【祝80歳】ミック・ジャガーのソロ・アルバムを振り返る:稀代のフロントマンによる冒険心

Published on

Mick Jagger artwork: UMG

ミック・ジャガー(Mick Jagger)は満を持してソロ・キャリアをスタートさせたミュージシャンの一人だ。ザ・ローリング・ストーンズがデビュー・シングル「Come On」をリリースした1963年6月から、ソロ・アーティストとしてのデビュー・アルバムまで22年の月日を要した。そんな彼のソロ・アルバムは喜びや回り道、そして驚きに満ちている。

映画『パフォーマンス(青春の罠)』の劇中歌「Memo From Turner」が1970年に発表されたあと、ミック自身の名前は1972年のアルバム『Jamming With Edward』上に登場している。同作はストーンズのバンド・メイトであるチャーリー・ワッツとビル・ワイマン、そしてライ・クーダーとニッキー・ホプキンスとのコラボレーションの成果を纏めたアルバムだった。

また、1978年にはレゲエ界のスター、ピーター・トッシュとともにカヴァーしたテンプテーションズの「Don’t Look Back」をシングルとしてリリース。その後、故マイケル・ジャクソンと「State Of Shock」を共作。これは1984年にジャクソン5のシングルとしてリリースされた。

<関連記事>
ザ・ローリング・ストーンズはどのようにロックンロールを変えたか?
ストーンズはトロントでのシークレット・ギグをどのように行ったのか
ストーンズ、77年の伝説的なシークレットライヴが初発売決定

 

1st『She’s The Boss』(1985年)

1985年2月19日、ミック・ジャガーにとって初となるソロ・アルバム『She’s The Boss』がリリースされた。そのころ、キース・リチャーズとミックの関係は悪化をきわめており、ザ・ローリング・ストーンズはレコーディングに着手できずにいた。幸い、その後ふたりは歩み寄り、パートナーシップは復活したが、ミックはソロとして輝くチャンスを得た。

『She’s The Boss』は瞬く間にUKとオーストラリアのアルバム・チャートでトップ10にランク・イン。5月にはアメリカでゴールド・ディスクに認定され、数週間後にはプラチナ・アルバムの認定を受けている。

『She’s The Boss』はナッソーのコンパス・ポイント・スタジオでレコーディングされ、プロデュースはミックとナイル・ロジャース、ビル・ラズウェルが共同で務めた。このとき、ビルボード誌は「ロジャースが、同作で世界一旬なプロデューサーであると証明された」と評している。ナイルはマドンナの「Like A Virgin」とデュラン・デュランの「The Wild Boys」という時代を代表する大ヒット・シングルを手掛けた勢いのまま1985年を迎えていたのだ。

皮肉めいているが、『She’s The Boss』のオープニングを飾る快活なトラック「Lonely At The Top」はミック・ジャガーとキース・リチャーズの共作だった。そして同作からの最初のシングルに選ばれた「Just Another Night」は米ビルボードのロック・トラックス・チャートで1位、全米シングルチャートで12位を記録している。

このヒット曲では長年の戦友、ジェフ・ベックがギターを弾き、レゲエ・ユニット、スライ&ロビーのロビー・シェイクスピアがベース、ザ・フーのサポート・メンバーであるジョン・ “ラビット” ・バンドリックがシンセサイザーを担当。

ビルボード誌のダンス担当編集者のブライアン・シンは『She’s The Boss』が名作たる所以について「リズムが滑らか且つ正確で、ロックンロールの勢いよりダンス・ミュージックの長いグルーヴを感じられる」と書いている。

 

旧友たちの招集

何事も万全を期して臨むミックは、『She’s The Boss』を引っ提げての一度限りのライヴ・パフォーマンスも抜かりなかった。同ステージはテレビを通じて約19億人の視聴者が目撃した。1985年7月13日、彼はライヴ・エイドのフィラデルフィア会場に出演のだ。

そのステージは「Lonely At The Top」と「Just Another Night」で始まり、ローリング・ストーンズの代表曲に数えられる「Miss You」や「It’s Only Rock’n’Roll (But I Like It)」も披露。短時間のパフォーマンスの中では旧友のティナ・ターナーを迎えて「State Of Shock」のデュエット・ヴァージョンも演奏。

