年初頭、ニルヴァーナ(Nirvana)がセカンド・アルバムに取りかかり始めた頃、ビジネス上の問題がいくつかあり、彼らのアルバム制作は中断されざるを得なかった。

それまでにサウンドガーデン、タッド、マッドハニーといった地元のバンドの作品をリリースしていたシアトル・ベースのレーベル、サブ・ポップと当初契約していた彼らは、このインディー・レーベルに幻滅し始め、代わりとなる場所を探していた。

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彼らのニュー・アルバムのための曲のデモが出回り、いくつかのレーベルでシェアされると、彼らに対する各レーベルの興味は高まった。そのデモとは1990年4月、ウィスコンシン州マディソンにあったプロデューサーのブッチ・ヴィグの家にあるスマート・スタジオでレコーディングされたものだった。ブッチがプロデューサーに選ばれたのは、彼がマディソンで活動するノイズ・ロック・グループのキルドーザーとの仕事をバンドが聞いたからだった。ブッチは彼らとの最初のミーティングを思い出しながら言った。

「彼らが来た時はかなりみすぼらしくて薄汚れた格好をしていた。彼らはサブ・ポップのバンを運転してきましたね。途中ライブをやりながら来たので、スタジオに着く頃にはシャワーと暖かい食事がすぐにでも必要な状態でしたよ」

メジャー・レーベルへの移籍

『Nevermind』に収録された「Polly」「Breed」「Lithium」といった楽曲の初期のバージョンなどをレコーディングして以降、ニルヴァーナはいくつか調整せざるを得ない問題がおきた。それは最初のデモでドラムを叩いていたチャド・チャニングの離脱だったが、後任はデイヴ・グロールに落ち着いた。2つ目の問題とはレーベルの変更だった。

サブ・ポップから離れるためには、ニルヴァーナは彼らの契約を買い取らなくてはいけなかった。それを実現する唯一の方法は、資金力のある大手レーベルと契約することだ。そうしたアイデアは、心の奥底にパンク魂を持つカート・コバーンには腹立たしいものだったが、大手のレーベルと契約することは、彼らにとってもっと多くの聴衆にリーチすることも意味していた。

彼らに契約のオファーを提示してきた大手の中からゲフィン・レコードが選ばれ、レーベルは次のアルバム制作をうまく導いてくれるであろう有名プロデューサー達のリストを提案したが、ニルヴァーナのメンバー達は依然ブッチ・ヴィグが彼らの第一候補だと言ってきかなかった。そのため、1991年5月にレコーディング・セッションが始まる頃には、ブッチはアルバムのための楽曲やバンドのやり方にすっかり慣れていた。ブッチはこう言う。

「『Nevermind』に取りかかった時には、アルバムがどういう風になるかのアイデアは既に頭にありました。いつでも万全の体制でいなきゃいけないことも判ってました。カートが最高の状態になったらすぐに、録音ボタンを押さなきゃいけないってね」

しかし、最後の最後に追加された曲もいくつかあり、ブッチはそれを、バンドがグループ・リハーサルの時に録音した曲のデモを収録したカセット・テープで受け取った。ブッチが最初に「Come As You Are」を聴いたのはそのテープだった。

「Come As You Are」のレコーディング

ニルヴァーナのメンバーが、カリフォルニアのヴァン・ナイズにあるサウンド・シティ・スタジオでブッチと再会した時には、手元にある楽曲に集中していて、もういつでもレコーディングできる状態だった。ブッチはこう思い返す。

「彼らはスタジオに来るまでに、6ヶ月間毎日、10時間くらいリハをやってました。カートの態度は無気力で無目的に見えるんだけど、実は彼はヒット曲が欲しかった。本当にいいサウンドのアルバムを作りたがってたんです」

「Come As You Are」はカートの低い音程の、うねりのある音色が不安感を誘うギター・リフをベースに作りあげられ、それに呼応してクリスト・ノヴォゼリックのベースが、サビの部分を除いては延々とシンプルながら催眠的なフックを作り出している。デイヴ・グロールはこの曲についてこう語る。

「あの歌はほとんど子供の歌みたいにしたかったんだ。可能な限りシンプルに」

この歌が持つ意味

この曲の歌詞は、『Nevermind』の他の多くの曲同様、全体を通して意図的にカートの両極端な傾向を反映している。彼はリスナーに対して「過去のあなたの状態」を受け入れる前に「あなたの今のままで来てほしい」と懇願する。しかし「急がないで」と言う一方「急いで」と言っておきながら、最終的には「最後はあなたが決めること」などと言いはなつ。

