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マッシヴ・アタックのベスト・ソング20曲:英国ブリストル発、世界に浸透した“トリップ・ホップ”

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Photo: Marco Prosch/Getty Images

1980年代後半、英国ブリストルの豊かな音楽シーンは、新しい次元に突入した。ダディ・G、ネリー・フーパー、DJマイロによる“ワイルド・バンチ”という名のサウンド・システムが、3D、マッシュルーム、トリッキー、シャラ・ネルソンといったシンガーやラッパーを迎えて活動を始めた。そして、ワイルド・バンチが数枚のシングルをリリースした後、1988年にダディ・G、3D、マッシュルームでマッシヴ・アタックを始めたのだ。

彼らは敏腕プロデューサーのスミス&マイティと組んで、1988年にシングル「Any Love」をリリース。そして1991年、ネナ・チェリーの引き立てもあり、マッシヴ・アタックはデビュー・アルバム『Blue Lines』をヴァージン・レコードから発表。ソウル、ファンク、ヒップ・ホップ、レゲエ、エレクトロニカからの影響を無理なく融合し、世界に送るメッセージの決定版として仕上げたアルバムは、90年代に非常に重要なポジションを占める作品となった。同作は彼らの非凡なキャリアの始まりであり、2016年、新たに『Blue Lines』『Protection』『No Protection』というアナログ盤が再発されて、『Mezzanine』のアナログ盤に加わり、新しいステージを迎えている。

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マッシヴ・アタックは、サウンド・システム時代から引き継いだ集合的なアプローチを有効に活用し、彼らの多様な楽曲を完璧にコントロールした(そのアプローチは、ネリー・フーパーが加わったソウルⅡソウルでも模倣されている)。

トリッキーは、ソロ・キャリアで多忙になるまで、マッシヴ・アタックにレギュラーで参加。画期的なダウンビートのヒップホップ・シングル「Daydreaming」で、彼はイギリス人特有のアクセントと特徴のあるライムを、3Dと共に披露している。

Massive Attack – Daydreaming

アルバム『Blue Lines』にはその他に、シャラ・ネルソンのヴォーカルをフィーチャーした曲が4曲ある。その内のひとつが、素晴らしいモダン・ソウルを響かせる「Safe From Harm」であり、もうひとつが美しい弦楽器とベルが印象的な「Unfinished Sympathy」だ。後者は“モダン・クラシック”曲の決定版であり、後にネリー・フーパーとポール・オークンフォールドが、涙を誘うこの曲を、それぞれに見事なリミックス曲としてプロデュースしている。

Massive Attack – Safe From Harm

またこのアルバムには、レゲエ・レジェンドのホレス・アンディが初めてヴォーカルで参加しており、環境問題を意識し背筋がゾクゾクするようなポスト・レイヴ・アンセムの「Hymn Of The Big Wheel」は、彼が参加した曲の内の一曲だ。

Hymn Of The Big Wheel (2012 Mix/Master)

『Blue Lines』と、1994年のセカンド・アルバム『Protection』で、マッシヴ・アタックのサウンドは“トリップ・ホップ”として知られるようになった。そして、彼らと同じくブリストル出身のトリッキーとポーティスヘッドのアルバムも、たちまち成功を収めた。

『Protection』は、シャット・アップ&ダンスというレーベルに所属していたニコレットをフィーチャーしている(シングル「Sly」は彼女が参加した曲)。そして、特に突出しているのは、エヴリシング・バット・ザ・ガールのトレイシー・ソーンが参加したアルバム・タイトル曲を含む2曲だ。彼女の確かなパフォーマンスによって、このアルバムの出来が決定的になった。それはマッシヴ・アタックが、前衛的で、将来有望で、閉所恐怖症の状態でバランスを取っているような、この上なくイギリス人的なパフォーマンスをするグループになったということでもあった。トリッキーのヴォーカルにトレイシー・ソーンの悲しく重々しい歌声を合わせた「Karmacoma」は、その一例だ。

Massive Attack – Karmacoma

ホレス・アンディを再度フィーチャーした「Spying Glass」等で継続的にレゲエの要素を反映しつつ、彼らはダブも融合したリミックス・アルバム『No Protection』を発表。このアルバムは、マッド・プロフェッサーがミックスしている。

Spying Glass

「Better Things」は、マッド・プロフェッサーの柔軟な手腕によって再構築され、その結果として生まれた「Moving Dub (Better Things)」は、ベースの洞窟の中でトレイシー・ソーンのヴォーカルが響き渡り、完璧に仕上げられている。

Moving Dub (Better Things)

バンドの編成が少々不安定になったことにより、マッシヴ・アタックは、彼らのファンク寄りのルーツから少し離れたアンビエント路線を進み、ガービッジの「Milk」の弦楽器に溢れた贅沢なリミックスを作った。