ライヴ・エイド関連でジャガーがデュエットを歌ったのはこの曲だけではない。ご存じのように彼は同巨大イベントを象徴するシングルとなった「Dancing In The Street」(マーサ&ザ・ヴァンデラスがヒットさせたモータウンを代表するヒット曲)のカヴァーに恥ずかし気もなく旧友のデヴィッド・ボウイを招集した。

『She’s The Boss』は荒々しいロックらしさがありながら、当時の流行したシンセ・サウンドを取り入れたアルバムだった。ミックの高いメロディ・センスや鋭い歌詞も同作の魅力を強めている。

「I can’t go on seeing you like this! /こんな風には会い続けることはできない」と歌われる「Half A Loaf」では略奪愛の苛立ちを描き、「Turn The Girl Loose」や「Lucky In Love」ではブルージーでソウルフルなスーパースターの熟練技が光る。後者は『She’s The Boss』からの2枚目のシングルの表題曲にも選ばれている。

 

2nd『Primitive Cool』(1987年)

ジャガーは1986年の映画『殺したい女』に主題歌「Ruthless People」を提供し、1987年にはストーンズとしてもアルバム『Dirty Work』のリリースに向けて、スタジオでの活動を再開(コンサート・ツアーは再開に至らなかった)していた。

そんな中で『Primitive Cool』は1987年9月14日にリリースされた。オランダとバルバドスで制作された同作でジャガーはキース・ダイアモンド、ユーズリミックスのデイヴ・スチュワートのふたりと共同でプロデュースを務めた。ジェフ・ベックもメインのギタリストとして参加し、傑出した演奏を披露している。

21世紀に入ってからミックと限定プロジェクトのスーパーヘヴィを結成したスチュワートは、『Primitive Cool』でリード・シングルの「Let’s Work」を含む3曲を共作。ギターを中心とした力強いサウンドの「Radio Control」やポップな「Say You Will」などを収録したアルバムの中で、同シングルはトップ10に入る成功を収めた。しかし内省的なムードで始まり、その後テンポ・アップする表題曲はそれ以上に興味深い楽曲だ。若者が流行の本質に思いを馳せ、父親に青春時代のことを尋ねる内容だ。

「Kow Tow」や「Shoot Off Your Mouth」は同作の中でもひときわ痛烈な楽曲だが、それらはキース・リチャーズとの冷えた関係性に影響を受けていたかもしれない。キースは、ミックがストーンズの活動に戻らず日本とオーストラリアで開催された『She’s The Boss』のコンサート・ツアーを行ったことへの不満を隠さなかった。「The wicked lay stones in my path/And friends who are snakes in the grass 邪悪な者がおれの道に石を置く/友達だと思っても本当は蛇なのさ」という「Kow Tow」の歌詞は特に目を引く。

魅力的なケルト風のサウンドの「Party Doll」はのちにアメリカのシンガーソングライター、メアリー・チェイピン・カーペンターにカヴァーされている。ジャガーのオリジナル・ヴァージョンでは、チーフタンズのリーダーであるパディ・モロニ―によるホイッスルとイーリアン・パイプが印象的だ。

『Primitive Cool』を締めくくるのは80年代の軍拡競争を歌った「War Baby」だ。ジャガー自身も第二次大戦中に生まれており、欧州で発行されていたミュージック&メディア誌の当時のインタビューでジャガーはこう話している。

「今起こっていることに従いたくはない。良い影響があるとは思えないからね」

 

3rd 『Wandering Spirit』 (1993年)

ストーンズは活動を本格再開し、アリーナ・ロックの名作を生み出していった。そのため、ミック・ジャガーのソロ活動は1993年まで中断されることになった。『Wandering Spirit』はザ・ローリング・ストーンズが『Voodoo Lounge』の制作に入るまでの7か月の間にレコーディングされた作品だ。

ジャガーのソロ3作目の共同プロデュースを務めたのは、デフ・ジャム・レコードの創設以来、創造性を発揮し続けてきたリック・ルービンだ。彼はそれまでにブラック・クロウズやダンジグ、スレイヤー、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなどの作品を手掛けてきた。

アルバムのリード・シングルでミックが作曲した「Sweet Thing」はファンクとアコースティック・サウンドを巧みに組み合わせた楽曲で、彼は「Miss You」を思わせるファルセットで歌い上げる。同曲は欧州のいくつかの国でトップ10にランク・インし、14曲中10曲をオリジナル曲が占める同アルバムを牽引した。