この歌は、当時カートが2年ほど常用していたヘロインについての暗示だという説がある。ヘロインは、気持ちを落ち着かせて慰めてくれるという役割で「友」と位置付けられている一方、常習性と破壊的な結果をもたらすという性質で「敵」と位置付けられている。

一方、「体中除菌剤(bleach)を浴びて」来るように、というくだりは、彼らの1989年のデビューアルバム『Bleach』のタイトルと同じところから来ているかもしれない。それは、1980年代のシアトルで、HIVに関する意識向上キャンペーンの一環として、ウィルス感染拡大を防ぐために薬物の注射針を使用後に必ず除菌(bleach)するように、という指導がなされたことが背景となっている。

しかしカートは「これは人々についての歌で、彼らが期待されている行動についての歌なんだ」と言う。彼が「僕は銃は持っていない」と安心させるように言っているのは、彼が軽蔑しているのは人々が同一化することを推進している社会であって、その動きに従っている個人ではない、ということを暗にほのめかしているのだ。

「あの歌は受容について、そして社会不適合者についての歌なんです」と、ブッチ・ヴィグは言う。「君がどんなに終わってる奴でも、クールだよ、っていう歌。“Come As You Are”は自分自身のままでいる誰かを受け入れることについての曲なんです」

2ndシングル「Come As You Are」と著作権侵害訴訟

ニルヴァーナがこれまで築いてきたカルト・バンドとしての地位以上にバンドを押し上げるため、一番効果的な曲として、レーベルの経営陣が目を付けていたのが「Come As You Are」だった。お偉方にしてみればメイン・イベント前の単なる予告編に過ぎないと思われたアルバムのファースト・シングル「Smells Like Teen Spirit」に続く、『Nevermind』からのセカンド・シングルとして予定された。その頃は誰も「Smells Like Teen Spirit」が、全世界レベルであれほどの現象を引き起こすとは予想だにしなかったのだ。しかしその大成功を受け、「Come As You Are」をリリースする頃になった時、それ以上の期待がこの曲にのしかかってきた。

しかし、カート自身はこのシングル・リリースの直前、「Come As You Are」がその期待に応えられる曲かについて疑問を呈していた。彼の控えめな態度は、この曲が1985年のキリング・ジョークの曲「Eighties」に酷似していることによるものだった。比べて見るとそれは明らかで、キリング・ジョークもそう考え、音楽学者を雇って相似点を確認し、法的書類をニルヴァーナのレーベル経営陣に送り付けながら、ニルヴァーナに対して著作権侵害訴訟の提起をちらつかせてきた。ただ結局訴訟には至らず、キリング・ジョークは1994年のカート・コバーン死去の後、訴えを取り下げている。キリング・ジョークのフロントマン、ジャズ・コールマンは理屈づけてこう言った。

「人生は短いからな。そんなことに時間を費やすよりも釣りに行くとか意味のあることをした方がいいってことさ」

 

ミュージック・ビデオ

1992年3月にリリースされた「Come As You Are」はアルバム『Nvermind』のファースト・シングル「Smells Like Teen Spirit」の前例を見ないほどの大成功にはおよばなかったものの、多くの国でトップ10入りし、当時の最重要ロック・バンドとしてのニルヴァーナの名声を確固たるものにした。

カートはこの曲のミュージック・ビデオへの出演は最初望んでいなかったが、出演しないとバンドの顔としての存在が誤解されるかも、という理由を受け入れて出演した。水面下に泳ぐ赤ん坊の写真の『Nevermind』のジャケットアートにヒントを得て、ニルヴァーナとビデオを観る者の間には水が流れて彼らの姿を不明瞭にしており、彼らの姿がぼんやりとしか見えないことで、この歌のわざとらしい態度に対する嫌悪感がはっきりと表現されている。

そうしたメッセージはカート・コバーンが尊敬されていた特徴の一つとして今でも人々の心に残っていて、それは2015年に彼の故郷の町がその郊外に設置した、地元のヒーローを讃えた道路標識に記された言葉に表れている。

「ワシントン州アバディーンにようこそ。あなたのそのままでおいで下さい(Come As You Are)」

Written By Simon Harper



ニルヴァーナ『Nevermind』(30周年記念盤)
2021年11月12日発売
(*国内盤Super Deluxeのみ12月1日発売)
国内盤:Super Deluxe Edition (5CD + Blu-Ray)
国内盤:2CD
輸入盤




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