Milk (Massive Attack D Mix)

彼らの国際的な交友関係のおかげで、1998年の『Mezzanine』は、よりダークな曲を収録した作品となり、彼らの遺産を確立した。このアルバムの主要女性ヴォーカルは、元コクトー・ツインズのエリザベス・フレイザーで、隠れた名曲「Black Milk」と感動的な「Teardrop」の歌詞は、彼女が自ら手がけた。

Black Milk

「Teardrop」のパーカッションのリズムは、初期のアルバムのルース・ファンクに通じるものがあり、それが最高に優美なヴォーカルと合わさっている。一節によると、この曲はマドンナに渡される予定だった曲らしい。

Massive Attack – Teardrop (Official Video)

マッシヴ・アタックは、自らも変わったカヴァー曲をやることをためらわず、ホレス・アンディを使ってレゲエのスタンダード曲「Man Next Door」をカヴァーした。オリジナルのジョン・ホルトの作曲は非常に強力で、新しい表現を見出すのが難しい曲だが、3Dと仲間達はそれを達成。都会生活のプレッシャーを淡々と語る歌詞は、このグループにぴったりだった。

Man Next Door

また、ダークな楽器演奏に乗せて、問題のある関係から離れる意思を持てずにいる人について歌う「Dissolved Girl」では、サラ・ジェイが素晴らしいヴォーカルを提供している。この曲に含まれた奇妙なギター・パートは、3Dが導いていた方向性を示唆するものであり、その方向性はプライマル・スクリームの「Exterminator」のリミックスで、更に押し進められた。

Dissolved Girl

アメリカ人ラッパーのモス・デフとのコラボレーション曲で、圧倒的な高揚感と迫力がある「I Against I」発表以降、ダディ・Dが一時的に抜けたことで1999年以降デュオになっていたが、3Dとプロデューサーのニール・デーヴィッジが中心となったマッシヴ・アタックは、2003年のアルバム『100th Window』を発表。『Mezzanine』よりも少し肩の力が抜けた作品で、デーモン・アルバーンとのコラボレーション曲が1曲収録されており、女性ヴォーカルは新たにシネイド・オコナーが3曲で参加している。

Massive Attack – Saturday Come Slow

その内のひとつ「Special Cases」はポスト・パンク的なベースラインとマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを彷彿とさせるサウンドが一体になっている。

Massive Attack – Special Cases

すでにサウンドトラックに曲を提供していたマッシヴ・アタックは、2004年に『ダニー・ザ・ドッグ』で初めてサウンドトラック・アルバムを完成させた。このアルバムを境に3Dとニール・デーヴィッジは、二人で、あるいは別々に、さらに多くのサウンドトラックを作ることになった。

Danny The Dog

2006年の彼らのベスト・アルバム『Collected』には、ベテラン・ヴォーカリスト、テリー・キャリアーの完璧な歌声を乗せた「Live With Me」が収録。この曲のリミックスの中には、彼の神聖な曲と同様に削ぎ落とされたシンプルなスタイルもある、そして、このベスト盤の2枚組の形態には、未発表曲が収録された。

Massive Attack – Live With Me

『100th Window』の発表から7年が経過した2010年、彼らの5枚目のスタジオ・アルバム『Heligoland』が発表された。ダディ・Gがグループに戻っただけでなく、デーモン・アルバーンとの様々なコラボレーション曲も収録されている。

ヴォーカルは、TVオン・ザ・レディオのトゥンデ・アデビンペ、トリッキーのコラボレーター、マルティナ・トップレイ・バード、そしてエルボーのガイ・ガーヴェイが提供。そして、上品で才能に溢れたマジー・スターのホープ・サンドヴァルが、ポップな手拍子と共に、その歌声をシングル「Paradice Circus」で披露している。

Paradise Circus

彼らは現在、6枚目のスタジオ・アルバムを準備中だ。新たに有望なゲスト達が、すでにEP『Ritual Spirit』に参加している。このEPのタイトル・トラックにはシンガーのAzekelと、長い間カムバックが待ち望まれていたトリッキーが参加、またベテラン英国人ラッパーのルーツ・マヌーヴァとヤング・ブラザーズが参加した曲もある。

Massive Attack, Azekel – Ritual Spirit

シングル「The Spoils」で、彼らはホープ・サンドヴァルと再び組み、ラッパーのゴーストポエットのバック・アップを得ている。ゴーストポエットは「Come Near Me」でもマッシヴ・アタックと組み、絶望と混沌を表現している。

Massive Attack – The Spoils ft. Hope Sandoval

彼らが私達を待たせ続けることは殆どないが、今も素晴らしい曲の数々を届けてくれているのだ……とても強力(マッシヴ)に。

Written By Phil Smith



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