『Wandering Spirit』に収録されたカヴァーのうち3曲は、ミックのヴィンテージ・ソウルへの愛を表している。ビル・ウィザースの「Use Me」でミックは、レニー・クラヴィッツをゲストに迎えており、キャッシュボックス誌は同曲について「荘厳なロッカーが歌うことで新しい命が吹き込まれた」と評している。

ほかにはフレデリック・ナイトが1972年にスタックスからリリースした「I’ve Been Lonely For So Long」やロウマン・ポーリング作の「Think」のカヴァーも収録。後者はアレサ・フランクリンの同名楽曲とは異なる。ファイヴ・ロイヤルズが最初にレコーディングした後、ジャガーが敬愛するジェームス・ブラウンも歌った楽曲だ。

同アルバムでミックは幅広いジャンルを取り上げている。ゴスペルの「Don’t Tear Me Up」、カントリーでペダル・スティールにジェイ・ディー・マネスを迎えた「Evening Gown」、古典的なロックンロール「Wandering Spirit」やフォーク「Handsome Molly」も中には含まれる。

ほかにも「Put Me In The Trash」や「Mother Of A Man」といった王道のロック・ナンバーも収録されている。後者ではジャガーがスピードの速いハーモニカを披露。感動的な1曲「Angel In My Heart」では長年サポートを務めるマット・クリフォードがハープシコードを弾いている。

 

4th『Goddess In The Doorway』(2001年)

ミック・ジャガーの現時点の最新ソロ・アルバムは2001年の『Goddess In The Doorway』だ。同作はクリフォードとマーティ・フレデリクセンが中心となりプロデュースしたが、クリス・ポッターやワイクリフ・ジョン、ジェリー・デュプレシスなどもクレジットされている。

ヒットしたロック・ナンバー「God Gave Me Everything」にレニー・クラヴィッツは再びゲスト参加しており、彼は同曲の共同プロデュースも務めている。このアルバムにはほかにもボノやピート・タウンゼント、ロブ・トーマスなども参加。ドット・ミュージック誌は「エネルギーや知性に満ちたモダン色の強いロック・アルバム」としている。

 

それ以降の活動

2004年、ジャガーはロマンティック・コメディ映画『アルフィー』のサウンドトラックで映画界に舞い戻る。彼はデイヴ・スチュワートと組み、ゴールデン・グローブ賞の主題歌賞を獲得した「Old Habits Die Hard」を含む数曲のスコアを手掛けた。

ふたりは2011年にもコラボレートしており、複数ジャンルを股にかけた前述のスーパーヘヴィを結成。同プロジェクトにはジョス・ストーンやA・R・ラフマーン、ダミアン・マーリーも名を連ねている。

2010年代はそれ以降、ストーンズの大規模ツアーが続いた。しかし2017年にはシングル「Gotta Get a Grip/England Lost」を発表。2020年にはスリラー映画『ザ・バーント・オレンジ・ヘレシー』で久しぶりの俳優業に挑戦。2021年の春にはデイヴ・グロールとの驚きのコラボレーション「Eazy Sleazy」を発表、2022年にはドラマ『窓際のスパイ』のテーマ曲「Strange Game」を担当するなど精力的にソロ活動を続けており、ミック・ジャガーが世界一有名なロック・スターの座に甘んじず、有言実行で新作を作り続けるアーティストであることを改めて示した。これからも間違いなく、今後も予期できない冒険が待っているはずだ。

Written By Paul Sexton


ザ・ローリング・ストーンズ『Live at the El Mocambo』
2022年5月13日発売
CD / 限定LP / iTunes Store / Apple Music / Amazon Music


ザ・ローリング・ストーンズ『LICKED LIVE IN NYC』
2022年6月10日発売
①DVD+2CD / ②SDブルーレイ+2CD / ③2CD



ザ・ローリング・ストーンズ『Live At The Checkerboard Lounge Chicago 1981』
2022年8月19日発売
LP / DVD+CD / DVD



Share this story

Don't Miss

{"vars":{"account":"UA-90870517-1"},"triggers":{"trackPageview":{"on":"visible","request":"pageview"}}}
モバイルバージョンを終了